「ソロモンの偽証 前篇・事件 後篇・裁判」を観て | パンクフロイドのブログ

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ソロモンの偽証


KINE NOTEより

記録的な大雪が降ったクリスマスの朝、ある中学校の校庭で2年生の男子生徒・柏木卓也(望月歩)が遺体となって発見される。転落死したと見られ学校と警察は自殺と断定するが、彼は殺されたという目撃者を名乗る者からの告発状が届き、波紋を呼ぶ。マスコミの報道が熱を帯び混乱が深まる中、犠牲者が一人、また一人と増えていった。生徒の一人・藤野涼子(藤野涼子)は保身ばかりを考える大人たちに見切りをつけ、死の真相をつきとめようと動きはじめる。その結果、生徒の運営による学校内裁判が開廷される。人間の底知れぬエゴや欲望、悪意が渦巻く中、少女が学校内裁判の果てに見たものとは・・・。


製作:「ソロモンの偽証」製作委員会

配給:松竹

監督:成島出

脚本:真辺克彦

原作:宮部みゆき

撮影:藤澤順一

美術:西村貴志

音楽:安川午朗

出演:藤野涼子 板垣瑞生 石井杏奈 清水尋也 富田望生 前田航基

    望月歩 佐々木蔵之介 夏川結衣 黒木華 田畑智子 永作博美

    小日向文世 尾野真千子 津川雅彦

前篇・事件:2015年3月7日公開

後篇・裁判:2015年4月11日公開



前篇・事件


身も蓋もない話をすれば、単行本で3巻もある長編小説は、テレビドラマで連続放送するのが、一番良い方法だと思います。宮部みゆきの原作を映画化した作品は、過去にも「クロスファイア」「模倣犯」があり、いずれも成功作とは言いがたいです。大林亘彦監督作の「理由」は未見なので断定はできませんが、金子修介監督や森田芳光監督をもってしても、宮部みゆきの長編をコンパクトにまとめるのは、至難の業なのです。


膨大な情報量を限られた時間内に見せるには、思い切った省略が必要になってきます。そこで裁判を扱った作品として参考になるのが、上下2巻あるジョン・グリシャムの小説を映画化した「評決のとき」です。「評決のとき」の原作では、陪審員選出の部分に読み応えがあったのですが、映画ではその箇所をバッサリ切ったことによって、より引き締まった作品に仕上がっていました。


「ソロモンの偽証」も削除する箇所を明確にしたことで、大胆な省略が可能となり、非常にテンポの良い作品となっています。成島出監督は、原作の肝となる部分を適確に抑えており、ここぞと言う場面で、登場人物の内面を曝け出す映像を、強調もしくは2度3度繰り返すことによって、生徒たちが自主的に裁判を行なわねばならない理由を観客に刻みつけます。特に藤野涼子に対して、傍観者の立場でいられなくなる状況を作り、彼女が裁判を起こす動機が伝わってくるのは、この映画にとって非常に大きいです。


また、小説では告発状を出した人物が悪意の塊にしか思えませんでしたが、映画では同情の余地を残しながら描いているのも特徴的。この点は視覚効果が観る者に影響を及ぼしています。告発状を出した人物が、実際に暴力を振るわれているのを目にすれば、復讐したくなる気持ちも納得してしまいます。


観客には早い段階のうちに、告発状を出した人物が示されており、自殺、事故、他殺のいずれかに判断できるように、物語が構成されています。したがって、裁判に召喚された被告人の判決も、ある程度予測できるかもしれません。しかし、この映画に関しては、有罪か無罪かは然程重要ではありません。原作者の宮部みゆきは、その先にあるものを伝えたかったでしょうし、多分、成島監督もそのことを十分理解して、鍵となる後篇を撮ったと思われます。



後篇・裁判


後篇は中学生による裁判がメインとなります。ただし、人を裁く裁判ではなく、隠された真実を見つけ、人を救済するための裁判ですから、自ずと一般の裁判とは異なってきます。検事側と弁護側との応酬から生まれる裁判の醍醐味は見られず、弁護側が被告人を糾弾するという、あり得ない展開も起きてきます。原作では、隙の無い裁判劇が、中学生の運営する裁判に思えませんでしたが、映画では適度に素人っぽさを出すことによって、思春期における子供たちの未熟さが伝わってきて、寧ろ良い按配になっています。


自殺した柏木卓也が、話が進むに連れて、自分勝手な嫌な奴という印象になっていくのが、原作を読んだ者からすると違和感を覚えました。その要因は、柏木の家庭や塾でのことが、映画ではほとんど描かれなかったことによります。柏木の複雑な内面を観客に理解させようとすると尺が足りず、彼を「ダークナイト」のジョーカーのような存在に仕立て、人の触れられたくない部分を抉り出し、相手に罪の意識を植え付ける役割に徹したのは、少し残念な気がします。


また、判決が下されてからの展開が冗長になったのも惜しまれます。昨今の日本映画にありがちな、自分の心情を長々と吐露する一人語りは、個人的に好みではなく、映画の中で演説馴れしているアル・パチーノならばともかく、若い俳優には少々荷が重すぎるように思えました。観客に裁判を行なった意図を明確に伝える上で、もうひと押ししたかった気持ちは分かりますけどね・・・。


前篇に比べて後篇は、やや失速した感が否めませんが、それでも中学生を演じた若い俳優の頑張りは、観ていて気持ちが良かったし、膨大な量の原作をコンパクトにまとめ、目の前の問題に向き合わなければ前へ進めないという、作り手の想いは十分伝わったと思います。



ご参考までに、こちらは「ソロモンの偽証」の原作の記事です。


ソロモンの偽証 第1部 事件


ソロモンの偽証 第2部 決意


ソロモンの偽証 第3部 法廷