突然、妻が出て行ってから3日目。







田舎から出てきていた親父が、

そのままいられるはずもなく、

一度、田舎へ帰った。






親父は、妻と妻の両親の対応に、

かなり怒り心頭だったし、

全く納得していなかった。






そりゃそうだろう…。






何も解決しないままだったから、


「また週末に来るから。」


と言って、帰って行った。






親父を頼ったことなんか、

長い間なかったけど、

今回は、親父の存在が心強かった。







おふくろは、暫くの間、

残ってくれることになった。









俺は、やらなきゃならないことを、

事務的に処理しようと思って、

出産育児一時金の手続を始めた。







子どもが生まれた産婦人科へ行って、

その用紙に押印してもらってきた。






この手続をするためだけなのに、

手数料が発生した…。


所定の手続なのに手数料…。





なんだか妙な感じだった…。









突然、妻が出ていった翌日と翌々日は、

仕事どころじゃなかったから、

会社には無理を言って、

休ませてもらっていた…。





でも、そう何日も立て続けに

休むわけにはいかない…。







この日は、その手続だけやってから、

会社へ向かった。
  


夕方、再び、不動産屋から電話があった。





やはり、妻から連絡をしていないらしい。






俺は、妻の実家の電話番号を教え、

直接、電話をしてもらうことにした。




これで、妻は逃げられないだろう。





任したことは、ちゃんとやってもらう!


責任を果たしてもらう!





妻には縁遠い話なのだろう…。





「もはや、関係ないこと。」


なんて思っているんだろう…。






そうはいかない。





もう、不動産屋のことは、

妻に預けた。


というか、

不動産屋が何とかしてくれるだろう。






そして、夕方の面会時間が来た。




母乳を与えるために、

少しずつでも搾乳して、

冷凍保存で持参してくるはずだ。


いや、そうするべきだ。





でも、きっと来ないだろう…。







子どものために、

僅かな母乳でも、

持ってきてもらいたかった。





妻を待ち続けるわけにいかないから、

俺は、子どもの面会を始めた。






だいぶミルクも慣れたし、

オムツ交換も大丈夫だ。






ウンチが出ているときは、

自然と観察していた。





このニオイ。

この色。


これなら大丈夫!




始めは緑色のウンチには、

かなり驚いたけど、

赤ちゃんのウンチは、

こんなものだと聞いたし、

ニオイも含めて、

健康のバロメーターだ。






面会時間が終わり、

俺は、ロビーにいながら、

時間が過ぎるのを待った。






結局、妻は来なかった…。






この日、妻は、子どもの面会には、

一度も来なかったんだ。






もしかして、規定を守らずに、

面会時間外に来ているのか?



そう思って、看護師さんに聞いたけど、

規則上、それは不可能だし、

妻は、来ていないとのことだった。






感染症の治療をしている病棟だ。



そんなデタラメな管理はできないだろう。





面会の記帳にも、妻の名前はない。





何かあったとき、

そんな特例を許していたら、

原因の特定ができなくなるから、

絶対に許されないことだ。





そうすると、やはり妻は、

子どもの面会に来なかったんだ。






・体調が悪くなったのか?



いや、体調が悪いのであれば、

妻の母親にでも頼んで、

母乳だけでも持ってくるべきだ。



どんなに僅かな量でも、

入院中の子どもにとって、

母乳は貴重なものだ。



だから、毎日一緒に搾乳していたんだ。


毎日少しでも持ってきて飲ませるべきだ。







・俺に会いたくないからか?



おそらくそうだろう。



つまり、子どものことよりも、

自分の感情を優先しているってことだ。



本当に子どものためを考えるなら、

イヤな奴と会おうが会うまいが、

そんなこと関係ないはずだ。



俺も、妻が出て行った日から、

毎日、首に激痛があった…。


とても運転できない状態だった。



でも、子どものためなら、

自分の身体が調子悪いなんて、

全く関係ない。



妻には、それが通じないんだろう…。







俺は、頭の中で、

妻が来ない理由を、

あれこれと考えながら帰宅した。






この日、妻からは、

不動産屋の件の連絡は、

結局来なかった…。
  


妻が家を出て行った翌日の夜は、

いろんなことが頭をよぎり、

悶々とていたから、

なかなか寝つけなかった。






翌朝、不動産屋から連絡があった。





どうやら、駐車場の件で、

妻に不手際があったらしい…。






その件は、全て妻に任せていたから、

俺にはサッパリ分からなかったし、

敢えて、妻にやらせようと思い、

妻から連絡させると伝えた。








俺は、妻に電話したけど、

予想どおり、つながらなかったから、

妻の実家へ電話した。





こちらも予想どおり、誰も出ない…。






俺は、留守番電話にメッセージを残した。



「妻に任せてあった駐車場の件で、

 不動産屋から電話があったので、

 不動産屋へ電話するように。

 俺も内容を把握する必要があるから、

 メールでも留守電でも構わないから、

 連絡をするように。」






・たぶん、無視してくるだろうな…。






そして、前日に入手できた印鑑を持って、

役所へ行って、子どもの出生届を、

訂正してきた。






これで、書類上は何も問題ない。







そのまま俺は、子どもの病院へ向かった。







きっと妻は来ないんだろうな…。



妻の父親は、何もできなかったんだろう…。



妻の母親は、孫が可愛くないのか?






