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カラムカリは、天然染料を使用して布地に手描きするインドの古い捺染芸術の伝統です。 この芸術はもともと、村から村へと旅する芸術家の団によって行われていました。「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」など、古代ヒンズー教の叙事詩や物語を歌ったり演じたりする上で、その一環として、物語に出て来るエピソードが大きな布に描かれて展示されていました。 後にこの芸術の応用はファッションにも広がり、現在、カラムカリはインドだけでなく、世界各地で人気を集めています。 日本でも売っていると思いますよ。

 

以下、サリーを販売している店が山繭糸(タッサー・シルクといいます)のカラムカリ・サリーの最新コレクションを紹介しているビデオです。中には、インドの「カラムカリ」と日本の「絞り」を融合させたものもあります。私はこの店とは何の関係もありませんが、紹介されているサリーがきれいだなと思いましたので共有させていただきます。

 

 

伝統的なカラムカリには 2 つのスタイルがあります。 元々のスタイルは、特殊なペンを使用し古代ヒンズー教神話等からのモチーフを完全に手で描く「シュリー・カーラハスティ」というスタイルです。後に木版印刷による抽象的なモチーフに基づく「ペダナ」というスタイルも普及しました。伝統的に使用されている染料は環境に優しい天然のものです。色んな種類の種、葉っぱ、小枝、黒砂糖、牛乳、など、天然物からさまざまな色が得られ、布地はいくつかの段階で染色されて行きます。 各段階後、布を流水で洗い、天日で乾かし、次の段階に新しい色が加えられます。 流水で洗い、天日で乾かすことで色が薄くなり、アウトラインがぼやけ、とても素朴で上品な雰囲気になります。

 

以下、「シュリー・カーラハスティ」スタイルのカラムカリの手描きと捺染芸術を紹介したビデオです。ものすごく労力のかかるプロセスですね!「設定→字幕→自動翻訳→日本語」を選ぶと、日本語で字幕が見られますが、残念ながらこのビデオの自動翻訳の質があまり良くないです。

 

 

このような、労力のかかる手芸は高価で売られなければ不公平だと思いますが、インドでは値段があまり高いとほとんどの人には手が届かないと思いますので、割と安く売られています。とにかく多くの人に買ってもらえたら芸術が生き残るということで、需給に応じた価格設定になっていると思います。

 

悲しいことに、仲介業者が利益のほとんどをとっておき、職人が搾取されているケースもあると思います。もちろん、搾取しているのはインドの仲介業者だけではありません。世界的高級ブランドほど、賃金の安い国の職人を搾取しながら大きな利益を稼いでいることはよく知られていることですよね。

 

しかし、インドでは最近デジタル・インフラが急速に普及しており、中小企業や零細企業が仲介業者を通さずに全国の顧客に直接販売できる制度も導入されていますので、カラムカリのような繊細な伝統芸術を大事に守ってくれている芸人にも明るい将来が待っているかもしれませんね。

 

Kalamkari painting by Anilbhardwajnoida

Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0

 

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このシリーズでは、インド各地の手織りの伝統を1つずつ紹介していきたいと思います。今回はカンチープラムのシルク・サリーを取り上げました。

 

カーンチープラムは南インド、タミル・ナドゥ州の最も古い都市の 1 つで、その記録されている歴史は紀元前 2 世紀まで遡ります。また、古代インドの神話にもカーンチープラムが「神々の織工の町」として言及されていますので、この町の絹織りの歴史は非常に長いものだと言えると思います。

 

カーンチープラムは、柱や壁に美しい彫刻が沢山刻まれた数多くの古代寺院でも有名ですが、これらの寺院からそのモチーフが取られていることがカーンチープラム・シルク・サリーの特徴です。モチーフは金メッキの銀糸を使用しサリーに織り込まれているため、本物のカーンチープラム・サリーはかなり高価ですが、非常に特別なものでもあります。

 

カーンチープラム・サリーは、美しいだけでなく聖なるものとも考えられているため、結婚式には欠かせないサリーとして親しまれています。カーンチープラムの寺院の多くが聖なる夫婦(シヴァ神とパールヴァティー女神、等)とその永遠の愛を祝っているため、寺院から取ったモチーフのサリーは、新婚のカップルに幸福と永遠の愛をもたらすと考えられています。

 

以下、カンチープラム・サリーを紹介したビデオと、サリーのモチーフが取られた壮大な寺院を紹介したビデオです。映像だけでも十分お楽しみいただけますが、「設定→字幕→自動翻訳→日本語」を選ぶと、わりと正確な日本語の字幕が見られます。

 

カーンチープラム・シルク・サリーの伝統

 

カーンチープラムの寺院

 

ちなみに、西暦5~6世紀あたりに生まれたとされる中国禅宗の開祖、そして日本でも達磨人形などで親しまれる、インド人仏僧「達磨大師」はカーンチープラム出身の人物でしたよ~。インド旅行を考えている方、カーンチープラムも行ってみてはいかがでしょうか?

 

カーンちープラムの職工

Photo credit: Kamal Venkit, 

Licence: CC BY 2.0 DEED

 

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インドの民俗衣装で女性が着る「サリー」は有名ですが、日本人(女性)の観光客にも人気のようですね。

サリーは大昔から着られている服装で、その着方は地域によってさまざまで、全て美しいと思いますので、今日はいくつか紹介しようと思いました。(以下、私が作ったビデオではありませんが)。

 

(1)南インドAndhra Pradesh州の「nivi」と言うスタイルで、今や全インド共通のスタイルともなっている。

「nivi」の他、「ulta palla」と言う名前でもしられるスタイル。

 

(2)東北インド, Assam 州の着方で、「mekehla chador」と言うスタイル。

 

(3) 西インド、GujaratやRajasthan州でよく着られる、「seedha palla」と言うスタイル。

 

(4)南インド、Tamil Nadu州の特に田舎の女性が着る「pin kosuwam」 と言うスタイル。

 

(5)東インド、West Bengal州の「atpoure」というスタイル。

 

