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パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

ナイトフラワー 公式サイト

 

チラシより

借金取りに追われ、二人の子供を抱えて東京へ逃げてきた夏希は、昼夜を問わず必死に働きながらも、明日食べるものにさえ困る生活を送っていた。ある日、夜の街で偶然ドラッグの密売現場に遭遇し、子供たちのために自らもドラッグの売人になることを決意する。そんな夏希の前に現れたのは、孤独を抱える格闘家・多摩恵。夜の街のルールを何も知らない夏希を見かね、「守ってやるよ」とボディーガード役を買って出る。タッグを組み、夜の街でドラッグを売り捌いていく二人。ところがある女子大生の死をきっかけに、二人の運命は思わぬ方向へ狂い出す---。

 

製作:「ナイトフラワー」製作委員会

配給:松竹

監督・脚本・原案:内田英治

撮影:山田弘樹

美術:佐々木理恵

音楽:小林洋平

出演:北川景子 森田望智 佐久間大介 渋谷龍太 渡瀬結美

             加藤侑大 渋川清彦 池内博之 田中麗奈 光石研

2025年11月28日公開

 

※酷評と若干ネタバレをしていますのでご注意ください

 

生活苦に陥ったシングルマザーが女性格闘家と手を組み、犯罪に手を染めていく内容にも関わらず、各エピソードの掘り下げが浅いため不幸や不運の羅列にしか見えず、その結果、重苦しさが感じられずサスペンスの足りない犯罪映画になっていました。

 

夏希(北川景子)が気絶した売人からドラッグをくすねた末に売ろうとすること自体無謀であり、彼女のボディーガード役となる多摩恵(森田望智)もデリヘル嬢のバイト時にラブホテルで清掃をする夏希を見かけ、彼女が倒れているところを自宅まで送るだけでは相棒となる動機も些か弱いです。

 

また、クスリ漬けにされた挙句事故死した娘の母親の星崎みゆき(田中麗奈)のサイドストーリーもツッコミどころ満載。夏希や多摩恵を逆恨みするのは良しとして、元刑事の私立探偵・岩倉(渋川清彦)に拳銃を調達してもらうに到っては頭を抱えたくなります。しかも、岩倉はみゆきに「変なことを考えていないでしょうね?」と念を押すのですから失笑してしまいます。あんたはダチョウ倶楽部か。

 

また、ラスト近くに多摩恵や夏希の娘・小春(渡瀬結美)に起きる出来事も、如何にも悲劇と思わせて実は・・・という一夜限りの花・月下美人にひっかけた“奇跡”演出も、内田英治監督のドヤ顔が浮かんできて、逆にヒロインの願望に過ぎない夢オチと解釈したくなります。

 

小春のヴァイオリンの才能に纏わる話を極力抑え、息子の小太郎(加藤侑大)の保育園の傷害事件を削除して(結局賠償の件は放りっぱなしのまま終わります)、犯罪行為によるサスペンスに特化したほうが話として締まったように思います。エピソードを広げ過ぎた挙句、薄味になってしまったのが惜しまれます。

兄を持ち運べるサイズに 公式サイト

 

チラシより

作家の理子は、突如警察から、兄の急死を知らされる。兄が住んでいた東北へと向かいながら、理子は兄との苦い思い出を振り返っていた。警察署で7年ぶりに兄の元嫁・加奈子と娘の満里奈、息子の良一と再会、兄を荼毘に付す。そして、兄たちが住んでいたゴミ屋敷と化しているアパートを片付けていた3人が目にしたのは、壁に貼られた家族写真の数々。子供時代の兄と理子が写ったもの、兄・加奈子・良一が笑いあうもの・・・兄の後始末をしながら悪口を言いつづける理子に、加奈子は言う。「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」もう一度、家族を想いなおす、4人のてんてこまいな4日間が始まった---。

 

製作:「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

監督・脚本:中野量太

原作:村井理子

撮影:岩永洋

美術:大原清孝

音楽:世武裕子

出演:柴咲コウ オダギリジョー 満島ひかり 青山姫乃 味元耀大 斉藤陽一郎

             岩瀬亮 浦井のりひろ 足立智充 村川絵梨 不破万作 吹越満

2025年11月28日公開

 

地元のシネコンではたまにおひとり様鑑賞する時がありましたが、ここ最近はどんなに少なくても一桁の観客は居ました。独占して鑑賞できたのは10年ぶりかもしれません。土曜日の朝一の回にも関わらず、この集客では今後の観客動員も危ぶまれすし、他のシネコンの状況はどうなのでしょうか。

