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毎週火曜日に連載中の『大人がバレエを習うということ』シリーズ
10回目となる今回のテーマは、
『バレエは普通の習い事じゃないⅠ
~バレエの世界は師弟関係~』です。
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クラシックバレエは、最近では、フィットネスやカルチャースクールにも沢山クラスがありますし、雑誌の『習い事特集』などの記事でも取り上げられることも多く、バレエは趣味の習い事、というイメージをお持ちの方も多いと思います。
けれども、実はバレエというものは本来、普通の『習い事』ではないのです。
バレエにおいて、先生と生徒は、日本古来の芸事、お茶やお花、落語などと同じように、『師弟関係』にあります。
バレエを習うということは、本来、『習い事をする』のではなく、『バレエの先生に“弟子入り”することであり、“その先生のもとで10年修行しますよ”』ということを意味します。
これは、プロの世界やバレエ団付属のバレエ学校などはもちろんそうですが、地方の街のバレエ教室でも、表面には出しませんが、こういった考えでバレエを教えている教室がほとんどです。
また、フィットネスやカルチャーで趣味としてのバレエを教えている先生方も、みんな師弟制度で育っていますので、基本的に、全てのバレエ教師はこの考え方をベースに持っています。
ただ、現在はバレエを習いに来る人の目的も多様化していますから、それぞれの教室や教師も、バレエを教える目的や生徒側からのニーズにあわせて、それらをアレンジしたり、オブラートに包んだりしています。
また、現代ではこのような密な人間関係が苦手だという人も多いです。ですから、これをどのくらい表に出すのかは、それぞれの教師の考え方やポリシーによります。
ただ、表面に出す程度の違いはあっても、バレエが上手になるためには、この師弟制度はとても大切ですし、バレエの世界の常識であり、伝統なのです。
現在はあまりなくなりましたが、昔はバレエも自分の先生、つまり師匠の自宅に住み込んで、身の回りの世話をすることが当たり前でした。
ところが、現在ではバレエを習う人は大人も子供も、こういったことは全く知らずに通いはじめることがほとんどです。
では、なぜバレエ教室はそういったことを前面に出さないのか。
1つ目に、集まってくる人が少なくなること。
現代では、最初からバレリーナを目指して弟子入りしに来る人はほとんどいませんが、どんな人がどんな才能があるかわかりませんから、気軽に来てくれた人がバレエで人生が変わることもあります。間口は広くとっておいてあげたい。
2つ目に、先生が生徒に上手になることよりも、楽しむことなどを教えてあげたいと思っている場合です。プロを育てることが目的のバレエ学校やバレエ教室はほとんどの場合、師弟制度がありますが、教室や先生自体が楽しむことを目的にバレエを教えている場合。
これは、自分の先生があまりにも厳しかった人が教師になった場合、あえてそういったポリシーでレッスンされていることがあります。
3つ目に、バレエを習いはじめたばかりの人は、いきなり弟子にはならないからです。
どんな世界でもそうですが、新人の間は、お客様です。
注意もそんなにされません。
この師弟制度は、現在ではほとんどが子供の生徒と教師の間で行なわれていることなので、今回は子供のケースを想定してお話しますが、
新人の間は、先生のお手本をただただなぞりながら、先輩たちの様子を見ながらレッスンして、色々なことを吸収していきます。
先生はバレエを教えながら、この子は、休まずにレッスンに通えるかな、10年続けられそうかな、教えたことをきちんと吸収出来るかな、向上心はあるかな、バレエが好きかな、責任感はあるかな、社会性はあるかな、バレエの世界の礼儀やマナーが守れるかな、向上心はあるかな、バレエを大切にしてくれるかな、などという部分を見ながらレッスンしていきます。
バレエの師弟関係は信頼関係から成り立っていますから、お互いが信頼出来る人柄であることや、相性なども大切です。。
やがて、最初はお休みがちだった人が、何かをきっかけに、レッスンを休まなくなったり、
バレエがあまり好きではなかった人が、バレエの楽しさに触れて、夢中になってレッスンするようになったり、
責任感があまり強くなかった人が、1列目で踊ったり、舞台経験などを重ねるうちに、責任感が育ってきたり、
礼儀やマナーをあまりきちんと教えられてこなかった人が、バレエの世界にいるうちに、とても丁寧で感じ良く、約束を守れる人になったり。
そうやって成長していき、やがて先生に「よし、この子にはバレエを本気で教えても大丈夫!しっかり吸収出来る!」と認めてもらえたら、そこからその生徒は先生の弟子となり、本気で教えてもらったり、叱ってもらえたりして、成長し、バレエも上達出来るのです。
