シネマヴェーラ渋谷
祝・芸能生活50周年 安藤昇伝説 より
週が替わって、シネマヴェーラ渋谷の壁に飾ってある安藤組長の書も代えられていました。
男は生まれつき浮気の虫を飼っている。
女を歓ばせて一人前。
ケチと恥は二人三脚。
男児に二言なき。
経験に是非はなし。
約束に軽重なし。
人生を引き算で生きる。
人生の潮目を読む。
いい加減に生きる。
安藤昇のわが逃亡とSEXの記録
製作:東映
監督:田中登
脚本:高田純
撮影:花沢鎮男
美術:北川弘
音楽:泉谷しげる
出演:安藤昇 萩野まゆみ ひろみ麻耶 小杉じゅん 中島葵
絵沢萠子 石橋蓮司 蟹江敬三 小池朝雄 小松方正
1976年10月1日公開
昭和33年、安藤昇は債権取り立ての依頼を受けて、銀座の極東船舶社長早川哲司(近藤宏)を訪ねますが、交渉は決裂。早川からの罵声を受け、安藤は組員の船橋一也(蟹江敬三)を使って早川の襲撃を指図します。安藤はアリバイを作るため熱海に出向き、そこで行きずりの女(絵沢萠子)とのセックスに耽ます。
その最中、古山(石橋蓮司)と進藤(内田勝正)が、舟橋が早川を襲撃したことを知らせに来ます。しかし、致命傷までには至らず、財界人の大物が襲撃されたことで、安藤組は世間の批難に晒されます。安藤は東京に戻ると、トップ屋の森(小松方正)に会い、警察の捜査状況を尋ねます。警視庁が下山事件以来の大規模な捜査体制を引いている事を知ると、安藤は組員全員に逃亡を命じます。
組員たちと別れた安藤は、愛人泰子(萩野まゆみ)のマンションへ向かい、激しく彼女の体を求めます。その後安藤は、警察が早川襲撃の犯人を河原(滝波錦司)に絞っていることを知り、河原には捕まっても裁判になるまで犯人になりきるよう命じ、最後まで警察の攪乱を狙います。
泰子と別れた安藤は都内に潜入。家宅捜査された本妻の山岸旗江(中島葵)と互いの身体を貪ります。安藤は数日間旗江と過した後、大金を置いてマンションを出ます。その後、友人の田所(小池朝雄)の屋敷に身を隠し、田所は気を利かせ安藤の愛人田代文子(ひろみ麻耶)を呼び寄せます。プロポーション抜群の文子は、安藤の欲情に火をつけ、ゴルフで家にいない田所夫妻に気兼ねすることなく、己の欲望にしたがって過ごします。
その頃、山梨のドヤ街で船橋・進藤が逮捕され、安藤の手の者たちは、ほとんど逃げおおせない状況に陥っていました。いずれ田所邸も目をつけられると判断した安藤は、古山の探した次のアジトへ向かうことを決心。その気配を察した文子は、別れるくらいならば、いっそのこと警察に捕まることを望み通報します。しかし、間一髪のところで、安藤は逃げ延びます。厳重な包囲網により、安藤と古山は追いつめられて行きます。そして、安藤が葉山に潜伏し、プールサイドで有閑マダムを犯している最中、警官隊に囲まれます。
タイトルに偽りなし。ひたすら逃げて、女とヤるだけ。徹底した姿勢が却って潔いです。これだけ女自慢されると、観ている男たちは嫉妬や反撥を抱くものですが、安藤組長が衒いなく自分の過去を曝け出す姿を見せられると、そんなことはどうでも良くなってきます。
全編に亘ってこの調子で話が進んで行きますから、映画自体に起伏はありません。ただし、この手の映画は、後々まで語り草になる場面がひとつでもあれば、OK牧場。本作で言えば、終盤に安藤が護送されるパトカーの中でする行為。事が済んだ後に言うセリフも凄いです。
安藤を匿う田所は、共に予科練で敗戦を迎えた仲。このあたりは「懲役十八年」の川田と塚田の関係に似ていなくもないです。ただし、同じ小池朝雄が戦後の日本に関して「懲役十八年」と真逆のことを言うのが、続けて観たせいもあり、奇妙な違和感を覚えます。この映画を観た後では、無性に組長の「女にモテたきゃ男を磨け」が読みたくなります。
炎と掟
製作:松竹
監督:井上梅次
脚本:立花明 井上梅次
撮影:川又昴
美術:宇野耕司
音楽:広瀬健次郎
出演:安藤昇 高千穂ひづる 中村晃子 高宮敬二 菅原文太 安部徹
1966年3月5日公開
ある夜、何者かの操作によってブルドーザーが権田観光センターの建設工事現場に突っ込み、破壊されます。駅の南口に縄張りを持つ権田(河野秋武)は、北口でボクシングジム、ナイトクラブ等を資金源とする新興やくざ庄司(菅原謙二)の仕業とにらみます。
組員の大津(菅原文太)や若島(川辺健三)たちにけしかけられ、殴り込みをかけようとした時、幹部の南条(安藤昇)が止めに入ります。事を荒立てたくない南条は単身ボクシングジムへ乗りこむと、庄司の子分野村(高宮敬二)を締め上げます。破壊工作が彼の仕業であることを吐かせ、証拠に一筆書かせた後、その足で庄司の経営するクラブ“白夜”へ赴きます。