 

それはともかく、映画の内容は悪くはありませんでした。ダメンズ好きとしては、オダギリジョーの愚兄ぶりが憎めないキャラクターもあって上々でしたし、彼に振り回される妹の理子や元女房の加奈子のしょうがないと思いつつも、ダメ男を突き放せない優しさが仄かに滲み出ていて、家族ドラマとしてホッコリさせられました。

 

理子(柴咲コウ)は兄の助けを求めるメールを無視したこと、加奈子(満島ひかり)は良一を別れた夫に預けたことを負い目に感じ、長男の良一(味元耀大)は父親の死に際に寄り道をしていたことで罪悪感を抱いています。映画は葬儀や遺品整理をすることで、各自がどのように喪失感と向き合っていくかが焦点になっています。

 

原作は未読ですが、主人公の名前が原作者であることから、自伝的要素が濃いと思われます。理子も葬儀に喪服を用意してこないなど、兄に負けず劣らず若干ポンコツな面が見られました。映画の題名はなかなか洒落ていて、確かに故人の骨は持ち運べます。でも、お骨をお裾分けする発想はありませんでした(笑)。

 

理子は兄の知らなかった面を発見し、忘れていた過去を思い出すことで、徐々に心の整理がつき始め、施設に一時預けられた良一の選択も明らかになります。この時点でサッと切り上げて終われば良かったと思いますが、その後も話が続きやや冗長に感じられました。いずれにせよ、オダギリジョーの剽軽なキャラクターが、喜劇に巧く作用した家族映画でした。

ラピュタ阿佐ヶ谷

祝 瀬川昌治 生誕100年 乾杯!ごきげん全員集合!! より

 

製作:東映

監督:瀬川昌治

脚本:井出雅人 野上龍雄

撮影:星島一郎

美術:井川徳道

音楽:木下忠司

出演:鶴田浩二 長門裕之 待田京介 大木実 頭師佳孝

             久保菜穂子 志村喬 金子信雄 藤山寛美

1967年1月14日公開

 

一匹狼の殺し屋の相良徹(鶴田浩二)は、雇い主の花輪(名和宏)の裏切りによって服役しました。8年の刑期を終えて出所した相良は、マンションで花輪と彼の情婦を射殺し、愛車ポルシェでその場を去ります。

 

その後、相良は金山興行の金山社長(天津敏)から、麻薬ルートの独占を計る競争相手の榊(内田朝雄)の殺しの依頼を3000万円で引き受けました。一方、榊も金山が自分を狙っていることを察知し、殺し屋の黒木(大木実)を用心棒として雇っていました。

 

関西に飛んだ相良は、南禅寺で榊を襲いますが黒木に阻まれます。相良は深夜、榊ビルに忍びこみエレベーターで夜を明かします。翌朝、榊が数人の護衛を連れて現われ、社長室に入る瞬間、相良は榊を射殺することに成功します。

 

首尾よく3000万円を手に入れた相良でしたが、協力者の西川(長門裕之)から花輪殺しの目撃者が現われたことを知って愕然とします。相良は目撃者の暗殺を謀り、警視庁に面したビルの屋上からライフルを構えます。刑事たちに物々しく囲まれて警視庁入りする目撃者。しかし、その目撃者は相良と顔見知りの少年・実(頭師佳孝)でした・・・。

 

鶴田浩二が射撃を得意とする暗殺者を演じた映画は「ギャング対ギャング 赤と黒のブルース」がありますが、残念ながらそちらは未見。本作では殺し屋が鉄道オタクという珍しい設定になっていて、趣味を通じて少年と親しくなる点、刑務所に入っていたため新幹線のことを全く知らない点など、特異な設定を巧く活かしています。

 

少年がプラレールの列車を届け先に置き忘れたため、戻って死体を発見するくだりは巧いと言いたいところですが、そもそも注文の衣装を届けるのにおもちゃを持ち歩くか?とツッコミを入れたくもなります。

 

それにしても、鶴田浩二はどんな役を演じても、良い意味で変わりませんね。かつて岡本太郎は「スターは大根であれ」と言いましたが、その意味するところは、主役を張る役者はどんな役を振り当てられても独自色を出せと言うことでしょう。

 

この映画でも東映悪役陣の層の厚さを感じさせます。鶴田浩二を裏切る依頼主に名和宏、天津敏に依頼された標的に内田朝雄、天津の組織に金子信雄と待田京介が居て、鶴田に恨みを抱く殺し屋の大木実と充実しています。

