開示すべきファイナンス手法
最近のエントリではREITとかソフトバンクとか直近の具体的な案件のトピックスが続いたので、少し別のものを。
12月5日の日本経済新聞に以下のような記事があります。
「資金調達ルール厳格化
転換社債などに一定の制限検討 金融審が議論開始」
要約すると、金融審の研究会で上場企業の資金調達ルールを見直す一環として、
・原則として取締役会決議だけ実施できる第三者割当増資
・MSCB
な どに一定の制限を加えるべきとの指摘が相次いだ、とのことです。既存株主の利益を損ないかねないというのが理由です。米国では25%以上の新株発行は取引 所規制で制限されているほか、MSCBについては有利発行の規制が機能していないのではないか、といった意見が出ているそうです。金融審研究会の論点整理 は以下をご覧ください。
12月4日 金融審議会資料
MSCBを含む、デリバティブを利用したスキームの開示について少し考えてみます。
一 つめの例はアーバン・コーポレーションが行ったCB発行とスワップを組み合わせたスキームです。これはCB発行日とスワップ契約日を分け(後者が後の 日)、体裁上MSCBに該当しないようにしつつ類似の効果を企図しているほか、スワップ取引が開示対象でない点も考慮にいれて設計されているのではない か、との指摘があります(会社法であそぼ:「直接金融の開示のありかた」)
MSCBについては日本証券業協会と東京証券取引所がそれぞれ発行・開示規制を行っていますが(日証協:自主規制「会員におけるMSCB等の取扱いに関す る規則」、東証:「企業行動規範 MSCB等の発行に係る尊重義務」)、そこで定める「MSCB等」は今まで発行されてきたCB+転換価額下方修正条項の 付いたもの、が想定されているように読めます。しかしアーバンの事例でも明らかなように、エクイティ・デリバティブを使ってペイオフダイアグラムを工夫す れば、経済的実質として似たようなスキームを作ることは可能です。要は
「無裁定原理に基づいて複製ポートフォリオを組み、目的の証券のキャッシュフローを作り出せる」
ことがデリバティブを使う意義です。ヘッジでも運用でも。
この発想自体には当然ながら何の偏った意図も悪意もありません。したがって、MSCBと呼んでもMSワラントと称してもMPOと名づけてもそれ自体はあまり本質的ではありません。商品毎に網をかけていってもいたちごっこになるだけです。方向性についてだけいえば、
・本取引による先行き6ヶ月程度の株主価値の希薄化の可能性と程度の最大値
・本取引の前後3~6ヶ月以内に実施するデリバティブ取引(必ずしも本取引と直接関係ない取引
も含む)によるキャッシュフロー
を機械的に開示させる以外に方法がありません。なおデリバティブ取引の開示対象のグループ会社はどこまでか、輸出入等の経常取引のヘッジ目的や重要性の低いものの除外はどうするか、など技術的な点はありますが、こうでもしないと把握することは実質困難と思われます。
二つめの例は、2008年8月25日の日経記事が参考になります。
「デリバティブ活用し株式実質保有: 隠れ大株主 米で問題化 米鉄道大手、英TCIと法廷闘争」
と いう記事です。これはJパワー株で有名になったファンドのTCIが米国の鉄道大手CSXの株を金融機関との相対取引によるスワップ(トータル・リターン・ スワップ=TRS)を通じて、開示対象の5%以上を実質的の保有していたというものです。本来5%以上ならその事実を適時開示すべきなのに開示が遅れたと してTCIがCSXから訴えられたのです。この取引ではTCIは金融機関とTRSを結んで配当とキャピタルゲインを得る代りに手数料の支払とキャピタルロ スのリスクを受け入れる、ということになります。
記事によると一審ではTCIが金融機関に持分を5%未満とするよう指示していたなどの故意が認 定されてTCI敗訴になったようです(二審以降の結果はまだ不明)。これもデリバティブを使った一種の「大量保有報告逃れ」とみなされた訳です。だからと いってTRSだけを規制すればいいのかといえばそれは無意味です。TCIは「実質株式保有の経済効果とリスクをスワップとして構成した」というだけですか ら、金融機関を間にもう一つ入れたり共同投資するファンドを分散したりすれば同じことはいくらでも可能です(なんか、仕手戦における株の買い集めそのもの な感じですが)。
カネ集めや投資の方法は何も株や債券だけではありません。私募の匿名組合と借入を使って少数の資金のある個人や適格機関投資家 だけを相手に行うことでも可能です。開示対象でない子会社を経由して種類株を発行させたり、株主なみの財務制限条項・特約を付した金銭消費貸借契約を結ぶ ことでも株主価値をいかようにでもできるキャッシュフローを作り出せるでしょう。金融審ではこういった実質面も含めてどう議論されていくのか興味深いとこ ろです(実行可能性とスピード、企業の実務対応を考えるとあまり手を広げることはできないのでしょうが)。
12月5日の日本経済新聞に以下のような記事があります。
「資金調達ルール厳格化
転換社債などに一定の制限検討 金融審が議論開始」
要約すると、金融審の研究会で上場企業の資金調達ルールを見直す一環として、
・原則として取締役会決議だけ実施できる第三者割当増資
・MSCB
