「まぐろは赤身!」
信じられない話ですが、
私が子供の頃、マグロのトロの部分は、
ハラスと言って、
脂くさくて、捨てていたそうです。
マグロと言えば、赤味だったのです。
それが、今や、美食の王様みたいになってしまいました。
逆に赤味は、
マグロの部位のヒエラルキーの底辺になってしまいました。
しかし、私は、敢えて
「マグロは赤身だ」
と主張したいと思います。
特に漬け(ヅケ)は素晴らしい。
脂の臭みがなくなり、身が絞まり
マグロの味覚を最大限に引き出すものだと思います。
少し前に、行き着けの鮨屋で、
大間のマグロのトロがあるというので、
試しに食べてみたら、
一っかん食べただけで、
気分が悪くなってしまいました。
逆に、ヅケは素晴らしく、
その味覚は、比較にならないほどでした。
私が推測するに、
日本人の食生活が変化して
脂っこいものを好むようになって、
舌の感覚が変化してきたのではないのでしょうか。
トロが好きな方には失礼だと思うのですが、
脂っこい食事を好むにしたがって、
日本人は、
味覚が鈍くなってきたように思います。
「人の顔」は、
とても不思議だと思います。
理想の目や鼻や口を理想のコンポジションで作り上げた顔は、
没個性的なつまらない顔になってしまいます。
以前に撮影した、
スーパーモデル、クリスティ・ターリントンは美人の典型と言われていますが、
結構パーツ的には面白い顔でした(そのうち掲載します)。
写真は、セルビア出身のモデルです。
アナスタシアという名前で、
10年以上前に、某海外化粧品メーカーのタイアップ広告で撮影しました。
顔のパーツは、ひとつひとつは、お世辞にも美形ではなかったのですが、
表情としてまとまると、とても魅力的でした。
ボスニア紛争中に、日本に出稼ぎに来ていました。
家族はイタリアに逃げて、国には帰ることができないと、
話してくれました。
撮影したのはクリスマス直前、ちょうど今頃です。
クリスマスに故郷に帰ることができなくて悲しそうでした。
NikonF4+105mmマクロ、フィルム:コダクローム
「寒くなると~」
1980年代後半のニューヨーク、マンハッタン地区は
最もホームレスが多い時期でした。
市がシェルターを用意していたのですが、
そこには、ホームレスへの支給品を目当てにした強盗が出没し、
死者も頻繁にでていたので、
彼らにとっては街角が安住の地でした。
冬の朝、5番街では、
寒さに震えるホームレスの脇を、
何千ドルもしそうな毛皮のコートを着たレディが
さっそうと歩いているというような、
信じられない光景を目にすることができました。
マンハッタンでのこと、
寒波が到来した、ある朝、
アパートを出て少し歩くと、ホームレスが路上に寝ていました。
ちょっと様子がおかしいので覗いてみると、
手が硬直したままです。
凍死していたのです。
その少し先にいた黒人のホームレスは
弱りきっていて目に涙を浮かべながら何か訴えていました。
信じられないことですが、
寒波が来ると、
こういった光景があちこちで展開していたのです。
世界一豊かな国で一番富が集中した地区で、
繁栄と隣り合わせの極貧と死。
自分には理解不可能な状況に、
アメリカという国や、
行き過ぎた資本主義に対する疑いが自分の中に、
次第にできあがっていくのを感じました。
そろそろ東京も寒くなってきましたが、
冷え込んだ早朝に表に出ると、
いつもニューヨークのホームレスのことが頭を過ぎります。
最近、かつてニューヨークで感じた、
精神的な寒々しさを、
日本でも感じるようになりました。