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音楽は社交的な活動であると同時に、非常に神秘的な体験でもありえます。古代インド人は音楽の神秘的な力に深く感銘を受け、そこからインド古典音楽が誕生しました。この音楽は紀元前1500~1000の間に成文化された古代インドの聖典ヴェーダ(Veda)に由来すると言われています。真剣に取り組む人にとって、古典音楽にはひたむきな献身と生涯にわたるコミットメントが必要ですが、音楽のいいところは、好きなように真剣に受け止めることも、さりげなく楽しむこともできることです。真剣でなくてもやりがいがあるのは嬉しいところですね。

 

お知らせの後記事が続きます

 東京・新宿周辺で初級・中級レベルの北インド古典音楽の声楽レッスンをスタートしたく考えております。ご興味のある方は是非コメントにその旨一言残してください。10人ぐらい希望者が集まれば、2024年の夏頃からレッスンを開始しようと思います。詳細は後ほど共有させていただきます。 

 

ほとんどの音楽には、メロディー、リズム、ハーモニーの 3 つの主要な要素があります。インド古典音楽は元より瞑想的で精神的な性質が強いため、主に旋律の展開に焦点を当てていますが、演奏の時はリズムも重要な役割を果たし、メロディーに質感、官能性、そして目的意識を与えます。インド古典音楽におけるハーモニーは、主にタンプーラ(楽器名)によるものです。タンプーラは弦楽器であり、弦が必要に応じて主音 (sa) と 5 度 (pa)、 または主音(sa) と 4 度 (ma)等にチューニングされます。適切にチューニングされた弦が旋律の背景に一定のパターンで弾き続けられます。これは分散和音のようなものになって、ハーモニーの効果があります。しかし、西洋音楽に見るようなハーモニーはインド古典音楽には見られないし、インド音楽においてはそれを求めないことが重要です。

 

Raag Durga, Partho Sarothy (sarod)

 

Raag Darbari Kanada, Jasraj (vocal)

音楽を「言語」と同じように学ぶ

インド古典音楽の学び方は言語の学び方と非常に似ています。例えば、言語は文法や語彙など、基本的なことを学んだら自分で文章を作って、自分が言いたいことをコミュニケートして行かなければ、意味がないですよね?同じく、インド古典音楽においても、基本的な音を学んだ後、ラーガ (音階)が紹介され、各ラーガに沿って自由に旋律を作っていくよう促されます。慣れ親しんだラーガに即興で旋律を作ることは、それほど難しいことではありません。私は演奏家になれるほどの才能など全くないが、自由に旋律を展開することができ、尽きることのない楽しさを手に入れたように感じます。

 

旋律だけなら、割と簡単に即興で展開出来るようになれますが、リズムに合わせて即興で展開しようとすると一気に難しくなります。また、まじめな訓練を受けたインド古典音楽家が出来るような、1時間以上の即興演奏等はまったく別の話です。人前の公演ともなると演奏の質が一定の基準を満たさなければいけませんし、演奏全体が明確な構造を持ち、首尾一貫して進行し、クライマックスに達し、結論に至る必要があります。これらすべてを即興で達成するには、何十年もの勉強、訓練、思案等が必要であり、幼いころから訓練を受けている人でも、40代、50代になってようやく一人前の演奏家になれるのが事実です。

ラーガ(raga/raag)とは?

ごく簡単に言うと、「ラーガ」は音階(スケール)に似たような概念です。1オクターブに12ある音の中から特定の音だけを選択して得られる「音楽のテーマ」ともいえるものです。音楽には感情を引き出す、または感動させる力がありますが、音階によって、引き出せる感情や作り出せる雰囲気が違うと思います。例えば、以下三つの音階を聞いて、どんな気分になりますでしょうか?

クリックして聞く:ビラワル(Bilawal)音階 (すべて自然音)

クリックして聞く:カフィ(Kafi)音階(3 度と 7 度がフラット)

クリックして聞く:バイラブ(Bhairav)音階 (2 度と 6 度がフラット)

 

私には、ビラワルが明るく、カフィが物懐かしく、バイラブが厳粛に聞こえます。

 

インド古典音楽は何百もある「ラーガ」の旋律的・感情的なポテンシャルを探っていく学術です。現在、 500あまりのラーガ (歴史的なラーガも含む) が知られています。演奏されなくなって消失していくラーガもあれば、新しく生まれて来るラーガも時折あるので、ラーガの数をはっきり申し上げることは難しいです。学生は100以上ある重要なラーガをすべて学び、その後自分の好きなラーガをいくつか何年もかけてマスターしていきます。

