「殿さま弥次㐂多 捕物道中」「ひばり・チエミの弥次喜多道中」を観て | パンクフロイドのブログ

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東京国立近代美術館フィルムセンター

東映時代劇の世界 Part2 より


殿さま弥次㐂多 捕物道中


殿さま弥次㐂多 捕物道中


製作:東映

監督:沢島忠

脚本:笠原和夫 鷹沢和善

撮影:坪井誠

美術:井川徳道

音楽:鈴木静一

出演:中村錦之助 中村賀津雄 中原ひとみ 桜町弘子 雪代敬子 丘さとみ 渡辺篤

    片岡栄二郎 杉狂児 岸井明 薄田研二 山形勲 月形龍之介

1959年1月3日公開


尾張の徳川宗長(中村錦之助)と、紀州の徳川義直(中村賀津雄)は、以前にした二人旅が忘れられずにいました。二人が城で退屈を持て余したとき、義直の妹鶴姫(桜町弘子)の一行が、宗長の城へ見合いのためにやってきます。宗長は気乗りしないまま鶴姫に会うと、そこには鶴姫に化けた義直がいました。二人は家老の鏡兵部(杉狂児)と堀田帯刀(渡辺篤)を欺き、まんまと城から脱け出します。本物の鶴姫が到着した頃には、すでにモヌケのカラ


宗長と義直は尾張の宮で、船に乗り込みます。ところが帆の上で義直が殺人現場を目撃。宗長は半信半疑で義直と共に、船内を歩き回り犯人を探します。船には紀州家御用商人と称する和泉屋(月形龍之介)と稲妻の黒兵衛(沢村宗之助)、駆け落ちした春六(中村歌昇)とお夢(丘さとみ)、観音小僧に救われ故郷に帰る勘兵衛(水野浩)と孫のお君(中原ひとみ)、踊りの師匠おれん(雪代敬子)、観音小僧を追う江戸の岡っ引・法華の大八(薄田研二)と乾分シンガリの留(加藤武彦)などが乗り合わせていました


観音小僧は大名屋敷のお宝を盗み出しては庶民に分け与える義賊でしたが、近頃は人を殺しての強引な押し込みが相次いで評判を落としていました。宗長と義直は、大八と留に観音小僧と疑われますが、おれんの機転によって救われます。やがて、宗長と義直は船を下り、宿に泊まります。そこに他の宿からあぶれたお君やおれんたちも、二人が泊まる部屋に合流します


宿の女中から岡っ引きと間違えられた宗長と義直は、調子に乗って観音小僧をクサす話を始めたから、さぁ大変。観音小僧から恩を受けたお君は悔し涙を流す有様。そのうち、二人の若殿の後を追ってきた家臣たちが宿を調べ始め、二人は一目散に宿を退散します


やがて宗長と義直は、怪しい一団と遭遇。二人は家臣の一人である権兵衛(山形勲)と協力して、一味を捕えようとしますが、思わぬ邪魔が入ります。それでも宗長と義直は、心中しようとしていた春六とお夢を助けたことから、和泉屋が偽物であることに気づきます。黒装束の一味には逃げられるものの、おれんこそが本物の観音小僧で、彼女が偽の観音小僧一味を捕え、汚名を晴らそうとしていたことも分かってきます


一方、宗長たちから逃げてきた黒兵衛は与吉(片岡栄二郎)を煽動して親分の和泉屋を手にかけ、財宝を独り占めしようと企んでいました。その頃、勘兵衛は船で知り合った相撲取りが、和泉屋に無理矢理長持を運ばされていたことを知ったため、何者かによって斬り殺される事件が起きます。また、謎の人物が宗長たちと和泉屋一味の両方に情報を売りつけていました。宗長と義直は漁師小屋で和泉屋一味を待ち伏せしようとしますが、そこに権兵衛を伴った鶴姫がやって来ます


沢島忠監督が軽快な時代劇を撮ると、本当に面白い映画になります。見合いをしなければいけない宗長がクサっているところに、妹に化けた義直が公然と会いに来る出だしからして、人を喰った演出をしています。終始、このような調子で話が進むため、観ているこちらも監督の演出にノセられてしまいます


観音小僧を騙る一味を捕えようとしたら、上から意外なものが落ちてくる意表を突く描写をしたかと思えば、宗長や和泉屋に情報を流す人物を、クセ者と思わせながら実は意外と小物だったと肩透かしを食わせるなど、変幻自在に(良い意味で)観客を弄んでいます


クライマックスの決闘は、アメリカの海賊映画を意識しつつ、乱闘に紛れて船にある資材を次々と使った末に、原形を留めない形で残るのが何とも愉快。しかも、最終的に敵がどのようになったのか結末を見せずに、宗長と義直が船上にいるのを見せるだけなのが粋な演出です。更に、若殿二人が義賊の観音小僧の言い分を聞いて、民情を知り、おれんもまた、二人の正論によって改心するなど、物語の主題も上手く着地しています