な どに一定の制限を加えるべきとの指摘が相次いだ、とのことです。既存株主の利益を損ないかねないというのが理由です。米国では25%以上の新株発行は取引 所規制で制限されているほか、MSCBについては有利発行の規制が機能していないのではないか、といった意見が出ているそうです。金融審研究会の論点整理 は以下をご覧ください。
12月4日 金融審議会資料
MSCBを含む、デリバティブを利用したスキームの開示について少し考えてみます。
一 つめの例はアーバン・コーポレーションが行ったCB発行とスワップを組み合わせたスキームです。これはCB発行日とスワップ契約日を分け(後者が後の 日)、体裁上MSCBに該当しないようにしつつ類似の効果を企図しているほか、スワップ取引が開示対象でない点も考慮にいれて設計されているのではない か、との指摘があります(会社法であそぼ:「直接金融の開示のありかた」)
MSCBについては日本証券業協会と東京証券取引所がそれぞれ発行・開示規制を行っていますが(日証協:自主規制「会員におけるMSCB等の取扱いに関す る規則」、東証:「企業行動規範 MSCB等の発行に係る尊重義務」)、そこで定める「MSCB等」は今まで発行されてきたCB+転換価額下方修正条項の 付いたもの、が想定されているように読めます。しかしアーバンの事例でも明らかなように、エクイティ・デリバティブを使ってペイオフダイアグラムを工夫す れば、経済的実質として似たようなスキームを作ることは可能です。要は
「無裁定原理に基づいて複製ポートフォリオを組み、目的の証券のキャッシュフローを作り出せる」
ことがデリバティブを使う意義です。ヘッジでも運用でも。
この発想自体には当然ながら何の偏った意図も悪意もありません。したがって、MSCBと呼んでもMSワラントと称してもMPOと名づけてもそれ自体はあまり本質的ではありません。商品毎に網をかけていってもいたちごっこになるだけです。方向性についてだけいえば、
・本取引による先行き6ヶ月程度の株主価値の希薄化の可能性と程度の最大値
・本取引の前後3~6ヶ月以内に実施するデリバティブ取引(必ずしも本取引と直接関係ない取引
も含む)によるキャッシュフロー
を機械的に開示させる以外に方法がありません。なおデリバティブ取引の開示対象のグループ会社はどこまでか、輸出入等の経常取引のヘッジ目的や重要性の低いものの除外はどうするか、など技術的な点はありますが、こうでもしないと把握することは実質困難と思われます。
二つめの例は、2008年8月25日の日経記事が参考になります。
「デリバティブ活用し株式実質保有: 隠れ大株主 米で問題化 米鉄道大手、英TCIと法廷闘争」
と いう記事です。これはJパワー株で有名になったファンドのTCIが米国の鉄道大手CSXの株を金融機関との相対取引によるスワップ(トータル・リターン・ スワップ=TRS)を通じて、開示対象の5%以上を実質的の保有していたというものです。本来5%以上ならその事実を適時開示すべきなのに開示が遅れたと してTCIがCSXから訴えられたのです。この取引ではTCIは金融機関とTRSを結んで配当とキャピタルゲインを得る代りに手数料の支払とキャピタルロ スのリスクを受け入れる、ということになります。
記事によると一審ではTCIが金融機関に持分を5%未満とするよう指示していたなどの故意が認 定されてTCI敗訴になったようです(二審以降の結果はまだ不明)。これもデリバティブを使った一種の「大量保有報告逃れ」とみなされた訳です。だからと いってTRSだけを規制すればいいのかといえばそれは無意味です。TCIは「実質株式保有の経済効果とリスクをスワップとして構成した」というだけですか ら、金融機関を間にもう一つ入れたり共同投資するファンドを分散したりすれば同じことはいくらでも可能です(なんか、仕手戦における株の買い集めそのもの な感じですが)。
カネ集めや投資の方法は何も株や債券だけではありません。私募の匿名組合と借入を使って少数の資金のある個人や適格機関投資家 だけを相手に行うことでも可能です。開示対象でない子会社を経由して種類株を発行させたり、株主なみの財務制限条項・特約を付した金銭消費貸借契約を結ぶ ことでも株主価値をいかようにでもできるキャッシュフローを作り出せるでしょう。金融審ではこういった実質面も含めてどう議論されていくのか興味深いとこ ろです(実行可能性とスピード、企業の実務対応を考えるとあまり手を広げることはできないのでしょうが)。
最近のREIT:フォロー
REITについては最近何回かアップしましたが↓
11月26日 REIT:エリア特性をみる
11月23日 REIT:物件タイプをみる
11月23日 REIT:分配金、外部成長
11月22日 REIT:スポンサーと格付
11月19日 REIT:借入関係②~短期・金利・地銀
11月18日 REIT:借入関係①~負債比率
11月16日 REIT;株価と時価総額
11月16日 REIT:PBRでみると
11月14日 最近のREITについて:高利回りの謎
その後の動きも少し。
11月19日 日本レジデンシャル投資法人が物件取得を中止して違約金23億円の支払が発生し、予想配当が80%減となる旨発表されました。
→ この物件は1年も前に取得の発表を行い、物件の竣工は今年6月でした。その後ファイナンス
