謎の金融日誌 -8ページ目

ボーダフォン買収は高かったか?:同業他社比較

 前回に引き続きソフトバンクによるボーダフォン買収についてです。
 本件の買収が高いのか安いのかという点を同業他社(NTTドコモ、 KDDI)との比較で簡単にみておきましょう。平成18年3月のボーダフォンの連結EBITDAは既に述べたように2,900億円であり、買収総額1兆 9,182億円のEBITDA倍率は6.6倍でした。同時期のNTTドコモの平成18年3月のEBITDAは1兆5,697億円であり、企業価値8兆 5,309億円(株式時価総額7兆7,385億円と有利子負債残高7,924億円の合計)を基準としたEBITDA倍率は5.4倍となります。平成17年 3月ベースでみた場合は同6.1倍です。またKDDIについても同様に計算すると平成18年3月時点で3.5倍、平成17年3月時点で3.2倍となってい ます。KDDIとの比較では高い印象もありますが、NTTドコモとの比較ではそれほど高いわけではありません。また買収株価@31.3万円に上述のとおり プレミアムが30%程度付いていると考えると、これを除いた@24万円程度で試算するとEBITDA倍率は4.6倍程度に留まり、妥当な範囲であったとい うことができます。
ただし、ボーダフォンの営業利益、営業キャッシュフローの絶対水準が当時両社との比較で見劣りしていたのも事実で、いずれにし ても契約者数とARPU(=Average Revenue Per User=ユーザー1人当り平均収入)の引き上げによるキャッシュフローの増加が至上命題ではあったことに変わりはありません。

(同業他社比較)
謎の金融日誌-同業他社比較



ボーダフォンLBOの収支

さて、今回はLBO案件としての収支をみてみます(ややこしくなるのを避けるため、リファイナンス前の状況で考えます)。ボーダフォンの平成18年3月末 の連結EBITDAは2,923億円です(うち営業利益763億円、減価償却2,160億円)。LBO後は既存負債1,631億円を返済し純有利子負債は 1兆3,819億円です。金利は劣後ローンまで含めて加重平均で約3%ですから、年間の利払額は約417億円となります。EBITDAに対するインタレス ト・カバレッジ・レシオ(ICR)は約7倍ですから余裕があるといえるでしょう(ただしこの年の営業利益763億円をベースとしてみるならば1.8倍です からちょっと心もとないですが)。売り手の買収PERは34.4倍(買収総額1兆7,014億円÷純利益494億円)となっており、これは買収前後で EPSが一定となるブレイクイーブンPER(57.4倍)を大幅に下回っています。したがって短期的にはEPSの上昇が見込めますね。買収後レバレッジが 上昇しているにもかかわらずPERを一定と堅めに見積もっても、エクイティのPERによる評価額はLBO後の純利益201億円億円×34.4=6,899 億円となります(法人税率=42%として)。したがってエクイティ出資者(BBモバイル優先株と普通株)の利得は6,898億円-5,722億 円=1,177億円となります。といってもリファイナンスが予定されていますし、エクイティの一部はソフトバンク自身なので普通のLBOファンドのように すぐEXITして利益を確定できるわけではありません。

(LBO前後のPL、ファイナンス、投資収支)

謎の金融日誌-LBO収支



























※ ブレイクイーブンPERは買収前後でEPSの変動が±0となるレベルのPERをいいます。全額借入調達の場合はこれは税引後借入利子率の逆数なので、本件では1÷(3%×(1‐0.42))=57.4となります。

な お買収に伴うのれんが1兆1,238億円計上されており、20年均等償却で年間560億円の費用となります。この負担を含むベースではLBO後の純損益は 赤字です。この原因は平成18年3月の営業利益が700億円台と少なく、償却と利払いに加えてのれん償却というコストを賄えないことにあるといえます。こ の点をカバーするには連結EBITDAで3,500億円~4,000億円は確保したいところです。そこで平成19年3月の連結EBITDAをみると 3,300億円、平成20年3月は同3,500億円と成長してきています。それではLBO直後の数字では全然ダメだったのかというと、一概にそういうこと でもありません。買収で生じた連結上ののれん(連結調整勘定)の償却費用はキャッシュアウトするわけではないし、税務上もともと損金になりません。した がって買収後PER計算で「のれん償却後」を考慮する必要はないからです。ただしグループ全体では償却費をカバーしていても事業単独でカバーできない場合 にはそもそも「そののれんの価値って何?」(減損の可能性も…)という考え方もあります(減損してもこれがまた損金にならないので会計利益が格好悪くなり ます。まあ、減損の兆候チェックとか減損テストはより大きな事業単位で相当慎重に行われますが)。

