よく言う「スタンダード・ナンバー」は和製英語で、ネイティブの英語では単にstandard(s)と言うらしい(「定番曲」の意)。ジャズは初見でも演奏者が入れ替わってもセッション(合奏)が成立するのは、ジャズの世界においては定番として演奏される楽曲群(所謂ジャズ・スタンダード)が、ある程度確立しているお陰でもある。
では何がジャズ・スタンダードで、それは何曲くらいあるのかというと定まってはおらず、一説には2千曲以上あるともいわれる。実際にはジャズ・スポットに常備されている定番本(楽器奏者なら通称「黒本」)に掲載されている200余曲/冊の中から選択される。頻繁に演奏される曲目に限れば、およそ50+α曲くらいだろうか。
【上段:通称「黒本」(リットーミュージック社)】
この「黒本」の楽譜には、そもそも歌詞が無い曲も含まれているが歌詞が書かれてないので、我々ヴォーカリストにとっての定番本は歌詞が記載されている通称「赤本/青本」と呼ばれる2冊組で、掲載曲数は2冊で400曲超。曲目は「黒本」とも一部重複しているが、インスト(歌無し)では殆ど演奏されない曲目も含まれている。
これらを一般的に「ジャズ・スタンダード」と呼んでいるが、必ずしもジャズで演奏するために作られた楽曲ばかりではない。「枯葉」のようなシャンソンの名曲や「夜も昼も」「春の如く」のようなミュージカルの曲や「スマイル」「酒とバラの日々」の様な映画音楽もあり“時代を越えて人々に親しまれている曲”と定義しても良いだろう。
そう定義するならスタンダードはジャズに限らずあらゆる分野の音楽に存在する。因みにポップスでの定番本「永遠のポップス」は洋楽のスタンダードが2冊で800曲以上収録されている。当然、邦楽(民謡や歌謡曲)にもスタンダードはあるだろう。ではポピュラー音楽のみならずクラシック音楽にもスタンダードは存在するのか?
オーケストラ指揮者で芸大名誉教授の大町陽一郎氏は著書「クラシック音楽のすすめ」で、クラシック音楽は古典音楽ではなく“どんな時代にも愛好され、いつまでも残る良い音楽”と定義し、「マイ・フェア・レディ」のような優れたミュージカルも該当するとしている(*1)。“クラシック音楽そのものがスタンダード”ということか。
大町氏のクラシック音楽の定義を是とすれば、私もレパートリーにしている同ミュージカルの劇中歌「君住む街角(On The Street Where You Live)」はクラシックであり、なおかつこの曲は「赤本」にも「永遠のポップス」にも掲載されているので、ジャズ・スタンダードでもあり、ポップスのスタンダードでもあるということになる。
【数あるこの曲の音源の中で私のお気に入りはコレ↓】
一方で“ジャズの帝王”マイルス・デイヴィスの名言「Good music is good no matter what kind of music it is.(良い音楽は良い、どんなジャンルの音楽かは関係ない)」にも共感できる。この「良い音楽(Good music)」を「好きな音楽」と解釈すれば、私がジャンルを問わずに自分が好きな曲を自由に歌う理由も、まさそこにある。
従って、私は自分のことを“ジャズ・ヴォーカリスト”などとは言わず(てゆーか、スキャットも巧くできないから「言えない」というのが実態)、“スタンダード・ヴォーカリスト”と称することにしている。ちょっとカッコいいでしょ?要するに“古い曲しか歌えないジジイ”ということなんですけどね、てへ。
♪君住む街角で 2003年6月14日・西麻布「Misty」でのヴォーカルセッションにて♪
Saigottimo
*1:「クラシック音楽のすすめ」講談社現代新書1965、P.4,26,27