 

話自体は主人公と親交のある少年が、殺害現場から去った鶴田のポルシェを目撃し、そのことを知った鶴田が葛藤するのが映画の肝の部分なのですが、父親の志村喬との確執、鶴田を堅気の生活に戻そうとする久保菜穂子の話も絡めたため、話が些か散漫になったきらいがあります。

 

昔の映画を観る楽しみのひとつは、ロケーションで映し出された当時の風景を見られること。この映画でも鶴田と久保が追っ手を撒くため、京都の狭い路地を行きかう描写に惹かれました。昨今、観光公害によって京都がすっかり様変わりしてしまっただけに、インバウンドなぞという言葉が影も形もなかった60年代の風景の美しさは貴重に思えました。

TOKYOタクシー 公式サイト

 

チラシより

毎日休みなく働いているタクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)。娘の入学金や車検代、家の更新料など次々とのしかかる現実に、頭を悩ませていた。そんなある日、浩二のもとに85歳のマダム・高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から神奈川・葉山にある高齢者施設まで送るという依頼が舞い込む。最初は互いに不愛想だった二人だが、次第に心を許し始めたすみれは「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがあるの」と浩二に寄り道を依頼する。東京のさまざまな場所を巡りながら、すみれは自らの壮絶な過去を語り始める。たった1日の旅が、やがて二人の心を、そして人生を大きく動かしていくことになる---。

 

製作:「TOKYOタクシー」製作委員会

監督:山田洋次

脚本:朝原雄三 山田洋次

原作:クリスチャン・カリオン

撮影:近森眞史

美術:西村貴志

音楽:岩崎太整

出演:倍賞千恵子 木村拓哉 蒼井優 迫田孝也 優香 中島瑠菜 神野三鈴

             イ・ジュニョン マキタスポーツ 北山雅康 木村優来 小林稔侍 笹野高史

2025年11月21日公開

 

本作は2023年に公開されたクリスチャン・カリオン監督の「パリタクシー」を原作にして、東京仕様にした映画です。因みにオリジナルの「パリタクシー」は未見です。

 

高齢女性が一人暮らしできなくなり、終活のため高齢者施設に入ることになり、自宅からタクシーに乗って葉山まで向かう物語となっています。そして、乗車中の運転手との会話から、彼女の半生が語られていき、同時に運転手の苦しい家庭事情も明かされていきます。

 

高野すみれがタクシーを移動手段に選んだのは、施設に入る前に思い出の地をもう一度巡りたいからで、観客はちょっとした東京見物を味わえます。出発地点が柴又帝釈天と言うのも、『男はつらいよ』で倍賞千恵子が寅さんの妹を演じていたことを思うと、山田洋次監督の洒落っ気が窺えます。

 

回想場面を除けば、倍賞千恵子と木村拓哉の二人芝居が軸になっています。この形式だと話が単調になりかねないのですが、そこを退屈に見せないのが山田洋次の腕の見せどころでした。倍賞と木村の芝居も自然体で心地良く感じられ、万人が安心して観られる映画と言えます。

 

金銭に纏わる浩二の家庭問題の決着の仕方は、話の流れから容易に予測がつきやすく、さして驚きはありません。また、あまりにも予定調和なため、映画に刺激を求める人には向かない映画でしょう。

 

それでも、高齢女性に所縁のある土地を訪れながら、女性の過去の足跡を辿り、同時に昭和の世相も垣間見える試みは悪くなかったように思います。映画の内容を反映してか、客層も年齢が高めでしたね。

 

最後のあいさつ 阿津川辰海

 

光文社サイトより

30年前の国民的刑事ドラマ『左右田警部補』。最終回目前に、主演俳優・雪宗衛が妻殺しの容疑で逮捕され、打ち切りとなる。「日本で最も有名な刑事」の逮捕劇に日本中が熱狂する中、雪宗は緊急記者会見を開き、役柄さながらに真犯人の正体を暴く“推理”を披露する。雪宗は無罪を勝ち取るも、世間の目は厳しく疑惑は完全には晴れなかった。そして現在、同様の手口の殺人事件が起こり、ノンフィクション作家の風見は、雪宗の真実を追って関係者の取材を開始する。放送されなかった幻の最終回「最後のあいさつ」に隠された秘密とは?

