開示すべきファイナンス手法
最近のエントリではREITとかソフトバンクとか直近の具体的な案件のトピックスが続いたので、少し別のものを。
12月5日の日本経済新聞に以下のような記事があります。
「資金調達ルール厳格化
転換社債などに一定の制限検討 金融審が議論開始」
要約すると、金融審の研究会で上場企業の資金調達ルールを見直す一環として、
・原則として取締役会決議だけ実施できる第三者割当増資
・MSCB
な どに一定の制限を加えるべきとの指摘が相次いだ、とのことです。既存株主の利益を損ないかねないというのが理由です。米国では25%以上の新株発行は取引 所規制で制限されているほか、MSCBについては有利発行の規制が機能していないのではないか、といった意見が出ているそうです。金融審研究会の論点整理 は以下をご覧ください。
12月4日 金融審議会資料
MSCBを含む、デリバティブを利用したスキームの開示について少し考えてみます。
一 つめの例はアーバン・コーポレーションが行ったCB発行とスワップを組み合わせたスキームです。これはCB発行日とスワップ契約日を分け(後者が後の 日)、体裁上MSCBに該当しないようにしつつ類似の効果を企図しているほか、スワップ取引が開示対象でない点も考慮にいれて設計されているのではない か、との指摘があります(会社法であそぼ:「直接金融の開示のありかた」)
MSCBについては日本証券業協会と東京証券取引所がそれぞれ発行・開示規制を行っていますが(日証協:自主規制「会員におけるMSCB等の取扱いに関す る規則」、東証:「企業行動規範 MSCB等の発行に係る尊重義務」)、そこで定める「MSCB等」は今まで発行されてきたCB+転換価額下方修正条項の 付いたもの、が想定されているように読めます。しかしアーバンの事例でも明らかなように、エクイティ・デリバティブを使ってペイオフダイアグラムを工夫す れば、経済的実質として似たようなスキームを作ることは可能です。要は
「無裁定原理に基づいて複製ポートフォリオを組み、目的の証券のキャッシュフローを作り出せる」
ことがデリバティブを使う意義です。ヘッジでも運用でも。
この発想自体には当然ながら何の偏った意図も悪意もありません。したがって、MSCBと呼んでもMSワラントと称してもMPOと名づけてもそれ自体はあまり本質的ではありません。商品毎に網をかけていってもいたちごっこになるだけです。方向性についてだけいえば、
・本取引による先行き6ヶ月程度の株主価値の希薄化の可能性と程度の最大値
・本取引の前後3~6ヶ月以内に実施するデリバティブ取引(必ずしも本取引と直接関係ない取引
も含む)によるキャッシュフロー
を機械的に開示させる以外に方法がありません。なおデリバティブ取引の開示対象のグループ会社はどこまでか、輸出入等の経常取引のヘッジ目的や重要性の低いものの除外はどうするか、など技術的な点はありますが、こうでもしないと把握することは実質困難と思われます。
二つめの例は、2008年8月25日の日経記事が参考になります。
「デリバティブ活用し株式実質保有: 隠れ大株主 米で問題化 米鉄道大手、英TCIと法廷闘争」
と いう記事です。これはJパワー株で有名になったファンドのTCIが米国の鉄道大手CSXの株を金融機関との相対取引によるスワップ(トータル・リターン・ スワップ=TRS)を通じて、開示対象の5%以上を実質的の保有していたというものです。本来5%以上ならその事実を適時開示すべきなのに開示が遅れたと してTCIがCSXから訴えられたのです。この取引ではTCIは金融機関とTRSを結んで配当とキャピタルゲインを得る代りに手数料の支払とキャピタルロ スのリスクを受け入れる、ということになります。
記事によると一審ではTCIが金融機関に持分を5%未満とするよう指示していたなどの故意が認 定されてTCI敗訴になったようです(二審以降の結果はまだ不明)。これもデリバティブを使った一種の「大量保有報告逃れ」とみなされた訳です。だからと いってTRSだけを規制すればいいのかといえばそれは無意味です。TCIは「実質株式保有の経済効果とリスクをスワップとして構成した」というだけですか ら、金融機関を間にもう一つ入れたり共同投資するファンドを分散したりすれば同じことはいくらでも可能です(なんか、仕手戦における株の買い集めそのもの な感じですが)。
カネ集めや投資の方法は何も株や債券だけではありません。私募の匿名組合と借入を使って少数の資金のある個人や適格機関投資家 だけを相手に行うことでも可能です。開示対象でない子会社を経由して種類株を発行させたり、株主なみの財務制限条項・特約を付した金銭消費貸借契約を結ぶ ことでも株主価値をいかようにでもできるキャッシュフローを作り出せるでしょう。金融審ではこういった実質面も含めてどう議論されていくのか興味深いとこ ろです(実行可能性とスピード、企業の実務対応を考えるとあまり手を広げることはできないのでしょうが)。