について調整していたのでしょうがぎりぎりのタイミングで不調に終わった、ということかと思い
ます。しかし調達交渉が長引いておりかなりの確率で違約金が発生しそうであったのならば
なぜそれを開示しなかったのでしょうか。通常のコーポレートファイナンスの常識でいえば巨額
の違約金の発生により投資家に甚大な影響が出そうならば、それについて速やかに適時開示
すべきです。ましてや違約金の発生事由や金額もほぼ確定しているわけですし、発表すること
自体が信用不安を引き起こして却ってREIT本体や投資家に被害が出る、といった可能性も低い
と思います。
11月28日 ビ・ライフのスポンサーであるモリモトが民事再生法の適用を申請して破綻しました。
→ スポンサーは大和ハウス工業に移りました。前のエントリで書きましたが、REITはスポンサー
が破綻してもそれ自体は直接関係ないです。しかも今回のように信用できそうな後継スポンサ
ーがすぐ引き継いでくれるなら一般投資的には大きな波乱要因にはならないでしょう。
12月4日 プロスペクトの調達金利:1.7%→6.8%へ(日経 12月4日)
→ 借入金利が6.8%もある一方、物件NOIが5%程度だったら最早レバレッジを利かせる意味
はありません。資金繰り上の要請と思われます。正直なところ、金利の数十bpの変化程度なら
信用リスクのコストといっても配当への影響は対したことないと思っていましたが、500bpも上が
るとなると・・・。仕方ありませんが。。
上記の3銘柄は分析対象の19銘柄に入っていました。株価はやはりなんらかのイベントを嗅ぎつけていたんだと思われます。
11月26日 REIT:エリア特性をみる
11月23日 REIT:物件タイプをみる
11月23日 REIT:分配金、外部成長
11月22日 REIT:スポンサーと格付
11月19日 REIT:借入関係②~短期・金利・地銀
11月18日 REIT:借入関係①~負債比率
11月16日 REIT;株価と時価総額
11月16日 REIT:PBRでみると
11月14日 最近のREITについて:高利回りの謎
その後の動きも少し。
11月19日 日本レジデンシャル投資法人が物件取得を中止して違約金23億円の支払が発生し、予想配当が80%減となる旨発表されました。
→ この物件は1年も前に取得の発表を行い、物件の竣工は今年6月でした。その後ファイナンス
について調整していたのでしょうがぎりぎりのタイミングで不調に終わった、ということかと思い
ます。しかし調達交渉が長引いておりかなりの確率で違約金が発生しそうであったのならば
なぜそれを開示しなかったのでしょうか。通常のコーポレートファイナンスの常識でいえば巨額
の違約金の発生により投資家に甚大な影響が出そうならば、それについて速やかに適時開示
すべきです。ましてや違約金の発生事由や金額もほぼ確定しているわけですし、発表すること
自体が信用不安を引き起こして却ってREIT本体や投資家に被害が出る、といった可能性も低い
と思います。
11月28日 ビ・ライフのスポンサーであるモリモトが民事再生法の適用を申請して破綻しました。
→ スポンサーは大和ハウス工業に移りました。前のエントリで書きましたが、REITはスポンサー
が破綻してもそれ自体は直接関係ないです。しかも今回のように信用できそうな後継スポンサ
ーがすぐ引き継いでくれるなら一般投資的には大きな波乱要因にはならないでしょう。
12月4日 プロスペクトの調達金利:1.7%→6.8%へ(日経 12月4日)
→ 借入金利が6.8%もある一方、物件NOIが5%程度だったら最早レバレッジを利かせる意味
はありません。資金繰り上の要請と思われます。正直なところ、金利の数十bpの変化程度なら
信用リスクのコストといっても配当への影響は対したことないと思っていましたが、500bpも上が
るとなると・・・。仕方ありませんが。。
上記の3銘柄は分析対象の19銘柄に入っていました。株価はやはりなんらかのイベントを嗅ぎつけていたんだと思われます。
ソフトバンク⇒ボーダフォン買収:WBSの利用
ソフトバンクはボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)買収にあたって早い段階からリファイナンス案を検討中とリリースされていましたが、平成18年11月30日に
「事業証券化」(Whole Business Securitization)
と いう形で実施されました。WBSは主として英国で発達した資金調達手法で、「浮動担保」とか「レシーバー」の存在により可能な特有の仕組みで日本では適用 困難だ、といった議論も一昔前にはありました。しかしキャッシュフローが安定していて事業構造が比較的単純なものであれば契約上の工夫によりできないわけ ではありません。実際、「熱海ビーチライン」や「GAIAパチンコホール」等のWBSが実行されています。ただしWBSと銘打っていても実際は不動産証券 化にかなり近い形式のものもあり、単なる名称だけで色分けしてもあまり意味はありません。案件の個別性が非常に強いという意味でむしろ「コベナンツファイ ナンスの一種」と捉えておいた方が柔軟に理解できるだろうと思います。
ボーダフォン買収の場合、案件組成上は以下のニーズがあったと思います。
(ソフトバンク)
①借入期間の長期化
