きっかけは,「三十路女はロマンチックな夢を見るか?」という映画を視聴したことでした。
この作品で武田梨奈さんという御方を初めて知ったのですが,この御方は,瓦複数枚を肘で一時に割ってしまう空手家でもあるらしいです。
そこで,武田梨奈さんが出演している映画を調べて廻ったのですが,その際に目に付いた映画の一つが,この「世界でいちばん長い写真」という作品でした。この映画における武田さんの役名は竹中温子さんで,内藤宏伸さん(演:高杉真宙さん)の親戚の姉御に当たります。
2018年6月に公開された映画「世界でいちばん長い写真」。
文字数は若干多めながら,作品の内容は想像し難いシンプルなタイトルが付けられております。
この作品の冒頭で学校とその周辺の木々の緑が映りますが,この緑の色味を見た瞬間に,この作品の強度を確信したがです。
ジャケット写真からわかるのは,「向日葵」の花に囲まれた妙齢の男性が右手の親指でスイッチを押そうとしているところでおます。この数年間,毎日「向日葵」の花にたいへんお世話になっておる身としましては,このジャケット写真にただならぬものを感じたとしても致し方ないことと,今になって思う次第です。
この映画は,結婚式前の静かなシーンから始まりますが,終盤部では,打って変わって宴酣となった同じ結婚式のシーンが再度登場します。
このシーンで「腕のいい」キャメラマンを務めてはる女性こそが,写真部部長だった三好奈々恵さん(演:松本穂香さん)に他なりませぬ。そこから時空を超えて,再び学校に戻りますが,この辺りのシーンでも三好さんは相変わらず尖っています。
写真部副部長の内藤さんを「おっそ!」&「遅い!」といぢります。
エンディングでは,科学部部長(たぶん)の小林正造さん(演:前原瑞樹さん)が医学部に受かった途端,急接近したとされる陸上部の安藤エリカさん(演:黒崎レイナさん)のことに関して,三好部長は,内藤さんに対して,「安藤さんのいちばんにはなれなかったね」といぢりながら慰めると同時に,内藤さんの背中を左手で叩いて,紅い造花(一等賞)をくっつけてその場を去ります。
冒頭の結婚式前のシーンで,内藤さんは,式場のスタッフの方から,スーツの背中側の襟にクリーニングのタグが付いたままであることを指摘されていますが,このエンディングの造花贈与へと時空を超えてつながっているような気がするがです。
それにしても,三好さんが内藤さんに話しかける際の,目力(めぢから)の強度はただもの(こと)ではありませぬ。
映画に限った話ではありゃせんが,強度の高い作品に出逢うと,しばらくは他の作品を享受する気がなくなるものでございます。何と申しましょうか,見終わったあとの余韻に起因する多種多様体の模像の如きものが脳内をふわふわと漂っておるような状態が,この作品を見た昨年末からずぅっと続いていることは,否定出来兼ねます。
序盤部において,お題が「ポートレイト」の写真部の品評会において,三好部長の作品に紅い造花が,教師によって付与されます。
この作品には,三好部長の顔の代わりに鏡が映されていますが,その鏡が終盤部において大活躍することになります。
終盤部の鏡のシーンを見ているときに,何かを強烈に思い出しそうになったのですが,なかなか思い出せませんでした。
それは,ディエゴ・ベラスケス(17世紀・スペインの画家)という御方が描いた「Las Meninas(女官たち)」という絵画であったことを,年明けになって,唐突に思い出した次第です。
この絵画の中には,鏡に映された(と思われる)夫妻が含まれていますが,同時に,その夫妻を描いている(と思われる)画家も含まれています。これは一体どぎゃんことだっしゃろか?と思います。
この絵画の大きさは,3.18m×2.76mという巨大なものなので,人物などがほぼ実物大で描かれているとするならば,もし実際にこの絵の前に立って見たとすると,鑑賞者はとっても不可思議でけったいな感覚を抱くのではないかなどと思うのです。
本来ならば,見るものと見られるものの関係は二元論的でありますが,この絵画では,見るものが,同時に見られているような感覚を抱き兼ねぬような気がするのです。
鏡の中の夫妻も含めると,少なくとも8名の人物が,鑑賞者のほうを見ておるのではないかと推察されます。しかも,画家が描こうとしているキャンバスには,もしかすると実際には夫妻ではなく,鑑賞者自身が投影されているのではないかなどと,今年に入って勝手ながら思ったりすることもありがちです。
この見るもの(主体)と見られるもの(客体)が決定不可能になる状態は,不安定でありながら強度の高い快楽すら贈与する可能性があるのではないか,などと年が明けたというのに,つらつら考えている次第です。
このラス・メニーナス「Las Meninas(女官たち)」という絵画は,ピカソやダリなど,いろいろな画家たちにアレンジされて描かれているようですが,是非是非,蛭子能収さんにアレンジしてお描きいただきたいところです。
ちなみに,映画の中盤部でさらにもう一つの別の品評会が開催されますが,内藤さんが学校に車で送っていただく際に,運転手の竹中さんが「ゆで卵,1個持って来て!」と最後に注文を付けているのが,また何とも素晴らしかです。
結局,その品評会には間に合わなかったのですが,その後に,部室でリプリントされた向日葵の360°写真を見ているときに,たまたま入って来た安藤さんにその写真を見つけられてしまい,いろいろと問い詰められることになります。その二人の楽しげな様子を,部室の外で窺う一人の女性がいますが,その御方こそが,写真部部長の三好さんだったのです。
このときの三好さん,桃ジュースとミルク珈琲飲料を,あたかもやけ酒をあおるが如く,立て続けに飲み干し,その直後に,激しく息を吸ったり吐いたり,を繰り返していらっしゃいます。