サリーは一枚の布で、標準寸法は長さ5.5メートル、幅1.2メートル位です。この寸法は色んな体系の人にフィットしますので、サイズやフィット感を気にしなくて済む服ですね。今や世界各地で伝統服装よりも洋服を着る人が一般的になっていますが、インドではまだ多くの女性が伝統衣装を日常的に着ています。

 

1928 年のイラスト:インド各地で女性が着用するさまざまな民俗衣装

 

インドは昔から手織りの自然繊維(シルク、コットン、ウール等)の産業がその豊富な種類、繊細な染織技術、高品質等で世界的に有名でした。歴史を読むと、ヨーロッパ等の諸外国の貴族の間ではインドの織物が大人気だったことが分かります。おかげで、インドからの輸出が圧倒的に多く、古代ローマの政治家「ガイウス・プリニウス・セクンドゥス」が紀元後77年にインドとの貿易不均衡について、「世界の金が全てインドへ流れて行く」と嘆いたぐらいです。

 

しかし、イギリスの植民地時代、大昔から続くインドの織物産業が系統的に破壊されました。なぜなら、イギリスはインドから原材料(綿など)を採取し英国にもっていき、英国の工場で機械で織られた繊維を膨大なインド市場に売り込んで利益を上げる政策だったからです。そんな不公平な政策を実行させるためには、インド各地で織機が壊されたり、職人の親指まで壊されたり、残酷なことがされたことが知られています。

 

幸い、独立後インド各地で伝統的な手織り自然繊維産業が再び盛んになっております。以下、インド各地の伝統的なサリーの種類がいくつか紹介されています。その特徴などについては次回詳しく紹介します。

 

 

以下、インド自然繊維の歴史を紹介したビデオです。「設定→字幕→自動翻訳→日本語」を選ぶと、日本語で字幕が見られます。

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ヒンドゥスターニー古典音楽の理論を包括的にまとめて提供することがこのブログシリーズの目的の一つです。実際インド古典音楽の声楽や器楽を学びたい方向けにも利用できるリソースが多数あります。このページではそういったリソースを紹介しようと思います。

 

始める前に、私は東京・新宿周辺で初級・中級レベルの北インド(ヒンドゥスターニー)古典音楽の声楽レッスンをスタートしたく考えております。ご興味のある方は是非コメントにその旨一言残してください。10人ぐらい希望者が集まれば、2024年の夏頃からレッスンを開始しようと思います。詳細は後ほど共有させていただきます。

 

それでは、以下、インド古典音楽を学びたい方向けに便利なツールやリソース、インド古典音楽教育機関に関する情報、また、ボイス・トレーニングに関するヒント等を提供していきたいと思います。

 

便利なツールとリソース

 

否認:私はこのページに挙げたどの製品やサービスにもスポンサーされていません。ヒンドゥスターニー古典音楽を学びたい方がどこからスタートすればよいのか、わからない方が多いと思いますので、ご案内の目的で利用可能なリソースをまとめてみただけです。

 

デジタルタンプーラ・タブラ

 

ヒンドゥスターニー音楽を学ぶ方に最初にお勧めしたいものは、スマホからご利用できる練習用のタンプーラ・タブラのアプリです。元々タンプーラとタブラは楽器ですが、日本では手に入れにくいし、チューニング等が複雑で初心者には使いづらいこともあり、近頃はスマホにインストールしたアプリを練習に利用している人が増えています。私は「iTablaPro」というアプリを使っており、非常に気に入っていますが、これはiOS (iPhone) 向けのみとなっております。Androidのスマホをご利用の方も利用可能なアプリとしては「iShala」があります。「iTablaPro」も「iShala」も有料アプリです。

 

オンライン・データベース

 

SwarGanga Music Foundation は、ヒンドゥスターニー音楽のラーガ、ターラ(リズム)、バンディッシュ(ラーガ曲)などの膨大なデータベースを提供しています。 ラーガ・データベースには 500以上のラーガに関する情報、バンディッシュ・データベースには6000以上のバンディッシュ、ターラ・データベースには 74 のターラに関する情報が提供されています。無料でアクセスできる情報も多いが、多少有料な情報も含まれています(例えばバンディッシュの楽譜や音声等)。

 

インドでの古典音楽教育

 

インドでは普段、古典音楽の訓練は子供の頃から家庭教師の下で始めます。ほとんどの町や都市には、声楽や器楽の個人またはグループレッスンを提供する家庭教師がおり、子供たちは通常、放課後にこれらのレッスンに参加します。都市等では正式な音楽コースを提供する教育機関も沢山あります。最近ではリモートでレッスンを提供するオンラインスクールもたくさんあります。 生徒は、声楽や器楽の初級・中級・上級クラスに登録し、グループまたは個人レッスンを受けることが出来ます。リモートだと、音声が途切れたり、音が正確に伝わらない等のテクノロジー上の欠点はありますが、近くに学校がなければ便利であることは間違いないです。

 

大学の音楽学部

 

大学で音楽の学位を取得することも出来ますが、以下、ヒンドゥスターニー古典音楽の学位が取得できる有名な音楽学部の例です:

 

Gurukul 制度

 

教師(グル)の家族の一員となって何年にもわたって教育を受けるというインドの伝統的な教育制度(gurukul 制度と言いますが)は音楽の世界では、今も残っています。この制度により、グルの下で長年にわたって学び、本当の意味でグルの音楽伝統を継承することができます。有名な音楽家ほどgurukul 制度を通じて、自分の音楽や音楽スタイルを直接伝える弟子を沢山受け入れて訓練させています。

 

音楽認定試験制度

 

全国共通認定試験の制度もあり、受講方法に関係なく、段階ごとの認定試験に登録し受験することが出来ます。試験は Akhil Bharatiya Gandharva Mahavidyalaya Mandal によって実施され、合格すると該当レベルの合格証明書が出されます。レベルは、「prarambhik (初等)」 から始まり、「visharad (学士号に相当)」、「alankar (修士号)」、または「sangeetacharya (博士号)」 まで、多くあります。