②格付取得による調達コストの引き下げ
③事業経営の自由度確保
(レンダー側)
①返済の確実化
②事業推進のインセンティブ付与
ソフトバンク本体の当時の格付では(ムーディーズ:Ba3)これ以上コーポレートローンを増やす余地がありません。しかし一般の不動産証券化のように完全 な倒産隔離をしてしまうとソフトバンク側の事業関与の余地が著しく狭まり実質経営不可となります(不動産の場合はセール・アンド・リースバックすればよい ですが、携帯電話基地局はその集合体というだけでは賃料のようなものを生み出しません)。また仮に営業できたとしても競争の激しい業界において機動的な施 策が打てず事業価値が毀損してしまうかもしれません。さらに倒産隔離するとオフバランス要件からソフトバンクが隔離後のSPCに巨額のエクイティを出資す ることができないため、業績に見合った適切なインセンティブを付与することが難しくなります。買収の成否はEBITDAの成長にありますからこうした「し かけ」はとても重要です。
レンダーの立場からいっても、倒産隔離したとしても基地局や付随する諸設備だけを隔離してもAクラスのオ フィスビルと違ってモノ自体のキャッシュフロー創出力がありません。したがって事業スポンサーをみつけないといけなくなります。これも不動産のバックアッ プサービサーと違ってすぐに代替できる会社はそういません。また隔離するとソフトバンクの事業形態がSPCとの「携帯電話事業業務委託契約」や「経営委 任」的なものとなってしまい、ローンの求償力が格段に落ちてしまいます(契約解除→裁判になって確定判決で損害賠償とれても時間がかかってしまい、その間 に事業価値が著しく破壊されます)。これを避けるためにレンダーとしては「平時は一定の経営の自由度を許容する+コベナンツで事業と財務の進捗をモニタリ ング+契約による破綻防止措置/破綻時の事業分離」を組み合わせる方策を考えることになります。
以上の背景をもとにWBSの条件をみてみると以下のとおりです。
(1)借入期間の長期化
借入の期限は1年(平成19年3月末日まで)から13年に長期化されます。
(2)借入金利
当初借入利率はリリースや決算短信、有報をみるところ載っていませんが、長期借入の平均利率は平成19年3月末時点で5.09%、20年3月末時点で 3.25%となっています(ともに有報注記p68)。18年度は当初ブリッジローン金利の負担が重かったのが、19年度に入ってリファイナンス分の借入平 残(1兆3,550億円)だけとなり負担が軽くなったといえます。3%台ならこのレバレッジ、格付水準なら特段高過ぎることはありません。また
(3)格付
格付面では以下の携帯電話事業キャッシュフロー成長とWBSによる隔離策が評価されBa3→Ba2(ムーディーズ)と引き上げとなっていますから期間・格付・利率の点ではソフトバンクの当初の目標は達成されているといえます。
次にレンダー側からみてみます。
(4)借入主体の変更
借入当事者がBBモバイルから携帯電話事業主体のソフトバンクモバイル本体に借換えとなり引当てがより安定した形となっています。なお投資家から直接ソフ トバンクモバイルにシンジケートローンを実行せずにSPC(WBSファンディング)と信託を経由させています。WBSファンディングの法形式は発表資料等 に明示されていませんが倒産隔離の観点から中間法人を使っているかもしれません。また信託を使っているのは導管としての堅実性と信託銀行を担保権者・事務 受託者として利用する意図であると思われます(この当時はまだ信託法は改正されていなかったので、担保付社債信託法の問題を避けるためにローン+信 託+SPCにしていたという可能性もあります)。またWBSまた
(5)倒産防止措置
親会社のBBモバイルに優先株式(拒否権付種類株 式)を発行させてみずほ信託銀行に割り当てています。この株式は取締役選任・解任、新規事業、追加借入、定款変更、エクイティ(新株等)の取得権および解 散・倒産申立を拒否できます。これは証券化においてSPCの倒産防止措置として一般的によく用いられる手法で、これによりソフトバンクモバイルに対する BBモバイルの経営上の干渉リスクを抑制しています。
上記と同時にWBSに関係の無い債権者を極力減らすため、ボーダフォンが過去発行した一般 投資家向けの公募社債をディフィーザンズしました(この預託先が問題のCDOだったわけですが)。なお一般債権者を排除する点は重要で、更生担保権の議決 権の1/3以上をレンダー側で押さえておけば他の債権者から万一会社更生法の申立てがあったとしても更生計画案を可決させることができなくなるため、事実 上会社更生法の申立てを封じることができると考えたと思われます。
さらに返済を確実にするためヤフー向けに発行したBBモバイル第一種優先株は 平成25年度までは無配としています。ただしそれ以降の配当のスプレッドはかなり厚いし(発行価額×0.12+基準金利)、新株予約権も付与されているの で一応インセンティブは確保されているといえます。
(6)信用補完
