シュナイダー・レーサー | AIRPLANE NUT

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ブログタイトルは「ヒコーキきちがい」という意味です。航空ショーや航空博物館を見に行くのが趣味です。

私がこの記事を作成している9月13日は1931年に有名なシュナイダー・トロフィー・レースで英国が3連勝、トロフィーの永久保有権と賞金を得た記念日です。上掲の画像はロンドンの科学博物館に展示されているそのレースで優勝したスーパーマリン・S6Bです。ところどころ剥がれ落ちた塗装が激戦のあとを伝えてくれます。

 

このレースやヒコーキのことは幾度となく話題にされ、記事になっているので、私はいつものように私の視点での感想を述べてみようと思います。

 

まずこのS6Bを目にして思うのは実によく引き締まった機体です。エンジンのサイズにあわせてぎりぎりにまで絞り込んだであろう機体のラインには芸術を見るような感銘を受けます。この博物館にはこのS6Bのすぐ近くに同じミッチェル技師の作品であるスピットファイア戦闘機が展示されているのですが、単品で見るとスマートなスピットファイアもS6Bと並べてしまうとだいぶぜい肉で膨れた印象です。実用機なのでそれは当然なのですが。

 

そしてもうひとつ目に付くのが幅広のプロベラブレードです。英国人はプロペラのことをエアスクリューと呼んだりするのですが、まさに船のスクリューのごとき存在感を放っています。このエアスクリューはまた別の英国の有名な航空機メーカー、フェアリー社製で、英国の航空工業会がこのレースに勝つために一丸となっていたことがうかがえ、後日のコンコルドを思い出します。

同館、同じフロアの少し離れた場所には多数の航空エンジンが展示されていて、これだけでもここを訪れる価値があるほどの充実した内容なのですが、この中にS6Bが搭載したロールスロイスRエンジンが展示されています。ロールスロイスの航空エンジンは私の知る限りすべてアップドラフトキャブレーターを使用しているのでキャブレーターのエアインテークは機体下面にあるわけですが、この"R"タイプに限っては吸気ダクトをひん曲げてわざわざ上方から吸気を導いています。これはまさしく水上滑走時に巻き上がる強烈な水しぶきを吸い込まないための対策に違いありません。

 

このS6Bは御覧いただける通り大変薄い翼をつけています。一連のシュナイダー・レーサー制作の過程で主任設計者であるR.J.ミッチェル技師は薄い翼の功罪を知り尽くし、名機スピットファイアに生かしたであろうことは想像に難くありません。当時、英国の航空界には厚い翼のデメリットがよく認識されていなかったという話もあって、よってホーカーのシドニー・カムなどはその内部利用のメリットも考えたうえでハリケーンやタイフーンの厚い翼を設計したと思うのですが、高速機の経験を積んだミッチェル技師はそのデータを信じなかったのだと思います。

 

もうひとつ。スーパーマリン社はその名の通り水上機を主に開発していました。その中には水陸両用機もあったのですが、その降着装置は機体に取付けられることが自然でした。水上機に限らず戦間期には陸上機でも複葉機から単葉機への転換期であり、降着装置が胴体にとりつけられることは普遍的でした。

少々回りくどくなりましたが、スピットファイアの主脚の間隔が狭いのは上述のような背景があったと思います。最初の画像をご覧いただくと、フロートの支柱が胴体から斜めに伸びています。ミッチェル技師が陸上機を設計するにあたって、すこしでも翼に負担をかけないように降着装置をフロートと同様に胴体の近くに取り付けたのだと私は思います。スピットファイアとよく比較されるメッサーシュミットBf109も似たような事情はあっただろうと想像します。

ロンドンの科学博物館では芸術品のようなシュナイダー・トロフィーを見ることもできます。ヒコーキ以外にも蒸気機関車のロケット号や産業革命の国らしいさまざまな発明品が見られますし、アクセスもしやすいのでぜひ訪れてみてください。