さてEBITDAの成長がカギというこ とで先行きの見通しをみると(10月29日発表資料)、ソフトバンクグループ全体で営業利益が平成21年3月に3,400億円、平成22年3月に 4,200億円と予想されています。またフリーキャッシュフロー(ソフトバンクの定義では営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)は同じ時期にそれ ぞれ4,200億円、5,000億円という計画になっています。上記のプレゼンテーション資料をみると、携帯電話事業の営業利益と営業キャッシュフローは グループ全体のほぼ5割を占めています。また設備投資は全体の8割程度が携帯電話事業関連です。この点を考慮すると携帯電話事業の営業利益は平成21年3 月で1,700億円(EBITDAで3,500億円)、平成22年3月で2,100億円(同3,900億円)となります。このEBITDA見通し 3,900億円を使うならば、エクイティの利得は約2兆円、のれん償却負担ベースでも9,400億円以上と試算することができます。
ただし上記の フリーキャッシュフローベースでは平成21年3月はまだマイナス140億円、平成22年3月でもプラス500億円にとどまります。グループ全体に占める営 業キャッシュフローに対して設備投資が重いのがその理由と考えられます。ただしソフトバンクグループ全体の営業キャッシュフローは設備投資を賄うだけの余 裕はあります。

ソフトバンク⇒ボーダフォン買収の件:概要

ソフトバンクがボーダフォンを買収したのは2006年4月のことであり、それだけをみれば「過去の話」ですから今さら取り上げてどうするんだということか もしれません。しかし携帯電話事業はソフトバンクの売上高の半分以上を占める最大の部門ですから(2008年上半期の売上高合計13,289億円に対して 携帯電話事業の売上高は7,701億円)、その成否は債権者にとっても株主にとっても当時も今も変わりありません。

まず平成18年4月27日にソフトバンクが発表した買収完了のお知らせと「2007年3月期第一四半期の概況」のp26の注記に記載されている株式取得価格に関する情報等から買収の概要をまとめてみます。
  ソフトバンクは子会社のBBモバイルを通じTOBによりボーダフォン株式を発行済株式の99.54%まで現金で取得します。売り手は親会社の Vodafone PLC(本社:ロンドン)です。ボーダフォンは平成17年8月1日に東証を上場廃止になっているのですが、当時のTOBルールでは「有価証券報告書提出会 社で、買付け後の持株比率が1/3を超える場合はTOBをしなければならない」ことになっていました。TOBと並行してVodafoneの子会社でボーダ フォンの少数株主であるメトロフォン㈱の全株式(持株比率1.9%)も取得します。それでも残る少数株主の持分は産業活力再生特別措置法に基づく金銭交付 で強制的に取得して完全子会社化します。買い付け価格は31.3万円で、これは07年7月末の同社上場廃止時近傍の株価に30%程度プレミアムがついてい ることになります。買収総額は約1.7兆円です。
 上記を賄うキャピタルストラクチャーですが、総調達額は1兆9,182億円で、うち17金融機 関からの借入1兆1,660億円(運転資金用のファシリティ1,000億円は別途)とボーダフォンPLCからの劣後借入1,000億円およびヤフーが借入 調達した800億円を除いた5,722億円がエクイティです。同時に高コストの既存社債(利率9,375%)571億円のリーガルディフィーザンスによる 削減と、そのための借換え600億円を実施します。本件はボーダフォンの営業キャッシュフローを引当てとし、同社資産や株式などを担保とするノンリコース のブリッジローンを調達しているので、LBOの一種といえるでしょう(ただし新規に買収SPCを立てたりしないので純粋なLBOとは少し異なります。リ ファイナンスを想定してのことと考えられます)。

(ボーダフォン買収のための資金調達と資金使途)
謎の金融日誌-ソフトバンク資金調達


















上 記の資金使途ですが、TOBによる株式取得に1兆6,612億円、メトロフォン株式取得額322億円、ボーダフォン短期借入の肩代わり分1,630億円な どです。調達額からこれらを控除すると618億円余りますが全体からみれば小さいので(調達総額の3.2%)、端株の代金・買収取引や諸払いのコストとみ ておきます。
 なお参考までにソフトバンクとボーダフォンの連結開始時の貸借対照表を考えてみました。ソフトバンク側は平成18年3月末連結貸借対照表ベース、ボーダフォン側は第一四半期報告書注記の数値をベースにしています。簡単な仕訳は以下のとおりです。

(買収連結時の仕訳)
謎の金融日誌-ソフトバンク合併BS

















(買収時ソフトバンク連結貸借対照表)
謎の金融日誌-ソフトバンク連結開始BS















連 結総資産3兆9,194億円のうち3割近い1兆1,238億円が「のれん」という形です。先行きの営業キャッシュフローの成長をソフトバンクがいかに高く 評価しているか(=いかに実現に自信を持っているか)という意思表示ですね。のれんは20年間で均等償却ですから、毎期561.9億円の償却負担(=1兆 1,238億円÷20)が生じることになります。

ソフトバンクCDO(その後)

