目をつむったまま今どこにいるのか考えている。
泥沼から這い上がる様に意識が戻った。
頭が痛いし吐き気もする。久しぶりの二日酔いだ。
ここは自宅のベットだろうか?
でもゆうべは・・・
考えたくない。
もう一度このまま眠ってしまいたい。
そう思う一方、一生懸命記憶をたぐり寄せようとする自分がいる。
そしてぼんやりした頭の中から少しずつそれはよみがえってきた。
昨夜はマカテイの「さかなや」で皆なと呑んで、
クラブをはしごして、
それから、その後・・・・
ボケてたピントが合わさるように一気に記憶が甦る。
そうっと右手でシーツの上をすべらせる。
ゆっくりと。
そして腕が伸びきったところにその感触はあった。
目を開ける。
女の背中がみえる。
おれの指先は女の腰のあたりに触れていた。
昨夜置屋では
この日残っていた20人ほどの女を並ばせた。が
結局BU-ちゃんは始めに顔見せした新しい女の一人、サラを、
KOMEちゃんは以前からお気に入りだったマリテスという
女をリクエストした。
俺が買った女はLAYLAと名のった。
途中ROYを自宅でおろし、3人の女を乗せた車はホテルSOGOへむかう。
このバカみたいな色使いもここまで徹底すると
何故か納得。俺はきらいだが。)
マビニ通り ーホテルSOGOー
BU-ちゃんが助手席から振り向いて俺に聞いた。
「そうだな。」
たしかに腹もだが、あれだけ呑んだのにまだ呑み足りない気もする。
女を買った興奮からか喉も渇く。
「だけどこの時間じゃあ近くでやってる店もないだろう。」
時計はすでに一時半を回っていた。
「大丈夫ですよ。さっき「一番館」の店長に連絡しておきましたから。」
ハンドルを握っているKOMEちゃんが答えた。
「一番館」はホテルSOGOの向かいに有る日本食店で、当時店長はU君という
四国出身の日本人だった。
彼はCOMEちゃんと付き合いが長く、二人はよくつるんで夜の街を徘徊していた。
彼も又BU-KOMEと同じ様な体型で、3人が並ぶとどうしても3匹の子ブタを連想してしまう。
3人共いい大人で子ブタほどのかわいさはないけれどどこか愛嬌は有る。
こんなバブイ達とビールと酎ハイで最後の乾杯をする。
「お疲れさまでした。」
それぞれの女を傍らに、から揚げやチャーシューをつまみにグラスをかかげあう。
今夜の事を聞きたがるU君にBU-KOMEは待ってましたとばかりに勢いづく。
聞き上手のU君もあって話は弾む。
気をつかってか、流暢なタガログを交えての話は女たちの笑いを誘う。
さすがにそのへんはそつがない。
改めて女たちに目を向けると
それぞれにビールやコーラを手に、サラとLAYLAの表情もだいぶ
柔らいでいる。
ビールを片手に男たちの話に日本語まじりで合いの手を入れて
いるのはベテランのマリテスだ。
本人は23才というけれどたぶん25は過ぎているだろう。?
