そして
わたしは
息子が障害を負ってすぐ
準備をしながら
息子を観察した
それはわたしは
自分が
そうだからだが
これまで
二人の娘たちにも息子にも
好きなことを
可能な限りさせてきたので
目が見えなくなり
コミュニケーションもとれなくなり
全く変わってしまったような
息子にも
彼の好きなことが
何なのか
あるのか
知りたかったからだった
そして
全盲だった息子が
よく
ずっと
読み聞かせをしてきた
300冊くらいの
絵本が並ぶ
本棚に行き
そこで
絵本をパラパラとめくっていることに
気づいた
でも
目が見えている様子も
絵本を見ている様子も
なく
ずっと観察していると
息子は
絵本をパラパラとめくる
その指の触覚を
楽しんでいるように
思えた
またさらに
観察をしていると
絵本を本棚から取り
その背表紙を歯で剥く
ということを
やり始め
それも
ビリビリと破れる振動や
音や触覚に
息子は無表情だったが
興味を持ち
楽しんでいるように
思えた
そしてそれも母に
「絵本が勿体ないから、止めさせなさい」
と言われたが
わたしは
全盲で
なのに多動で
コミュニケーションは
一切取れなくなり
水溜りの水を飲んだり
トイレの便器にすっぽり入ったり
台所のシンクに上り
水を飲むなどの
異常行動や水への執着が増え
抗癲癇薬の副作用で
一日中朦朧とし
やみくもに歩き回り
自傷行為も時折見られ
睡眠障害が
酷かったときは
昼間はドライブしながら
寝たら木陰に車を止め
何時間でも寝かせ
夜は一晩中
子守唄を歌いながら
おんぶをして
寝かせるなど
彼の世界から
一切の秩序が無くなった
と感じた息子に
そんな
秩序が現れたことが
泣くほど嬉しかったので
母にそう話し
母を振り切り
息子にとことん
それをさせた
そして次に
息子は携帯や
携帯のアンテナを
齧り始め
それも
母に
「電磁波は体に毒だから、止めさせなさい」
と言われたが
そんなことより
息子にやりたいことが
あるということが
発狂するほど嬉しかったし
わたしはこの時
生きていたので
息子が何であれ
何かに集中する時間は
安らぎで
だから
自分のためにも
それをとことんさせた
そしてそれが
ビデオデッキや
パソコンやゲームに
興味が移り
その都度家族に
壊れるから止めさせるよう
目が悪くなるから止めさせるよう
言われたが
わたしは
何台壊そうが
それをさせ続け
全盲で始まったのだから
何も怖く無い
とそれをさせ続け
その結果息子は
養護学校高等部の頃には
小学生のときから
何年もやり続けた
ゲームに関しては
たまに一緒にやっていた
わたしより上手になり
健常も障害も
関係無いくらいになった
そしてわたしは
リハビリを辞めた辺りから
何となく
息子にはなんとなく
世界に通用するような
才能がある気がしていてもちろんそれは
ゲームではなかったし
その世界が
そんなに甘いものではないのは
分かっていたが
このことで
やはり息子には
健常も障害も関係ない
才能がある
と確信した
そしてそれが
何なのかを
ずっと模索し続け
息子は
特別支援学校高等部の
一年生になった
そして
一年生の冬に
初めての
作業所体験があり
息子は
野菜作りやパン作りや
リサイクルや部品の組み立てなど
他の作業は全て嫌だ
と言ったが
ふと
作業所紹介の冊子の
わたしの目に止まった
市内のある作業所の
〝組紐〟という作業はどうか
と聞いたとき
「それがいい!」と言い
そこで
一週間
組紐の実習をした
そして
最終日に
わたしが
かけ違えや歪みのある
息子の組紐を
見たとき
他の方や
お友だちの組紐が
緻密に整う
美しい商品なのに対し
息子だけは
同じ配色や配列でありながら
どこまでも楽しそうな
作品だと
ハッとした
そして
「芸術が爆発している爆発している」
松山広視先生の話を聞いた
そして
わたしはすぐに
「ああ、この先生だ…」
と分かった
それは
ずっとわたしが
息子が何かを習うなら
息子の才能を
そのままにしてくれ
天井が無く
どこまでも共に成長してくれる
と思っていたら
その通りで
そして先生の
シンプルで
一見普通だが
その普通で在ることや
その表現や
バランス感覚や感性が
素晴らしい
と気づいたからだった
だから
「ああ、息子が表現する手段は
絵画で、この教室に通うんだ…」
と分かり
息子の組紐を見た
一ヶ月後に
わたしたちは
まつやま絵画教室に
初めて向かった
そしてわたしは
息子には
家で絵を描かせたことも
息子が描いたこともなく
学校の
図工や美術でしか
息子の作品は
知らなかったし
息子は
障害を負って
手の機能が物凄く低下し
リハビリをしても
あまり変化も見られず
字の練習をどれだけしても
名前などの平仮名や
数字が幾つか書ける程度で
だから
図工や美術も
先生方に手伝ってもらう事が
多かったので
わたしは
彼の純粋な作品を
あまり知らなかった
でも
まつやま絵画教室に
初めて向かう車の中で
息子が絵を描く前から
わたしは
「ああ、
もう出会った…」
と涙が溢れた
そして
話せるが
あまり自分の気持ちを
言わない息子も
その横で
「お母さん、僕、嬉しい…」
と言い
ああ、これは
息子の本音で
「もう、この夢からは
二度と覚めなくていいんだ…」
と泣いた