福島事故後、私は子供に食べさせる食品のことが心配になり書籍やネット上で
低線量内部被曝についての情報を集めた。だが結局のところ、流通している
汚染食品が安全か危険かどうかはわからなかった。
内部被曝について調べていくと「何ベクレルの食物を摂ると計算上は何シーベ
ルトの被曝であるから、科学的に考えれば危険性は低い」という考察につきあ
たる。
男性(特に理系)は理屈で考える人間が多いので、科学的にみて危険性が低いなら
心配ないだろうと思ってしまいがちだ。
けれど本当にそうだろうか。
科学的な視点はもちろん大切だ。
だが医師がみているのは“科学的に解明されていること”だけではない。人体に
何が起きているか観察することもまた重要なのだ。
ステロイド外用剤という薬がある。皮膚の炎症を抑えることを目的にアトピー性
皮膚炎などで頻用される薬だ。皮膚科医の指示通り使用すれば安全な薬とされている。
しかし、一部の患者ではステロイド外用剤を中止することにより生じる激しい悪化
(リバウンド)がみられ、意図的にステロイドを中止する医師もあらわれた。(彼ら
は脱ステロイド医とよばれる)
彼らの医療行為は一定の成果をあげたが、大学や学会などの権威筋からは「ステロイ
ド外用薬にリバウンドはない。脱ステロイドは科学的な根拠がなく患者を苦しめる
だけの治療だ」と激しい非難をうけた。
だが最近の研究では、ステロイドの長期使用は皮膚のバリア機能を低下させることが
分子レベルでも解明され、必ずしも脱ステロイドが非科学的だとはいえないことが
わかってきた。
私はすべての脱ステロイドを肯定しているわけではないが、脱ステロイド医は患者を
よく“観察”していたのだと思う。
今では考えられないことだが医学会では、1950年代から1960年代にかけて水虫(!)
などの良性疾患に放射線を照射していた。(今でも一部の良性腫瘍に放射線を照射
することはあるが)
20世紀初期にはすでに放射線誘発ガンの可能性は認識されていたはずだが、当時の
医師たちはどう考えていたのだろうか。
彼らは非科学的であったのか。
当時の医学は今より遅れていたから、と笑うのは簡単だ。
しかし現在の医学レベルで放射線の人体への影響、特に内部被曝について科学的に
どれだけのことがわかっているというのだろう。
放射線が細胞にどう影響するのか、ある核種が体内でどのように動くのか等、不明な
点も数多くある。
福島事故の人体への影響をはかるには、机上でリスクを計算するだけでなく、日本人
の体に何が起こるのかを数十年にわたり“観察”するしかない。
福島事故を核実験フォールアウトやチェルノブイリと比較するむきもあるが、そもそも
放出された核種や食品汚染のレベルも違う。
ましてやチェルノブイリにおいては正確な線量評価と健康調査がなされているかは疑問
が残るし、しかも現在進行形の事故だ。今後20年間で、事故当時子供だった被曝者に癌
が増加する可能性もある。
われわれ日本人がすべきことは、子供たちの健康を第一に考えることだ。子供たちの未来
より、経済や私利私欲を優先してきた結果がこの原発事故なのだ。
「安全か危険かわからないもの」は子供達に食べさせるべきではない。
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