 

ボイストレーニングのヒント

 

音楽のジャンルによって声の出し方が異なります。ジャズとオペラを比べてみるとっその違いがすぐ分かりますよね。あるいは、日本で言うと演歌と民謡での声の出し方の違い。インドでも、北インドと南インドの古典音楽に関して言えば、声の出し方や装飾が大きく違います。実際、ほぼすべての音楽ジャンルに独自の声の出し方があります。したがって、自分が学びたい音楽ジャンル内で手本を見つけることが重要です。

 

ヒンドゥスターニー古典音楽では、基本的には胸声を使用し、高いピッチを歌う時だけ胸声と頭声を適切に混ぜて使用します。ピッチが高くなるほど、頭声の割合が大きくなります。コツは頭声の比率を徐々に上げていくことです。

 

Anuradha Kuberさん(ヴォーカル、女性)

結婚式で歌われる北インド古典音楽曲

 

Shankar Mahadevanさん(ヴォーカル、男性)

Katyar Kaljat Ghusli 映画に出て来る北インド古典音楽曲

 

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以上、「第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース」でした。

このシリーズのほかのブログ(未投稿のものも含める):

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

 

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲

日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!

 

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3000~3500年前にどんな音楽があったのでしょうか?いくつか共有したい例がありますが、まずはヤジュル・ヴェーダ (紀元前1200~900) からこの戦闘の聖歌を紹介しましょう。

 

ヤジュル・ヴェーダ、戦闘の聖歌

 

上のビデオは、2 つ異なるスタイルでのヴェーダ朗読を紹介したものです。最初は、単純朗読スタイルである「サンヒタ・パータ」と呼ばれるもので、その後は、エネルギーを生み出し鼓舞させる複雑な朗読パターンである「ガナ・パータ」と呼ばれるものを紹介しています。

 

ヴェーダは古代インドのヒンドゥー教の経典です。 全部で「リグ・ヴェーダ」、「ヤジュル・ヴェーダ」、「サーマ・ヴェーダ」、と「アタルヴァ・ヴェーダ」と呼ばれる4つあります。いずれも大規模な詩集であり、宗教的と非宗教的なさまざまなトピックに渡る賛美歌や詩を含んでいます。リグ・ヴェーダ (紀元前 1500~1200 年) が最も古く、最も包括的な (10,600の節を含む)ヴェーダですが、その他のヴェーダは全てリグ・ヴェーダから派生したもので、リグ・ヴェーダに基づいています。

 

たとえば、リグ・ヴェーダは主に 3 つの音符を使用して唱えられますが、サーマ・ヴェーダ (紀元前 1200~900) 年はより音楽的なヴェーダです。「サーマン」という言葉はサンスクリット語で歌を意味し、英語の「hymn」という言葉の語源である可能性があります。 サーマ・ヴェーダは1,875のサーマンで構成されており、そのほとんどはリグ・ヴェーダの節を最大 7 つの音符を使用し、音楽としてアレンジしたものです。

 

1,875全てのサーマンの楽譜もサーマ・ヴェーダの欠かせない部分であり、音符やその他の情報を示すために数字 (または流派によっては文字) を使用して歌詞の上および隣に書かれています。

 

 

サーマ ヴェーダ、ラクシュミ スクタ、 ギリジャプラサド シャダンギ博士

 

聞いてみてお気づきかもしれませんが、上記のサーマ・ヴェーダの賛美歌には6つの音符が使用されており、7つ目 (最低音) の音符が示唆されています。歌詞の上部および隣にある数字やその他の記号は、音符、その長さ、強調、装飾パターン、繰り返しの必要性などについての情報を提供しています。

 

以下、多少古い写本の一部の写しです。

 

紀元前10世紀サーマ・ヴェダ、カウトゥマ・サンヒタ、ヴェヤガーナの西暦1672年に作成された写本、

ノルウェー・ショーエン・コレクション、サラ ウェルチ氏撮影、CC BY-SA 4.0 でライセンス供与

 

ヴェーダは保存と参照の目的で写本が作成されますが、音楽と音を忠実に保存する上、教師から生徒へと口頭で伝えることが厳密に定められています。口頭伝承では、楽譜は手のジェスチャーを通じて伝えられます。これらのジェスチャーは、教育上だけでなく、サーマンの歌唱時にも欠かせないものです。以下のビデオは、手のジェスチャーをデモンストレーションしたものです (CCで英語のキャプションが利用可能)。

 

手で見せるサーマ・ヴェーダ賛美歌の記譜(ヴェーダ研究局提供)

 

歴史家によれば、長い進化の初期期間を経て、紀元前 1500 年から 1000 年の間にヴェーダが成文化され、4つの詩集に集められました。 それ以来変わっていないと思われています。何千年にもわたって、ヴェーダの司祭がヴェーダを保存するために多大な努力をし、世代から世代へと、一語一語、そのイントネーションも変わることなく、忠実に伝えてきました。その正確な保存と送信を確保するために、複雑なクロス・チェッキングの方法が使用されています。結果、少なくとも過去 3000 ~ 3500 年間にわたって、破損することなく保存された、人類最古の歴史記録が今でも存在しております。

 

古代音楽と言えば、他にもメソポタミアの古代音楽の楽譜等がみつかっており、それを現代音楽家が再現したものもありますが、ヴェーダ音楽のユニークな点としては、楽譜だけではなく、その詠唱の伝統も途切れることなく、何千年も続いているので、まさに生きた歴史と言えるものだと思います。

 

また、ヴェーダはさまざまな場面で使用される聖歌や音楽の大規模な歌集でもあり、当時の音楽や社会を詳しく知る上で、貴重な歴史的資料となっております。

 

さらに2つ、サーマ・ヴェーダの聖歌のとても美しいビデオを以下に紹介します。米国やヨーロッパなど、一部視聴できない地域もあるようですが、日本では視聴できるようになっていると思います。

 

最初のビデオには、主に「村の歌」カテゴリーに属する曲が含まれており、これらは、村に住む世帯主が行う儀式の一環として歌われるものです。2 番目は、「森の歌」カテゴリに属する曲が含まれているようです。これらは、野生の空間に生息する神や動物、植物などのために、野生の中で歌われる目的のもので、主に意味のない言葉を使用しており、村の歌とはかなり異なって聞こえます。

 

サーマ・ヴェーダ、村の歌

 

サーマ・ヴェーダ、森の歌

 

人類の歴史の貴重な遺産であるヴェーダはユネスコの「世界記憶」そして「無形文化遺産」として登録されていますが、残念ながらあまり知られないままとなっております。もっと広く知られたいですね。ご友人など、ご興味のある方に是非シェアーしてくださいね!

