シイタケのブログ -32ページ目

労働契約法のこれから…財界の大きな野望?

 日本経団連のHPに、経団連が要望する「優先政策事項」がまとめられている。それによれば、相変わらずのことではあるが、労働法制に関するさらなる規制緩和の要望が掲げられている。「専門性や創造性が高い仕事を行う労働者については、従来の労働時間規制の枠を越えて勤務形態の柔軟性を高め、労働生産性の向上、ワーク・ライフ・バランスの実現を図る。企業・職場の実態に即した柔軟な働き方を促進し、雇用・就労形態を多様化すべく、環境整備を図る。」とのことである。「労働時間規制の枠を超えて…」は結局、お流れになったホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求めているものであり、「柔軟な働き方…就労形態の多様化…」は結局、派遣労働の期間制限撤廃や、解雇規制の緩和を求めているものである。「労働条件を会社が自由に決められ、より安く働かせることができ、いつでも労働者をクビにできる」社会が経団連の求める世界ということになろう。経団連は今後もその要望する政策を実行してくれそうな政党(政治家)にせっせと政治献金するであろう。

 ところで、すでに成立した「労働契約法」は、これまでに確立した労働関係に関する判例法理をいくつか明文化したものといわれている。「解雇権濫用禁止の法理」「就業規則不利益変更禁止の原則」「使用者の安全配慮義務」などである(ただし解雇権については労働基準法が数年前に先行して明文化していたものを労働契約法に移したもの)。一部には、判例法理のそのままの明文化ではなく、判例法理を後退させるものだ、とする批判もあったが、審議の際の国会答弁では、判例法理を変えるものではない(足しもしなければ引きもしない)とされていたので、判例法理の後退とはいえないのであろう。私も過去のブログでは「とにかく法律ができたのだからよいところは援用すればよい」ような趣旨のことを書いたと思う。とりあえず法律のできた「現」時点では、実務や紛争解決の処理に当たって、これまでの取り扱いに変化を生じさせるものではないことは確かなようである。 しかし私はふと思った。「確立した判例法理」というものは、そうそう簡単に覆されることはない。それが最高裁の判例であれば、大法廷を開いて変更を宣言しなければならないほど、判例法理というのは重いものである。しかしそれが法律に明文化されたことによって、判例法理は司法の手から立法者の手に移った、と考えることができるのではないだろうか。判例法理を変更するより、法律を変更することのほうが容易なのではないだろうか。「解雇権濫用禁止の法理」「就業規則不利益変更禁止の原則」…のような労働関係を規律する重要な法理が、これからは司法ではなく、立法者の手によって変更され得るということである。よくよく考えれば、これは大変危惧すべきことのように思われてきた。経団連が最高裁に判例法理の変更を要望した話は聞いたことがないが、政党や政治家に献金をもって働きかけ、労働法制の規制緩和を要望することは、これまでもこれからもあるのである。法改正でこれまでの判例法理を覆すという司法軽視は普通ありえないと信じたいところではあるが…。

 労働契約法の国会審議では、最終的には民主党も修正のうえで成立に合意した。日弁連も連合も最終的には「断固反対」という立場ではなくなったようである。私のように、「将来法改悪される可能性があるから立法化に反対!」というような意見は、責任ある団体の立場からは言えなかったのであろう。結局、労働契約法は猛反対という大きな世論が沸き起こることもなく、成立した。判例法理から「法律」へ…この一見平穏な流れを、「誰かが」ほくそ笑んで見ているような気がしてならない。心配しすぎだろうか。労働契約法の審議においてよく言われた「小さく生んで大きく育てる」が労働者の期待と反する意味にならないことを願う。

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労働契約法の修正箇所の検討7

【原案】第十七条
1 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がないときは、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

【連合の見解】第十七条(期間の定めのある労働契約)では、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がないときは、その契約期間が満了するまでの間において労働者を解雇することができない。」となっているが、この記述では、民法における場合とは異なり、「やむを得ない事由がない」ことの立証責任を労働者が負うこととなる。

