江戸和竿の手入れ:四代目竿治作の鮒竿の火入れを竿貴君にお願いするの巻 | 惣治の日々

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「悠々として急げ」とは彼の巨匠 親父の呟き
開高健に憧れ・・江戸和竿に魅せられ
回顧録を兼ねて綴る
4代目竿治 参乃治会 惣治 

和竿・・・、竹を原材料として、幾種もの竹を組み合わせ、切り組み、炭火などで炙り、竹の強度を増すとともに、竹の曲がりを矯正し、絹糸で継の部分を強化し、漆で仕上げる伝統工芸品。実用品でありながら、職人技が光る釣り竿です。

 

年に数回、所有している和竿の手入れ、通常は、カビが生えていないかとかのチェックと、乾燥しすぎて割れが発生しないように漆に油分を補給するために、椿油で拭き上げます。

 

和竿の材料は、竹です。自然界にある竹はまっすぐに見えて、殆どの竹は曲がっています。これを、和竿を作る竿師は、粗矯め、中矯め、仕上げ矯めと、竹を火であぶり、真っすぐにしています。

ただ、仕上げ矯めでビシッと矯められた竿でも、釣りに長く使っていると、魚の引きによる曲がり癖がついたり、本来持っている竹の繊維の癖が戻ろうとして、日光の熱や常温でも年月を経て曲がりが出てしまうものがあります。完全に元に戻るほど酷くなることは殆どありませんが、シャッキとした竿が、僅かに曲がってしまうことがあります。自然の竹を使用している以上避けてはとおれないものです。

 

10年前に四代目竿治親方(本名 糸賀一隆(平成21年5月21日逝去)) に誂えて頂いた鮒竿が、穂持ち、穂持下付近に少し曲がりが出てきているようなので、今日、竿貴君の工房(府中市)を訪ね、矯め直しのための火入れをお願いしました。

竿をクルリと回してみて、曲がっていると当然回転させるときに力のかかり具合が一様でなくなっているので分かります。

 

竿貴君こと鴨下君は、参乃治会の会員で、故四代目竿治親方に師事し、参乃治会の中で、ただ一人、専業和竿師になった人です。

 

写真には2本収められていますが、右が完成して出来上がった鮒竿。今回の矯め直しの竿。

左は基本の切り組みが終わって、仮継で留め置かれたもの。
余談になりますが、なぜ、仮継で留め置かれたものがあるかというと、竿師は注文を受けると、2本、場合によっては複数本の竿を作成し始めて、仮継の段階で注文者に最もしっくりくる一本を選んでもらい、それを仕上げて、注文者に納めるというのが古来のやり方です。
私の場合も仮継竿を2本渡され、右が良いか左が良いかと親方に選ばせて頂いて、右を選び、完成まで仕上げられた竿で、左は仮継のままで終わった兄弟竿というわけです。


仮継のままで終わっている竿は、決して出来が悪いわけではなく、注文の依頼者の「好み」で選んだだけなので、通常は、これも仕上げられて、お店物として市場に出回るはずのものでした。ただ、仕上げられる前に親方が亡くなられ、参乃治会の皆で工房のお片付けを手伝っていた折に、見つかり、私が引き取らせて頂いたものです。なので、この2本は基本仕様は同じ総布袋竹、尺八寸元(切り)10本継ぎの、全長16尺の鮒竿です。


仕上げた方には、替え手元を2本作って頂き(親方はサービスですよ(^_-)-☆)って言ってましたが。)本来の10本継として使えるほか、場所によっては9本継、8本継として全長を短くして使うこともできる竿です。
竿の多くは、穂先、穂持ち、穂持下でほとんど竿の調子は決まるので手元の3本位は全体の竿の調子を狂わせることはないです。むしろ、基本的には8本継ぎで使用して、長さが足らないねとなった時に9本継、10本継とした方が使いやすい竿です。流石に総布袋の10本継は長時間使用するには、持ったとき重いなと感じますね。

前置きは、これくらいにして。

 

竿を竿貴君にお渡しして、チェックしてもらいます。

 

全体的に矯め直しますねということで、「宜しくお願いします・・・・(^^♪」

 

