こんばんは!
アーユルヴェーダアロマサロンRe*ether~リエーテ~のセラピスト、ゆきこです。
年金やら選挙やら、何かとタイムリーな話になっているので
前回に引き続き、アルタについて
インド哲学の観点から健康との結びつきを見ていきたいと思います
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ダルマでは欲望や執着、たとえば「お金が欲しい」とか
「権力の座にいたい」に気をつけなさいと言ってるのに、
アルタでは追求しなさいと言われる。
「どっちが本当なの??」
……と白黒つけたくなるのですが
結論から言いますと
どちらも本当で、どちらも必要なのです。
アルタについて詳しく述べられているのが、
『アルタ・シャーストラ』(実利論)。
カウティリヤという、古代インドの諸葛孔明と呼ばれるような名宰相が記したといわれています。
カウティリヤいわく
「アルタが達成できれば、ダルマもカーマも達成される。」
だから、アルタを追求しなさい。としています。
(一方、ダルマを推奨するマヌ法典では
ダルマが達成できれば、アルタもカーマも達成されるとされています。)
ダルマとアルタ。
このふたつを天秤に乗せると思い出す、有名な事件があります。
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戦後、食糧が圧倒的に不足していたなかで、
配給だけではとても生きられなかった日本国民は
生きるためにヤミ市で食糧などを得ていたそうです。
でも、このヤミ市は、
食糧統制法という法律に反する違法のもの。
ヤミ市で物を売買することは、ダルマ(法)に背くことでした。
とある裁判官は、法を遵守する立場にありました。
ゆえに、「いかな悪法であろうとも、法に背くことはしない」と信念を貫き、
決してヤミ市に手を出そうとしませんでした。
そして、その結果、餓死してしまったのです。
*
この話を聞いたときに感じたのは、
「信念を貫くのは立派だと思う。
でも、果たしてそれが本当に正しいのだろうか……?」
という疑問でした。
インド哲学の考え方には輪廻転生があるので、
たとえば、そのダルマを果たすことが
その方の今生の最終課題だったとしたら
それで亡くなられても次の人生へ進んだ、
もしくは解脱できた、というふうに
捉えることができます。
この裁判官の方のケースでは、
ご自身が法の権力を持ち、法に背いた人を裁いていたので、
自分自身が法に背く行為はできないし、
また、そうすることが赦せなかった(背いていたら心のざわつき=病気を生じていた)
のかもしれません。
ですが。
もし、そのダルマをほぼ全ての日本国民が遵守していたら
どうなっていたでしょう……?
もしかしたら、いま、私は存在していないかもしれませんし、
日本国民の数も大幅に減少してしまい、
その後の高度経済成長というアルタの時代も
訪れなかったかもしれません。
ダルマ・アルタ・カーマの達成の仕方には
同時進行が最も望ましいとされていますが、
それとは別に、
ダルマを果たすときは、ダルマを優先する。
アルタを果たすときは、アルタを優先する。
カーマを果たすときは、カーマを優先する。
というふうに、
その時々(年齢や占星術上での適した時期など)によって優先順位が生じる
とも述べられています。
なので、ある方にとっては、
このときにダルマよりアルタを優先させて、
食べて生き永らえたから、
その先にあった今生の最終課題を達成できたのかもしれません。
また、心理学で有名なマズローの5段階欲求説に見られるように
人間の欲求には5段階の層があり、
下の層の欲求が満たされると、ひとつ上の層の欲求が生じる、とされています。
その最も基本的な欲求は、生きていくために必要な欲求。
つまり、食欲、排泄欲、睡眠欲といった本能に根ざすもので、
これが満たされなければ生命の維持が
できなくなってしまうといわれています
そして。
幸せになる(=解脱する)ためには、
生きている間に借金(カルマ)を返さなければなりません。
生きていない間にカルマは返せないので、
ダルマ・アルタ・カーマを達成するには
まず、この「生命の維持」という行為が
大前提として据えられていると考えられます。
(だから健康で長生きして、できるだけ多くのカルマを返そうねとなる。)
こう見てみると
現世はダルマやカーマだけでは生きられないことが、
実感として湧いてきます。
特に、現代の資本主義、貨幣経済においては尚更、
食欲や睡眠を満たす=生命を維持するという
大前提のために
アルタの重要性が増しているとも。
ただ、重要性が増しているということは
①それだけ不安や焦りなどの心のざわつき(病気)が生じやすく
②睡眠時間やカーマを削ってまで働いたり、
ダルマに背くことをして儲けようとしたりして、
心身の健康を損ねてしまったり、
③認識を違えれば、それこそ無知という
人を破滅させる敵を生じさせてしまう恐れがあるので
どう無知に惑わされることなく
病気にならないように基本的欲求を満たし
アルタを達成していけばいいのか、
その概念についても次回、触れたいと思います。