以前、本ブログで「洋楽を日本語で歌うことの是非」について書いた。特にジャズは“英語ノリ”の楽曲が多いので日本語で歌うと曲によってはオリジナリティが損なわれる恐れがあるからだ。そのため私が和訳して歌うのは余りジャジーな英語ノリではない曲に限っており、意味を伝えたい場合は歌う前に訳詞を朗読している。
ラテンの名曲「キエンセラ(Quien Sera)」も英語の訳詞では「スウェイ(Sway)」になるがメロディは同じなのに全く違う曲に聴こえる。オリジナル(原詞のスペイン語)が持つパンチが感じられず流麗なダンス音楽になっている。勿論、日本語に訳しても同じことだろう。
但し、この原則に唯一の例外があることにお気付きだろうか?
それは1963年に全米ヒット・チャートNo.1に輝いた「SUKIYAKI」こと「上を向いて歩こう」だ。外国人が英語でカバーした訳でも坂本九が英語で歌った訳でもなく日本語のまま全米No.1になった。全米チャートNo.1の曲はどう考えても「洋楽」なので、この曲に関してのみ、洋楽なのにオリジナル(原詞)が日本語なのだ。
当初米国でも「英語以外の歌はヒットしない」と思われていたため(英語以外の歌が全米No.1になったのは1958年のイタリア語のカンツォーネ「Volare(ヴォラーレ)」のみ)、キャピトル・レコードでは坂本九に英語で歌わせようという構想もあったようだが、結果的には日本で販売されたレコードのまま発売され、No.1になった。
日本で1961年(昭和36年)10月にリリースされ翌月から3ヵ月間連続No.1ヒットとなったこの曲が、2年後に全米No.1になる経緯やSUKIYAKIというタイトルの由来等は何度も書籍や番組にもなりwikipediaでも紹介されているので割愛するが、私がこの曲に出会った時点ではまだ新人歌手の九ちゃんが歌う流行歌だった。
誰しも初めて歌った曲の原体験はあると思うが、私の場合はこの曲「上を向いて歩こう」だった。1962年(昭和37年)の春、渋谷区立山谷小学校1年生の私はランドセルを背負って小田急線参宮橋駅前をこの歌を口ずさみながら通学していた。私は1年生の夏休みに引っ越し転校したので、間違いなくこの年の春のことだ。
♪上を向いて歩こう アカペラ・・・こんな感じで歌いながら通学?♪
参宮橋で注文婦人服店を経営していた服飾デザイナーの母が園長先生とケンカし、西参道にあったマリア幼稚園を中退した私は、昼間は一人家に居て夕飯時に店に向かう「鍵っ子」だった。就学後も夜一人で電話を待つ私にとって、この歌の「思い出す春の日、一人ぽっちの夜」は切実に身に沁みて、心から歌えた。
この曲が全米No.1になった時代的背景や米音楽界の状況に関する考察は、この曲もアルバムでカバーしたビリー・ヴォーンの記事の後半で既に記した通りだが、その後、この曲は世界中の数多のアーチストがカバーし、世界約70ヵ国で1300万枚超のセールスを記録し、世界のポピュラー音楽におけるスタンダードとなった。
そうなると歌詞の意味を知りたくなるのだろう。英訳詞も登場し、1981年には女性R&Bデュオ「A Taste Of Honey」が下記の自作英語詞でカバーして全米3位、1995年には男性コーラスグループ「4PM」も同詞でのカバーで全米8位、と結局この曲は32年間にわたって都合3度も全米トップ10入りしたことになる。
「上を向いて歩こう」作詞:永六輔、作曲:中村八大
英語詞:Janice Marie Johnson (Taste Of Honey)
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上を向いて歩こうよ 涙がこぼれないように
It's all because of you,I'm feeling sad and blue
You went away,Now my life is just a rainy day
思い出す春の日 ひとりぽっちの夜
and I love you so,How much you'll never know
You've gone away and left me lonely.
上をむいて歩こうよ にじんだ星を数えて
Untouchable memories Seem to keep haunting me
Of love so true,that once turned all my gray skies blue
思い出す夏の日 ひとりぽっちの夜
But you disappeared,Now my eyes are filled with tears
I'm wishing you were here with me.
幸せは雲の上に 幸せは空の上に
Soaked with love all my thoughts of you
Now that you're gone I just don't know what to do
上を向いて歩こうよ 涙がこぼれないように
If only you were here,You'd wash away my tears
The sun would shine, once again you'll be mine all mine
泣きながら歩く ひとりぽっちの夜
But in reality, you and I will never be
'Cause You took your love away from me.
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私はこの曲を童謡ユニットNostal♪sicの定番レパートリーとして高齢者施設や被災地でのボランティアで歌っていたが、“世界のスタンダード SUKIYAKI”としても歌ってみようと思い立ち、上記の英語詞を覚えて洋楽ナンバーとして何度か歌ったことがある。結果は全くの空振り、聴衆は皆シラーっとした雰囲気のままだった。
いま改めて考えてみれば、原詞である日本語のオリジナリティが損なわれた上に、わざわざ母国語ではない英語詞では意味も通じず、さらに昔を知る人々も郷愁を感じない。望みは新鮮に聴いてくれる若い人だけだが、そもそも私が歌うシチュエーションでは聴衆に若い人が居ない。ま、それじゃ大コケしますよねー。
Saigottimo

