アトム 未来派 No.9 / BUCK-TICK | 安眠妨害水族館

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アトム 未来派 No.9(通常盤CD)/BUCK-TICK

¥3,240
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1. cum uh sol nu -フラスコの別種-
2. PINOA ICCHIO -躍るアトム-
3. DEVIL'S WINGS
4. El Dorado
5. 美 NEO Universe
6. BOY septem peccata mortalia
7. 樹海
8. THE SEASIDE STORY
9. FUTURE SONG -未来が通る-
10. 曼珠沙華 manjusaka
11. Cuba Libre
12. 愛の葬列
13. NEW WORLD -beginning-

古巣であるビクターに復帰したBUCK-TICK。
本作は、復帰第一弾となる通算20作目のフルアルバムです。

タイトル的に原爆や憲法第9条を連想させるのだが、明確なイデオロギーはない様子。
ここ最近はコンセプチュアルな作品も目立っていたのですが、テーマを絞りすぎず、自由な解釈の余地を与えていると言えるでしょう。

一方で、サウンド的には遊び心に溢れたアングラテイストを貫いており、これぞBUCK-TICK。
ロックンロールを下地に、実験的なノイズを随所に塗し、ニューウェイブの香りも漂わせる。
大衆受けとはかけ離れた路線でありながら、ポップなメロディもさらりと使って聴きやすく仕上げているのも、キャリアが成せるバランス感覚。
初心者でもとっつきやすく、マニアックなファンにも受け入れられる作品になったのでは。

1曲目の「cum uh sol nu -フラスコの別種-」から、禍々しく呪術的。
これでグッと引き付けておいて、「PINOA ICCHIO -躍るアトム-」で、わかりやすくテンションを上げていくあたり、演出上手ですよ。
コアな方向性に振り切れてから、イメージが固まってしまう前に次の方向性に舵を切る。
大局的な流れも意識しつつ、楽曲の繋ぎを極端にしていくことで、緊張感と驚きが連続。
実にスリリングでドラマティックな展開を見せてくれます。

「美 NEO Universe」に「BOY septem peccata mortalia」、「THE SEASIDE STORY」や「FUTURE SONG -未来が通る-」など、個別に切り出すとやりたい放題に思えるのだが、作品としてまとまって聴かせられると、何故だか説得力を増してくるBUCK-TICKワールド。
個々に聴けば、相応にカラフルな色味を持っている現代アート的。
総合的に聴けば、ジャケットのアートワークが示すとおり、モノクロでレトロな質感。
この崩れそうで崩れない、絶妙な不釣り合いさ、シュールさが、"未来派"ということなのかもしれません。
最後の「NEW WORLD -beginning-」まで驚かされっぱなし。
呆れるくらいに格好良い。

余談ですが、「cum uh sol nu -フラスコの別種-」に出てくる"ノンマルト"というワードが気になってしまう。
ウルトラセブン好きならピンとくる、人類によって海底へ住居を追われた種族の総称。
並べられた単語から察するに、実際に"地底原人"的な意味合いで使われていそうなのだけれど、この話が諸説を生むマクガフィンで終わっているだけに、"Homunculus"のアナグラムになっているタイトルも相まって、意味深です。
こういう、いくらでも深読みができそうな歌詞も、BUCK-TICKの魅力なのだよなぁ。

<過去のBUCK-TICKに関するレビュー>
或いはアナーキー
夢見る宇宙
memento mori
十三階は月光