2017年9月8日掲載

2022年9月19日改訂・再掲載

2023年5月19日改訂

 

和名:マテバシイ(馬刀葉椎)

別名:マテガシ、マテバガシ、マタジイ、サツマジイ、トウジイ

学名:Lithocarpus edulis

分布:本州(房総半島~紀伊半島・鳥取県以西の日本海側)・四国・九州(対馬・壱岐を含む)・南西諸島(屋久島・種子島・トカラ列島・奄美大島・加計呂麻島・徳之島・沖永良部島・沖縄島・渡嘉敷島・座間味島・伊平屋島・久米島など)。自然分布は九州南部~南西諸島・長崎県対馬と推定される。日本固有種。

樹高:10~15m 直径:60cm 常緑高木 陽樹

 

沿海地や山地の尾根・岩場などの乾燥・風衝地に自生する。九州では標高900mまで生え、九州南部ではスダジイ・カシ類・タブノキなどと混生するが、陽樹的性質が強く優占種にはならない。薪炭利用や救荒食として古くから植栽されており、房総半島・三浦半島・伊豆半島・紀伊半島・四国・九州北部などでも野生化している。

 

葉は葉身8~25㎝、葉柄1~2.5cm。全縁で厚く、光沢がある。裏は金色。琉球地方では葉が細く、楕円形状の個体も多い。

 

花。6月に開花し、虫媒花で強い香りを放つ。


どんぐり。花の翌年の9~10月に熟し、黄褐色で細長く、底は少し凹む。堅果は長さ2~3cm。堅果は食用となり、種小名のedulisも食べられるという意味である。

 

樹皮は灰色で割れ目はなく、白い筋があったりする。

 

耐潮性があり、大気汚染にも強い。本土では公園樹、街路樹、庭園樹、防風・防火樹として広く植栽される。葉がよく茂るので、防音・防塵効果も期待できる。琉球列島では都市部に植栽されることは殆どない。

ムラサキツバメの幼虫は、マテバシイ・シリブカガシの葉を餌とする。ムラサキツバメは南方系の蝶で、国内での分布は近畿地方以西~南西諸島であったが、マテバシイの植栽により福島県の海岸まで分布を拡大した。

和名の由来は諸説ある。枝先に沢山の葉がつく様子を手に見立てて「全手葉椎」、「待てばやがてシイの実のように美味しくなる」という意味から「待てば椎」、葉がマテガイに似るから「マテ葉椎」、マテバシイの「マテ」は九州地方の方言であるが意味は不明などがある。

 

【房総半島のマテバシイ林】

 房総半島や三浦半島ではかつて、薪炭用や東京湾でののり養殖の漁具用としてマテバシイが植栽され、現在でも大規模なマテバシイ林が残っている。房総半島では烏場山・花嫁街道、高塚山、大房岬、三浦半島では三浦富士、武山、大楠山などでマテバシイ林を見ることができる。

 房総半島沿岸の丘陵地では、明治~昭和初期にかけてマテバシイが植林され、その面積は800ヘクタール以上にも及んだ。どんぐりは、太平洋戦争時には食糧として重宝された。また、房総名産のサバ節は今でもマテバシイの薪を使って作られており、サバ節の生産にも欠かせなかった。さらに、マテバシイ林にはバカマツタケという美味しいキノコが生える。戦前までマテバシイ林は薪炭林・農用林として利用され、バカマツタケもさかんに採った(※①)。

 しかし、プロパンガスや石油が普及した昭和30年代以降、薪炭の需要の減少により、マテバシイ林は放置されるようになった。枝葉がよく茂るため林内は暗くなり、林床に植物が生えず、生物多様性の低い林となっている。林床植生が殆ど見られないことで、表土が雨水で侵食され、マテバシイの根が浮き出した場所もある。

 尚、南房総市・加茂遺跡(縄文時代前期後半:約5500年前)からマテバシイの花粉や実が確認されている(※②)ため、元々房総半島に自生していた可能性も否定できない。

千葉県南房総市大房岬のマテバシイ林。房総半島の海沿いは殆どがマテバシイ林で、スダジイ・アカガシ・タブノキよりも圧倒的に多い。房総ではトウジイと呼ばれることもある。薪炭利用のために伐採されてきたためか、株立ちになった個体が多かった。また、マテバシイが規則的に並んで生えている場所もあり、明らかに植栽起源であることが感じられた。写真は2018年に撮影したもので、現在はナラ枯れが目立っている。

 

<参考資料>

①渡辺一夫 アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか 築地書館 2017年

館山市立博物館ホームページ