集英社文庫 2011年12月発行 (2005年7月集英社より刊行)
〔目次〕
はじめに
第1章 救命センターへ急げ
第2章 失われた笑顔
第3章 マイアミ大学移植チーム
第4章 シカゴからきた少女
第5章 多内臓移植
第6章 夢のカリフォルニア旅行
第7章 母の苦悩
第8章 スーザンの恋
第9章 謎の入院
第10章 ブリトニーとブリトニー
第11章 みきちゃん基金
あとがき
解説 東えりか
〔著者について〕
1963年生まれの外科医、コロンビア大学医学部外科学教授。アメリカで多くの臓器移植手術を手掛ける。手術不可能とされた患者に対して、世界初の「多臓器体外摘出腫瘍切除手術」(お腹の臓器全部を体の外に出して、腫瘍を取り除いた後に体に戻す)を行い、世界中から称賛されたことでも有名。2010年1月の『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀』に「最後の希望、覚悟の手術 移植外科医・加藤友朗」として出演。
〔本書について〕
本書は2005年7月に出版された同名の単行本の文庫版。単行本出版時にはマイアミ大学移植外科に勤務していたが、文庫本出版時には、ニューヨークのコロンビア大学に勤務。また日本では臓器移植法が2009年に改正、2010年より施行されており、その改正について「はじめに」と「解説」で触れている。また本書は漫画『GUY~移植病棟24時~』の原案にもなっている。
著者が本書を書いた目的は「移植医療を日本に伝えること」である。アメリカでは多くの臓器移植手術が行われていて、手術により多くの人が重篤な状態を脱し、健康を取り戻すことができている。日本では1997年に臓器移植法が施行されていたものの、執筆当時では、脳死による臓器提供は年に数件程度の状況が続いており、臓器移植法改正の動きも起きていた。
臓器移植により多くの人が救われるためには、「移植にどんな魅力があるのかを、まず理解してもらう必要がある」ため、本書では肝臓や小腸などの臓器移植によって多くの子どもたちが健康を回復していった事例を取り上げている。移植医療の素晴らしさは「うまくいけば、患者は見違えるほどよくなる。悪くなった部分を切り取る医療とは、そこが決定的に違う」と述べている。
日本臓器移植ネットワークでは、臓器移植に関する様々なデータを公表している。アメリカでは脳死による臓器提供がほとんどで年間8,000人を超える人が臓器提供者となっている。しかし、日本では心停止後と脳死後の臓器提供者を合わせても年間100人前後にとどまっている。改正臓器移植法が2010年7月に施行されて、家族の承諾による脳死臓器移植や15歳未満の小児の臓器提供が可能となったが、2014年末現在で脳死による臓器提供者は累計で301人、特に15歳未満の子供の脳死による臓器提供者は少なく、2015年12月に累計で10人※となっている。(※こちらはニュースの報道による)
本書では心臓移植のケースは紹介されていないが、同ネットワークによると昨年末の心臓移植希望者は451人が登録されており、15歳未満の子どもが25人含まれている。心臓の移植は脳死による臓器移植が必要となるが2014年に行われた心臓移植数は37件にとどまっていることから、多くの人が長い期間を苦しみながら待ち続けていることになる。一緒に闘う家族にとってもどれほど辛く長い時間であるだろうか。
著者は、「医療先進国のなかでは日本だけが極端に移植医療に消極的」と書いているが、臓器移植を行うことでしか治療のできない命の瀬戸際にある多くの患者が存在して、移植医療という治す技術が存在しているのに、臓器提供が進んでいかない日本の現状に対して、非常に悔しい思いがあるだろう。
著者は様々な移植手術を行ってきたが、「小腸移植はまだまだ発展途上の移植医療」であり、他の臓器移植と比べ、まだ生存率で見劣りしている。「この小腸の移植をいつか必ず安全な移植にしてみせる。そして、そのためにはどんな努力も惜しむまい」との思いを披露している。アメリカに移り、世界のトップレベルの移植医として活躍するまでには、逆境をはねつける強い熱意とたゆみのない努力があったことだと思う。これまでも多くの困難な問題を解決してきた著者は、これからも移植医療の水準を大きく向上させていくことができると思う。その恩恵を多くの人が享受できる社会になってほしいと願いたい。
本書ではアメリカの医療事情も随所に紹介しており、新生児も臓器提供者になることができるというのは驚きであり、また医療里親の制度や子供の治療に裁判所に判断を仰ぐことがあるなど、興味深いテーマも取り上げられている。
運転免許証の裏面に「臓器提供意思表示記入欄」があるのは、普段忘れている人が多いと思う。免許証を見るたびに臓器提供について意識して欲しいと思う。