2019年11月17日掲載
2025年12月20日改訂・再掲載
2025年12月23日改訂
琉球列島(本項では奄美大島以南を指します)に分布するブナ科は、本土とは少し違っています。
【琉球列島におけるブナ科の分布】
奄美・沖縄地方にはオキナワジイ(イタジイ)・オキナワウラジロガシ・アマミアラカシ・マテバシイ・ウバメガシ・ウラジロガシの計6種のブナ科が分布する。このうちオキナワジイ・オキナワウラジロガシ・アマミアラカシの3種は琉球固有である。6種のブナ科の分布は、島によって異なる。
表:琉球列島のブナ科の分布
【琉球のどんぐり】
・オキナワジイ(イタジイ)
学名:Castanopsis sieboldii ssp. lutchuensis
方言:シィー(奄美・沖縄・石垣)、シィジャ(首里)、シージャーギー(名護)、シイギ、シイヌキ
・オキナワウラジロガシ
学名:Quercus miyagii
方言:アカガシ(与那)、カシギー(奄美・沖縄)、カシンギ(具志堅・与那国)、カシ、マガシ、ハシギ
・アマミアラカシ
学名:Quercus glauca var. amamiana
方言:カシギー(奄美・沖縄)、カジギー(知花)、コーカー(屋部)、クカシ(漢那)
・マテバシイ
学名:Lithocarpus edulis
方言:クラン(辺士名)、クラルギー(与那)、ドゥングリギー(許田)、クダン、クダンカシ
琉球列島では、非石灰岩地の山地の山頂域や山稜付近の乾燥・風衝地に自生する。イタジイ二次林に混生し、山頂域の乾燥・風衝地では低木林となる。本土では公園樹や街路樹としても広く植栽されるが、琉球列島では都市部に植栽されることは殆どない。
・ウバメガシ
学名:Quercus phillyraeoides
方言:フルフルギー(伊平屋)、ナーナシギー(許田)、ウルフギ、パラパラギー、
伊是名島・伊平屋島ではトベラ-ウバメガシ群落を形成する。名護市許田に市指定天然記念物の個体があるが、自生か不明である。南西諸島では、葉裏に星状毛が宿存するケウバメガシと呼ばれるタイプが多い。沖縄各地で庭木として植栽される。沖縄県では絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。
・ウラジロガシ(ヤナギウラジロガシ)
学名:Quercus salicina
方言:シルカシ(与那)、クカシ(首里)、カチニ(与那国)
非石灰岩地の山地の尾根沿いや渓流沿いに自生する。オキナワウラジロガシと違って単幹になることは少ない。奄美群島では比較的多いが、沖縄島では稀で、石垣島・西表島には分布しないが、与那国島には比較的多いという特異的な分布をしている。台湾の低標高にもあるが、別種という見解もある。オキナワウラジロガシよりも高標高に生育するようで、沖縄島では国頭山地の頂部斜面にはウラジロガシが出現するが、海抜400m以下の地域にはオキナワウラジロガシが広く出現するという。奄美大島では低地から山頂部まで出現し、徳之島では天城岳の標高300~400mに分布する。沖縄県では絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。
尚、奄美大島産のものは葉が狭く、鋸歯が殆どないことから、牧野富太郎氏は変種ヤナギウラジロガシ(ヤナギガシ)と名付けている。しかし、葉が幅広の個体も存在するため、一概には言えない。与那国島産の葉は幅広で、裏は特に白い。
また、ウラジロガシとオキナワウラジロガシは混同されやすく、注意が必要である。両種の区別点は以下の①~③である。
①鋸歯はウラジロガシは鋭いが、オキナワウラジロガシは浅いかほぼ全縁
②小枝はウラジロガシは灰色、オキナワウラジロガシは黒色
③ウラジロガシは盛んに萌芽するが、オキナワウラジロガシは殆ど萌芽しない
・クヌギ
学名:Quercus acutissima
琉球列島に自然分布する樹種ではないが、戦前に今帰仁村呉我山などに植栽された。
【琉球列島の地史と生物分布】
一度も大陸と陸続きになったことのない島を海洋島といい、かつて大陸と陸続きであった島を大陸島という。
