ABRACADABRA / BUCK-TICK | 安眠妨害水族館

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ABRACADABRA/BUCK-TICK

 

1. PEACE

2. ケセラセラ エレジー

3. URAHARA-JUKU

4. SOPHIA DREAM

5. 月の砂漠

6. Villain

7. 凍える Crystal CUBE ver.

8. 舞夢マイム

9. ダンス天国

10. 獣たちの夜 YOW-ROW ver.

11. 堕天使 YOW-ROW ver.

12. MOONLIGHT ESCAPE

13. ユリイカ

14.忘却

 

 

BUCK-TICKにとって、22枚目となるオリジナルアルバム。

Blu-ray付、DVD付、CDのみの3タイプに留まらず、アナログ盤にカセットテープ、ハイレゾ配信まで、様々な形態でリリースされました。

 

リリース形態の時点で、30年以上第一線で活躍しているからこその支持層の年齢的な幅の広さを感じるのですが、音楽性としても、ノスタルジックな昭和歌謡的なアプローチから、最先端のエレクトロサウンドまで、相変わらずの全世代感。

ただし、彼らの場合は、あくまで目線は現在にあるのですよね。

決して懐古主義ではなく、非現実的な世界でもない、今演奏すべき楽曲を鳴らしている。

コロナ禍における緊張感を挟んで制作された本作には、その色がより強く出ているのです。

 

大半の楽曲は、コロナ以前に完成させていたとのことで、明確にコロナをテーマに歌っているのは「ユリイカ」のみ。

とはいえ、「URAHARA-JUKU」では未成年に迫るドラッグや売春の闇、「Villain」では行き過ぎた正義によるネットでの誹謗中傷、「MOONLIGHT ESCAPE」では幼児虐待がモチーフに据えられており、いずれにしても2020年の負の側面を象徴する事件が思い浮かぶ。

結果論的にではあるが、「凍える」でのテーマである自死も、タイムリーすぎる時事ネタになってしまった感が。

尖ったサウンドによりメッセージを叩きつける彼らのスタイルは、リアルタイムに生きるリスナーの耳に、痛いほど突き刺さります。

 

そして、「ユリイカ」のインパクトですよ。

「ABRACADABRA」というアルバムタイトルに込められた意味は明確で、生命への賛歌。

もはや使い古されて陳腐化した"LOVE & PEACE"の連呼が、これほどまでに格好良さを伴うのは、ある意味で2020年の今リリースされた作品だからなのでしょう。

これをやり放っておいて、最後は「忘却」によりズシっと締めくくるのも、BUCK-TICKらしいのだよな。

 

ひとつ付け加えておけば、現代の病理に切り込むような楽曲たちではあるけれど、彼らが歌っているのは"逃げてもいい"ということ。

果たして30年前の彼らが現実逃避を肯定的に歌えただろうか、と考えるとピンとこないわけで、だけど、彼らに"逃げてもいい"と伝えられて救われるリスナーは間違いなくいるわけで。

耐え抜くよりも、逃げ出すことのほうが力強さの象徴になったのも、時代性と言えるのかもしれません。

 

収録曲が発表された段階ではどうなるのだと期待と不安がごちゃまぜになった「舞夢マイム」や「ダンス天国」は、それぞれレトロフューチャーであるか、アヴァンギャルドでサイケなサウンドであるかの違いはあれど、歌謡曲テイストを強めてアクセントに。

そこから、YOW-ROW氏によりダンスチューンとして強化されたシングル群に繋がる流れは、まさに狙い通りといったところか。

シリアスな中に、平気で遊び心をぶち込めるセンスの良さ。

比較論として、前作、前々作よりも重厚な様式美は持ち合わせていませんが、リスナーの心を動かすという点では、名盤であるそれらと引けを取らない影響力を備えた1枚です。

 

<過去のBUCK-TICKに関するレビュー>

No.0

アトム 未来派 No.9

或いはアナーキー
夢見る宇宙
memento mori
十三階は月光