さぁいこう
初出勤。
スーツが嫌いで、
「絶対に私服通勤が良い。」と宣言していた私だけど、
考えてみるとこの半年、ろくに服も買っていない。
季節の変わり目のこの時期、着る服がない。
なんて言っていたら遅刻してしまうので、
ともかくそれなりに見える服を着た。
さすがに初出勤なので、
ぴらぴらのワンピースはやめておいた。
新しい会社には、
真新しいデスクに、大きくて座り心地の良い椅子。
「新鮮さ」というプラスアルファを差し引いても、
ずいぶんと快適なオフィスだと思う。
「ドリウィ使えるんだっけ?」
「いえ。」
「コーディングはどれくらい出来るんだっけ?」
「これから第一歩を踏み出そうかな、って、とこですかね…。」
「・・・。」
「ちなみにフォトショップもほとんど使えません。」
と、小声でささやいてにっこりと笑った。
相手の苦笑に、はにかみ笑いを返す。
いまさら採用を取り消せはしまいと、高を括っている私。
一から叩き込んでもらう構えだ。
堂々たる態度で無知をさらけだした。
こういう事は最初が肝心だから。
「一生懸命教えてあげよう。」と、
思ってもらわないと、困る。
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正直に言って、
転職は正解だった。
抱えていたいろんな問題が一気に解決した気がする。
前の会社を辞めたきっかけは、
確かに「逃げ」だった。
言い訳をすれば沢山あるけど、
出来る努力はもっと沢山あったと思う。
それでも今、
愛する人と同じ空気の中で暮らし、
好きな服を着て、
好きな色のネイルを塗って、
きれいなオフィスに通う。
4月のがむしゃらさとは違う、
穏やかで強靭な前向きさを感じながら。
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♪~
自分を嫌いになっても
恋人を愛し続けることで
何とか取り戻してきたよ
~♪
と、小さな声で唄いながら雑踏を歩く私。