竿貴君は、備長炭を必ず使用するそうです。矯め火鉢、七輪も何回も交換しているそうです。

 

 

 

 

 

 

ばっちり矯め直されて、竿はシャキーーーン。本来の姿に戻りました。

竿治親方には申し訳ないですが、親方から頂いた時以上にシャキッとしているように感じます。

10本を矯め直すのに1時間もかかりませんでした。流石としか言いようがありません。

 

故竿治親方も、教え子の竿貴君に火入れ、曲がりを直してもらえて喜んでいるのではないでしょうか。

 

 

 

近況とかの話をしていると、かなりの受注を受けているのですが、満足いく材料がそろわなくてかなり待って頂いてますとのこと。やはり、信用第一で、将来を考えれば、出来上がった竿が「竿貴の竿はこの程度か」というのを一番避けたいとのことです。大手の釣具店には、それなりの竿が並ぶ中、徹底的に品質、特に原竹に拘っているようです。

 

特に布袋竹は丸みと肉厚など条件が厳しく受注しにくいのだとか。それで、近々仕上がる複数本の竿を納めて、その売上金で今季の冬に原竹探しの旅に出るそうです。原竹の採取は、竹が水分を根から取るのを休止している冬場が一番なので。

 

竿貴君・・・・

「竿の製作技術は出来て当たり前、後はどれだけ良い原竹を使っているか」だそうです。

「極端な話として、竿の値段は原竹の値段と思って頂いてもいい位」だそうです。

幾ら技術を注ぎ込んでもダメな原竹は、曲がりを矯正するのに余計な時間と労力がかかる上に、矯めが戻ってしまうリスクもあり、良い竿と自分自身が納得し、お客様に評価して頂くには、良い原竹がどうしても必要なのだそうです。

良い材料はそもそも竹の繊維が素直なので、火入れも、本来の強度のための火入れで、曲がりを無理に矯正しなくてもよいので、使い続けていても曲がりにくい。釣り癖がついても、竹の繊維の強さで元のシャンとした竿に戻ってくれる。

 

流石にプロです。

 

行きつくところまで行っちゃってますね。和竿の製作技術、漆塗りの技術は極め、行きつくところは、原竹・・・・・。

 

今まで竿貴君の製作した竿を見ているだけに、その言葉に重みがります。納得させられます。

 

 

製作中の竿の話になったら、最近はタナゴ竿はブームを過ぎた感があり、もっぱら鯊竿が多く、たまにヘチ竿の注文が入るそうです。

 

鯊竿で製作中の物を見せて頂いたのですが、糸巻は象牙です。

市販の象牙材を更に削り出し、磨き、ほんとに品良く出来ています。

 

また、それ以上のご要望があれば、当然原竹そのものが最高級の物にしか使いませんがと前置きして、

見本としてこれを取り置きしてますと見せてくれたのが・・・・

 

古典竿で鼈甲の糸巻を見たことありますが、今でも製作可能という・・・。
勿論、鼈甲屋さんに製作を注文するそうですが。鯊竿の糸巻部分です。

 

今、どの辺に竿を卸しているのと聞いたところ、関釣具さんと、あと一軒紹介されたお店に卸して販売してもらっているそうです。

ただ、収めても直ぐに売り切れてしまい、お店からも要望が来ているのですがなかなか、満足するものが納められないですし、お待ちいただいているお客様に申し訳ないですと。

 

いくら待っても、良い、素晴らしい竿を手にしたとき、「待った甲斐があった。」と確信できます。

私も、去年一本注文して、それが未だ手付かずの状態にもかかわらず・・・・

同じ仕様で良いので、二本同時に作って下さいと、追加注文してしまいました。

気長に待ちます。

 

忙しい合間に訪問して、無理やり時間を作ってもらったので、早々にお暇することにしました。

頑張れ、竿貴君。

 

竿貴ワールドはこちら。

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竿の誂え、注文について問い合わせされたい方は、こちらへ。

事前の電話連絡をお願いいたしますとのことでした。


竿貴君の工房 〒183-0052
東京都府中市新町1-8-26-201
携帯電話 090-810-26817
  竿貴  
      鴨 下 貴 仁

 

(工房の連絡先等については本人にご了承いただいています。)