もう大人たちに任せておけない。保身に身を窶す教師たちに見切りをつけ、一人の女子生徒が立ち上がった。校舎を覆う悪意の雲を拭い去り、隠された真実を暴くため、学校内裁判を開廷しよう!教師による圧力に屈せず、走り出す数名の有志たち。そして、他校から名乗りを上げた弁護人の降臨。その手捌きに一同は戦慄した。
夏休みを目前にして、城東中学校の体育館に三年生の生徒たちが集まり、二年生のときのクラス編成ごとにまとまり、卒業制作のテーマを何にするか話し合っていました。その場で、クラス委員長の藤野涼子は、柏木卓也の亡くなった真相を、生徒たちによる公開裁判で明かして行こうと提案します。教師たちの反対に遭いながらも、涼子は告発状で卓也を殺したと名指しされた大出俊次に仁義を通して、裁判を行なう了承を取り付けます。
夏休みに入ると、涼子と彼女をサポートする仲間たちは、「学校内裁判」のための広報活動を行ないます。三年生の生徒全員に「学校内裁判」の試みについて報せ、参加者を募ります。そして、一定の参加者が集まったところで、判事、検事、弁護人、陪審員が決められていきます。当初、涼子は俊次の弁護人を務めるはずでしたが、当の俊次の反対に遭い、急遽検事役に変更されます。代わりに他校の生徒で、卓也と塾で親しかった神原和彦が弁護人に選ばれます。
やがて検事側、弁護人側は、それぞれ関係者に会い、証言と証拠を集めて行きます。調査をするうちに、俊次の自宅の火災が放火ではなく、保険金目当ての偽装の疑いが浮かび上がり、また事件当日に公衆電話から卓也の自宅に、複数回電話がかけられていたことが判明します。そんな最中、告発状を盗んで、HBSテレビの記者茂木悦男に送った垣内美奈絵が、卓也のクラスの担任だった森内恵美子を襲う事件が起きます。
第Ⅱ部では、主に城東中学校の三年生の生徒による裁判のための下調べが描かれています。ここで重要人物となるのが、他校の生徒であり、卓也と塾で親しかった神原和彦です。彼は俊次の弁護人となり、大人たちが舌を巻くような方法で、俊次に有利となる証拠を集めて行きます。彼は父親が母親を殺害後、自殺した暗い過去を持っており、年齢以上に大人びた印象を与えます。そして、時折見せる不可解な言動から、単に塾の友だちのよしみで、卓也の死を解明する弁護人を引き受けたわけではないことが、徐々に明らかになります。他にも卓也の死に和彦も何らかの形で関わっているのではないかという記述も見られ、第Ⅲ部の展開に更に期待を持たせます。
和彦や涼子の描写が中学生にしては、大人の振る舞いに落ち着き過ぎているようにも感じますが、時折見せる綻びやほつれで、宮部みゆきはバランスを取ろうとしています。私は二人を超天才の中学生という認識で読み進めました(笑)。涼子は、告発状を出した人物が、三宅樹里という考えを捨てきれずにいます。しかし、樹里に対する誹謗中傷の封書とハガキの束を見せられたことで、樹里に抗弁の機会が全く与えられなかったことに気づき、初めて彼女の言葉を信じようとします。
「ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷」に続く。
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