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毎週火曜日に連載中の『大人がバレエを習うということ』シリーズ
8回目となる今回のテーマは、
『なにくそ魂、持ってますか?
~くやしさがあなたを強くする~』です。
◇
なにくそ魂…。
自分で書いておいてなんですが、普段あまり耳にしない言葉ですよね。
解説すると、『なにくそ魂』とは、負けるもんか、とくらいついていく気持ち。
蹴り落とされても、振り落とされても、はじき飛ばされても、
歯を食いしばって、必死について行こうとする気持ちのこと。
何としてでもやってやるぞ、というあきらめない心のことです。
一昔前の少年漫画のスポ魂ものや、少女漫画のいわゆる名作といわれるもの(「エースをねらえ!」とか、「巨人の星」とかね。)などでも、よく描かれているように、いわゆる、体育会系などと言われる世界によく存在していますね。
いわゆる、アスリートと呼ばれる人達は、必ず持っているものですね。
バレエが上手になるためにも、この『なにくそ魂』が必要なのです。
いわゆる『趣味のバレエ』で、どんなに頑張っても大して上手にならない一番の理由は、この『なにくそ魂』が育たないから。
大人からバレエをはじめた人がなぜか上手にならない、一番の理由が、大人のバレエには競争がなく、この『なにくそ魂』が育ちにくい環境だから。
そして、それがあまりにも“当たり前”になってしまっていて、そのことにさえ気付けないから。
子供の時からバレエを習うと、必ず競争が出てきます。
そもそも、一緒にレッスンを受けている人達の年齢が近いです。
大人バレエのように、10才も20才も年が離れている人が一緒になってレッスンすることはまずありません。
その分、ライバルになりやすい。
また、子供にはコンクールも発表会もあります。コンクールも発表会も、はっきりと順位が決められる競争社会です。
バレエの世界では、ある一定以上の年齢や環境になると、ハッキリと優劣をつけられます。
それは、本当に実力であることもあるし、それぞれの先生の好みや教室の事情など、色々なことで決められる時もあります。また、将来性のあるなし、アピールの上手下手などもあります。
けれども、バレエ学校のオーディションにしろ留学にしろ、何にしろ、〇なのか×なのか。はっきりと結果が出ます。
ところが、大人のバレエの世界にはこれがない。
「は~い、みんなで頑張りましょう!」です。
発表会も、みんな同じくらいの振り付けで、同じような衣装で、仲良く踊る。
それは、楽しむにはとても良いことなのですが、向上心は育ちにくい。
どんなに先生が本気で教えても、習う本人が本気で頑張っても、目標や憧れや夢、そしてライバルや競争のないところで人は育ちにくい。
「うちの先生は大人にもしっかり教えてくれます!私も本気でバレエを習っています!」と言う人もいると思いますが、
今のあなたには、ライバルがいますか?
今のあなたには、いつか見返してやりたいと思う人がいますか?
今のあなたには、絶対に合格したい何かや、いつか絶対に踊ってやる!と思っている役がありますか?
もし、それがなければ、どんなに「私は本気です!」と言ったところで、
・・・きっと、あなたは本気になれていないし、
・・・あなたの先生も本気度100%ではないのだと思います。
そして、「私が今、上手になって見返したい相手は、私の先生です!」というあなた。
もしかしたら、あなたの先生は、とても良い先生なのかもしれません。
◇
(今に見ていろ、絶対に上手になってやる。)
1回のレッスン、一つの作品、一度の発表会で、そんな風に思いながらレッスン出来るかどうか。
あきらめない。くじけない。負けない。いじけない。くさらない。言い訳しない。
強い心。
バレエの本場の先生達はこれを育てることが上手です。
もう夢に出てくるくらいまで、追い込んでくれます。
ロシア語を叫びながら目が醒めた時には、(もう、かんべんして~!)と、思わず天を仰ぎましたが。
今思えば、ありがたい話です。
なんまんだぶ。
◇
サクラバレエも『ASクラス』はこれを育てるクラスです。
ただ、大人は、これを育てるのが一番むずかしい。
生きてきた年月だけ、プライドもある。
それに、普通は、大人をここまで追い込んでくれるクラスがないし、先生もいない。
本人も、目標と覚悟をしっかり持って、自分で自分を励まし続けられないとクラッシュする。
また、平和な環境の中では、目標を持ち続けることもむずかしい。
「あの人に追いつきたい!」とか、
「もっと上手になりたい!」という渇望が、バレエには必要です。
(もっとレッスンしたい!)
(もっと上手になりたい!)
(もっと先生に教えて欲しい!)
(もっと良い役が欲しい!)
もっと、もっと、もっと!!