ボーイッシュな顔立ちにショートヘアーが似合ってる。
スレンダーな体に肩口にフリルの付いたノースリーブのブラウス。
胸のボタンを一つ二つ開け、
ウエストを少し太めの茶色のベルトでキュっと締めている。
うっすら透けてるブラジャーの黒が何んともそそる。
そして自慢の足をデニムのショートパンツから
惜し気もなくさらけ出している。
モデル雑誌から抜け出た様ないい女だ。
背も高く160㎝を超える。
自分より背の高い女をいやがる男が多いが
身長150ちょっとのCOMEちゃんは一向に気にかけない。
そんな事を十二分に上回る魅力が彼女には有るようだ。
片やサラと言えば隣にいるマリテスの引き立て役のようだ。
少し小太りのサラは半そでの襟の付いたブラウスにピチピチのジーンズ。
そういうジーンズなのか体型がそうさせているのかよくわからない。が
たぶん後者だろう。
顔立ちは幾分丸めで色は黒く、天然パーマか何だか
モジャモジャっとカールした髪の毛が頭を覆っている。
決して美人とは言えない彼女だが、一つだけ男の目を引き付けるものが有った。
巨乳フェチのBU-ちゃんにはそれが何よりにも代えがたい全てだった。
ブラウスのボタンを弾き飛ばしそうなそれは今もBU-ちゃんの目の前で
「おいで。」「おいで。」と手招きするように揺れていた。
LAYLAは少し違っていた。
置屋で並んだ時は洗いざらしのTシャツに細身のジーンズだったが
車で出る時にはバイオレットのワンピースに着替えて来た。
膝上までのスカートからすらりと伸びた白い足は車のライトに照らされて
より一層白さを増す。
中で見た時には目立たなかったが
鼻すじの通った色白の顔は幾らかスパニッシュの血が混じっているのだろう。
化粧っけのないその顔に派手さはないが端正な顔立ちは俺好みだ。
サラもLAYLAも同じ19才と言っていたが、
LAYLAが時折見せた不安そうな表情やしぐさの中に一瞬少女の様な幼さを
感じたのは気のせいだろうか。
頭をよぎった違和感は男たちの漫才の様な掛け合いと笑い声の中に
すぐにかき消えていった。
後でLAILAから聞いた話だが
「あんたたちは今日はとてもラッキーだ。
いいお客さんの日本人だから心配ない。頑張るんだよ。」
置屋を出る時に女将がそう言って送り出してくれたそうだ。
そうは言われても今日が初日で、日本人と話をするのも初めてで、
何がラッキーで、何が心配ないのかよくわからない。
買われたからには何をするのか、されるのか、
頭の中では理解をしていたし
置屋で仕事をすると決めた時、覚悟はしたつもりだったが、
初めて俺たちの前に立った時は
胸のドキドキも聞こえる様で足の震えも止まらなかった。
一人の日本人に買われると分かった時、不安で頭の中がいっぱいになったが
これから本当に自分の仕事が始まると思うとホっとする気持ちにもなった。
今日一晩、この日本人は自分の恋人だと思えばいい。
本当の自分じゃないのだから。
仕事着を着るようにワンピースに着替えた。
車の中での日本人の様子やマリテスとの話を聞いているうちに
不安も少しずつ薄らいでいった。
そしてこの一番館でのひと時は彼女たちによりいっそうの安心感を与えたようだ。
俺もこの頃にはビールから酎ハイに変わりグラスを重ねていた。
ろれつも少しあやしい。
BU-KOMEは最後のラーメンをすすっていた。
「ごちそうさまでした。」
うらやましそうに見ているU君に手を振って店を出る。
外は深夜とはいえ蒸し暑い。
よどんだ空気がベタベタと体にまとわり付くようだ。
「今度はこっちでごちそうになりまーす。」
BU-KOMEは2階に有る連れ込み専用の外階段へ向かう。
それぞれに腕を組んだり手をつないだり
まるでこれからハイキングにでも行くように。
俺はLAILAの肩を抱きながら、というか摑まりながら
体をぶつける様にエントランスのアクリルドアを開ける。
フロントには従業員の姿もない。
奥の部屋で休んでいるのだろう。
人の気配を感じても呼び鈴を鳴らされるまで出て来やしない。
いつもの事だ。
ポケットをまさぐってルームキーが有るのを確かめる。
エレベーターで4階に上がる。
部屋のドアを開けるとヒヤっとした冷気が心地いい。
出がけにエアコンをつけっぱなしにしていたのを思い出す。
すでに疲れと酔いは限界を超えていた。
LAYLAともつれる様にベットになだれ込む。
仰向けになって一息長い息をはく。
LAYLAの頭に右腕を回し引き寄せる。
かすかにシャンプーのにおいがした。
「シャワー。」
LAYLAが俺の耳元でささやいた。
・・・to be continue
E さん