2017年11月10日掲載
2022年11月8日改訂・再掲載
2025年3月29日改訂
和名:ウバメガシ(姥女樫)
学名:Quercus phillyraeoides
別名:イマメガシ、ウマメガシ
分布:本州(千葉県以西の太平洋側・瀬戸内海側)・四国・九州・南西諸島(黒島・種子島・屋久島・宝島・沖縄島・伊平屋島・伊是名島)。朝鮮、台湾、中国。
樹高:3~10m 直径:60cm 常緑小高木 陽樹
沿海地の乾燥した尾根や岩石地、急傾斜地に自生する。紀伊半島・四国では内陸部の渓谷の岩場にも生育する。瀬戸内海沿岸地域に多い。
葉は長さ3~7cm。上半分に浅い鋸歯があり、裏は淡緑色。若葉の頃は葉裏に星状毛が見られる。葉は厚くて硬く、乾燥や塩分に強い。また、葉は裏側に丸まるが、これは付着した波しぶきを落としたり、葉の裏側から水分が蒸発するのを防ぐ効果もある。新芽は茶色く、和名はこれに由来する。
瀬戸内海沿岸地域は、降水量が少なく乾燥する気候で、地中海性気候と類似している。瀬戸内海沿岸地域に多い本種を、硬葉樹(地中海性気候地域に分布する耐乾性を備えた常緑樹)とする見方もある。硬葉ガシ類は小形で肉厚、鋸歯のはっきりした葉をもつ特徴があり、ヒマラヤのQuercus semecarpifolia、地中海地方のコルクガシ(Q.suber)、セイヨウウバメガシ(Q.ilex)などがある。
花。4~5月に開花する。
どんぐりは、花の翌年の10~11月に熟す。
堅果は長さ2~2.5cm。歪な形で、左右非対称であることが多い。ウバメガシという名だが、殻斗は鱗状でナラの仲間である。
樹皮は黒褐色で、縦に割れ目が入る。生長は非常に遅い。沿海地では低木状になるが、紀伊半島などでは樹高20mにもなる。材の比重は1.0程度で木材の中で最も重い部類に入る。材は備長炭の原料とされる。和歌山県では県木になっている。
刈り込みに強く、生け垣・庭園樹・街路樹に利用される。
静岡県南伊豆町・子浦のウバメガシ群落(県指定天然記念物)。海沿いの急斜面や岩場に群生しており、防風林・魚付林として大切に保護されてきた。
トベラ-ウバメガシ群集は、マサキ-トベラ群集より風圧の厳しい土壌堆積の少ない立地に生育する。クロマツ・マルバグミなども混生する。尚、伊豆半島の海岸では変種・ケウバメガシ(後述)が多い。
静岡県沼津市・鷲頭山(沼津アルプス)のウバメガシ純林。伊豆半島では、内陸の低山の岩場でもウバメガシ群落が見られる。
愛知県南知多町・羽豆岬のウバメガシ林(国指定天然記念物)。塩分を含んだ風や冷たい風が強く吹くため、風上側の枝の成長が妨げられている。
【変種・品種】
・ケウバメガシ 別名:ハマカシ、シマウバメガシ、ウラゲウバメ 学名:Quercus phillyraeoides f.wrightii
葉が生長しても葉裏の星状毛が残る変種。伊豆半島・紀伊半島・四国西南部・鹿児島県大隅以南に分布する(※④)。ウバメガシの植栽に混入していることも多い。
左から順に、基本種の葉表・基本種の葉裏・変種ケウバメガシの葉裏である。ケウバメガシの葉裏には星状毛が生えており、汚れたような見た目になる。
・チリメンガシ 別名:ビワバガシ 学名:Quercus phillyraeoides f.crispa
ウバメガシの園芸品種。葉が細く、葉脈の部分が凹み、縁は反り返る。殻斗の鱗片は長い。愛知県甚古山に自生する。
チリメンガシの葉。播種しても親木の形質は受け継がれないことが多い。筆者は東京都目黒不動尊・小石川植物園、静岡県掛川市、京都御苑・京都府立植物園、大阪府立大学などで見たことがある。
【関東周辺のウバメガシ自生地】
・千葉県:勝浦市八幡岬(1本のみ)、南房総市岩井、鋸南町岩井袋・浅間神社及び集落周辺(数百株程度)。重要保護生物(※①②)。
・神奈川県:横須賀市武・岩崎山(約50株)。城ヶ島の群落は消滅した。横須賀市・叶神社にもあるが、植栽の疑いもある。絶滅危惧ⅠA類(※③)。
・静岡県:伊豆半島南部・西部の沿海地で群落を形成。下田市・下田富士、南伊豆町子浦、西伊豆町安良里・浦守神社、沼津市・久連神社、沼津アルプス、伊豆の国市・葛城山~発端丈山など。
千葉・神奈川県ではレッドデータブックに掲載されている。伊豆半島では沿海地だけでなく、やや内陸の岩場でも群生する。城ヶ崎海岸ではウバメガシは見られず、マサキ-トベラ群集であった。
<参考資料>
①千葉県レッドデータブック 2009年改訂版・2020年
②原正利・尾崎煙雄・磯谷達宏 分布北東限の自生地におけるウバメガシの分布と生育立地 千葉中央自然史研究報告 2005年
③神奈川県レッドデータブック2006
④川原勝征 南九州の樹木図鑑 南方新社 2009年