 

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ほかにも以下、インド古典音楽についてのブログ等をご覧ください。

 

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

その他:

500年前に作曲された曲

日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!

 

 

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シンプルなメロディーでも、装飾が加わることによってその魅力が高まります。インドの古典音楽にはさまざまな装飾(alankar-「アランカール」)が使われます。中には、旋律に細かいニュアンスを加えるものもあれば、テクスチャーを与えるものもあります。さまざまな装飾が一緒になって、シンプルなメロディーに深みと表現力を与え、完成度の高い音楽を成立させます。

 

今回は、インドの古典音楽および準古典音楽に使用される主な装飾をいくつか紹介します。便宜上、声楽の例を使いましたが、以下の装飾はすべて器楽にも当てはまります。

 

装飾はインドのソルファ音節を使用して実演され、インドの記譜法を使用して説明されています。この表の「Solfa Syllable」と「Notation ID」の列をご参照ください。インド音楽に詳しくない方のために五線譜でも見せましたが、記号は西洋音楽の場合とまったく同じ解釈ができるわけではないので、ご注意ください。

 

Kan swar (カン・スワル)

音符はストレートで歌うこともできますが、インド音楽では、装飾音符(カン・スワル)が使われることが一般的です。隣接音符の少量(「カン」といいます)を加えることにより、メロディーが滑らかになり、その表現力が高まります。使い方としては、主要音符はよりしっかりと演奏され、装飾音符はよりかすかに演奏されます。どの音符が装飾され、どの音符が装飾に使われるかはラーガや旋律によって違いますので、正しい使い方には深い経験が必要です。

 

 

インドの古典音楽の特徴的な装飾と言えば、このカン・スワルです。適切なカン・スワルが使われなければ、もうインド音楽には聞こえません。このページに挙げられている他の装飾はすべて、ある程度は任意のものです。それらなしでも簡単な曲を歌うことはできますが、カン・スワルを取り除くと、インド音楽の本質的な特徴がなくなってしまいます。

 

Meend (ミーンド)

単純に言えば、ミーンドとは二つの音符をなめらかにつなげる装飾です。旋律のテンポが遅い時は、上述のカン・スワルもミーンドに似てきます。ミーンドは隣同士の音符をつなげる場合もあれば、かなり離れている音符をつなげる場合もあります。ミーンドの種類によっては、その開始音と終了音だけが明確に識別できる場合もあれば、途中の特定音符も加えて識別できる場合もあります。一部のミーンドは回り道をたどり、開始音と終了音の間のもの以外の音符を含むこともあります。

 

 

Gamak (ガマカ)

「ガマカ」は元々打楽器が叩かれた時に起きる振動を表す言葉です。音楽の装飾としては、振動を起こすように力強く音を出すテクニックであり、メロディーに三次元的な質感を加える装飾です。ガマカのパーカッション的な効果が一番聞こえやすいのは、母音を使用し、均等なペースで複数の音を連続的に勢いよく歌った時です。振動の強さや波長、使用する声の質などにより、さまざまな種類のガマカがあり得ます。

 

 

Khatka (カトカ)

カトカは、単一の音符を前後の音符も含む集団として演奏する装飾です。主要音符が最も目立ちますが、隣接する音符も一つか二つ含まれます。音符集団の中でどれが主要音符かというと、メロディーの構造に影響を与えることなく単一でも演奏出来る音符です。カトカは非常に一般的ですが、その使い方は決してランダムではありません。ラーガによっては、カトカの使用に適する音符もあれば、そうでない音符もあります。だからと言って、カトカが可能な音符が常にそのように装飾されるかというとそうでもありません。いつ、どの音符でどのようなカトカが適切であるかは経験で分かってくるものです。

 

 

Andolan (アーンドーラン)

アーンドーランは特定の音符に適用されるゆっくりした動揺です。この装飾は多くの場合微分音を使用するラーガの特徴であり、中でも微分音が使用される特定の音符に使われます。微分音は2つの音符の間にある不安定な周波数であります。アーンドーランを身につけることによって、音符を優雅に動揺させ、微分音の不安定性を有利に利用できます。

 

 

主に準古典音楽に使用される装飾

 

「ムルキ」や「ザムザマ」といった装飾は、準古典音楽や民俗音楽によく使われる装飾です。主流の古典音楽にはまれにしか見られません。

 

Murki (ムルキ)

ムルキは、2つまたは3つの隣接する音符を素早く軽やかに交互に演奏する装飾で、西洋音楽のトリルによく似ています。テンポの速い作品には、ムルキが軽く、鋭く演奏されますが、テンポの遅い作品にはよりゆっくりで優雅に演奏されます。

 

 

Zamzama (ザムザマ)

ザムザマは、鋭いガマクを使用して演奏される不均一なアクセントを持つ一連の音符です。ザムザマが適用されるフレーズ内の音符の長さはまちまちで、途切れ途切れの効果が得られます。この装飾は元々インド西部の民謡によく使われるものであり、同民謡から発展した「タッパ」と呼ばれる準古典音楽ジャンルにも使われます。

 

Malini Rajurkar (vocal)
Tappa in Raag Bhairavi

 

以上、「第5章 インド古典音楽における装飾」でした。

 

このシリーズのほかのブログ(未投稿のものも含める):

 

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!

