安藤昇特集③「懲役十八年」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

祝・芸能生活50周年 安藤昇伝説 より


懲役十八年


製作:東映

監督:加藤泰

脚本:笠原和夫 森田新

撮影:古谷伸

美術:井川徳道

音楽:鏑木創

出演:安藤昇 桜町弘子 小池朝雄 若山富三郎 曽我廼家明蝶

    近藤正臣 山城新伍 小松方正 水島道太郎 

1967年2月25日公開


昭和22年、川田(安藤昇)と塚田(小池朝雄)は、遺族連絡事務所を開いて、遺族を必死に守っていました。二人は旧日本軍の倉庫を抑えている外国人から物資を奪い、闇市で捌き、いつの日か遺族たちだけのマーケットを建設するという夢を持っています。


事務所の資金が底を尽きかけたある日、二人はついに中国人の工場を襲撃し、銅線を盗もうとしますが、米軍と警察に包囲されてしまいます。川田は傷を負った塚田を逃がし、遺族連絡事務所を彼に託して投降します。川田は刑務所に送られ、古株の囚人・喧嘩鉄(小松方正)や看守の般若(若山富三郎)と衝突しながら、いつの間にか刑務所仲間から一目置かれるようになります。


ある日、川田の監房に石岡健一(近藤正臣)という少年が入ってきます。健一は服役囚にも看守にも見境なく反抗的でした。そして、意外にも彼は、かつての川田の上官石岡少尉や遺族連絡事務所で働く比佐子(桜町弘子)の弟でした。比佐子は長い間、行方不明になった弟を探していました。そのことを知った川田は、般若を介して、比佐子と健一を秘かに面会させます。


その頃塚田は、マーケット建設の予定地に風俗店を営業させ、地域のボスにおさまっていました。遺族会事務所の三田村アキ(菅井きん)の自殺記事によって、川田は初めて塚田の変節に気づきます。彼は面会に来た塚田を詰ります。また、比佐子も塚田のあまりにもあこぎなやり方に、事務所を辞めようとしますが、塚田は内部事情を良く知る彼女を手放そうとしません。


塚田は川田が邪魔になり始め、これまで渡した賄賂をネタに般若を脅し、健一を焚きつけて川田を殺すよう仕向けます。刑務所の野球大会の日、健一は拳銃で川田に重傷を負わせるものの、塚田が般若を通じて裏で糸を引いていたことを知ります。終身刑を言い渡されている大杉(水島道太郎)は、これ以上健一に罪を着せたくない川田の意志を汲み取り、全ての罪を背負い、因縁のある般若とのケジメを取ります。負傷した川田は所外の病院に移され、駈けつけた比佐子から塚田が健一に拳銃を差し入れたことを知らされます。


数日後、健一は比佐子が監禁され、沖縄に売り飛ばされようとしていることを知り、刑務所から脱走します。そのことを知った川田も彼の後を追うように病院から脱走します。川田は米車のジープを奪うと、シートにあった自動小銃を手にし、塚田興行に乗り込むのですが・・・。


加藤泰監督は、刑務所内で起きる話を中心に据えながら、かつては志を共にした川田と塚田の友情が崩壊する様を鮮明に描いています。その一方で、看守の般若のように、善と悪を内包しながら、臨機応変に対処して生き残ろうとする人物を魅力的に描写します。


この映画での若山富三郎は、彼が演じてきたキャラクターの中でも、今までにないタイプの人物で、川田と塚田の双方に便宜を図り、大杉の女房を寝取った上に自殺にまで追い込みます。肝の据わった悪党かと思えば、塚田から賄賂を受け取り、そのことで脅され川田暗殺に加担させられる気の弱い面を見せます。また、川田の頼みを引き受け、石岡姉弟の面会に協力する温情もあり、善と悪を一方的に割り切れない複雑な部分を併せ持っています。


出番が少ないながらも、水島道太郎演じる大杉も印象に残ります。無期懲役囚で川田からは一目置かれ、互いに敬意を抱く間柄。川田と健一のために一肌脱ぐ行為は、彼が演じてきた善人役の中でも、一、二を争う男気溢れるものです。塚田が変節した経緯は、プログラムピクチャーの尺の都合上省略されていますが、もしこの部分を掘り下げていたら、義よりも実利を取る戦後の日本人の生き方を問う、傑作になった予感がします。