安藤昇特集⑤「唐獅子警察」「やくざ非情史 血の盃」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

祝・芸能生活50周年 安藤昇伝説 より


唐獅子警察


唐獅子警察


製作:東映

監督:中島貞夫

脚本:野上龍雄

原案:かわぐちかいじ 滝沢解

撮影:赤塚滋

美術:鈴木孝俊

音楽:広瀬健次郎

出演:小林旭 渡瀬恒彦 賀川雪絵 藤浩子 志村喬

    渡辺文雄 川谷拓三 室田日出男 小林稔侍 安藤昇

1974年6月1日公開


関東を牛耳る大成会の幹部片岡直人(小林旭)は、里帰りした際に、彼が壊滅させた仙波一家の残党に命を狙われます。直人は腹ちがいの弟・松井拓(渡瀬恒彦)に救われ、借りができます。兄弟は貧しい集落で差別されながら育ち、兄は家族と村を捨てヤクザの世界に入り、弟は二人の母親の面倒を見ながら村で燻っていました。


その頃東京では、東京進出を狙う関西の三友会幹部・栗原友雄(安藤昇)が送りこまれ、大成会と三友会の間には険悪な空気が流れていました。そこへ拓が兄を頼って上京してきます。直人は弟との再会を喜びますが、拓が大成会に助力してくれる扇田代議士(河津清三郎)の女・亮子(橘真紀)に手を出そうとしたことによって、兄弟は反目し合うようになります。


拓は直人の組員たちに袋叩きにされたことを根に持ち、チンピラを集め愚連隊・松井組を組織し、大成会の上田組の縄張りで暴れまくります。直人は拓を説得して松井組を大成会の傘下に入れようとしますが、兄に反発する弟は、三友会の栗原から盃を受け、三友会の威光を借りて大成会と真っ向から対決の姿勢を見せます。


ところが、抗争の裏では、扇田代議士の仲介で大成会と三友会の手打ちが着々と進められていました。やがて、拓は直人の預かりの身となり、拓が拡張した縄張りは、栗原が仕切る事になります。納得の行かない拓は、栗原と上田(渡辺文雄)を射殺し行方をくらまします。直人は拓を追って生まれ故郷へと舞い戻るのですが・・・。


腹違いの兄弟が対立する話ですが、切ろうとしても切れない血縁が、殺伐とした抗争劇の中で、余計に物悲しさを滲ませています。拓は狂犬に相応しい暴走を見せる反面、直人の母親を世話しながら看取った末に、両親の墓に一緒に入れてあげるやさしさもあります。一方直人は、自分たちを差別する村に愛想を尽かせ、両親を見捨てて極道の世界に入ったため、拓に対して負い目があります。


弟の前では用事の途中に立ち寄っただけと強気の姿勢を見せるものの、後に両親の墓参りのために故郷に戻ったことが明らかになります。いずれにせよ、兄弟は故郷を憎みながらも、逃れられないわけで、兄弟の関係性とも共通しています。だからこそ、二人が最後に決着をつける舞台となる場所は、二人の原風景となる生まれ故郷でしかあり得ません。


小林旭は、岡本太郎の名言「スターは大根であれ」を地で行くように、立っているだけで絵になる存在感を示し、誰にでも牙を剥く渡瀬恒彦の狂犬イメージも健在。関西弁を喋る安藤昇は珍しく、渡瀬に寄り添う賀川雪絵は、女っぷりが一段と上がり益々好きになります。渡辺文雄は今回被害者の立場なのですが、小林旭演じる直人にアヤをつけてくるあたり、いつもの狡猾なインテリヤクザの片鱗が窺えました。



やくざ非情史 血の盃


やくざ非情史 血の掟


製作:創映プロ

配給:日活

監督:中川順夫

脚本:中西隆三

撮影:脇野良雄

美術:福島一良

音楽:小沢英雄

出演:安藤昇 内田良平 木村功 須賀不二男 嵯峨三智子 月形龍之介

1969年10月8日公開


昭和20年。復員兵の緒形哲(安藤昇)は、米兵に乱暴される子供を助けた関係から、阿佐田親分(月形龍之介)に気に入られ、阿佐田組に身を寄せます。緒形はやくざ渡世で才覚を表し、阿佐田組の屋台骨を支えて行きます。その頃、寺島(須賀不二男)は、やくざ組織を束ね、大和会を結成し、会長に君臨していました。寺島は阿佐田組にも参加を呼びかけていましたが、昔ながらの侠客である阿佐田は、やくざが表立って活動することを受け入れず、両者は対立します。


そんな時、緒形は戦友の土井(内田良平)と再会します。土井は、大和会に所属する土井興行の社長でした。土井は寺島の意向を受け、緒形に大和会への参加を促しますが、緒形は恩義のある阿佐田に従い、戦友の頼みを拒みます。大和会の阿佐田組への圧力は次第に増し、突然襲った大和会の一弾が、緒形に会いに来た土井の妹・芳江(二本柳敏恵)に当たり重傷を負います。


阿佐田は組の行く末を考慮し、緒形に跡目を譲ろうとしますが、緒形は固辞し、昔から組のために尽力した伍東敬司(木村功)を押します。伍東が四代目を継ぐと、緒形は大和会から奪った2000万円を土井に渡し、大和会から脱会することを忠告します。


そんな時、緒形が後見人となって育てていた少年が、大和会に誘拐されます。緒形は取引現場に赴き、そこで銃撃戦となります。少年を救出したものの、緒形は警察に連行され、阿佐田組は柱を失い、緒形の服役中に解散します。阿佐田組の解散後も、大和会の嫌がらせは続き、とうとう阿佐田までも暗殺されます。


娑婆に戻った緒形が、阿佐田の娘直美(嵯峨三智子)と共に、土井の家を訪問する間、伍東が大和会の者の挑発によって殺されます。その頃、土井は大和会に見切りをつけ、寺島に向かって大和会からの脱会宣言をしますが、その帰途、大和会が放った刺客に刺殺されます。大和会のあまりの非道なやり口に、緒形は大和会が仕切る土井の葬儀に、単身乗り込んでいきます。


東映の悪役に慣れているせいか、たまに日活や松竹の任侠映画ややくざ映画を観ると、その違いに戸惑うことがあります。本作においても、悪役はいずれも線が細く、幹部クラスでも小物感が漂います。阿佐田組の下っ端は堅気にしか見えず、どうにも物足りません。改めて東映の悪役の層の厚さを思い知らされました。


ただし、悪い面ばかりではありません。阿佐田親分と土井を殺すのは、絵描きに化けた殺し屋で、とても殺気立って見えないのが逆に良いのです。どこにでもいそうな一般人の風貌が、相手を油断させ、東映にはいないタイプの殺し屋が新鮮でした。ただし、この刺客が最後まで報いを受けなかったのは、腑に落ちません。東映だったら、絶対緒形にケジメを取らせていたでしょう。


悪役が弱い分、話の運びの上手さで補っている面はあります。目の上のたんこぶだった緒形を、刑務所に入れさせるくだりは、棚からぼたもちとは言え、反目する組織のトップの判断としてはこれ以上ない選択。また、緒形が刑務所の中で何も手出しができない中、劣勢になった阿佐田組が解散する流れも、東映には見られない展開で、緒形の苦渋の決断も、これ以上犠牲者を出したくない思いが込められ、非常に説得力があります。細かい点には不満があるものの、日活独自の色を出せており、安藤組長が単身殴り込みをかける場面は、否応なく観客を痺れさせます。