11月は仕事が猛烈にばたばたしてBlogの更新が滞りました。徐々に再開です。

ソフトバンクのCDOについてはマスコミや様々な Blog等でもコメントされました。その後私自身も孫社長の決算説明会の動画やアナリスト向け説明会の動画を拝見しましたので、もう少し検討を深めてみま した。一言でいえばCDOという一般投資家には馴染みの薄い仕組みを使っていたことと、750億円の損失の可能性についての唐突な発表だったこともあって 注目を集めた感がありますが、どのような調達・運用・ヘッジ手法を用いるのかは企業金融全体の枠組みの中で捉えるべきです。そうした立場でみた場合、本件 CDOは仕組上はさして珍しくないシンセティックCDOであり取り立てて大騒ぎするようなものではなかったようです。「750億円の損失の可能性」という 点自体はニュースではありますが。。なお本件に関してムーディーズが格付に変更無い旨を発表しています(「ムーディーズ、ソフトバンクモバイルの実質的ディフィーザンス対象社債の格付Baa1を確認」
 説明会の様子をみると孫社長は

「ボーダフォン買収時にボーダフォンが発行していた社債を買戻す必要があったが、公募であるためそれが難しく、実質的に償還と同様の効果を持つ方法を採る必要があった」

と仰っており、貸借対照表上の効果というよりも経済実態としての債務負担軽減が主眼としています。またアナリスト向け説明会でソフトバンクの後藤財務部長は

「組成当時、担保債券の選択肢には日本国債もあったが国債の格付自身がAA-となる状況の中で、当社としてはAAフラットのものでやりたかった」

と 説明されています。強いていえば国債にしておけばこのような事態はなかったのですが、高格付とメザニンの利回りの双方に魅力があったということです。これ は上述のとおり会社全体のリスク・リターンの兼ね合いの中で決めるべき話であり、このスキームだけを取り出して「複雑だ」「ハイリスクだ」と論評しても意 味がありません。

それと、前回の記事で本件の目的がどの社債を対象にディフィーザンスしたものか判然としないと書きましたが、2006年 11月のリファイナンス(WBSによる調達)時の条件とのことです。WBS実施の条件として総負債比率に上限を課していること、ソフトバンクモバイル(旧 ボーダフォン、2006年10月商号変更)に対するスキーム外の第三者を債権者から実質的に排除したいこと、というのが趣旨と思われます。

  さてCDSの件も含め市場の評価は企業金融全体の枠組みの中で考える必要があります。この点、債権者の立場からいえば元利返済の確実性ということになりま すし、株主の立場からいえば株主価値が増大しているのかどうかになります。現在の巨額の負債の起点は旧ボーダフォンの買収にありますから、詰まるところこ の買収が成功だったのかどうかに帰着します。以下この点について少しみてみましょう(つづく)。

REIT:エリア特性をみる

 物件タイプに続いて物件の立地エリアも同様にみてみます(表参照)。

(銘柄別の立地エリアのシェア)

謎の金融日誌-REIT地域












 主要5区は物件グレードは高いものの、レジであればファミリーの実需は賃料から考えてやや周辺区の方が底堅いでしょう。一方でオフィスは当然ですが5区内の立地が優先ですから引き続き5区内のシェアが高い方が無難と思われます。こうした点を背景に分類してみると、

1.東京主要5区比率の高いもの
 ・DAオフィス(92.78%)、プレミア(72.33%)、ビ・ライフ(65.87%)、ケネディクス(65.44%)、
  FCレジ(65.16%)

2.主要5区+その他23区の比率の高いもの
 ・日本レジ(78.74%(うち5区54.71%))、クレッシェンド(77.4%(同48.93%))、エルシーピー
  (69.38%(同46.49%))

3.主要5区以外の東京、関東近県の比率の高いもの
 ・スターツ(74.7%(うち東京47.8%))、東京グロース(68.89%(同56.73%))、ラサール(47.07%
  (同40.13%))、プロスペクト(44.35%(同35.25%))

4.地方中心の銘柄(投資対象外)
 ・ジャパン・ホテル・アンド・リゾート(東京以外100%)、 MIDリート(中部82.71%)、日本ホテル
  ファンド(東京以外46.04%)

となります。

以 上、数回に分けて最近の「高利回りの謎」を探ってきました。当初考察したように(というよりも当たり前の話として)、REITは優良物件を適正価格で取得 して長期にわたって安定配当を得る仕組みです。したがってそんなに投資口価格が乱高下すること自体、おかしな話です。とすると、雑駁にいえば今の価格は

・スポンサーリスク
・資金繰りリスク

の2つを過大評価してオーバーシュートしているだけのようにみえますね。
確かに瑕疵のリスクや行政処分、または破綻リスクもあるかもしれません。しかし、よほどの不法行為でファンドに破壊的な毀損が生じるでもない限り、REITの保有物件のリアルな資産価値が半値になるとか1/10になるとかいったことはないと思います。

 しかし、世の中何が起こるかわからないのも事実です(リーマンやAIGがあんなことになる時代です)。株価が異常な水準に留まっている場合、後からみれば「あれはやはり何かのシグナルだった」なんてこともよくある話です。

そうしたリスクも頭の片隅にとどめつつ、物件のカテゴリとエリアをもとに銘柄を絞りこんだ上で、地道に運用報告書を検討すれば、投資妙味がある対象かもしれません。