9/4


1日ドレスデン各所を回る。



















夜は私にとって最大級のイベント、シュターツカペレのアルプス交響曲を聴く。

真に偉大だ。それに尽きる。

そういえばこれを定期的に聞くことで、雷に打たれ、身を正し、在らん限りの力で芸術に立ち向かっていたのだった。


この演奏を聴くまで、街に昨日までいたかのように親密さを感じ、感慨に耽るよりは日常に歩み入るような感覚であった。記憶しているものは案外簡単に思い出せるし、感覚も戻るのであれば、その記憶、感覚がどういうものかよく思い、感じれば呼び覚ますことは直接の刺激なしに可能と思っていた。


しかし、このような演奏を聴いた後の感覚はどうか…確かに記憶にはあるが、より生々しく、身体の芯に響いている。きっとこれが芸術の力なのだ。人が予測できるものを軽々と超越し、心を打つ。これをやるんだ、とはっきり心の中心から声が響いている。


9/3


10:00

またもライプチヒ、ニコライ教会のミサに参加。トーマス教会の合唱団が来ていて、三位一体から13週後ということでそれに応じたバッハのカンタータも聴けた(昨日聞いたのと同じ)

ミサでは皆が簡単な歌を歌う部分がある。これがまた、たまらない。


12:00 ライプチヒ

13:30 ドレスデン


いよいよである。

どれだけの感動があるかと思ったが、じわじわとした感慨の方が近い。昨日までここにいたかのような、不思議な感触。

音大近くのホテル着、素晴らしく快適。

音大は随分と快適になった感もあるが、やはり何も変わらない重厚感。あぁ、ここでどれだけ学んだことか…記憶の中に沈んでいたものが次々と蘇り、膨らんでいく。自分の魂はここにあるんだろう。






元門下部屋の名前プレートを見て、先生の名前がないことを確認。時は動いている。


19:00

ゼンパーオーパーでボエームを。

何度も見た演目だが、何度見ても感動がある。次見れるのはいつになるのやら…全てを吸収した、はず。とにかくこの旅を忘れずにいたい…。




21:30

留学時の仲間、現在ドレスデンで指導者、演奏者として活動中の友と再会。東京で会うよりも久々な感じがないのもまた一興…

9/2


07:00

フロントに危険区域からの脱出方法を聞くが、やはり朝は問題ないとのこと。念の為大通り側を推奨された。

それより何より、やはり懸念していたDB(ドイツ鉄道)が欠便。まぁあるわな、正直期待してました、と気楽に構える。


08:00

ようやくDBの窓口が開く。席の予約までしていたのに、それは新しい列車では取り直せないとのこと。まぁいいですよはい…


08:40 ハンブルク

11:30 ライプチヒ

ザクセン到着。もう、駅に降り立った瞬間から懐かしさに包まれる。何回来たことやらなあ…駅のBratwurst(パンに挟んだソーセージ)を早速頬張る。ここのホテルは問題なし、安心して街に身を任せる。





15:00

荷物を預け、いざトーマス教会へ。



あぁ、ここも何度来たことやら。

カンタータを聴く。私は無学なので、宗教的な行事としての意味はわからない。ただ、この空間に身を置くことは音楽家として必ず必要なことだといつも感じる。決して忘れぬよう、全身で吸収する。


17:00

今度はニコライ教会でオルガンのコンサートに。これは偶然見つけたので僥倖僥倖…。

明るい音色と、プログラム、演奏者、教会内の色が良く合っていて、とてもポジティブな空間に。



21:30

素晴らしい時間を過ごしているが流石に疲れはたまっている。余韻に浸りながらしばし休息。

偶然ライプチヒに滞在していた、大学の同級生、ザクセン留学仲間、大学の非常勤でも同僚の友人と会う。留学中何度も訪れた酒場。不思議なもので、ドイツで会う方が違和感なく、自然に会話ができる感覚がある。

日欧各地で演奏、指導と忙しい毎日を送る彼。音楽へのぶれない愛を持ちながら、積極的にポジティブに仕事を続ける姿勢にいつも瞠目する。私とは根本的な性格が真逆だが、音楽に対する意見が程よく一致し、とても心地よい。