これが、バレエが上手になるために必要なエンジンなのです。
だから、
「私は別に良い役をもらわなくて良いです~。」
「年だからムリですよ~。すみっこでちょこっと出して頂ければ。えへ♪」という人は、当たり前だけど、上手にならない。
まったくとは言いません。
だけど、やはり本気の人とは上達のスピードが全く違います。
のんびり、仲良く、平和に。
それが、悪いことだとは思わないけれど、本気で上手になるのは、難しい。
・・・どんなことでも良いのです。
(いつか絶対、ポワント(トゥシューズ)を履いてやる。)
(いつか絶対、あの役を踊ってやる。)
(いつか絶対、先生に認めさせてやる)
そんな風に思いながら、レッスンすることが大切なのです。
だから、バレエの先生は生徒をめったに褒めないのです。
うちのスタジオは褒めないメリットよりも、褒めるメリットのほうを大切にしているので、一般のクラスは褒めますが、それでも、ASクラスはあまり褒めないようにしていますし、そのために試験があるのです。
そして、競争があまりない、一般クラスでは、
『レベル別のレッスン』で、
『ポワント(トゥシューズ)試験』があり、
『私の目標』を全員が書いて発表し、
みんなでクリスマス会で全力で踊り、サポートするのです。
バレエは、ぬるま湯につかっていては上手にならないのです。
『くやしさ』が、いるのです。
だから、バレエの先生は生徒にわざと「くやしい思い」をさせたりします。
ただ、子供はお母さんが受け止めてくれますが、大人は自分で自分を受け止めるだけの精神的な成熟が必要なのですが、これがかなり難しい。
だから大人には、応援してくれる人や、気持ちを受け止めてくれる人達、一緒に励ましあって、一緒に頑張れる仲間がいるのです。
こう書くと、「バレエってそんなに大変なんだ・・・」と思うかもしれませんが、大変な分だけ、人を成長させてくれます。
人が成長したり、自信を身につけるためには、沢山の経験が必要です。
バレエは、くやしさをバネにした『強い心』を育てることも出来ますし、周囲の人たちと、『助け合う心』を育てることも出来る。
バレエは、テクニックだけではく、本気でやれば、その分、人間的にも成長させてくれます。
それはもちろん大人も子供もです。
くやしさや、厳しさを教えてくれる先生には、その生徒への愛がある。
いつか、それに気づけた時、その人はさらに強くなるでしょう。
◇
私も、これまで散々くやしい想いをしてきました。
もうね、くやしすぎて、思わず地面をゴロゴロ転がりたくなった事や、
(ああもう、このまま気を失えちゃったらどんなに楽なんだろう。)って思うことも沢山ありました。
くやしすぎて、悲しすぎて、もう涙も出なくなった時期もありました。
それでも、自分を支えるために、気持ちを奮い立たせて。
いつかこいつをぎゃふんと言わせてやる!とか。
あいつを追い抜いてやる!とか。
必死でした。
・・・今考えると、ちょっと(かなり?)イヤなやつだったな~って思うのですが。
でも、
「大人からバレエをはじめて、本気で上手になりたいなんて、なんて身のほど知らず。」とか
「頑張ったって、もう骨固まってるくせに、なにやってるの?」とか
「あなたみたいにバレエが向いてない体の人に、バレエを教える気はありませんよ」とか
「早くあきらめなさいよ、この下手くそ!」とかね。
面と向かってハッキリ言われるのですよ。凹みました。傷つきました。
今はもうへっちゃらですけど。
笑って「あ~、そうかもね~。」って言えるけど。
でも、子供の時からはじめるのが当たり前のバレエの世界で、私自身が大人になってからはじめたっていうことで、体のことで、ず~っと下に見られ続けて。
でも、そこで「なにくそ!」って思って、体のことを勉強して、勉強して、勉強して。
だから今、生徒に体のことを細かく教えてあげられる訳です。
ありがたいことです。
バレエの教師になってからも「大人からはじめたくせに」と言われることが、よくありました。
「大人からバレエをはじめた人に教師はムリ!」とかね。
そこでもまた、バレエで培ったなにくそ魂が出てくる訳です。
「なにくそ!」と思って、バレエのことを勉強して、勉強して、勉強して。
そのおかげで、今があります。
だから、あの頃、小馬鹿にしてくれた人達に大感謝です。
◇
このようにして、私が今に至るまで、一体どれだけ、
「なにくそ!」と思ってきたことか。
これらの経験が、私を強くしてくれました。
なにがあってもくじけない、負けない心。
今はもう、誰も見返したいとは思いません。
あの人達がいたからこそ、今の自分がいます。
バレエの先生達はもちろん、いじわるしてくれた人や、足を引っ張ってくれた人達にも、今は「ありがとう」が言えます。
それだけ、広い視野を持つことが出来るようになったし、成長することが出来ました。
あれだけのことに、負けなかったんだ。
これだけのことに耐えてきたんだ、という自信。
自分1人でここまでやってこれたんだというプライド。
夢や目標をあきらめなかった自分を褒めてあげられる。
だから、ここからは、みんなで一緒に。
みんなを助けながら、みんなに助けてもらいながら、一緒に前へ歩いて行きたいと思っています。
◇
サクラバレエは、ただ今、クリスマス会本番の3週間前ですが、
“ベストをつくした”
“やりきった”
“自分なりに頑張りぬいた”
そうと思えること。
私は生徒達にこれをプレゼントしてあげたいのです。
(いらないですぅ~、という声が聞こえてくる気がしますが、スルーします。)
舞台は大変なものですが、うちのように、まだ始まったばかりで、手探りで前に進んでいるようなスタジオでは特に大変ですが、
本番が終わった後に、全てのキャスト&スタッフの人達が
“頑張りぬいた”
“やりとおした”
と、自信と誇りを持って今年一年を終われるよう、心から願っています。
◇
今回は、バレエに必要な“なにくそ魂”のお話でした。
次回は、“そのプライドは必要ですか?”について、お話させて頂こうと思います。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
◇
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