ラーガを視覚化してみよう

オクターブを光のスペクトルに例えると、音はスペクトル内の色のようなものであり、ラーガは色の組み合わせのようなものになります。スペクトル内のいくつかの色のみを選択することで、ある意味絵描きの「テーマ」が得られますよね。例えば、紫、青、緑、黄、赤を選んだ場合、これを使って、創造力次第では無限に美しいデザインが描けてしまいます。同じ配色を別の人に与えると、さらにその人の想像力も加わり、まったく新しいデザインも沢山生まれます。が、この配色に基づく全てのデザインがある色の質を共有していて、他の配色に基づくデザインとは簡単に識別出来ます。ラーガに関しても同じことが言えます。どのラーガも無限に旋律展開が可能ですが、これらは他のラーガの旋律と識別できるメロディーの質を共有しています。

ラーガの演奏

インド古典音楽の演奏は、基本的にラーガの演奏です (YouTube に「raag」と検索するだけで、何百万件規模のインド古典音楽の演奏が検索結果として表示されます)。演奏家は演奏したいラーガを選び、即興でそのラーガに基づき「音楽の絵」を描いていきます。演奏は 1 時間以上続くのが普通であり、あらかじめ作曲されているのは演奏の骨格となるごく一部で、残りは自由に即興で演奏されます。

インド伝統音楽全体における「古典音楽」の位置

インド古典音楽は日本語で良く「インド伝統音楽」とも称されますが、私は伝統音楽はもっと広いジャンルだと思います。これには古典音楽のほか、民俗音楽や大衆音楽など、もともとインド文化に由来する全ての音楽ジャンルが含まれるのではないかと思います。古典音楽は「理論化されている」という点が大衆音楽や民俗音楽との大きな違いであります。

 

ラーガの多くは、インド各地の民俗音楽に由来しています。民俗音楽の旋律を洗練したものが「ラーガ」です。一方、伝統的なインド大衆音楽ジャンルの多くは、インド古典音楽に基づいています。次に、インドにおける古典音楽、民俗音楽、大衆音楽等をどのように区別付けられるかについて見ていきましょう。

 

民俗音楽は、活気あふれたものでも、割と簡単で繰り返しが多いのが特徴であります。

Rajasthani folk music (vocal)
Genre: Folk

 

大衆音楽にはボリウッド映画音楽やガザル等が含まれますが、これらは場合によっては、ラーガに基づいていたり、古典音楽の装飾が使われたりすることがあります。しかし、大衆音楽は歌詞とバックグラウンド・ミュージックも主旋律とほぼ同じくらい重要な役割を果たすことが多いため、事前に作曲されます。

Muskurahat by Arijit Singh (based on Raag Mishra Madhuvanti)
Genre: Popular (Bollywood movie song)

 

準古典および軽古典音楽は、即興演奏部分が大きい、楽器伴奏が最小限といったところは古典音楽に似ています。ただ、本格的な古典演奏ほど複雑ではなく、演奏時間が短かったり、また軽い装飾を使い、軽いラーガに基づいていたりすることが特徴です。

Raag Mishra Charukeshi, Kaushiki Chakrabarty (vocal)
Genre: Semi-classical (Thumri)

 

古典音楽の演奏は、演奏家が訓練と規律の末に達成した素晴らしい創造性を発揮する場なので、演奏は即興で行われることが当たり前です。あらかじめ作曲された部分は演奏の骨格となる最小限のものと、楽器伴奏も最小限なものとなります。リズムのためのタブラと共鳴のためのタンプーラは必ず使われます。その他は、主要演奏家が一息したい時に隙間を埋めるような役割を果たす楽器として「サーランギー」や「ハルモニウム」が使われますが、これらはあくまでも陰から支える役割とみられます。

 

以下ラヴィシャンカル氏によるMishra Piluというラーガでのシタール演奏です。

Raag Mishra Pilu, Ravi Shankar (sitar)
Genre: Classical

 

さらに、インド古典音楽においても、大きく分けて 2 つ異なる伝統があります。北インドの「ヒンドゥースターニー音楽」と南インドの「カルナータカ音楽」の二つです。両方起源は同じですが、何世紀にもわたってそれぞれ異なる方向に発展していった結果、現在ではそのスタイルがかなり異なっています。私が語るのは主に北インドのヒンドゥースターニー音楽ですが、以下、南インドのカルナータカ音楽の例も挙げました。

 

Raag Kapi, M.S. Subbulakshmi (vocal)
Genre: Carnatic classical

 

以上、「第1章インド古典音楽の概要」でした。

 

以下、このシリーズの他のブログ(未投稿のものも含めて)です。

第2章 インド古典音楽におけるオクターブの12音

第3章 ラーガとは?(ラーガの概念を詳しく説明)

第4章 インド古典音楽におけるリズム(ターラ)の考え方

第5章 インド古典音楽における装飾

第6章 インド古典音楽の記譜

第7章 インド古典音楽のサブジャンルと曲

第8章 インド古典音楽における即興演奏の仕方

第9章 ラーガ演奏の構成

第10章 インド古典音楽を学ぶためのヒントとリソース

 

その他:

3000~3500年昔の神秘的な古代音楽

500年前に作曲された曲
日本の「音階」とインドの「ラーガ」:似ているものを探してみました!