さらに内部信用補完としてローン1兆4,400億円のローン(緒コス ト控除後1兆3,660億円)は優先劣後構造(うちシニア1.15兆円とメザニン2種類0.3兆円)に分けられています。このローンの下にはさらにクッ ションとしてVodafone PLCの劣後ローン845億円とヤフーとVodafone PLCが引き受けた優先株4,200億円、モバイルテック(ソフトバンク100%子会社)が引き受けた普通株2,000億円があるわけです。シニアの償還 期限はメザニンよりも3年前倒しとなっておりリファイナンスリスクを抑制しています。キャッシュフローの動向によってはさらに早期償還になる仕組みがとら れているはずです。
興味深いのは財務制限条項です。上記の倒産防止措置・信用補完措置は証券化関連では特段目新しくありませんが、これだけの規 模のコーポレートファイナンス案件で(再生案件を別として)財務制限条項がフル活用されたのが目新しいですね。条項の内容自体はよくあるものですが、これ 以降のコベナンツファイナンスの普及の促進剤となったのではないでしょうか(詳細な条件は平成19年3月決算短信p34)。主なものとしてはソフトバンク モバイルが連結ベースで純資産が各四半期末時点で前年同時期の純資産の75%未満にならないことや新規の外部借入禁止などです。いずれにしても、上記の措 置によりレンダーとしても返済の確実性の確保・倒産隔離とソフトバンク側への経営の裁量を最大限両立する手当てをしたといえるでしょう。
なお財務制限条項には「修正EBITDA」や「負債÷EBITDA」や「事業パフォーマンス」も含まれているようですが、その具体的な数値基準は特に開示 されていません。貸借対照表ベースの基準はすぐに抵触しないと思うのですが、EBITDAの水準や負債÷EBITDAなどの動態的比率は結構変動するので できれば基準がわかると投資家にはいいですね。前回までのエントリで一応償還能力は問題なさそうですが、財務制限条項ベースの安定度とは一応別なので(と はいえプレゼン資料の絵をみるかぎりでは返済のレンダーシナリオは大きくクリアして進捗しているようには見えます)。
「事業証券化」(Whole Business Securitization)
と いう形で実施されました。WBSは主として英国で発達した資金調達手法で、「浮動担保」とか「レシーバー」の存在により可能な特有の仕組みで日本では適用 困難だ、といった議論も一昔前にはありました。しかしキャッシュフローが安定していて事業構造が比較的単純なものであれば契約上の工夫によりできないわけ ではありません。実際、「熱海ビーチライン」や「GAIAパチンコホール」等のWBSが実行されています。ただしWBSと銘打っていても実際は不動産証券 化にかなり近い形式のものもあり、単なる名称だけで色分けしてもあまり意味はありません。案件の個別性が非常に強いという意味でむしろ「コベナンツファイ ナンスの一種」と捉えておいた方が柔軟に理解できるだろうと思います。
ボーダフォン買収の場合、案件組成上は以下のニーズがあったと思います。
(ソフトバンク)
①借入期間の長期化
②格付取得による調達コストの引き下げ
③事業経営の自由度確保
(レンダー側)
①返済の確実化
②事業推進のインセンティブ付与
ソフトバンク本体の当時の格付では(ムーディーズ:Ba3)これ以上コーポレートローンを増やす余地がありません。しかし一般の不動産証券化のように完全 な倒産隔離をしてしまうとソフトバンク側の事業関与の余地が著しく狭まり実質経営不可となります(不動産の場合はセール・アンド・リースバックすればよい ですが、携帯電話基地局はその集合体というだけでは賃料のようなものを生み出しません)。また仮に営業できたとしても競争の激しい業界において機動的な施 策が打てず事業価値が毀損してしまうかもしれません。さらに倒産隔離するとオフバランス要件からソフトバンクが隔離後のSPCに巨額のエクイティを出資す ることができないため、業績に見合った適切なインセンティブを付与することが難しくなります。買収の成否はEBITDAの成長にありますからこうした「し かけ」はとても重要です。
レンダーの立場からいっても、倒産隔離したとしても基地局や付随する諸設備だけを隔離してもAクラスのオ フィスビルと違ってモノ自体のキャッシュフロー創出力がありません。したがって事業スポンサーをみつけないといけなくなります。これも不動産のバックアッ プサービサーと違ってすぐに代替できる会社はそういません。また隔離するとソフトバンクの事業形態がSPCとの「携帯電話事業業務委託契約」や「経営委 任」的なものとなってしまい、ローンの求償力が格段に落ちてしまいます(契約解除→裁判になって確定判決で損害賠償とれても時間がかかってしまい、その間 に事業価値が著しく破壊されます)。これを避けるためにレンダーとしては「平時は一定の経営の自由度を許容する+コベナンツで事業と財務の進捗をモニタリ ング+契約による破綻防止措置/破綻時の事業分離」を組み合わせる方策を考えることになります。
以上の背景をもとにWBSの条件をみてみると以下のとおりです。
(1)借入期間の長期化
借入の期限は1年(平成19年3月末日まで)から13年に長期化されます。
(2)借入金利
当初借入利率はリリースや決算短信、有報をみるところ載っていませんが、長期借入の平均利率は平成19年3月末時点で5.09%、20年3月末時点で 3.25%となっています(ともに有報注記p68)。18年度は当初ブリッジローン金利の負担が重かったのが、19年度に入ってリファイナンス分の借入平 残(1兆3,550億円)だけとなり負担が軽くなったといえます。3%台ならこのレバレッジ、格付水準なら特段高過ぎることはありません。また