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リズムの話をしましょう

 

ヒンドゥスターニ(北インドの)古典音楽で使用される主な打楽器は「タブラ」と「パカヴァッジ」です。タブラとは、大きさや材質の異なる2つの太鼓を両手で同時に叩き、さまざまな音を出す打楽器です。タブラが出す音には例えば、dhaa、ga、ge、gi、ka、ke、dhi、dhin、tin、tun、tit、ti、te、ta、tr、naa、ne、re、kat、taa、dhaage、tita、tirikita等があります。もちろん、これらはタブラの音の発声にすぎません。これらの音がさまざまにつなぎ合わされて多くのリズムパターンが作られ、伴奏や演奏に使われます。

 

リズムパターンは「~taal(~タール)」と呼ばれ、例えば「Teen-taal」、「Ek-taal」、「Jhap-taal」などのような名前が付きますし、リズムの概念そのものも「タール」または「ターラ」と呼ばれます。ビデオはヒンドゥスターニ古典音楽のさまざまなジャンルに使用されるタールを紹介したものです。

 

 

各タールが何セクションかに分かれていることに気が付きましたでしょうか。セクションに分けることで、タールが理解・認識しやすくなります。例えば、Teentaal(16拍子)は各4拍の4セクションで構成され、Ektaal(12拍子)は各2拍の6セクションで構成されます。Ruupak(7拍子)は非対称的で、それぞれ3拍、2拍、2拍の3セクションがあります。全セクション合わせて1つのサイクルになります。

 

タールはどのように機能するのか

 

インド古典音楽においては、タールをサイクルとして理解することが非常に重要です。実際どのジャンルにおいてもリズムは周期的ですが、2拍子・3拍子・4拍子等の短いパターンだと直線的に聞こえることもなくはないと思います。インド古典音楽には、16拍子や12拍子などの長いパターンが非常によく使われますので、リズムは周期的であることをしっかり理解しておかないと、正しく使うことが出来ません。

 

以下3つのビデオを使ってタールをサイクルとして見ることの重要性を説明していきます。最初の2つのビデオは、Ek taal(12拍子)と Teen taal(16拍子)にフィットした曲を使って、インド古典音楽におけるリズムの使い方を紹介しています。3番目のビデオは、曲とタールの枠を使った即興演奏の仕方を紹介し、タールをサイクルとして考える重要性を見せています。

 

インド古典音楽の楽曲は全て特定のタールを念頭に作曲されています。つまり、一行一行が、そのタールのパターンにフィットするように作曲されています。次のビデオは、その各行が Ek taal にぴったりフィットした曲を紹介しています。

 

 

上は非常に簡単な例でしたが、すべての曲がタールの1拍目から始まるわけではありません。また、各行が1サイクル内にぴったり収まる必要もありません。なぜなら、全ての曲が行進曲のようなリズムを持つ必要がなく、曲によっては協調される部分とそうでない部分がタールのそれぞれとぴったりマッチしない場合もあるからです。それでも、可能な限り合わせたいということで、曲の各行の最も強調される音節をタールサイクルの1拍目に一致させます。

 

次のビデオは、Teentaal(16拍子)にフィットされた曲を見せたものです。

 

歌詞:

eri aali piya bina, sakhi,

kal na parat mohe ghari-pala chhina-dina

jab se piya pardes gavana kino

ratiyan kaTata hain taare gina-gina

 

この曲には、太字で示されている音節が各行の最も強調される音節で、この音節がタールの1拍目と一致するように作曲されています。結果、曲の協調音節とそうでない音節は、Teentaalの強弱パターンに上手に適合しています。

 

 

タールの1拍目は、「sam(サム)」と呼ばれ、特別に強く打たれて強調されます。曲の各行の最も強調される音節がタールの1拍目と一致するようになっているため、リズムとメロディー両方が強調され、サムは聴衆にとっても聞き取りやすく、古典音楽の演奏において重要な役割を果たします。

 

即興演奏と「サム」の役割

 

インド古典音楽には何種類かの即興演奏が行われますが、中には曲をもとにした即興演奏があります。この場合、曲は即興のための旋律的かつリズム的な骨格を提供します。演奏者は演奏したい曲(ほとんどが4行ぐらいの非常に短いもの)を選び、それをもとに20分も、30分も、場合によっては一時間以上の即興演奏を行います。曲をもとに演じられる即興演奏には、例えば、曲の歌詞を使い旋律のバリエーションを演じる方法があります。

 

バリエーションを演じる時の主なルールはタールを正しく守ることです。これは例えば、バリエーションがオリジナルと同じ長さであれば自然に出来ますが、それだとアーティストの創造性が制限され過ぎてしまいますので、バリエーションの長さに制限をかけず、オリジナルに戻った時「サム」を正しく演奏することだけで済むルールになっています。タールの1拍目がその最も目立つ拍であり、旋律の最も目立つ音節がこれと一致することが演奏を一貫させるのに十分で、これにより、アーティストは作品から離れ過ぎず、創造性を発揮する十分な余地も与えられます。

 

前の例で使用された Teen taal の曲を使ってバリエーションの演じ方を見てみましょう。行毎にオリジナルを前に演じ、その後バリエーションを演じます。バリエーションを演じるときのルールを守るため、太文字の音節はタールサイクルの1拍目の「サム」に一致させます。

 

 

以上、簡単にやり方を見せただけのものですが、プロが演奏はレベルが違います。

 

アンキタ・ジョシさん(ヴォーカル)

音楽は0:25分スタート

 

タールの標準構造

 

タールを定義するその標準構造は「theka(テカ)」と呼ばれます。たとえば、Teen taal のテカは

 

dhaa dhin dhin dhaa / dhaa dhin dhin dhaa / dhaa tin tin taa/ taa dhin dhin dhaa」

 

と表します。太字で表示される拍は強く打たれ強調されるもので、「ターリ(拍手)」と呼ばれ、斜字体で表示される拍は「カーリ(空)」と呼ばれます。この用語は、練習の時手で拍子をとる伝統的な方法に由来しています。タブラでは、ターリの拍は少し強く、カーリの拍は少し静かに打たれて演奏されます。