“白夜”では庄司が、名門の資産家・宝積(明智十三郎)を接待し、娯楽センター建設に一枚噛もうとしていました。その席で、南条は野村からとった証文をたてに、庄司に詰め寄ります。庄司は南条の要求を拒否し、証文を奪い返そうとします。南条は宝積を人質に取って、その場から脱出します。
宝積の邸へ着いた南条は、そこで、宝積の妻小夜子(高千穂ひづる)と再会します。小夜子は、南条の幼なじみであり、初恋の相手でした。しかし、身分の違いから、南条は苦い思いを抱いたまま、離ればなれになっていました。南条は動揺を押しかくして、逃げるように宝積の邸を辞去します。一方権田の娘ゆかり(中村晃子)は、そんな南条に激しい恋心を抱いていました。南条は小夜子を忘れるため、組長の娘であるゆかりを抱いてしまいます。
それから数日経ち、関東卍組組長立花(安部徹)が、権田組と庄司の仲裁に入りに来ます。立花は、南条をしばらく旅立たせることを条件に、庄司に工事の邪魔をさせない事を約束させます。南条は指を詰め、権田組からしばらく離れることで、立花の顔を立てます。
それから一年余が経ち、南条は東京に舞い戻ります。ところが戻ってみると、1週間前に権田が不審な事故死したことを知らされます。南条は権田が死んだ情況を探っていく内、事故死ではなく庄司に殺されたことを確信します。49日の権田の法要の席で、南条は同席していた立花と庄司の前で、影で糸を操っていた庄司の仕業を暴露します。
あらすじでは触れませんでしたが、幼なじみの女を一途に想い続けながら、報われることのない男の姿を描いています。やくざになった男の片想いのラヴストーリーなのです。今回、高千穂ちづるが演じた小夜子のキャラクターが、いたくこちらを刺激しましたので、久々に私情を交えて書いちゃいますよ(笑)。
正直、南条が死を賭けてまで守るに値する女なのか、反感を持ちながら観ていましたよ。途中までは・・・。金持ちのお嬢様と崖下の貧乏長屋の倅とでは釣り合わないのは分かっていても、彼女に喜んでもらおうとする幼い頃の南条がいじらしくて切なくなります。小夜子の家の使用人たちは、そんな彼の想いを踏みにじり、南条は嫌でも自分の立場を自覚せざるを得ません。小夜子が傍観者のように、彼らに抗議しないのが何とももどかしいです。
まだ幼い子供だから仕方ないにせよ、南条に再会してからも、結婚相手の宝積に関するグチをこぼし(実際ダメ男ですけど)、資産家のように見えて内情は火の車で、夫と離婚することを望んでいます。ここまでは理解できるとしても、白馬の王子様が現れ、私を奪ってほしいと寝言を言うに至っては、最早この女に感情移入することはできないと思っていました。途中までは・・・。
私ならば、世間知らずの年増より、一途な若い女性・中村晃子を選びますよ。でも、まぁ、実際小夜子の前に若いピアニスト有馬(巽千太郎)が現れるわけですよ。また、この男がカチンとくることを言うんですわ。よりによって、南条に面と向かってヤクザ否定を言い放ちます。今まで小夜子のために、影になって助けてきた南条でなくとも、「青二才のてめえに、何が分かる!」と往復ビンタしたくもなりますって。
それでも、小夜子が夫と縁切りをして、プライドを捨ててクラブのママとして働き始め、有馬も南条を庇って深手を負うあたりから、こちらも二人の覚悟が感じられ、軟化するようになってきます。他者に頼るのをやめ、自力で幸福を掴もうとする姿勢が見え出し、このあたりの観客の感情をコントロールする、井上梅次監督のテクニックは非常に長けています。私も最終的には、二人の仲を認めましたよ(笑)。空港で二人を見送る南条が、「カサブランカ」のハンフリー・ボガードと重なりました。
安藤昇に対し、敵対する人物が菅原謙二では、些か弱いように思います。それでも、腹に一物ある安部徹が一枚加わることによって、対立関係のバランスは良くなっています。文太兄イの松竹出演作品は、最近になって観るようになり、いずれも悪役や憎まれ役しか観たことがありません。真の悪役を演じられる役者が少ない松竹にとって、菅原文太は貴重な人材でしたが、松竹では必ずしも生かしきれなかったのは、東映に移籍してからの出演作を観れば一目瞭然。本作では庄司に命じられ、権田組のスパイをする役柄でした。トルコ風呂で南条に制裁を加えられますが、文太兄イがスティームバスに入っているのを見ると、「トラック野郎」でのトルコ風呂のシーンにしか思えなくなって困ります。