 

本書は作家の風見創の取材と、容疑者である俳優の雪宗衛の推理によって、過去の事件を再検証し、30年後に起きた殺人事件の真相に迫る構成になっています。その中心に居るのが雪宗衛であり、自分の妻を殺したのは彼なのか?30年後に発生した殺人事件にどのような繋がりがあるのか?この2点を読者に最後まで興味を持たせて読ませています。読書家の著者らしく、文中には様々なミステリーの引用が見受けられ、例えば30年前に「流星4号」が引き起こした連続殺人は、アガサ・クリスティの「ABC殺人事件」をなぞらえています(ただし真相は別もの)。論理的思考で事件の真相に迫る一方で、島田荘司を思わせる外連味たっぷりな趣向も凝らしてあり、更に雪宗衛とは何者だったのかにまで言及しています。阿津川辰海が旬のミステリー作家であることを証明する一作でした。

 

アトミック・ブレイバー 呉勝浩

 

光文社書籍サイトより

小型核爆弾による世界同時多発テロ《ヴァージン・スーサイズ》から27年。 平凡なサラリーマン・堤下与太郎は、愛用している国家推奨の睡眠補助アプリ《ORANGE》をハッキングされていた。 友人の天才プログラマー・西丸昴の仕業らしく、《ORANGE》の周波学習機能で与太郎だけが格闘ゲーム《アトミック・ブレイバー5》の西丸改造版をプレイできるように教育されたのだ。 西丸の行方を追う国家機関・平和安全庁と、謎の反社会的組織《ウリヨラ教》による与太郎争奪戦が勃発。わけがわからないまま西丸版アトブレ5をひたすらプレイし続ける与太郎だが、次第にゲームの勝敗が人類の未来を左右する重大なシステムに関わっていることがわかり―― 。

 

本書は極度に管理体制の敷かれた社会で、反乱を起こそうとするディストピア小説です。主人公は体制側に何も疑問を抱かない日和見主義者のアラサー独身男で、反乱を引き起こした人物が彼の友人だったため、渦中に否応なく巻き込まれてしまいます。政府を絡めた陰謀に対し、格闘ゲームで阻止しようという辺りがユニーク。ただし、ゲーム中に攻略する際の戦術がずっと続くため、格闘ゲームに馴染んでいないと、読むのが少々辛くなるかもしれません。主人公はゲームの達人ではなく、あきらめることのない愚直な点だけが取り柄の男に過ぎません。ある意味、「第9地区」の小役人と同じように凡庸な人間です。それでも、己を犠牲にしてでも人類の未来のために尽くそうとする姿は尊く胸を熱くさせます。それにしても、「爆弾」のタゴサクと言い、本書の与太郎と言い、著者は登場人物におかしな名前をつけるのが趣味なのかしら?

 

誘拐劇場 潮谷験

 

講談社サイトより

近畿地方のベッドタウン・水倉地区で起きた薬物事件。バニッシュと呼ばれるペーパーアシッド、最初の被害者は小学生だった。県では薬物撲滅キャンペーンが展開され、イメージキャラクターとして俳優・師道一正が選ばれた。クリーンなイメージで俳優としても超一流、人を魅了することに長けた彼は、探偵としての能力も発揮。県警の義永誠刑事に協力して、事件の恐るべき真相を看破した。事件解決の名声も手伝って師道は国会議員となり、水倉を地元として帰ってくる。そして囁かれはじめる黒い噂。熱狂の最中にも師道に違和感を持っていた支倉彼方と義永刑事の娘・真理子は、師道の真実に迫ろうと仲間を集め、位置情報アプリ「MK2」を使って水倉丘陵に隠されているはずの秘密を調べ始める。そして誘拐事件は起こった。

 

誘拐という犯罪は大抵人質の身代金目当てなのですが、本書では犯人が携帯アプリで時間内に目的地を探すよう指示するだけで、犯人の意図がなかなか掴めません。誘拐の取引に位置情報アプリを使用しているのが、今時の犯罪らしいと言えます。また、渦中にいる師道一正が善意の政治家なのか?それとも犯罪に手を染めた悪人なのか?最後まで読者に悟らせない展開も緊張感を高めています。この師道が掴みどころのない男で、善と悪、どちらにも受け取れる怪しい行動を繰り返すこともあって、登場人物の中では存在感が抜群。実質的な主役と言っていいでしょう。誘拐にはトリッキーな仕掛けが施されていて、サスペンスと言うより、本格ミステリーを読むような謎解きを味わいました。

果てしなきスカーレット 公式サイト

 

