『発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第3章 日米欧における発達障害の増加
        ——疫学調査の困難さと総合的判断
92〜93頁

【第3章(15)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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 全国規模では疫学調査ではないが、前述の文部科学省の二〇〇二年のアンケート調査がよく引用される。全国の学校の先生に、「発達障害と思われる子ども」の数を報告してもらったもので、医学的診断ではなく「学校生活で困難をかかえている子ども」という先生の側からの視点が大きい。
 これで、全学童の六・三%(約一七人に一人)が発達障害児と思われるという驚くべき結果が出て、後の発達障害者支援法の成立、それが二〇〇七年からの特別支援教育の実施につながった。日本では、実際に増えて学校教育の現場が困り、子どもたちを支援するシステムを拡充するという、現実的な対応が行われた。
 二〇一一年、文部科学省はもう一度同様の調査を行ったが、今回は六・五%であった専門医による疫学調査ではないので、増減はいえない。発達障害かどうかの学校の先生方の判断のばらつきは大きいと推定され、二〇〇二年当時は教育界に普通の「学習になんらかの困難がある」という従来の《学習障害》の概念が判断を拡げたが、二〇一三年になると、先生方も典型的な発達障害の子どもをよく見ることになり、判断が一般に厳しくなったのかもしれない。
 日本では、自閉症をはじめとする発達障害の子どもたちに真摯にかかわってきた人たちが、増加を実感していたので、「増えた」「増えていない」論争は表だっておこらなかった。特別支援教育関係者も療育関係者も対応が必要な子どもが次から次へと増え続けている(図3-6)ので、その対策に追われている現状である。


 日本の関係者は発達障害児に日常的に接している人ばかりで現実を見ており、遺伝子解析技術だけの研究者などによるマスコミの誘導もなかったので、米国よりは健全だったといえる。