 

さまざまな音や強さの拍をつなぎ合わせることで、各タールは独自のシークエンスを持ち、他のタールとの区別がつくだけではなく、タール内のどの部分が打たれているか、聞いて分かるようにもなっています。これは演奏者が、即興で旋律のバリエーションを演じながらタールにも耳を傾け、正しく「サム」に戻る上で大事です。

 

タブラ自体の演奏について

 

タールの標準テカは、その最も単純なバージョンにすぎません。多くの場合テカにバリエーションを入れることで、タブラ演奏自体をもっと面白く出来ます。たとえば、スローテンポの時は、拍と拍の間に長いギャップが空いてしまうので、それを埋めるための追加的な拍を入れますが、これによってタールの詳細バリエーションが生まれます。

 

しかし、どのテンポでも、タールの定義が崩れてしまわない範囲内で、旋律や雰囲気に合わせたタールの様々なバリエーションを演じることで演奏の美しさを引き出すことが出来、これが一般的です。

 

また、普段リズムは旋律の伴奏をする補助的な役割を持ちますが、リズムが主役になることもなくはないです。既存のタールの枠組みに基づいて作成された複雑なタブラ作品が「lehra(レヘラ)」と呼ばれる単純なメロディーを背景に演奏されるタブラのソロパフォーマンスも見られます。また、ラーガ演奏の中に短いタブラソロが組み込まれることもよくあります。

 

 

テンポ

 

音楽のテンポは「laya(ラヤ)」と呼ばれます。ヒンドゥスターニ古典音楽の演奏は、非常に遅いテンポ(1分間につき15拍子程度、つまり15 BPM)で始まり、徐々にテンポが上がり、400 BPMを超える速いテンポで最高潮に達します。

 

演奏はいくつかのセクションに分かれており、あるセクションが終わり次のセクションが始まると、テンポが一段上がるのが普通ですが、セクション内でも常にテンポが徐々に上がるため、演奏のテンポについて正確なBPMを規定することは出来ません。非常に遅い(ativilambit)、遅い(vilambit)、中ぐらい(madhya)、速い(drut)、急速(atidrut)等の記述のみが使われます。大まかに言えば、遅いテンポは30~70 BPM、中ぐらいのテンポは70~180 BPM、速いテンポは180~350 BPMです。

 

タブラは、さまざまな音を出すことができ、ピッチを調整して旋律に合わせることが出来る珍しい打楽器だと思います。普段リズムは補助的な役割を持ち、背景に存在するものと考えられていますが、タブラ伴奏によって演奏が非常に魅力的でエキサイティングなものになることは間違いありません。

 

以上、「第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方」でした。

 

このシリーズのほかのブログ(未投稿のものも含める):

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!

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ラーガとは?

 

ラーガはスケールから派生するものなので、まずはスケールとは何かを理解しましょう。

 

1 オクターブには 12 の音があります。スケール(つまり音階)はこれら 12音の中から特定の音を選択することによって作成される「音楽のテーマ」ともいえるものです。 1 オクターブの 12音を12の異なる「色」と例えましょう。では、この12色のうち数色だけを選んで絵を描いたらどうなるでしょうか。バイオレット、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジを選択したとします。この配色で無限の美しい絵が描けます。それでも、これらの絵はすべて何等かの識別できる性質を共有し、他の配色に基づく絵とは違います。音楽のスケールも同じように機能しています。

 

どこの音楽でも、スケールの概念は共通しています。古代ギリシャの音楽は、スケールに似通った概念で、「モード」というものがありました。現代西洋音楽には、長音階、短音階、ペンタトニック・スケール、ジャズ・スケール、ブルーズ・スケール等があります。日本の伝統音楽も音階に基づいています。ビデオは、キーボードを使用し、インド古典音楽の10親音階(「thaat」と言う)を紹介したものです。

 

 

スケールを使った作曲は、該当音階の音だけを使い、それらをさまざまに組み合わせて旋律を作るものです。デモを見るには「ここ」をクリックしてください(該当部分は0:34分からです)。

 

ラーガはスケールとどう違うのか?

 

スケールは、選択された一連の音からなります。選択された音だけを使う限り、自由自在に組み合わせることが出来ます。ラーガはもう少し具体的に定義されます。スケールの枠組みの中でも、上り音階と下り音階(aarohとavroh)が別々に定義されます。これにより、各スケールから多くのラーガが得られます。ビデオは、KafiスケールとAsavariスケールから派生するいくつかのラーガを見せたものです。(インド音楽における音名とソルファ音節の説明は「この表」を見てください。)

 

「CC」を押せば日本語字幕が見られます。

 

 

 

ラーガの上り音階と下り音階の構造によって、その旋律が流れるための自然な経路が開きます。これにより、各ラーガの旋律には独特の流れ(「チャラン」と呼ばれるもの)が発生します。BhimpalasiとBageshreeは両方ともKafi音階のラーガであり、全体では全く同じ一連の音が使われています。しかし、上り音階と下り音階の違いにより、BhimpalasiとBageshreeの流れ(つまりチャラン)、ひいては、その旋律が大きく異なります。ビデオはその違いをデモしたものです。

 

 

上で見たように、ラーガのチャランはその上り音階と下り音階の構造によって決まる部分が大きいが、各ラーガの独自性や旋律の特徴に寄与する要素は他にもあります。

 

全ての音を共有しているにもかかわらず、BhimpalasiとBageshreeの旋律がかなり違うのは、その由来が違うからです。ラーガの多くは、インド各地の地元音楽に由来していますが、例えば遠く離れた二つの地域で偶然同じ一連の音が使われることがあるかもしれませんが、各地それぞれ音の組み合わせ方等が違いますので、全く別々のラーガが出来上がっても当然だと思います。

 