私ももう少し積極的に明るくいよう、と今回も思った次第。また演奏を聴くのが心から楽しみだ。



やはりザクセンはいい…心地よい酔いに身を任せつつ明日のドレスデンに想いを馳せる。


9/1


09:45 シュヴェリーン

11:00 リューベック


友人と別れ、今日の宿泊地ハンブルクへの道中、リューベックに寄る。興味深い友人数人がリューベックに留学経験があり、以前から是非訪れたかった街。

電車が少し遅れるも、乗り継ぎは珍しく待ってくれていた。少し不安はあるが、荷物を駅のロッカーに預け、いざ出陣。


駅舎


音楽大学


ホルステン門


マリエン教会


教会内部


素晴らしい。まず天気が良すぎる。

期待通りの、こじんまりとした美しい街である。特にマリエン教会は特別な空間だった。ここのみならず、教会内にたたずむと別世界にいるような感覚に陥る。色々科学的な理由はあるのだろうが、単純に教会の持つ力なのだろう。短期間の滞在ながら満喫。


13:30 リューベック

14:20 ハンブルク


ホテル代があまりにも高く、リスク承知で節約を試みたが、これは失敗だったか。ホテル内部はなんの問題もなく機能的で快適だが、危険地帯を通る必要があり…夜の回避方法を探る。大都市は多民族が居住するので、地域によって大きな差が出るのは避けられない。


実家があまりに近すぎる知り合いと初対面。ドイツでご近所さんが学んでいるということを知ったのも最近のこと、巡り合わせの面白さよ。


ブラームスハウスを数年ぶりに訪れたが、内部が大いに改装されていた。あまり小綺麗にならなくても良いのにな、と勝手に思う。

その後教会をいくつか。





この教会の空間の感覚をどう身体に落とし込み、音楽で表現するのか。記憶することはできても、それを他者に感じさせるように表現するには、大きな壁を超える必要があるなと感じた。


夜は初めてのエルプフィル。






入り口でチケットを通すと、長い長いエスカレーター。想像よりずっと観光地、テーマパーク的な空気を感じた。あまりに全てが煌びやかで、ここで自分が録音で知るNDR、ブラームスの音がどう響くのかあまり想像が出来ない。

この日の演目は春の祭典をメインにしていたので環境と演目にそこまでのギャップはなく、観客は大盛り上がり。一曲ごとに拍手が起き、それが最後まで引き続いたのは驚いた、大抵ここは拍手しないものだと途中から気づくものだが、それも少々建物全体の気配が作用しているのかもしれない。懐古主義というわけではないが、あまりに現代的すぎるのもどうなのかしらと思ったり。


帰りは危険を回避するためにタクシーに。ドライバーとホテル近辺の治安について聞くに、タクシーは正解。明朝の移動は問題なさそうで一安心。



8/31


朝は流石に身体が重い。アルコールのせいか、疲れのせいか、時差ぼけのせいか…まあ疲れだろう。


一日シュヴェリーンを堪能。2万歩ほど歩く。

当地オーケストラで活躍するヴァイオリニスト、一本芯の通った素晴らしい音楽家、学生の頃に室内楽を組み、2019年には日本でしっかりしたリサイタルで共演させていただくなど、音楽面での繋がりは当然あるのだが、それ以上に野球をしていた時間の方が長いのではないかという仲。シュヴェリーンの地でもキャッチボールをしたが、自分の肩の絶望的な弱り具合に歳を大いに感じて意気消沈。

来年どこかで共演できないかと提案、お願い。






大きな街ではないが、まことに素晴らしい街である…。

こういう街を歩くことによって得られるエネルギーは果てしない。東京の喧騒からはどうしても得ようがないものがあるのだと再認識したが、もしかしたら素晴らしい音楽はこのエネルギーを内包しているのかもしれない。音楽家は喧騒の中に生きていたとしても、全く別の空間を生み出さねばならないのだろう。

演奏する意義に関する新しい空間が開けた瞬間だった。それを実践するには現実離れした努力と時間(と才能)が必要だなとほのかで重たい不安も腹の底にはいるが、酒で押し流し旅を続ける。