B.J.maniac / V.A.
2001年にmarder suitcaseが主催して制作されたオムニバスアルバム。
プロデュースは、ex-FAMEのMAHIROさんが行っており、レコーディングやミックスは、名古屋の重鎮、Mr.SASAKI氏が担当しています。
何故か、Verfe~gorlだけが2曲収録されており、全9バンド、10曲という構成。
協力関係にあったMatinaから、SyndromeとGARDENがゲスト参加していました。
1. Deformity Child / Syndrome
この作品にしか収録されていない新曲、と思わせておいて、実際は「SEXUAL」と「疼ク喉」をリミックスのうえメドレー化したもの。
導入のタイトルコールのみ新緑したのだとすると、少しシュールですね。
デジタル色を強めた「SEXUAL」の一節が1分半程度でフェードアウトし、ソリッドな「疼ク喉」が残り4分を使って煽り立てる。
オムニバスの意味合いを踏まえるとカタログ的な内容もアリなのかとは理解するものの、収録バンドの中でも知名度も期待値も高かっただけに、がっかりの気持ちのほうが強かったのが本音。
まぁ、Matinaらしいと言えば、それまでなのだけれど。
2. 産声 / サリー
Lucifer's undergroundのVo.ヒナさんが在籍していたサリー。
リフにしてもメロディにしても、ワンフレーズを単調に繰り返していくのが基本線なのですが、駆け引きが上手いと言えばいいのか、これ以上やれば飽きる、これ以下であればつまらない、という絶妙なバランスをキープしているのですよね。
ドロドロとした不気味さが助長され、中毒性として耳から侵食。
無機質に進行しつつ、サビでは激しさを爆発される展開も、名古屋系ダーク路線が好きであればたまらないでしょう。
キャッチーさには欠けるが、マニアックさを押し出した楽曲が2曲目に収録されたことで、相応のインパクトを与えました。
3. 腐桜 / 式
バンド紹介のスペースに、ひらがなでの散文詩のみを記載しており、メンバー名すら把握しきれない。
参加バンドの中でも特にマイナーだっただけに、世界観のアピールよりも、シンプルなバンド紹介でも良かったのでは、と思ってしまいます。
突っ込み気味の激しいサウンドに、ダークなワーディングをひたすらシャウトするというベタな発狂系ナンバー。
強みをどこに見出すのか、模索中といったところでしょうか。
ただし、ドロドロとしたメロディが重ねられたサビについては、名古屋系を踏襲。
不気味で捉えどころがなく、確かに本作に収録された意味も理解できそうです。
4. 毒 / GARDEN
Matinaからのゲスト参加となるGARDEN。
3ヶ月連続リリースとなったデモテープの第二弾、「毒」をCDにて収録した形です。
ウネウネしたリフと、性急なリズム。
コテコテ系を地で行くスタイルで、スピード感のあるAメロ、シャウトを連呼するBメロ、メロディアスなサビという構成をベースにしつつ、煽りパートや間奏でのギターソロなどの魅せ場も用意し、正統派のコテコテ系っぷりをアピールしていました。
既存曲だったのが惜しまれるが、代表曲で勝負したいという意識の表れとのこと。
5. ヘヴン / syster
Merry Go Roundからの影響を強く受けていると言われていたsysterの未発表曲。
メロディアスな旋律はほとんど見られず、大半がラップ調のパートと、語りのパートで構成される独特さが異質な雰囲気を醸し出していました。
ラストにうっすらと歌メロが登場しますが、だからといってキャッチー性は皆無。
オムニバスで、ここまで徹底できるのであれば本物だろうといったところで、ある種、その存在感は際立ったと言えるでしょう。
言葉の選び方も、いちいちアンダーグラウンド感があって良し。
濃密に名古屋系の要素を孕んだミクスチャーロック。