(3)格付
格付面では以下の携帯電話事業キャッシュフロー成長とWBSによる隔離策が評価されBa3→Ba2(ムーディーズ)と引き上げとなっていますから期間・格付・利率の点ではソフトバンクの当初の目標は達成されているといえます。
次にレンダー側からみてみます。
(4)借入主体の変更
借入当事者がBBモバイルから携帯電話事業主体のソフトバンクモバイル本体に借換えとなり引当てがより安定した形となっています。なお投資家から直接ソフ トバンクモバイルにシンジケートローンを実行せずにSPC(WBSファンディング)と信託を経由させています。WBSファンディングの法形式は発表資料等 に明示されていませんが倒産隔離の観点から中間法人を使っているかもしれません。また信託を使っているのは導管としての堅実性と信託銀行を担保権者・事務 受託者として利用する意図であると思われます(この当時はまだ信託法は改正されていなかったので、担保付社債信託法の問題を避けるためにローン+信 託+SPCにしていたという可能性もあります)。またWBSまた
(5)倒産防止措置
親会社のBBモバイルに優先株式(拒否権付種類株 式)を発行させてみずほ信託銀行に割り当てています。この株式は取締役選任・解任、新規事業、追加借入、定款変更、エクイティ(新株等)の取得権および解 散・倒産申立を拒否できます。これは証券化においてSPCの倒産防止措置として一般的によく用いられる手法で、これによりソフトバンクモバイルに対する BBモバイルの経営上の干渉リスクを抑制しています。
上記と同時にWBSに関係の無い債権者を極力減らすため、ボーダフォンが過去発行した一般 投資家向けの公募社債をディフィーザンズしました(この預託先が問題のCDOだったわけですが)。なお一般債権者を排除する点は重要で、更生担保権の議決 権の1/3以上をレンダー側で押さえておけば他の債権者から万一会社更生法の申立てがあったとしても更生計画案を可決させることができなくなるため、事実 上会社更生法の申立てを封じることができると考えたと思われます。
さらに返済を確実にするためヤフー向けに発行したBBモバイル第一種優先株は 平成25年度までは無配としています。ただしそれ以降の配当のスプレッドはかなり厚いし(発行価額×0.12+基準金利)、新株予約権も付与されているの で一応インセンティブは確保されているといえます。
(6)信用補完
さらに内部信用補完としてローン1兆4,400億円のローン(緒コス ト控除後1兆3,660億円)は優先劣後構造(うちシニア1.15兆円とメザニン2種類0.3兆円)に分けられています。このローンの下にはさらにクッ ションとしてVodafone PLCの劣後ローン845億円とヤフーとVodafone PLCが引き受けた優先株4,200億円、モバイルテック(ソフトバンク100%子会社)が引き受けた普通株2,000億円があるわけです。シニアの償還 期限はメザニンよりも3年前倒しとなっておりリファイナンスリスクを抑制しています。キャッシュフローの動向によってはさらに早期償還になる仕組みがとら れているはずです。
興味深いのは財務制限条項です。上記の倒産防止措置・信用補完措置は証券化関連では特段目新しくありませんが、これだけの規 模のコーポレートファイナンス案件で(再生案件を別として)財務制限条項がフル活用されたのが目新しいですね。条項の内容自体はよくあるものですが、これ 以降のコベナンツファイナンスの普及の促進剤となったのではないでしょうか(詳細な条件は平成19年3月決算短信p34)。主なものとしてはソフトバンク モバイルが連結ベースで純資産が各四半期末時点で前年同時期の純資産の75%未満にならないことや新規の外部借入禁止などです。いずれにしても、上記の措 置によりレンダーとしても返済の確実性の確保・倒産隔離とソフトバンク側への経営の裁量を最大限両立する手当てをしたといえるでしょう。
なお財務制限条項には「修正EBITDA」や「負債÷EBITDA」や「事業パフォーマンス」も含まれているようですが、その具体的な数値基準は特に開示 されていません。貸借対照表ベースの基準はすぐに抵触しないと思うのですが、EBITDAの水準や負債÷EBITDAなどの動態的比率は結構変動するので できれば基準がわかると投資家にはいいですね。前回までのエントリで一応償還能力は問題なさそうですが、財務制限条項ベースの安定度とは一応別なので(と はいえプレゼン資料の絵をみるかぎりでは返済のレンダーシナリオは大きくクリアして進捗しているようには見えます)。
ソフトバンク⇒ボーダフォン買収:買収ストラクチャー選択について
さて今回はボーダフォンLBOの収支計算や償還能力の評価から離れて、ソフトバンクが選択した買収ストラクチャーを「ストラクチャーの最適な選択」とい
う観点から眺めてみましょう。具体的にはソフトバンク、ボーダフォンにとっては案件組成の手数を少なくすることと税務コストを減らすこと、レンダーにとっ
ては返済可能性を確実にする仕組みを選択したい、ということになります。
