宮部みゆき 「ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件」 | パンクフロイドのブログ

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クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した十四歳。その死は校舎に眠っていた悪意を揺り醒ました。目撃者を名乗る匿名の告発状が、やがて主役に名乗り出る。新たな殺人計画、マスコミの過剰報道、そして犠牲者が一人、また一人。気づけば中学校は死を賭けたゲームの盤上にあった。死体は何を仕掛けたのか。真意を知っているのは誰?



1990年のクリスマスイヴの夜、城東第三中学の2年生、柏木卓也が学校の屋上から落下しました。翌朝、登校した同じクラスの野田健一が遺体を発見します。終業式は校内放送で行なわれ、校長から生徒の死が説明されます。


冬休みに入り、城東第三中学は緊急の保護者会が開かれ、学校側は警察の検証結果、柏木卓也の死は自殺と断定されたことを報告します。卓也は11月半ばから不登校を続けており、その原因が不良三人組とのトラブルによるもので、イジメを受けたための自殺ではないかと父兄からの声が上がり、集会は紛糾します。卓也の告別式が行なわれ、その席で父親が息子の自殺は学校に問題があったのではなく、本人に問題があったと断言したことにより、一連の騒動は収束するかに思えました。


ところが、卓也の死は自殺ではなく、不良三人組に殺されたとの告発状が、校長と卓也のクラスメイトで刑事を父に持つ藤野涼子の元に送られてきます。涼子の父親の藤野刑事は、学校が秘密裡に処理する前に先手を打ちます。生徒との個人面談を行なう場に、少年課の佐々木刑事を同行させることを提案し、告発状の送り主を割り出し、告発状を送った事情を聴こうと試みます。その結果、生徒の一人が絞り込まれ、あとはタイミングを計って接触しようと思った矢先、思わぬところから邪魔が入ります。


卓也の担任教師の森内恵美子に敵意を持つ、隣人の垣内美奈絵が森内宛に送られてきた告発状を盗み出し、HBSテレビの記者茂木悦男に送ってしまいます。茂木が火のないところに煙を立たせるやり方で煽ったため、学校への批判が集中し、教師、生徒、保護者の間に不信感が芽生え始めます。


宮部みゆきは節目に、「火車」「理由」「模倣犯」のような作家としての分岐点となる長編を発表してきました。まだ三部作の第Ⅰ部を読んだだけですが、「ソロモンの偽証」も彼女の代表作のひとつになることを予感させます。


物語はバブルの真っ只中の時期を描いており、まだ携帯電話が普及される前の時代のため、必然的に中学生や大人たちの生活様式も現在と異なっています。第Ⅰ部で主に描かれるのは、悪意の伝染であり、それに翻弄される人々です。逃げ場となる場所が保健室くらいしかない特殊な空間である中学校を舞台にしていることで、悪意は瞬く間に広がり、本来善良である人でさえも絡め取られていきます。


常に生徒のことを思って対応した津崎校長は、告発状を書いた人物に慎重に対処し過ぎたために、学校を辞めざるを得ない立場に追い込まれ、友達を信じて告発状を出すことに協力した生徒の一人は、交通事故に遭い死亡します。卓也の兄・宏之は弟の生前も死後も彼の影に人生を左右され、遺体発見者の野田健一は、家庭環境の問題から心が折れ、家族を殺す一歩手前まで行きます。また、文武両道で優等生の学級委員・藤野涼子にも、ほんのわずかに悪意が隠されていることを示唆します。


彼女はそれほど親しくなかった柏木卓也の死に対して悲しむことができず、冷たく乾いた自分を後ろめたく思っています。その反面、公の場で級友の死に対し泣ける善良な友人を、冷めた目で見てしまいます。この感覚は私にもよくわかり、親しい者でも時に鬱陶しく感じる涼子に共感します。3年に進級しても卓也の死による波紋は学校を揺るがし、涼子は警察、学校、マスコミを当てにせず、自分たちで真実を見つけ出すと茂木記者に宣言するところで、第Ⅰ部は終了します。


「ソロモンの偽証 第Ⅱ部 決意」に続く



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