一方、同じ由来を持つラーガなら、基本的に似ている部分が大きいです。例えば、BhimpalasiとDhaniは、Dhanashreeという古いラーガが途中から別々の方向に進化していった結果出来上がった二つのラーガです。このためBhimpalasiとDhaniは基本的にはすごく似ています。が、時間の経過とともに別々の影響を受け、現在ではそれぞれ明確な独自性を持つものになっています。ビデオは、「似ているが、異なる」この2つのラーガを比較しながら、ラーガの独自性に寄与する重要な要素を説明・デモしたものです。

 

 

お知らせの後記事が続きます

東京・新宿周辺で初級・中級レベルの北インド古典音楽の声楽レッスンをスタートしたく考えております。ご興味のある方は是非コメントにその旨一言残してください。10人ぐらい希望者が集まれば、2024年の夏頃からレッスンを開始しようと思います。詳細は後ほど共有させていただきます。

 

ラーガの分類

 

インド古典音楽には何百ものラーガがあり、それらを構造や、親音階、ラーガ族、季節感、雰囲気等に基づき色んな風に分類できます。ラーガに与えられる季節感や雰囲気は主観的ですが、構造や、親音階、そして、ラーガ族に基づく分類は、ラーガをさまざまな観点からよりよく理解するのに役立ちます。

 

構造 (jaati) に基づく分類

ラーガは、上り音階と下り音階の音の数に基づいて分類されます。例えば、audav-audav(5音5音)、shadav-shadav(6音6音)、 audav-shadav(5音6音)等。また、多くのラーガは、上りと下りで音符の数こそが同じでも、音符自体が違うこともあります。上記の両方を考慮した上で、対称的なラーガと非対称的なラーガに区別出来ます。さらに、ラーガの構造に関しては、くねったラーガ(vakra raag)、混合ラーガ(mishra raag)、複合ラーガ(jod raag)等もあります。

 

親音階(thaat)に基づく分類

ラーガは10親音階の下に分類することも出来ます。たとえば、♭3と♭7を使用するラーガはKafi thaatに分類され、♭2と♭6を使用するラーガはBhairav thaatに分類される、など。

 

ラーガ族(raagang)に基づく分類

ラーガ族とは、同じ由来を持つ、旋律の流れ(チャラン)が似通っているラーガの群れです。30ぐらいのラーガ族が認められていて、ほとんどのラーガがその下に分類できます。

 

難しいラーガ

ラーガの中では、割と簡単なものも、割と難しいものもありますが、難しいラーガの特徴は何でしょうか?難しいラーガは、例えば音程が難しかったり(隣同士の音の間の距離が短すぎたり、長すぎたり)、旋律の流れが複雑だったり、微分音が使われていたり、別のラーガとあまりにも似ていて独自性を保つのが難しかったりします。

 

これら、ラーガの分類について実演奏にもリンクしながら、次回以降のブログで詳しく紹介します。

 

以上、「第3章 ラーガとは?」でした。

以下、このシリーズの他のブログ(未投稿のものも含めて)です。

 

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

 

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!

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インド音楽で言う「ラーガ」(詳しくは→ラーガとは?)を簡単に説明すると日本の「音階」に似ていますが、今日は日本の音階にあたるインドのラーガを探してみました!日本の音階といえば、基本となるものは「都節音階」、「民謡音階」、「律音階」、と「琉球音階」ですが、それぞれに一番近いインドの「ラーガ」が Bhinna Shadja, Bhimpalasi, Durga, とBehag だと思います。もちろん全く同じというわけではありませんが、似ていると思います。

 

(1)ラーガ ビンナ・シャッジャ。都節音階にあたるものです。都節音階というと、「さくらさくら」が有名ですよね。以下、Ashwini Bhide-Deshpandeさん(1960生まれ)によるラーガ ビンナ・シャッジャ(ヴォーカル)です。都節音階に似ているかどうか、聞いてみてください。(インド古典音楽は大抵ゆっくり始まってだんだんペースが速まって行く仕組みになっているので、冒頭のペースが遅いと感じたら、ビデオの途中からお聞きください)。

 

 

(2)ラーガ ビンパラーシ。民謡音階に大分似ています。民謡音階は上がりも下がりも5音音階ですが、ビンパラーシは上がり5音(ド、ミ、ファ、ソ、シ)、下がりは7音(ド、シ、ラ、ソ、ファ、ミ、レ)使われますので、少しだけ違いますが、それでもかなり似ていませんか?以下、Nikhil Banerjee氏(1931-1986)によるシタールでのラーガ ビンパラーシです。

 

 

(3)ラーガ ドゥルガー。これは律音階と同じ音が使われています。律音階は日本の雅楽によく使われる音階ですね。有名なもので日本の国歌「君が代」があります。以下、Hariprasad Chaurasia氏(1938年生まれ)により笛で演奏されたラーガ ドゥルガーです。

 

 

(4)ラーガ ベハーグ。これは琉球音階(沖縄音楽の音階)に似ているものです。聞いたらすぐわかると思います。以下、Shivkumar Sharma氏(1938-2022)によるサントゥールでのラーガ ベハーグの演奏です。

 

 

皆さんはどう思われますか?似ているかどうか、是非コメントで教えてください!

 

***

 

他のブログ:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲

 

「インド古典音楽について」シリーズ

 

第1章インド古典音楽の概要

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

 

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ヒンドゥースターニー(北インド)古典音楽では、オクターブは「サプタク」と呼ばれ、「スワラ(swara)」と呼ばれる7つの音から形成されます。これら7つのスワラの名は「サ、レ、ガ、マ、パ、ダ、ニ」といい、西洋のそれぞれ「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」に相当します。

 

主音(サ)と五度(パ)以外のスワラ(レ、ガ、マ、ダ、ニ)には、それぞれ2つ、バリエーションがあります。「レ」、「ガ」、「ダ」、「ニ」にはそれぞれナチュラルとフラットのバリエーション、「マ」にはナチュラルとシャープのバリエーションがあります。「サ」と「パ」は1つずつしかありません。したがって、バリエーションも含めて、1オクターブには12の異なる音があます。

 