中原ひとみは相変わらず愛らしく、桜町弘子のキャピキャピしたお姫様も彼女だから許されます。雪代敬子の姐御肌のキャラクターも健在。その一方で、従来とは異なるキャラクターを出した二人の役者が新鮮でした。陰気な悪役の多い薄田研二は、化粧を施し無能な岡っ引きを演じ、重鎮役の似合う山形勲は、ガサツな下っ端藩士を演じて、随所で笑いを取っています。月形龍之介は今回悪役を演じていますが、敢えて天罰が下ったところを見せなかったのは、沢島監督の月形への敬意と気遣いが感じられます


クライマックスの場面を除けば、宗長も義直も一切悪人を殺してはいません。主人公が人を殺すところは極力見せず、無益な殺生を避けているのは、沢島監督の時代劇に首尾一貫している部分。この映画にも監督の哲学とスタイルが如実に反映されています



ラピュタ阿佐ヶ谷

春爛漫 歌と踊りの銀幕祭典 Dancing,Sinnging! より


ひばり・チエミの弥次喜多道中


ひばり・チエミの弥次喜多道中


製作:東映

監督:沢島忠

脚本:鷹沢和善 高島貞治

撮影:山岸長樹

美術:鈴木孝俊

音楽:米山正夫

出演:美空ひばり 江利チエミ 東千代之介 山形勲 堺駿二

    田中春男 千秋実 河野秋武 加賀邦男 夢路いとし 喜味こいし

1962年1月3日公開


江戸の芝居小屋で下足番をしているお君(美空ひばり)とおとし(江利チエミ)は、いつか自分たちも舞台に立つことを夢見ていました。そんな二人は芝居がはねると、大勢の客の下駄を返却するのに大わらわ。騒ぎが一段落して、お君とおとしが舞台で稽古をしているうちに、二人は誤って奈落に落ちてしまいます


そこでは同心の片山軍次兵衛(千秋実)が追っていた法界坊(東千代之介)、地獄の熊吉(加賀邦男)とその一味が麻薬取引の算段をしている最中。折も折、南町奉行所の手入れがあり、お君とおとしも巻き添えを食らい牢屋に入れられます。間もなく二人の容疑は晴れますが、このままではお嫁に行けないとゴネ出し、自ら牢屋に舞い戻る始末。その間に、法界坊と熊吉は脱獄に成功します


片山は仕方なく、お君とおとしに、表彰状を渡して厄介払いします。二人は意気揚々と芝居小屋に戻りますが、小屋主は悪い評判が立つのを怖れ、それぞれ手切れ金を渡して解雇してしまいます。二人はあまりの仕打ちに反発し、心機一転、弥次郎兵衛、喜多八と名を変えて、東海道を西へ向かいます


一方法界坊は、一旦熊吉と別れ、片山の前に姿を現わします。この法界坊こそ、南町奉行が放った囮捜査官の筆頭与力秋月七之丞(東千代之介:二役)でした。秋月は麻薬密売団の黒幕を探り出すため、潜入していたのです。秋月は片山と連絡を取りながら、麻薬密売団を一網打尽にする機会を窺います


その頃、三島の旅篭に泊まっていたお君とおとしは、さっぱりとした姿に変身した秋月と再会。秋月の素性を知らぬお君とおとしは、彼から「娘に返って江戸へ帰りなさい」と諭され、心がときめいてしまいます。秋月は娘たちに翻弄されながらも、徐々に密売団の黒幕に迫っていきます。やがて、秋月の前に黒幕が正体を現すのですが・・・



ひばりとチエミが歌い踊り、速射砲のようにセリフが繰り出す二人の掛け合いが楽しい一編。沢島忠監督の軽妙な演出が更に輪をかけ、東千代之介と千秋実が、二人に振り回される姿も嬉しくなります。千秋実の女装姿は、そうそう見られるものではありません。その一方でガサツな彼女たちが、時折見せる娘心にしっとりとした情緒が漂います


ノリの良さだけに留まらず、緩急をつけた描写がお見事。序盤における南町奉行所と麻薬密売団の捕物騒ぎは、舞台装置を上手く生かした演出に見応えがあり、この場面だけでもお金を払って観る価値はあるでしょう。ただし、クライマックスのような場面を最初のうちに見せているのは勿体ない。できれば終盤まで残しておいてもらいたかったです


それはともかく、ミュージカルに若干アレルギーのある私でも、沢島監督の時代劇における歌と踊りは全く抵抗がありません。ファンタジーな時代劇と割り切れることもあるでしょうが、演者の個性を生かした演出によるところも大きいのでしょう。二人が男を取り合わず、夢を追いかけるラストが清々しいです