まずソフトバンクの買収手法の点からみると、現金でボーダフォ ン株式を100%取得しています(子会社のBBモバイルを通じて買収しているのは、後述の事業証券化=WBSのために倒産隔離性のあるビークルとして利用 することを想定してのことと思われます)。株式交換・合併・他社の事業の全部譲受・会社分割は買い手側では株主総会の特別決議が必要ですからソフトバンク の手続としては煩瑣な上に案件がフェイルするリスクが高くなります。また株式交換は相手の規模が大きく希薄化リスクが高い点でも選択不可ですね。現金によ る発行済株式の買収は取締役会決議だけで実施できるのが利点です。なお売り手のボーダフォンは親会社のVodafone PLCが実質1人株主ですから意思決定上の面倒はなかったでしょう。
税務面の検討は有価証券報告書などの公表情報だけでは情報が不足なのですが、おおまかな検討事項としては
①売り手会社に繰越欠損金がある場合に買い手が引き継げるか
②買収で買い手に「のれん」が生じる場合に償却費を損金算入できるか
③買収価格を償却可能資産に反映させられるか(パーチェスプライスアロケーション)
④売り手株主に二重課税が生じないか
⑤クロスボーダー案件で租税条約上の措置はどうなっているか(株式譲渡益課税など)
と いったところでしょう。まず①ですが、ボーダフォンには繰越欠損金がないのでこれの引継ぎは問題になりません。次に②ですが、1兆1,238億円に上るの れんがソフトバンクに生じています。これは会計上20年償却ですから(ソフトバンク平成18年第一四半期報告書p24)毎年560億円の費用です。ただし 税務上は営業譲渡の場合と違って損金にはなりません。仮に営業譲渡だった場合は税務上5年償却として単純に毎期900億円程度の損金メリットがある計算に なりますが、契約上の地位の移転の問題とか売り手の資産譲渡益課税の問題を考えると採り得ない選択肢だったかと思われます。なお税務当局から買収価格が時 価より高すぎるされた場合、売り手には時価と売価の差額が受贈益扱いで課税、買い手では同差額が寄付金とみなされて損金算入不可、といったリスクがありま す。ただし以前のエントリでみたように買収株価はボーダフォンの上場廃止直前の株価の3割増し程度だし利害関係のない第三者間の売買だから「高すぎる」と いうことにはならないかと思われます。さて③についてはソフトバンクが譲受した資産の明細が不明なのでわかりませんが、もし高い時価の償却可能資産があれ ば償却費を今後計上できることになります。四半期報告等をみるかぎりでは平成18年3月末のボーダフォンの流動資産は4月30日のソフトバンクの連結時に はやや増加(3,083億円→3,249億円)、固定資産は大幅減(1兆0,474億円→8,515億円)となっています。受け入れ時には全面時価評価し ていると思いますが、取得原価の按分による変動なのか経常取引等による変動なのかは判然としません(ただ引き継ぐのは大部分基地局などの電気通信設備周り と想像すると償却考慮後の時価が上がるモノが多いとは思えません)。④については資産買収ではなく株式買収ですから買収対価のキャッシュはボーダフォンで はなく直接Vodafone PLCに入ります。したがって二重課税の問題にはなりません。⑤はVodafone PLCが英国本社の会社なので日英租税条約による扱いが基本となります。同条約では「事業譲渡類似株式」(課税年度のいずれかの時点で25%以上の株式を 保有しており、かつ5%以上の株式を上とする場合)の譲渡においては日本において源泉地国課税となります。英国では国内法により株式譲渡益には非課税です が(『グローバルM&Aの実務』(東京青山・青木・狛法律事務所、中央経済社2008年)p101:「譲渡する会社の株式の10%以上を12ヶ月以上引続 き保有していた場合等」(Schedule 7AC of Taxation of Chargeable Gain Act 1992,(Finance Act 2002))、日本での課税は避けられないと思われます。
※ なお平成18年に新日英租税条約が発効しましたが、この部分の規定は基本的に同じです。ただし居住国で課税される場合や日本でのM&Aが税制適格再編とされた場合は「課税されたものとみなす」規定ができました。
次回はWBSの利用についてみてみたいと思います。レンダーの視点と調達コストの観点です。
まずソフトバンクの買収手法の点からみると、現金でボーダフォ ン株式を100%取得しています(子会社のBBモバイルを通じて買収しているのは、後述の事業証券化=WBSのために倒産隔離性のあるビークルとして利用 することを想定してのことと思われます)。株式交換・合併・他社の事業の全部譲受・会社分割は買い手側では株主総会の特別決議が必要ですからソフトバンク の手続としては煩瑣な上に案件がフェイルするリスクが高くなります。また株式交換は相手の規模が大きく希薄化リスクが高い点でも選択不可ですね。現金によ る発行済株式の買収は取締役会決議だけで実施できるのが利点です。なお売り手のボーダフォンは親会社のVodafone PLCが実質1人株主ですから意思決定上の面倒はなかったでしょう。
税務面の検討は有価証券報告書などの公表情報だけでは情報が不足なのですが、おおまかな検討事項としては
①売り手会社に繰越欠損金がある場合に買い手が引き継げるか
②買収で買い手に「のれん」が生じる場合に償却費を損金算入できるか