【修正案】第十七条第一項中「ないときは」を「ある場合でなければ」に改める。

【私のコメント】民法では、628条に「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる(以下略)」と定められている。この規定は民事訴訟法の通説に従えば、解雇に関して紛争になった場合、「やむを得ない事由がある」ことについては使用者が立証責任を負うことになる。この民法の規定の特別法として労働契約法に取り込んだのが17条であるが、ここでは「解雇できない」を原則として強調するために、民法とは逆の言い回しになっている。ただし、連合によれば、「やむを得ない事由がないときは」との文言が問題だという。立証責任を労働者が負うことになると懸念するのであるが、本条にそこまでの意図はない(民法の立証責任をひっくり返す意味はない)とは思われる。ただ、やや不明確であることは確かであろう。この点、日本労働弁護団の見解でも、「やむを得ない事由」の立証責任を使用者が負うことを明確にするためにも、例えば、「やむを得ない事由のないときは」を「やむを得ない事由がある場合を除き」と改める、あるいは、「やむを得ない事由がないときは」を削除し、但し書として「但し、やむを得ない事由がある場合はこの限りでない」を加えるなどの修正がなされなければならない。」とされている。

 ただ、私は期間の定めのある労働契約(有期雇用)については、もっと重要な判例法理を明記してほしかった。それは昭和49年の最高裁判決(東芝柳町工場事件)であり、それは、「期間の定めのある労働契約が反覆更新され、実質的に期間の定めない労働契約と異ならない状態で存続している場合、雇止めは実質において解雇にあたり、解雇に関する法理(解雇権濫用禁止の法理)が類推して適用される」というものである。この点、民主党が対案として出していた労働契約法(内閣提出法案の修正合意により撤回)には、この判例法理と同様の規定があった。それは下記の通りである。

 (雇止めの制限等)第四十二条 第三十八条第二項の規定により更新の可能性を明示された有期労働契約を締結している労働者が、当該有期労働契約の更新を希望した場合においては、使用者は、当該労働者に係る従前の有期労働契約の更新の回数、継続的に勤務をしている期間その他の事情に照らして、当該有期労働契約を更新しないこととすることが客観的に合理的な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる場合でなければ、更新を拒んではならない。

 この趣旨の規定が修正案として盛り込まれなかったのはとても残念である。格差社会の元凶は不安定な雇用と低賃金だからである。上記判例法理など知らず、突然雇い止めになって泣き寝入りしている労働者は多い。この法理が明記されれば、労使双方にとって大きなインパクトになったに違いない。せっかくの独自案を安易に撤回して些細な修正案に同意した民主党はやはり労働者のほうを向いた政党ではなかった、とがっかりさせられる。連合は連合で問題であり、やはり正社員を中心とした組織だからであろうか、非正規雇用者のことには関心が薄く、民主党の合意した修正案でよしとしているのであろう。

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労働契約法の修正箇所の検討6

【原案】(出向)第十四条
1 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
2 前項の「出向」とは、使用者が、その使用する労働者との間の労働契約に基づく関係を継続すること、第三者が当該労働者を使用すること及び当該第三者が当該労働者に対して負うこととなる義務の範囲について定める契約(以下この項において「出向契約」という。)を第三者との間で締結し、労働者が、当該出向契約に基づき、当該使用者との間の労働契約に基づく関係を継続しつつ、当該第三者との間の労働契約に基づく関係の下に、当該第三者に使用されて労働に従事することをいう。

【連合の見解】第十四条(出向)では、「当該第三者との間の労働契約に基づく関係の下に」となっているが、法案要綱では、在籍型出向の定義規定であるにもかかわらず、この記述では、従来の「出向」概念では認めてこなかった、業としての出向を含むものとなる。

【修正案】第十四条第二項を削る。

【私のコメント】この点についても日本労働弁護団の見解のほうが分かりやすい。

(引用ここから)
 契約法案14条2項は出向の定義規定であるが、要するに、「労働者が、出向契約(出向元と出向先)に基づき、使用者(出向元)との間の労働契約に基づく関係を継続しつつ、第三者(出向先)との間の労働契約に基づく関係の下に、第三者(出向先)に使用されて労働に従事すること」であるとする。
 契約法の規定でありながら、この定義に当該労働者個人の合意――第三者(出向先)との間の労働契約の成立――については何ら触れられていない。法案は、「出向を命ずることができる場合」(14条1項)に第三者との労働契約が成立するとするのであろうが、これでは、規定を置く意義はほとんどないといわざるをえない。いかなる場合に(いかなる要件を満たせば)「出向を命ずることができる」のか、具体的に規定すべきである。
 また、かかる定義では、派遣規制の潜脱として利用されることが懸念される。労働者の「レンタル」を合法化、促進しないよう、第三者(出向先)の労働契約当事者としての責務を明記するなど十分に配慮した規定が求められる。
(引用ここまで)

 この件に関しては、問題指摘の通りであろう。出向の定義に関しては派遣規制の免脱が生じないよう厳格に再定義されるまで、棚上げということである。

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