12月5日の日本経済新聞に以下のような記事があります。
「資金調達ルール厳格化
転換社債などに一定の制限検討 金融審が議論開始」
要約すると、金融審の研究会で上場企業の資金調達ルールを見直す一環として、
・原則として取締役会決議だけ実施できる第三者割当増資
・MSCB
な どに一定の制限を加えるべきとの指摘が相次いだ、とのことです。既存株主の利益を損ないかねないというのが理由です。米国では25%以上の新株発行は取引 所規制で制限されているほか、MSCBについては有利発行の規制が機能していないのではないか、といった意見が出ているそうです。金融審研究会の論点整理 は以下をご覧ください。
12月4日 金融審議会資料
MSCBを含む、デリバティブを利用したスキームの開示について少し考えてみます。
一 つめの例はアーバン・コーポレーションが行ったCB発行とスワップを組み合わせたスキームです。これはCB発行日とスワップ契約日を分け(後者が後の 日)、体裁上MSCBに該当しないようにしつつ類似の効果を企図しているほか、スワップ取引が開示対象でない点も考慮にいれて設計されているのではない か、との指摘があります(会社法であそぼ:「直接金融の開示のありかた」)
MSCBについては日本証券業協会と東京証券取引所がそれぞれ発行・開示規制を行っていますが(日証協:自主規制「会員におけるMSCB等の取扱いに関す る規則」、東証:「企業行動規範 MSCB等の発行に係る尊重義務」)、そこで定める「MSCB等」は今まで発行されてきたCB+転換価額下方修正条項の 付いたもの、が想定されているように読めます。しかしアーバンの事例でも明らかなように、エクイティ・デリバティブを使ってペイオフダイアグラムを工夫す れば、経済的実質として似たようなスキームを作ることは可能です。要は
「無裁定原理に基づいて複製ポートフォリオを組み、目的の証券のキャッシュフローを作り出せる」
ことがデリバティブを使う意義です。ヘッジでも運用でも。
この発想自体には当然ながら何の偏った意図も悪意もありません。したがって、MSCBと呼んでもMSワラントと称してもMPOと名づけてもそれ自体はあまり本質的ではありません。商品毎に網をかけていってもいたちごっこになるだけです。方向性についてだけいえば、
・本取引による先行き6ヶ月程度の株主価値の希薄化の可能性と程度の最大値
・本取引の前後3~6ヶ月以内に実施するデリバティブ取引(必ずしも本取引と直接関係ない取引
も含む)によるキャッシュフロー
を機械的に開示させる以外に方法がありません。なおデリバティブ取引の開示対象のグループ会社はどこまでか、輸出入等の経常取引のヘッジ目的や重要性の低いものの除外はどうするか、など技術的な点はありますが、こうでもしないと把握することは実質困難と思われます。
二つめの例は、2008年8月25日の日経記事が参考になります。
「デリバティブ活用し株式実質保有: 隠れ大株主 米で問題化 米鉄道大手、英TCIと法廷闘争」
と いう記事です。これはJパワー株で有名になったファンドのTCIが米国の鉄道大手CSXの株を金融機関との相対取引によるスワップ(トータル・リターン・ スワップ=TRS)を通じて、開示対象の5%以上を実質的の保有していたというものです。本来5%以上ならその事実を適時開示すべきなのに開示が遅れたと してTCIがCSXから訴えられたのです。この取引ではTCIは金融機関とTRSを結んで配当とキャピタルゲインを得る代りに手数料の支払とキャピタルロ スのリスクを受け入れる、ということになります。
記事によると一審ではTCIが金融機関に持分を5%未満とするよう指示していたなどの故意が認 定されてTCI敗訴になったようです(二審以降の結果はまだ不明)。これもデリバティブを使った一種の「大量保有報告逃れ」とみなされた訳です。だからと いってTRSだけを規制すればいいのかといえばそれは無意味です。TCIは「実質株式保有の経済効果とリスクをスワップとして構成した」というだけですか ら、金融機関を間にもう一つ入れたり共同投資するファンドを分散したりすれば同じことはいくらでも可能です(なんか、仕手戦における株の買い集めそのもの な感じですが)。
カネ集めや投資の方法は何も株や債券だけではありません。私募の匿名組合と借入を使って少数の資金のある個人や適格機関投資家 だけを相手に行うことでも可能です。開示対象でない子会社を経由して種類株を発行させたり、株主なみの財務制限条項・特約を付した金銭消費貸借契約を結ぶ ことでも株主価値をいかようにでもできるキャッシュフローを作り出せるでしょう。金融審ではこういった実質面も含めてどう議論されていくのか興味深いとこ ろです(実行可能性とスピード、企業の実務対応を考えるとあまり手を広げることはできないのでしょうが)。