映画.comより

父を殺して王位を奪った叔父クローディアスへの復讐に失敗した王女スカーレットは、「死者の国」で目を覚ます。そこは、略奪と暴力がはびこり、力のなき者や傷ついた者は「虚無」となって存在が消えてしまう世界だった。この地にクローディアスもいることを知ったスカーレットは、改めて復讐を胸に誓う。そんな中、彼女は現代日本からやってきた看護師・聖と出会う。戦いを望まず、敵味方の区別なく誰にでも優しく接する聖の人柄に触れ、スカーレットの心は徐々に和らいでいく。一方で、クローディアスは死者の国で誰もが夢見る「見果てぬ場所」を見つけ出し、我がものにしようともくろんでいた。

 

製作:日本テレビ放送網 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント KADOKAWA他

監督・脚本・原作:細田守

作画監督:山下高明

撮影監督:斉藤亜規子

美術監督:池信孝 大久保錦一 瀧野薫

音楽:岩崎太整

出演(声):芦田愛菜 岡田将生 山路和弘 柄本時生 青木崇高 染谷将太 白山乃愛

                        白石加代子 吉田綱太郎 斉藤由貴 松重豊 市村正親 役所広司

2025年11月21日公開

 

中世ヨーロッパを舞台にした物語と思っていたら、主に「死者の国」で話が展開していました(笑)。話が進んでいくうちにいくつか疑問点が浮かんできて、作り手がその疑問点になかなか応えようとしていないのも、物語に不信感を生じる一因になっていました。

 

例えばスカーレットの復讐の標的であるクローディアスが「死者の国」に居る理由。彼も既に死んでいることを意味し、観客ならばその理由を知りたいと思うのですが、終盤になるまで明らかにしようとしません。

 

また、国王アムレットの妻でありスカーレットの母親でもあるガートルードが、クローディアスの後妻に収まっているにも関わらず、この場所に居ない事はまだ生きているということで、猶更クローディアスの死の理由を知りたくなってきます。

 

作り手がその理由を明かさないのは、物語を進めるにあたって不都合が生じるからです。それでも、真相が明かされた暁に、伏線が回収されていれば「やられた!」と快感に浸れるのですが、騙される快感には程遠く、単に辻褄を合わせたようにしか感じられません。

 

また、スカーレットの復讐の牙はガートルードに向けられてもおかしくはないのに、標的をクローディアス一人に絞っている点も解せない気分にさせられました。他にもスカーレットが成長する前に始末しておけばいいのにとか、作り手の都合の良い箇所が目立ち、物語自体が破綻しているとしか思えなくなります。

 

映画の主題は憎しみの連鎖を断ち切り、汝の敵を愛せよと言ったキリスト教色が濃い内容となっています(殺されたアムレット国王の真意は憎しみと復讐を抱く己を赦せと娘に向けたメッセージですが)。スカーレットの暴走をしばしば止めようとする聖の職業を救命士にしたのも、説得力を持たせようとする狙いがあったからでしょう。

 

ただし、聖があまりにも綺麗ごとばかり言うので説教臭さが先立ち、スカーレットならずともイラついてきます(笑)。人を殺してはならないことを教訓めいたことを感じさせずに、胸に沁み渡るように表現するのも芸のうちなのに、細田守監督の演出はストレートに出てしまうのが残念。

 

それと左派にありがちな対話だけで問題が解決するような幻想を抱かせるのは、そろそろ卒業したほうが良いのでは?対話は勿論大事ですが、それも物の分る相手が居て成立するもので、独裁体制の上に戦力差がある相手には寧ろ対話のみの交渉では危険が増すと思うのですが・・・。

港のひかり 公式サイト

 

映画.comより

漁師として細々と生活する元ヤクザの三浦は、白い杖をついて歩く少年の幸太を見かける。両親をヤクザ絡みの交通事故で亡くした幸太は、彼を引き取った叔母やその交際相手からも虐待を受けていた。孤独な幸太にどこか自身の姿を重ねた三浦は、自身の船に幸太を誘う。どこにも居場所がなかった者同士、2人は年の差を超えた特別な友情を築いていく。幸太に視力回復の手術を受けさせるため、ヤクザから金を奪った三浦は、幸太に一通の手紙を残して自首する。12年後、突如として行方がわからなくなった三浦を捜していくうちに、幸太はある秘密を知る。

 

