No.9/vistlip
1. GPS
2. DANCE IN THE DARK
3. J's Melanchory
4. ミミックの残骸
5. Atelier
6. 四季彩
7. RADIO the vistlip [No.9 EDITION]
vistlipの2020年第一弾リリースとなるミニアルバム。
当初は2月のドロップ予定が延期となったため、約1ヵ月後の3月に発売されました。
本作のテーマは、初期衝動に立ち返ること。
ただし、vistlipという単位で初期の音楽性に回帰するということではなく、もっと以前、それぞれのメンバーのルーツを思い返したうえで、今の持ち味にて再構築するというアプローチをとっているようです。
その結果として、久しぶりのテイストに懐かしみつつも、vistlipのサウンドとして前作からの継続性も感じられるという内容に仕上がったのではないでしょうか。
まず、さらっと聴いて初期衝動を体験できるのは、Dr.Tohyaさんが作曲した2曲でしょう。
四つ打ちのダンスナンバーである「GPS」と、演奏の気持ち良さだけで突っ走ったような「Atelier」。
前者は、女声コーラスを噛ませて洗練された感はあるのだけれど、アレンジとしては非常にシンプル。
普段、難解な展開や、凝ったアレンジが強みであるTohyaさんですが、ここまで感情最優先で作っているというのは珍しく、だからこその衝撃性というか、活きたサウンドに触れている感覚があるのですよね。
後者も同様で、とにかくスピード感を出して、シンコペーションが効いた印象的なリフを重ねて、というベタさが良い味を出していて、スタジオで演奏している時点で楽しくて仕方ないだろうな、というストレートさ。
初期衝動以外のどんな言葉を当てはめればよいのだろう、と悩むほど、コンセプトにふさわしいナンバーと言えるのでは。
Gt.海さんが作曲した「J's Melanchory」は、彼らの持つポップセンスを象徴するアッパーチューン。
キラキラした明るさ、爽やかさが意表を突く形ではあるのだけれど、ここまで振り切ることができるのも、確かにvistlipの武器。
終盤にラップ調のフレーズが出てくるのも、結成当初からストリート系との親和性を高めようと試みていた彼らだからこそのアイディアでしょう。
また、Ba.瑠伊さんが手掛けた「ミミックの残骸」は、バラードナンバーとしてアレンジされています。
もともとはアップテンポだったようですが、作品バランスであったり、歌詞とのシンクロ具合から、路線を変更。
実はVo.智さんの中にも、初期衝動を歌詞に落とし込むため、当初のメインだった"ラブソング"に特化するという裏テーマがあったようで、この曲については、大胆な舵切りが奏功したと言えるかもしれません。
そして最後に、Gt.Yuhさんによる重要な位置づけの2曲にも触れておかねばなるまい。
リードトラックである「DANCE IN THE DARK」は、ギラギラしたEDMを取り込んで、初期のミクスチャー感が強い作風に。
智さん、ラップについても小慣れていますよ。
一方で、ヘヴィネスも追及する現代的なアプローチはさすが。
チャラついたストリート系のイメージと、硬派でヘヴィネスに攻めるラウド系のイメージ、両方を同時に与えてしまうのですよ。
もう1曲の「四季彩」、こちらは智さんとYuhさんの前身バンドにも同様のタイトル曲が存在していたとのこと。
今の気分で、歌詞もメロディも別物としてしまっているので、必ずしもリメイクということではなさそうですが、当時の楽曲に見られた和風テイストであったり、古語を用いた歌詞であったりと、vistlipとして演奏されることがまずないタイプの楽曲に仕上がっており、寄せているのは間違いありません。
なお、4つの形態でのリリースとなった「No.9」。
"lipper盤"には、「RADIO the vistlip [No.9 EDITION]」が追加収録されています。
楽曲ではなくトークが入っているというのは、彼らの中でも何か変化をつけようとする姿勢があったと見受けられますが、制作過程を丁寧に聞くことができるという点で興味深かったですな。
相変わらず、作品の作り方が上手いな、と唸らされる1枚。
<過去のvistlipに関するレビュー>