この2本は9月にCSで放映された際に観た映画です。「陪審員2番」はクリント・イーストウッドが監督し、「誘う女」はニコール・キッドマンが主演。二人とも先日亡くなった小林信彦氏のお気に入りでしたから、記事にするのもいいかと。「陪審員2番」は劇場公開が見送られ配信のみでしたから、テレビで放映されたのはありがたかったです。でも、小林氏は「イーストウッド作品が劇場公開されないなんて」と嘆きそうですね。
陪審員2番
映画.comより
ジャスティン・ケンプは雨の夜に車を運転中、何かをひいてしまうが、車から出て確認しても周囲には何もなかった。その後、ジャスティンは、恋人を殺害した容疑で殺人罪に問われた男の裁判で陪審員を務めることになる。しかし、やがて思いがけないかたちで彼自身が事件の当事者となり、被告を有罪にするか釈放するか、深刻なジレンマに陥ることになる。
製作年:2024年
製作:アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジョナサン・エイブラムズ
撮影:イブ・ベランジェ
美術:ロン・リース
音楽:マーク・マンシーナ
出演:ニコラス・ホルト トニ・コレット J・K・シモンズ キーファー・サザーランド
陪審員選出の場面は、映画ではなかなかお目にかかれないので、その意味では貴重な映画と言えます。ジョン・グリシャムの「評決のとき」は陪審員を誰にするか、検察側と弁護側の駆け引きに読み応えがあったにも関わらず、映画では完全にすっ飛ばしていて不満が残っただけに、主人公が陪審員に選ばれる過程を重要視したのは、監督の英断と言えます。
この裁判劇はシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」をかなり参考にしています。有罪が大勢を占める中、主人公一人が疑義を唱える点、先入観を持った者がいる点、時間を気にしてさっさと終わらせたい者が居る点、徐々に疑問が出始め五分五分になっていく点など多くの共通項が見られます。
しかも、陪審員の中で疑義を唱える主人公が事件の鍵を握っていて、その点が本作をスリリングな展開にしています。ジャスティン(ニコラス・ホルト)は裁判中に、恋人のラリー(キーファー・サザーランド)に殺害されたと思われた女性が、実は自分が知らずに轢き殺してしまったのではないかという疑念に囚われます。
ジャスティンは断酒会に入っていて、過去に大きなやらかしをして立ち直ろうとしていることを匂わせます。被告も裁判では恋人に酷い態度を取った過ちを認めた上で、遣り直そうとしたことを証言したため、ジャスティンは自分と重ね合わせ他人事とは思えなくなります。
こうしたことを踏まえた上で、彼は被告が有罪になることには良心の呵責を覚え、彼を無罪に導こうとします。ただし、被告の無実を証明すれば、自分が容疑者になる可能性も出てくるため、ジャスティンは双方の板挟みになって葛藤します。
一方、検察側の女性検事は野心に満ちていて、注目を集める裁判で勝訴し、検事長選挙を有利に持っていきたい思惑があります。相手の公選弁護人は彼女とも友人同士の間柄で、真実よりも政治的に裁判を利用しようとする彼女に懸念を抱きます。このように良心と正義のせめぎ合いを感じさせるサイドストーリーもドラマに厚みを与えていて、本作を見応えのある作品にしています。
ただし、遺体の状態から恋人の暴力と事故の見分けがつかない警察の杜撰な捜査や、裁判が始まってから初めて自分が関わっているのではないかと疑念を抱く主人公のマヌケっぷりには、色々と引っ掛かりを覚えました。最後は検事長になったフェイス・キルブルー(トニ・コレット)がジャスティンの自宅を訪れるところで幕となり、様々な事を想像させる意味深な終わり方でした。
誘う女
ウィキペディアより
天気番組のキャスターであるスーザンは、「テレビに出て有名になる」ことが人生で最も大切であると信じている。もっと有名になるためにニュース・キャスターを目指していたが、スーザンの夫はそれに理解を示さない。そんな夫が邪魔になってきたスーザンは、ある高校生を色仕掛けで唆して夫を殺害させる。そのことを知った夫の両親は、殺し屋にスーザンの殺害を依頼する。
製作:アメリカ
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:バック・ヘンリー
原作:ジョイス・メナード
撮影:エリック・アラン・エドワーズ
美術:ミッシー・スチュワート
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ニコール・キッドマン マット・ディロン ホアキン・フェニックス
1996年6月22日公開
本作は本人及び近親者や関係者の証言をもとに、ニコール・キッドマン演じるスーザンの人と成りを描いていく構成になっています。野心を剝き出しにした上昇志向の強い女の嫌らしさがある反面、零細の放送局で企画書を次々に出してくる、やる気とガッツは見上げたものがあります。
ただし、仕事に集中するあまり、家庭や夫を蔑ろにしがち。スーザン本人はラリーをいい夫と認めながらも、仕事に理解がないことを不満に思っています。有名になることに取り憑かれた彼女は、次第に夫が邪魔な存在になり、セックスをエサにジミー(ホアキン・フェニックス)を誑し込んで、自ら手を下さずに夫を亡き者にしようとします。
それにしても、殺人の計画が笑ってしまうほど杜撰過ぎ。しかも、この映画は実際の事件を題材にしているため、更に驚いてしまいます。映画ではラリーの父親がマフィアとの伝手があり、それが伏線となってスーザンの因果応報な末路に結びついていましたが、実際の事件では終身刑が宣告されています。因みに劇中ではレイナード・スキナードの「Sweet Home Alabama」が流れていました。