製作:「港のひかり」製作委員会

配給:東映 スターサンズ

監督・脚本:藤井道人

撮影:木村大作

美術:原田満生

音楽:岩下太郎

出演:舘ひろし 眞栄田郷敦 尾上眞秀 黒島結菜 斎藤工 ピエール瀧

             一ノ瀬ワタル MEGUMI 赤堀雅秋 市村正親 宇崎竜童 笹野高史 椎名桔平

2025年11月14日公開

 

藤井道人監督の作品はかなり当たり外れが激しく、「最後まで行く」のような面白い映画もあれば、「ヴィレッジ」「正体」のようなガッカリさせられる作品も少なくありません。最新作となるこの映画は・・・微妙でしたね。本作は良くも悪くも古めかしい映画です。

 

舘ひろしを鶴田浩二に、眞栄田郷敦を千葉真一に、斎藤工を待田京介に、市村正親を水島道太郎に、宇崎竜童を片岡千恵蔵に、椎名桔平を大木実に置き換えて、60年代の映画ですよと言われたら、通用してしまいそう。良く言えば普遍性のある映画であり、悪く言うと時代錯誤にも映る映画です。

 

ただ、誰かの為に生きることが己の存在証明にもなると言う点では、映画の主題が上手く活かされていますし、木村大作が撮影を手掛けているだけあって、登場人物の心情に絡めた自然情景には目を惹きつけられるものがありました。

 

その一方で、ヒネリが無さすぎる演出は、教科書のような味気無さで面白みに欠け、終盤の性急な展開は少々ツッコミを入れたくなりました(あの場で子分どもが親分を見捨て逃げるとか、若頭が日頃の恨みを晴らすとか・・・)。

 

悪くはないけれど、あまりにも型に嵌めすぎたため、驚かされる部分がほとんどありませんでした。因みにエンドロールが横スクロールだったのは珍しかったです。これが一番驚かされたと言ったら怒られるかな(笑)。

KILL 超覚醒 公式サイト

 

チラシより

ラーンチー発ニューデリー行きの特急寝台列車が40人の武装強盗団に襲撃される。乗客たちはパニックに陥るが、この列車には対テロ特殊部隊の隊員アムリトが乗り合わせていた。最愛の恋人トゥリカと乗客を救うため、軍隊仕込みの格闘術で応戦するアムリト。しかし仲間を殺された強盗団の一族は、報復の総攻撃を仕掛けてくる。やがて悪行の限りを尽くすならず者たちの魔手はトゥリカの身にも迫り、怒り狂ったアムリトは鬼神のごとく覚醒するのだった・・・。

 

製作:インド

監督・脚本:ニキル・ナゲシュ・バート

アクション監督:オ・セヨン

撮影:レイフィー・マムード

美術:マユール・シャルマ

音楽:ケタン・ソーダ

出演:ラクシャ ターニャ・マニクタラ ラガヴ・ジュヤル

2025年11月14日公開

 

地元のシネコンでインド映画が上映されるのは「RRR」以来なので、勿論この映画は最優先で観に行こうと思いました。ただ、観客は私を含め二人。只でさえ洋画離れが囁かれている昨今、インド映画が地元のシネコンでもっと上映してもらうには、お客さんが入って欲しかったのですが・・・。

 

本作は色々な面で従来のインドの娯楽映画の定跡を外しています。私の観てきたインド映画は3時間前後の上映時間が多かったですが、この映画は2時間にも満たないです。それでいて熱量は半端なく、胃もたれする程中味は濃い。

 

ひとつには殺伐とした描写が挙げられます。列車内の狭い空間では接近戦が多く、したがって銃より刃物での戦いが有効となります。刃物での斬り合いが多いため、必然的に血飛沫が飛び散り、グロい描写も多く出てきます。アムリトは最初のうちこそ敵に対して急所を外し痛めつけるのみですが、ある出来事をきっかけに箍の外れたように殺しまくります。副題の“超覚醒”に思わず頷いてしまうほど、主人公の激変に驚かされます。

 

また、本来死なせてはならない人物を、容赦なく殺してしまっている点も従来のインド映画とは異なります。本来、娯楽作でそんな無謀なことをすれば、観客から批難されてもおかしくはありませんが、アムリトの“超覚醒”に関わってくることもあって、作り手もそこは譲れなかったように思われます。寧ろ、主人公の急変に説得力を持たせています。

 

更に、観客に気分の悪くなるほどの絶望感を与える点も、今までのインド映画に見られなかったもので、この点は韓国の犯罪映画を模したような嫌悪感を生じさせて、個人的には興味深かったです。観る者を嫌な気分にさせる描写によって、観客も主人公同様に敵を殲滅させねば気が済まない気分にさせられていきます。

