「寒くなると~」 | 泳ぐ写真家龍之介

「寒くなると~」


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1980年代後半のニューヨーク、マンハッタン地区は

最もホームレスが多い時期でした。

市がシェルターを用意していたのですが、

そこには、ホームレスへの支給品を目当てにした強盗が出没し、

死者も頻繁にでていたので、

彼らにとっては街角が安住の地でした。

冬の朝、5番街では、

寒さに震えるホームレスの脇を、

何千ドルもしそうな毛皮のコートを着たレディが

さっそうと歩いているというような、

信じられない光景を目にすることができました。


マンハッタンでのこと、

寒波が到来した、ある朝、

アパートを出て少し歩くと、ホームレスが路上に寝ていました。

ちょっと様子がおかしいので覗いてみると、

手が硬直したままです。

凍死していたのです。

その少し先にいた黒人のホームレスは

弱りきっていて目に涙を浮かべながら何か訴えていました。

信じられないことですが、

寒波が来ると、

こういった光景があちこちで展開していたのです。


世界一豊かな国で一番富が集中した地区で、

繁栄と隣り合わせの極貧と死。

自分には理解不可能な状況に、

アメリカという国や、

行き過ぎた資本主義に対する疑いが自分の中に、

次第にできあがっていくのを感じました。


そろそろ東京も寒くなってきましたが、

冷え込んだ早朝に表に出ると、

いつもニューヨークのホームレスのことが頭を過ぎります。

最近、かつてニューヨークで感じた、

精神的な寒々しさを、

日本でも感じるようになりました。