琉球列島(大東諸島を除く)は大陸島で約1200万年前(中期中新世以前)は大陸の一部だったが、その後海水面の上昇下降や地殻変動によって陸地の水没や海の陸地化が起こり、大陸や日本列島と陸続きの時期や大陸と離れて島となった時期が繰り返されたという地史がある。
屋久島・種子島と奄美大島の間のトカラ海峡に生物の分布境界線があり、これを渡瀬線という(厳密にはトカラ列島・悪石島と小宝島の間である)。植物地理区では全北区と旧熱帯区の境界となっており、温帯と亜熱帯の境界にもなっている。約150万年前(前期更新世)にはトカラ海峡がすでに成立し、陸橋経由で分布を拡大した生物はここで進出を阻まれた。トカラ海峡を挟んで生物相が大きく異なるのはこのためであると考えられている。
ブナ科は重力散布型種子であるため、陸続きでないと分布域を拡大することができないといわれ、海洋島には分布しないことが知られている。日本でも海洋島である小笠原諸島にはブナ科は分布しない。また、山地のある島を高島、ない島を低島といい、ブナ科は低島には分布しない。
個体群が分断化しやすい島嶼では種分化が生じやすいことが知られている。琉球列島のブナ科は、低温で大陸や日本本土と陸続きであった古い時代から残っている植物で、オキナワウラジロガシなどは隔離された環境下で固有種に進化したものと考えられる。
【琉球列島の気候と植生】
亜熱帯気候に属する琉球列島は、気温の年較差が少なく年間を通して温暖多雨である。東京は年間降水量1467mm・年平均気温16.1℃なのに対し、奄美大島は年間降水量2914mm・年平均気温21.6℃である。
琉球列島の植生は土質によって異なる。堆積岩類を主とする非石灰岩地の赤土酸性土壌(国頭マージ)では、オキナワジイ・オキナワウラジロガシなどのブナ科樹種が優占し、タブノキ・イスノキ・ホルトノキ・ヒカゲヘゴなどが混生する。隆起サンゴ礁を主とした石灰岩地の弱アルカリ性土壌(島尻マージ)では、ガジュマル・アコウ・ハマイヌビワなどのクワ科イチジク属の樹種が多く、ブナ科はアマミアラカシのみになる。沖縄島では嘉手納以北に国頭マージ、中南部に島尻マージが分布している。二次林では、リュウキュウマツ・イジュ・ホルトノキ・ハゼノキなどが多い。
オキナワウラジロガシが優占する山地の谷沿いの森林。
【やんばるの森林の現状】
やんばる(沖縄本島北部地域の総称)の森林は、琉球王府時代(1429~1879年)より建築材・造船材・薪炭材といった沖縄の森林資源の供給地としての役割を担ってきた。戦後では1945年の終戦後から1972年の本土復帰頃まで、復興建築材・薪炭材利用などのため強度な伐採活動が広域にわたって実施された。本土復帰後もダム建設・林道開発・皆伐などが行なわれ、森林の大部分は二次林や人工林になっている。
森林の構成樹種はオキナワジイ・リュウキュウマツ・イジュの3樹種で60%以上を占め、オキナワウラジロガシやイスノキなどの極相種は極めて少ない。自然度の高い森林は限定的にしか残っていないが、伊部岳から西銘岳までの一帯は1940年頃以降伐採されていない自然林となっている。
〈参考資料〉
・天野鉄夫 図鑑琉球列島有用樹木誌 沖縄出版 1989年
・屋比久壮実 植物の本 アクアコーラル企画 2007年
・安座間安史 沖縄の自然歳時記 沖縄文化社 2009年
・環境省那覇自然環境事務所 奄美・琉球諸島の生物多様性 2010年
・林将之・大川智史 琉球の樹木 文一総合出版 2016年
・鹿児島大学生物多様性研究会 奄美群島の生物多様性 南方新社 2016年
・谷口真吾 沖縄島の森林土壌と山地地形が育む多様な樹木 琉球大学 2016年
・鹿児島大学生物多様性研究会 奄美群島の野生植物と栽培植物 南方新社 2018年
・日本政府 世界遺産一覧表記載推薦書 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 2019年
・琉球の植物「データベース」 国立科学博物館
・奄美群島生物資源Webデータベース
・どんぐりを調べてみよう!-中琉球におけるドングリ豊凶モニタリング調査- 森林総合研究所 2022年