 

一方、武装強盗団は親族で構成されていて、アムリトや親友のヴィレシュが次々と身内を手にかけていくので、遣られたら遣り返せの構図になり、戦いが更にエスカレートしていきます。そんな敵を如何に仕留めていくかも作り手の腕の見せどころで、一族のボスであるベニの殺し方は、そう来たか!と拍手を送りたくなるほど爽快感がありました。

 

その一方で、ベニの息子のファニは、アムリトが一番殺したかった相手にしては芸のない方法だったのが残念。また、特殊部隊のアリムトでさえかなり手こずるほどの相手を、そんな人物たちが倒しちゃうの?と、些か拍子抜けさせられる場面もありました。

 

本作は普通のアクション娯楽映画のつもりで観ると、人によっては不快な気分にさせられることもあるのでご注意を。でも、クセの強い映画が好きな方には意外にハマるかもよ。

 

「KILL 超覚醒」を観たら、この映画を思い出しました

 

平場の月 公式サイト

 

チラシより

妻と別れ、地元に戻って印刷会社に再就職し、平穏に日々を生活する、青砥健将。青砥が中学生時代に想いを寄せていた須藤葉子は、夫と死別し地元に戻ってきた。再び出逢った二人は、少しずつ、離れていた時を埋めていく---。ある日、アパートの部屋から月を眺めていた須藤。「お前、あのとき何考えてたの?」青砥にそう問われ、「夢みたいなことだよ。夢みたいなことをね、ちょっと」そう答えた須藤。再び、自然に惹かれ合うようになった二人。やがて未来のことも話すようになるのだが・・・。

 

製作:「平場の月」製作委員会

配給:東宝

監督:土井裕泰

脚本:向井康介

原作:朝倉かすみ

撮影:花村也寸志

美術:五辻圭

音楽:出羽良彰

出演:堺雅人 井川遥 坂元愛登 一色香澄 中村ゆり でんでん 安藤玉恵 椿鬼奴

              柳俊太郎 倉悠貴 吉瀬美智子 宇野祥平 吉岡睦雄 黒田大輔 松岡依都美

              前野朋哉 成田凌 塩見三省 大森南朋

2025年11月14日公開

 

中年の男女を主人公にした大人の恋愛映画は、日本では撮られなくなってきているので、予告編を観た時の期待値もあって劇場まで観に出かけました。

 

青砥は離婚後、母親を施設に預けながら印刷会社に勤め、須藤も夫と死別後に病院の売店でパートタイマーの仕事をしています。どちらもそれなりの苦労をした後、地元に戻ってきています。二人は中学生の時の同級生の間柄で、青砥は須藤に告白したにも関わらず、彼女の家庭環境の影響でフラれた過去がありました。

 

青砥は病院で健診を受けた後、売店に居た須藤と再会し、そのことをきっかけに二人の交流が始まります。青砥と須藤の恋愛模様は、昭和30年代の日本映画を思わせる奥床しい描写で、二人が常連になる酒場や商店街も昭和の名残があって郷愁を誘われます。青砥と須藤は徐々に男女の距離を縮めていきつつも、須藤のある事情によって暗雲が立ち込めてくるというのが映画の大筋。

 

私、ダメンズと同じくらいダメ女も大好物なので、この映画の井川遥には密かに期待しました。特に須藤が略奪婚をし、夫の死別後に年下の若い男に貢いだ過去があると明らかになった時には、キターッ!と思いましたよ(笑)。

 

また、金を貢ぐ相手が成田凌という辺りも、作り手はよく分かっていらっしゃる。成田凌って、無邪気に金を無心しそうなダメンズの雰囲気を漂わせていそうじゃない?おまけに須藤役の井川遥が凛とした立ち振る舞いをしているだけに、その落差もポイントが高いですし、男に溺れて家庭を壊した母親と似たような道を辿ってきた点も皮肉が効いています。

 

ただし、過去に関してはダメ女の部分があるのに、現在進行形の物語では人間の醜い部分がほとんど見られないのは、個人的には物足りなかったです。また、中学時代の物語がドラマとして弱いのは仕方ないにしても、須藤に劇的な出来事が起きる以外は、淡々とした恋愛描写に終始しているのはやや退屈にも感じられました。

 