また、師匠と弟子になるためには、師匠の方も弟子に師匠と認めてもらう必要があります。「よし、この先生にはついていっても大丈夫!私をきちんと育ててくれる!」お互いがお互いにそう思えた時、そこにはしっかりとした信頼関係が生まれ、師匠は弟子に全力で自分の持つ知識や経験を与えることが出来、弟子が成長するスピードはさらに一段と加速するのです。
逆に、バレエを習いはじめて何年も経っているのに、レッスンを休みがちだったり、レッスン回数が週1回だったり(上手になるためには少なすぎます)、教室のルールが守れなかったり、礼儀やマナーが守れなかったり、約束が守れなかったり、本音がなかなか言えなくて、信頼関係が築けない場合は、いつまでたっても『弟子』になることは出来ません。
大人の場合は、そもそも、バレエの世界が師弟関係だということをほとんどの人が知りませんから、先生のことを師匠だと思っていません。
自分のことを『師匠』だと思っていない人を『弟子』にすることは出来ませんから、大人がバレエの先生の『弟子』になれることはほとんどなく、また教師も普通は大人を『弟子』にしようとは思っていません。
大人からバレエを習った人が上手になれない最大の理由はここにあります。
バレエが上手になるためには、その人の良いところも悪いところも、きちんと注意してくれる先生が必要です。
生徒は先生と師弟関係となり、師匠にきちんと褒めたり叱ったりしてもらって、客観的な目で磨いてもらい、鍛えてもらうことが大切なのです。
今は、叱られないで育った人がたくさんいます。
とても損をしていると思います。
叱られないと、プロフェッショナルになれません。
いずれ、どこかに甘えが出てしまうのです。
叱られる、と聞いただけで、「もう大人だし、叱られるとか、ムリムリ!」という人も多いと思いますが、その人はきっと、これまでの人生で自分のためにきちんと叱ってもらったことがないのだと思います。
叱られるのと、怒られるのは違います。
怒るのは、自分が腹を立てているからすることです。
叱るのは、相手のためを思ってすることです。
叱るのは、これは伝えておかないと、この人は損するぞ、と思った時にするのです。
叱るのには、愛情がいります。
エネルギーも使うので、叱るとクタクタになります。
それでも、その人が負のスパイラルから抜け出すために必要だと思った時に、師匠は弟子を叱ります。
この話は長くなるので、またいつか機会があれば書きたいと思いますが、
「叱られるなんて冗談じゃないわ、私は気軽に楽しみたいのよ!」と思っている人には、バレエはフィットネスやカルチャースクールを選んで通うことをお薦めしますし、
きちんと上手になりたい人は、
「この先生ならついていきたい」
「この先生にいつか師匠になってもらえたら良いな」と思える先生の教室に通うことをお薦めします。
「バレエは上手になりたいけれど、先生とそういう暑苦しい関係はイヤ。」だという方。
残念ながら、それは無理な相談です。
「学校の成績は上げたいけど、勉強するのはイヤ。」
というのと同じくらい、無理な話です。
成績を上げたいなら、やはり勉強するしかない。
勉強するのがイヤなら、志望校に入るのはあきらめるしかないのです。
このことを知らずに、バレエ教室に入会して、
「一体、なぜバレエの先生はみんなあんなに偉そうなの?何なの?なにさまなの?」と言っている人の話や、
今まで誰にも叱られたことのない大人が、先生にピシャリと叱られて、飛んで逃げて帰ったなどという話が後をたちません。
また、バレエが大好きで本当に上手になりたい人が、フィットネスやカルチャーにせっせと通って「なかなか上手にならないなぁ・・・」と悩んでいるという話もよく聞きます。
それもこれも、すべてバレエの世界が師弟制度がベースにあるからなのです。
ちなみに、サクラバレエでは、特別クラス(Sクラス・Aクラス)では、この師弟制度を採用しています。
ただ、師弟制度にはメリットがあれば、デメリットもあります。
一番のデメリットは、弟子が師匠に本音を話せなくなる、というところにあります。
でも、うちのスタジオのように、全員で何かをすることが多い教室の場合、本音で話せないのは時間がかかります。お互いに効率が悪いし、相手の気持ちも汲んであげにくい。
私はサクラバレエを出来るだけ本音で話せる場所にしたいので、普段はかなり対等かつフレンドリーに接していますが、特別クラスのレッスンの時はキッチリ師弟関係になるという、かなりオリジナルな師弟制度を採用しています。
また、一般のクラスでもイントロ(入門)クラスの時に、一通り、こういった話はするようにしてします。
バレエの世界の常識を知っているけれどやらないのと、全く知らないのでは、意味が全く違ってきますから。
次回はこの、バレエの世界の師弟について、もう少し詳しく説明したいと思います。
つづく
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