お知らせの後記事が続きます

東京・新宿周辺で初級・中級レベルの北インド古典音楽の声楽レッスンをスタートしたく考えております。ご興味のある方は是非コメントにその旨一言残してください。10人ぐらい希望者が集まれば、2024年の夏頃からレッスンを開始しようと思います。詳細は後ほど共有させていただきます。

 

ビデオは、キーボードを使用して各スワラのナチュラルとフラット・シャープバリエーションの違いをデモしたものです。いずれの場合も、まずはナチュラル、次にフラットあるいはシャープを歌いました。主音(サ)にはピアノのCを使いました。ナチュラル音は赤、フラット音はピンク、シャープ音は栗色にして色分けしました。

 

(Video) ナチュラル対フラット・シャープ

 

表1は、オクターブ内の12音の詳細をまとめたものです。「Note Name」列には、shuddha(ナチュラル)、komal(フラット)、およびtivra(シャープ)の形容詞で各音のバリエーションを示しています。「サ」と「パ」は、バリエーションがないため、形容されません。

 

次の列の「Notation ID」というものは記譜する時に使われる記号です。スワラ名称の最初の文字を使い、大文字・小文字の使い分けによって二つあるバリエーションの内の高・低ピッチが区別されます。具体的には「S, r, R, g, G, m, M, P, d, D, n, N」と並び、それぞれ「ド、♭レ、レ、♭ミ、ミ、ファ、#ファ、ソ、♭ラ、ラ、♭シ、シ」に相当します。

 

ヒンドゥースターニー古典音楽では、主音(サ)のピッチは自由に選択できます。しかし、一旦「サ」のピッチを決めてしまえば、残り11音のピッチが「サ」からの距離によって決まります。また、1オクターブ内の12音の順番は常に「ド、♭レ、レ、♭ミ、ミ、ファ、#ファ、ソ、♭ラ、ラ、♭シ、シ」であり、「ド」に続くピッチが「#ド」になったり、「レ」に続くピッチが「#レ」になったりすることはありません。

 

表1.ヒンドゥースターニー音楽の音

 

3番目の列は、声楽に使われる各音のソルファ音節を示しています。2つのバリエーションを持つスワラは、両方同じソルファ音節が使われます。バリエーションが2つあっても、同じ「スワラ」であるからです(これには複雑な理論があり、またの機会に説明します)。7つの「スワラ」の正式名称は、シャッジャ、リシャバ、ガンダーラ、マディヤマ、パンチャマ、ダイヴァタ、ニシャーダです。

 

ソルファ音節は「サルガム(sargam)」と呼ばれますが、「sa re ga ma」のスワラ名を簡単に合わせて作った言葉です。サルガムは稽古の時だけではなく、即興演奏の本番でも、旋律展開の一つの手段として使われます。

 

以下、Venkatesh Kumar氏が9:10分から11:15分までの間にサルガムで即興演奏しています。(ちなみに、Raag Durgaは日本の「律音階」に相当する音階です。)

 

Venkatesh Kumar、Raag Durga

 

表1最終行の「サ」は次のオクターブに属し、「S」の後に引用符を付け「S'」と記譜されます。メインオクターブの下または上のオクターブの音は、前や後に引用符を付けて記譜することによって、どのオクターブに属しているかを示します。以下、Cを「サ」とした時の記譜となります。

 

Cを「サ」とした時の記譜

 

移動ド

インド古典音楽は可動式オクターブを使っています。つまり、主音(サ)のピッチは自由に選べます。もちろん、一旦「サ」のピッチを決めたら、その他の音は「サ」からの距離によって決まります。

 

Cを「サ」とした場合のオクターブ

 

B♭を「サ」とした場合のオクターブ

 

親音階

上に見てきたように、1オクターブには合計12音があります。でも音楽には普段そのすべてが一度に使われるのではなく、12音の中からいくつかを選んで作曲に使います。インド古典音楽では、12音の様々な組み合わせによる沢山の音階が使われていて、これらは「ラーガ」と呼ばれます。現在インド古典音楽には約500のラーガが知られています。

 

ラーガは分類の仕方が色々ありますが、その1つには「タート(thaat)」と呼ばれる親音階があります。タートは、古代ギリシャ音楽の「モード」に似ていて、主には10タートあります。タートは全て7音音階であり、7つのスワラ(サ、レ、ガ、マ、パ、ダ、ニ)が全て一回ずつ含まれる必要があります。ただ、各スワラのどのバリエーション(ナチュラル・フラット・シャープ) が含まれるかによって音階に違いが発生します。ビデオは、10タートをデモしたものです。前回と同じく、主音(サ)にはCを使い、ナチュラル音を赤、フラット音をピンク、シャープ音を栗色で色分けしました。都合上ビデオの速度を少し早めにしましたが、設定ボタンをクリックして自由に速度を調整してください。

 

10タート

 

初心者は全音ナチュラルのBilawal音階(SRGmPDN)から学び始めます。

Bilawal音階 - クリックして聞いてください

 

表2. 全てナチュラル音のBilawal音階

 

音楽に使われる音の自然由来

 

音楽に使われる音は、主音(サ)との距離によって周波数(ピッチ)が決まります。これらの周波数は主音と調和しているため、音がはっきりして聞き心地がよいのです。他の周波数では、音は不協和音になります。全ての音楽には主音があって、意識してもしなくても、音楽を聴いた時にその主音が私たちの脳にはわかるのです。脳に主音が分かるからこそ、音楽を勉強していない人でも調子はずれの音はすぐに気が付くのです。したがって、主音との関連で聞き心地の良い11の周波数、合わせて1オクターブ12音という制度は、世界各地の音楽文化に共通しているものです。

 

ビデオは、振動、周波数、および共振に関係しています。主音と調和している周波数を見つけたときに何が起こるか、また、心地よいピッチとそうでないピッチがある理由の視覚化に役立つでしょう。

 

 

以上、「第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音」でした。

以下、このシリーズの他のブログ(未投稿のものも含めて)です。

 

第1章インド古典音楽の概要

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!