勿論、刺激を求めるような類の恋愛ドラマでないことは重々承知します。ある程度年をとった身には染みてくる話なのですが、いい話ではあっても無難にまとめた印象ばかりが残りました。堺雅人は役柄上、常に受けの演技を強いられる一方、酒場の店主の塩見三省や須藤と職場仲間の安藤玉恵など、脇役陣のほうに目が行きがちでした。

 

チラシより

何もないオーストラリアの荒野。たった一人で冷凍した豚の死体を運ぶ長距離トラック運転手クィッドは、ある日女性ヒッチハイカーを乗せた緑色のバンを目撃する。だがその後、その女性がバラバラ殺人の被害者として発見されたとき、犯人を確信したクィッドはバンの追跡を開始。孤独な車内で膨らませた妄想に憑りつかれ、幻覚を見るようになり、癖である独り言に拍車がかかった。そしてあろうことか、その行動によりクィッドは疑いの目を向けられるようになり、信じがたい状況に追い込まれていく---。

 

製作年:1981年

製作:オーストラリア

監督:リチャード・フランクリン

脚本:エヴァレット・デ・ロッシュ

撮影:ヴィンセント・モントン

美術:ジョー・ドーディング

音楽:ブライアン・メイ

出演:ステイシー・キーチ ジェイミー・リー・カーティス マリオン・エドワード

             グラント・ペイジ アラン・ホップグッド エド・ターリー 

2025年10月31日公開

 

本作は1981年に製作され、44年を経て日本初公開となったオーストラリア映画です。この映画がユニークなのは、スティーブン・スピルバーグの「激突!」とアルフレッド・ヒッチコックの「裏窓」を融合させている点。両作とも同じサスペンスのジャンルでも、全くの別物と言った映画なのですが、この映画では素材(トレーラーによるカーチェイス)と心理(殺人への疑心暗鬼)のミックスが絶妙でした。

 

「激突!」では主人公がトレーラーに追いかけられる立場でしたが、こちらはトレーラーを運転する主人公が緑色のバンにつけ回され、時には追いかける展開になります。主人公は巻き込まれる側なのに、傍目には車の大きさから事を荒立てているように映るのが面白いです。また、店に入った際にヨソ者に向けられる視線の冷たさからくる疎外感も共通点があります。

 

この映画ではトレーラーに乗る“相棒”のディンゴが駆除対象という理由で、地元民から傷つけられてもいます(もしかしたら緑色のバンの運転手の可能性も)。犬ではなくディンゴと言う点も珍しいですね。

 

「裏窓」ではグレース・ケリーが容疑者の留守中に部屋に忍び込み、証拠を探し出そうとする場面があり、この映画でも運転手がいない隙にジェイミー・リー・カーティスが緑色のバンの車中を物色する場面があります。「裏窓」も「ロードゲーム」も主人公の目撃したものがなかなか信用されないばかりか、逆に本作では連続殺人事件の容疑者として疑われる羽目になります。

 

クィッドはトラックを長時間運転していることもあってクスリを常用しており、その後遺症からか妄想する癖があり、独り言を呟きがちになっています。こうした彼の言動から、ヒッチハイクで拾った中年女性からは殺人犯に疑われ、トイレの個室で用を足していたバイカーを緑色のバンの運転手と間違え、危うく襲いそうになり、益々心証を悪くしていきます。

 

こうした具合に、主人公は下手をすれば犯人にされそうな展開を迎えるのですが、せっかくいい前振りがありながら、それを巧く回収できないもどかしさがあるのが惜しいです。終盤にクィッドは犯人にされそうな決定的な状況に陥り、前述した中年の婦人やバイカーが証言者となったにも関わらず、すぐに疑いが晴れてしまいます。

 

終盤ではなく、もっと早い段階で警察に疑われるような状況を作っておけば、緑色のバンを追いかけるのと同時に、警察に追われるサスペンスも加わったのにと思うと残念でなりません。もっと言えば、精肉会社のストライキの影響を受けて、街では肉不足が起こり、一刻も早く冷凍した豚肉を届けなければならない状況なのに、女性を乗せるのはともかく、緑色のバンを追いかけている場合かよとツッコミを入れたくなりますよ(笑)。

 

劇中ではトレーラーのラジオから始終、精肉会社の幹部の失踪のニュースが流れてきて、ラスト近くで彼の“行方”が明らかになります。最後のワンショットで観客に分からせた後、さっさと切り上げる幕の閉じ方が実に鮮やかで、ここは思わずお見事!と唸りました。