いろんな想いを抱えながら、

病院に着いた……。







やはり妻は来なかった………。







子どもは、少しずつでも、

回復しているようだった。





俺は、面会ノートに、

退院後の希望的な話を、

書き込んでいた。





そして、子どもにミルクを与えたり、

オムツの交換をしたり、

そうやって、スキンシップをした。






15分の時間は、

あっという間に過ぎる。





「また、夕方に来るからね。」



そう言って、未熟児室を後にした。







前日と同様に、

面会時間いっぱいは、

ロビーで待ってみた。






でも、やはり妻は来なかった…。


実は、高裁からの不在通知が、


少し前に届いていた。







日々の忙しさから、


再配達の連絡を忘れていた…。








そして、土曜になってから、


保管期限ギリギリに気づいて、


昨日、再配達をしてもらった。









おそらく、養育費請求の件だろう。



そのくらいは予想ができていた。











やはり、そうだった。











養育費申立却下審判に対する抗告事件について,


当裁判所がした決定に対し,


申立人から抗告許可の申立てがあったので,


当裁判所は,次のとおり決定する。












    主  文




本件抗告を許可しない。



申立費用は,申立人の負担とする。













    理  由



本件抗告許可申立ての理由は,



前記決定についての,



民事訴訟法337条2項所定の事項を



主張するものとは認められない。



よって,主文のとおり決定する。














養育費請求の抗告許可申立は、


最高裁へ辿り着くことはなかった……。











俺が抗告許可申立理由書を提出した


2日後の決定だった…。










結局、父親からの養育費請求は、


裁判所では認めないということらしい。










子どものために、


せめて僅かな金額でも構わないから、


養育費を払わせることで、


母親の責務を全うさせたかった…。











子どもと会うこともなく、


プレゼントを贈ることもなく、


養育費を払うこともなく、


何もすることにない母親…。










俺個人の感情論としては、


子どもに会わせたくないし、


何も贈ってこない方が、


気分が悪くなることもない。



もう、関わりたくない。









でも、子どものことを考えると、


俺の感情は抑えるしかない…。









そう考えて始めた裁判だった。








けど、これが答えだった………。









まだ、最高裁へ申し立てた


特別抗告がある。









……。









結果は分かっているけど、


裁判官も人の親、人の子。


そう思いたい…。









でも、結果は分かっている…。










最高裁からの特別送達が届いたら、


これから先のことを、


改めて考えるつもりだ。

  


妻がメモを残して家を出ていったのは、

この前日のことだった。


あまりにも目まぐるしい一日だった。






妻と妻の両親は、

一度も電話に出ることもなく、

留守電にメッセージを残したり、

メールを入れておいたけど、

なんの連絡もないままだった。






家を出て行ったまま、

その日は、子どもの面会に来なかった。






しかし、翌日には病院に来ていた。







妻とは、いろいろ話したけど、

全く話にならなかった。



「もう決めたから!」



あまりにも一方的で、

滑稽な話し方だった…。





入院中の子どもより、

あくまでも自分のことが最優先という妻…。




妻の実家で、夏休みを満喫している上の子どもを、

入院中の子どもより大事だという妻…。





俺は、妻の連れ子のことは、

本当に可愛がってきたつもりだし、

入院中の俺の実の子どもを、

ひいきする気なんか全くない。






でも入院中の今は、

最優先となるのは当たり前だ。





やっぱり、妻の言っていたことは、

全く理解できなかった。








妻の父親とは、

今日、初めて腹を割って話した。






父親なんだから、

ちゃんと妻の母親に言い聞かせ、

娘の妻にも立ち場をわきまえさせ、

きちんと父親としての威厳を、

妻と妻の母親に見せてもらい。





でも、あの男は、

情けない野郎だから、

おそらく妻の母親に、

完全にやり込められているだろう。


アテにはならないな…。








妻の母親は……。


あの女こそ、悪の枢軸だ。


どうにもならないだろう…。







病院での態度で、

あの女の本性が露呈された。





あの女は、全てのおいて、

自分が最優先じゃないと、

どうしても気が済まないんだろう。





妻は、その血を完全に継いでいる。





だから、妻の言動となっているんだ。







俺は、妻の母親が一番気に入らなかった。





そして、妻の母親とは、

一生相容れないだろうと感じていた。







冷静に考えれば、

もはや、妻とやり直すことは、

不可能に近いだろう…。





それでも生まれたばかりの子どもや

妻の連れ子である上の子どものためには、

やはり4人でやり直すことが、

絶対良いに決まってる。






俺は、その僅かな可能性に賭けたい。





前向きに考えようとすると、

妻の母親の顔が出てくる…。




やっぱ無理かも……。







こうして、妻が出て行った翌日は、

ゴチャゴチャのまま過ぎていった…。