また瞼が腫れた。
朝だと思って起きたら、午後の3:00だった。
休日出勤で、5:00からアポイントのある彼を慌てて起こす。
パンを焼いて、彼のぶんのコーヒーと、自分には紅茶を入れた。
切らしてしまっているバターの代わりに、はちみつを塗った。
忙しくシャワーを浴びて、スーツを着て、
あっという間に恋人は部屋から居なくなってしまった。
寝坊をしたせいで、今日は帰りが遅いらしい。
惰性で眠り続けた、午前中の時間が恨めしい。
私は、自分の紅茶を啜りながら、
彼が飲み残したコーヒーを台所に流した。
::
昨日の夜、私はひどく情緒不安定だった。
なんだかよくわからないけれど、
涙が止まらなくなったので、
お風呂に逃げ込んだ。
少しだけ声を出して泣いた。
本当にわけもわからず悲しくなった。
私と入れ替わりにシャワーをした彼が、
お風呂場から出てきた時、
私は寝たフリをしていた。
本当に眠りにつけたら楽なのに、と思いながら、
彼が体に触れてくれるのを待った。
求められることで、
寂しさを埋めてしまいたかったから。
何度もキスをしてから、
それでも涙を流す私に彼は困っていたのだと思う。
「傷つけてるの?」と、訊いた。
私は細かく首を振った。
違うの、そうじゃないのと否定をしたいのに、
涙がのどにつまって声が出なかった。
それからしばらく、
私が落ち着くのを待ってから、セックスをした。
体を重ねることは本当に重要だと思う。
快楽とは別のところで、
もっと素朴で奥深い感動がある。
そうして、私は少し、安心する。
::
怖くて仕方がない。
本当は知っている、涙の理由。
「必要だよ」と、言って欲しくて仕方がない。
私は何も出来ないから。
お金も稼げないし、
料理も下手だし、
セックスも上手じゃない。
わかってる。
こんな風に考えるのは馬鹿げてる。
一緒に居る理由は、
そういうことじゃない。わかってる。
先に眠ってしまった彼の腕枕を解きながら、
しつこく込み上げてくる涙を堪えた。
眠ろう。
それでも、2人ここにいるんだから。
明日の朝は私からおはようのキスをしよう。
彼の肩に、頬を当てた。
皮膚の温かさにほっとした。
約三十の嘘
約三十の嘘 特別版
普通に面白かった。
中谷美紀はすごくキレイで、
きれいめの服をあれだけ着こなせたら素敵だと思ったけれど、
目ヂカラがありすぎて泣き顔にひどく迫力があった。
椎名桔平は歯磨きが本当によく似合う。
あの歯ブラシは絶対にシステマだったと思う。
みんなそれなりにハマり役で、
ストーリーもそれなりに面白くて、
それなりの満足感があった。
うん。
とりあえずのど飴買いに行こう。
ノンシュガーのやつ。
- 角川エンタテインメント
さぁいこう
初出勤。
スーツが嫌いで、
「絶対に私服通勤が良い。」と宣言していた私だけど、
考えてみるとこの半年、ろくに服も買っていない。
季節の変わり目のこの時期、着る服がない。
なんて言っていたら遅刻してしまうので、
ともかくそれなりに見える服を着た。
さすがに初出勤なので、
ぴらぴらのワンピースはやめておいた。
新しい会社には、
真新しいデスクに、大きくて座り心地の良い椅子。
「新鮮さ」というプラスアルファを差し引いても、
ずいぶんと快適なオフィスだと思う。
「ドリウィ使えるんだっけ?」
「いえ。」
「コーディングはどれくらい出来るんだっけ?」
「これから第一歩を踏み出そうかな、って、とこですかね…。」
「・・・。」
「ちなみにフォトショップもほとんど使えません。」
と、小声でささやいてにっこりと笑った。
相手の苦笑に、はにかみ笑いを返す。
いまさら採用を取り消せはしまいと、高を括っている私。
一から叩き込んでもらう構えだ。
堂々たる態度で無知をさらけだした。
こういう事は最初が肝心だから。
「一生懸命教えてあげよう。」と、
思ってもらわないと、困る。
::
正直に言って、
転職は正解だった。
抱えていたいろんな問題が一気に解決した気がする。
前の会社を辞めたきっかけは、
確かに「逃げ」だった。
言い訳をすれば沢山あるけど、
出来る努力はもっと沢山あったと思う。
それでも今、
愛する人と同じ空気の中で暮らし、
好きな服を着て、
好きな色のネイルを塗って、
きれいなオフィスに通う。
4月のがむしゃらさとは違う、
穏やかで強靭な前向きさを感じながら。
::
♪~
自分を嫌いになっても
恋人を愛し続けることで
何とか取り戻してきたよ
~♪
と、小さな声で唄いながら雑踏を歩く私。
課題本
今日読んだ本。
内容は、カタカナが多いけれど、
それなりにわかりやすくて良いとして。
誤植が多すぎる。
大きなものから小さなものまで。
10個以上あったと思う。
数々の誤字脱字は100歩譲って仕方ないとしても。
ある章のはじめの3行が、
2,3コ前の章の始まりとまるっきり同じとかどうなんだろう。
画像の解説文が前のページのコピーしてそのまま、とか。
ちょっとびっくりした。
体温
誰かが帰ってくる、ということを知っていて、
ひとり部屋にいるのは楽しい。
今日は窓の外がひどく明るくて、
思わず出かけそうになったけれど、
日に焼けたくない、と思い返した。
私の体はいつになったら白く戻るのだろう。
GWに沖縄に行った時の日焼けが、
お尻のラインにまだ残っているし、
夏に焼けた腕の黒さもとれない。
今日は部屋に居よう。
勉強しよう。
もうずいぶんとwebとか触れていないし、
HTMLのタグも、あんまり覚えていない。
もともとあんまり知らないのだけど。
ともかく勉強しよう。
::
夕方、彼から電話があった。
今日も名古屋に行っている。
会議の合間に電話をくれた。
「帰ってくる?」と訊いた私に、
「帰るよ。飯食うかもしれないけど。」と答える。
彼の声は少しくせのある、甘い声だと思う。
一緒に生きていく中で重要なのは、
隣で体温を感じながら眠れるかどうかだと思う。
昨日の夜、思ったのだけど。
ふと、
「大事にしよう。」って。
抱きしめてくれる腕の優しさとか、
おでこに触れる唇のやわらかさとか、
ゆっくりと上下する胸の厚みとか、
全部。
全部大事にしよう。
ここが、私の居場所だから。
絶対に失わないように、
毎日、感謝をしながら眠ろう。
忙しい毎日を送る、
これからの自分に言い聞かせた。