6. 10% / KAWON
後に戮としてPhantasmagoriaや凛に在籍するVo.研二が在籍していたKAWON。
歌詞としてはワンフレーズのみの記載になっており、呻き声、シャウト、ダミ声、語り…
あらゆる歌唱法でまくしたてるド直球のツタツタ発狂チューンで、戮さんらしい艶やかな歌声はほとんど聴くことができません。
フルサイズで収録されているにも関わらず、2分に満たない収録時間。
何をバンドの強みとして押し出したいのか意図は明白で、この潔さは見習いたいところ。
7. 毒と蜜と媚薬の香り / Verfe~gorl
2曲収録された意図は不明ですが、未発表のまま埋もれてしまう楽曲を1曲余計に救い上げたということであれば、十分に意義があったのではないかと。
どちらも、単独音源には収録されていない新曲でした。
「毒と蜜と媚薬の香り」は、ハードさを強調するダークチューン。
演奏面では、ドカドカと前のめりなリズムでキメも多用し、激しさを出し切って。
それに対し、Vo.深月さんのか細い歌声は、シャウトも用いるが、基本線はメロディアスさに対応していて、実にVerfe~gorlらしいな。
なお、歌詞カードには、次の「ウタカタノ夢」と順序が逆に印刷されています。
8. ウタカタノ夢 / Verfe~gorl
こちらは、ギターのフレーズが切なく咽び泣く、メロディアスなナンバー。
イントロの雰囲気から、ミディアムテンポの歌モノとして進行していくのかと思わせますが、序盤が過ぎると一気に加速。
疾走感のある楽曲に変貌し、切なさを駆り立てていきます。
ただし、ヴォーカルラインの音程に課題あり。
ここまでメロディアスに振ってしまうと、ピッチの甘さが如実に出てしまいますね。
やりたいことはむしろ好みなのだが、完成した楽曲としては、「毒と蜜と媚薬の香り」に軍配が上がるでしょうか。
9. 雀羅詩全集Ⅰ / 雀羅
2001年当時のmarder suitcaseにおける目玉と言えば、雀羅でしょう。
本作にも新曲で参加するということで、当然ながら期待値は高止まりしていたのですが、蓋を開けてみると、Syndrome以上の困惑ポイントに。
というのも、SEをバックに、メンバーがひとりずつ詩を朗読するというトラックだったから。
現代でこそ、ポエトリーリーディングにもニーズが高まってきていると言えるのですが、あの時代では尚早すぎました。
Verfe~gorlが2曲でもOKなのであれば、彼らもせめてもう1トラック、歌入りのナンバーを入れてほしかったですね。
10. 灰色の空 / MAHIRO
最後は、プロデューサー自らが雀羅の「灰色の空」を歌い上げる。
振り返って聴くと唐突感があるのですが、MAHIROさんは尾張桜組として錚々たるメンバーたちの中で雀羅をカヴァーしてきた実績あり。
その意味では、ある種の持ち曲と言えるでしょう。
アレンジはやや渋すぎるきらいもありますが、本家の雀羅はポエトリーリーディングでしたし、彼らの強みは、和風な世界観と、繊細さのあるメロディであることを、雀羅に代わって示した形。
メジャー所属アーティストも含まれている関係上、尾張桜組としての参加は難しかったのでしょうかね。
タイトル通りマニアックなバンドが揃っているのですが、収録基準はバンドによって異なる印象。
新曲を惜しみなく披露するバンドもあれば、企画モノや再収録でお茶を濁すバンドもあって、粒感がまちまちでした。
そのため、胸を張っておススメとも言えないのですが、systerやVerfe~gorlが、ここでしか聴けない楽曲を送り込んできていることは無視できず、この辺りを目当てに購入するのであれば損はないでしょう。
逆に、Syndromeや雀羅については、他の作品には収録されていない楽曲が入っているようだぞ、と誤解を与える形で入っているので注意が必要。
購入に踏み切る際は、お気を付けくださいませ。