先日、知人からこんなことを言われました。
「何だかんだ言っても、病院って儲かってるんでしょ?」
もちろんやんわり否定しておきました。しかし、いまだにそう思われてしまうのはなぜか?考察好きの私は、ついその理由を真面目に考えてみました。で、たどり着いたのがこの結論です。
「診療報酬」という言葉、あれが良くないんじゃないか。
まず“報酬”という言葉が与える印象について考えてみます。「成功報酬」「役員報酬」「高額報酬」……。報酬という言葉には、どこか“特別な仕事に対する高額な対価”という空気がまとわりついています。“お金が動く”“儲けが発生する”というイメージに自然とつながってしまう。そんな言葉を「診療」につけてしまったら、どう聞こえるか。
「診療報酬」=「病院が好きに設定している報酬」、「医療」=「金を取るビジネス」…そんなふうに誤解されても不思議ではありません。
「医者は外車」「病院は儲かってる」…そう思っている人が少なからずいるのは、この言葉の響きにも一因があるのでは?と感じたのです。
しかし現実はどうか?
医療は「価格を自分で決められない」世界です。診療報酬(=医療サービスの単価)は、国が定めたルールに従うしかない。どれだけコストが上がっても、「すみません、明日から値上げします」は言えません。電気代が高騰しようが、看護師の人件費が増えようが、診療報酬は上がらない。というか、むしろ引き下げられることすらある。
“報酬”という言葉の華やかさとは裏腹に、医療現場の経営は、年々じわじわと圧迫されていっています。(※デフレには強いという説もありますが、今はインフレの時代ということで、いったん置いておきます…)
しかも、医療には「価格競争」もなければ「単価アップのためのブランディング」も基本的にはありません。それでも「質の向上を」「DXを」「賃上げを」と求められる。ではその費用はどこから?…誰も答えられないわけで。
広報という仕事をしていて思うのは、言葉ひとつで伝わる印象が180度変わるということです。正確な言葉を使っているつもりでも、受け手が誤解すれば、それは「伝え損ねている」のと同じなわけで。「診療報酬」という言葉も業界では当たり前すぎて気にしていませんが、患者さんにとっては、“なんとなく嫌な言葉”なのかもしれません。
なんとなく高そう。
なんとなく儲かってそう。
なんとなく敷居が高い。
その「なんとなく」が壁になってる…というか、誤解を助長してそうです。
試しに「診療報酬」という言葉を、「医療サービス料」に変えてみたらどうなるでしょう。報道でも、「診療報酬が0.88%プラス」ではなく「病院が受け取る医療サービス料が0.88%上がる」だったら、印象はどう変わるか?
「え、もともとたくさんもらってるのに、少しとはいえまた上がるの?あかんやろ!」という反感が、「物価がこんなに上がってる中で、病院は1%も上げられないのか…可哀想に」という共感に変わる可能性だってあるのでは。
医療現場の多くは、“削りに削ったギリギリの単価”でなんとか成立しています。「報酬」なんて言葉から想像される“ゆとり”なんて全くないわけです。にもかかわらず、言葉が生む誤解が偏見につながり、偏見が政治判断を歪め、その歪みが現場の苦しみを増幅する。…で、気がついたらある日突然、病院がなくなっていた。そんな未来も、決してフィクションではないわけです。
医療は社会のライフラインであり、命のインフラです。だからこそ、誤解の代償がとてもデカい。だったらまずは、その誤解の“芽”になっているかもしれない言葉を、見直すことから始めてもいいのではないか。
言葉ひとつで人は簡単に騙せてしまう。良い意味でも悪い意味でも。そんなことを思った、盛夏の昼下がりでした😌