③買収価格を償却可能資産に反映させられるか(パーチェスプライスアロケーション)
④売り手株主に二重課税が生じないか
⑤クロスボーダー案件で租税条約上の措置はどうなっているか(株式譲渡益課税など)
と いったところでしょう。まず①ですが、ボーダフォンには繰越欠損金がないのでこれの引継ぎは問題になりません。次に②ですが、1兆1,238億円に上るの れんがソフトバンクに生じています。これは会計上20年償却ですから(ソフトバンク平成18年第一四半期報告書p24)毎年560億円の費用です。ただし 税務上は営業譲渡の場合と違って損金にはなりません。仮に営業譲渡だった場合は税務上5年償却として単純に毎期900億円程度の損金メリットがある計算に なりますが、契約上の地位の移転の問題とか売り手の資産譲渡益課税の問題を考えると採り得ない選択肢だったかと思われます。なお税務当局から買収価格が時 価より高すぎるされた場合、売り手には時価と売価の差額が受贈益扱いで課税、買い手では同差額が寄付金とみなされて損金算入不可、といったリスクがありま す。ただし以前のエントリでみたように買収株価はボーダフォンの上場廃止直前の株価の3割増し程度だし利害関係のない第三者間の売買だから「高すぎる」と いうことにはならないかと思われます。さて③についてはソフトバンクが譲受した資産の明細が不明なのでわかりませんが、もし高い時価の償却可能資産があれ ば償却費を今後計上できることになります。四半期報告等をみるかぎりでは平成18年3月末のボーダフォンの流動資産は4月30日のソフトバンクの連結時に はやや増加(3,083億円→3,249億円)、固定資産は大幅減(1兆0,474億円→8,515億円)となっています。受け入れ時には全面時価評価し ていると思いますが、取得原価の按分による変動なのか経常取引等による変動なのかは判然としません(ただ引き継ぐのは大部分基地局などの電気通信設備周り と想像すると償却考慮後の時価が上がるモノが多いとは思えません)。④については資産買収ではなく株式買収ですから買収対価のキャッシュはボーダフォンで はなく直接Vodafone PLCに入ります。したがって二重課税の問題にはなりません。⑤はVodafone PLCが英国本社の会社なので日英租税条約による扱いが基本となります。同条約では「事業譲渡類似株式」(課税年度のいずれかの時点で25%以上の株式を 保有しており、かつ5%以上の株式を上とする場合)の譲渡においては日本において源泉地国課税となります。英国では国内法により株式譲渡益には非課税です が(『グローバルM&Aの実務』(東京青山・青木・狛法律事務所、中央経済社2008年)p101:「譲渡する会社の株式の10%以上を12ヶ月以上引続 き保有していた場合等」(Schedule 7AC of Taxation of Chargeable Gain Act 1992,(Finance Act 2002))、日本での課税は避けられないと思われます。
※ なお平成18年に新日英租税条約が発効しましたが、この部分の規定は基本的に同じです。ただし居住国で課税される場合や日本でのM&Aが税制適格再編とされた場合は「課税されたものとみなす」規定ができました。
次回はWBSの利用についてみてみたいと思います。レンダーの視点と調達コストの観点です。
ソフトバンク⇒ボーダフォン買収後の償還能力
ボーダフォンLBO後の債務償還能力はどうでしょうか。昨今の株価下落やCDSスプレッドは正に負債の絶対額の多さを懸念材料としていると考えられます
ので重要な点です。連結EBITDAベースでICR(=EBITDA÷支払利息)をみると、平成19年3月では11.5倍とかなり余裕がありましたが、
20年3月は4.3倍となっています。利払いが285億円から851億円へ本格的に増加したことが理由です。先行きは債務残高が漸減していくので、利払い
が毎年10%減ると想定した場合にはICRは平成21年3月で4.8倍、平成22年3月で5.9倍と改善していきます。いずれにしても昨今のCDSスプ
レッドのみられるような、破綻するかのような評価にはならないということですね(また最近注目されたCDS損失の可能性についても評価損はあれすぐさま
キャッシュアウトするという話ではありません)。ちなみに元金返済も含めた余裕度をデット・サービス・カバレッジ・レシオ(DSCR)でみると、平成19
年3月の6.9倍からいったん1.3倍まで低下した後、1.4倍、1.8倍と反転していきます。もちろん、フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフ
ロー+投資キャッシュフロー)ベースでみた場合は余裕があるとまではいえませんが。とはいえここで示した支払余力はソフトバンクモバイルと傘下3社の連結
EBITDAだけで考えていますから、ソフトバンクグループ全体の連結ベースでは上記よりも余裕があるとはいえるでしょう。
(償還能力)
(注)H21年3月、H22年3月分のキャッシュフローは会社全体の予想値×0.5。投資キャッシュフローは会社全体の予想値×0.8としている。
(償還能力)
(注)H21年3月、H22年3月分のキャッシュフローは会社全体の予想値×0.5。投資キャッシュフローは会社全体の予想値×0.8としている。