季節的にはすでに春に向かっているはずなのですが、寒い日が続いています。この時期は例年、低体温で搬送されてくる人が多数いらっしゃいます。低体温患者さんの場合は、救急隊から「体温が測れません!」と言われることが多いです。診察してみると、本当に体表がキンキンに冷えていて、中枢温を測定してみると30℃とか、ひどい場合には20℃台ということもあります。そこで何とか復温を図るわけですが、低体温はその背景にも目を向けることが非常に大切です。
そもそも低体温って何?
低体温は一般に体温が35℃以下に低下した状態を指します。事故とか不慮の事態に起因するものを特に偶発性低体温症と呼びます。この季節に多いのは、自宅に暖房がなかったり、暖房の効果が弱かったりして高齢者が室内で低体温状態になってしまったというパターンです。ただ、単に寒冷環境にいるだけで低体温になるとすれば一億総低体温状態でしょうから、寒冷環境以外の因子が重要なのです。様々な原因が複合的に関与して、結果的に低体温に陥ってしまいます。
日本救急医学会のウェブサイトに挙げられている低体温になる因子は、山岳遭難、水難事故、泥酔、薬物中毒、脳血管障害、頭部外傷、幼少児、高齢者、路上生活者、広範囲熱傷、皮膚疾患、内分泌疾患(甲状腺・下垂体・副腎などの機能低下)、低血糖、低栄養です。一般診療で見逃されがちなポイントとして、個人的には救急医学会が上げている背景の中では内分泌疾患には注意を払ってほしいと思っています。そしてもう一つ、敗血症にも着目してほしいなと思います。
低体温敗血症
以前、敗血症の基準として用いられていた全身性炎症反応症候群(SIRS)の項目に入っていたことからも分かるように、敗血症を来すと発熱ではなく低体温になることが知られていました。敗血症の10%程度は低体温を来すといわれておりますし、本邦の敗血症レジストリでも、ICU入室時に敗血症の15.8%は体温が35.5℃以下であったとしています。
感染症なら発熱しそうなものですが、同時に血管が拡張して熱放散能が上がります。自己防衛反応の一環である発熱と熱放散のバランスが取れなくなると、一転して低体温に向かってしまいます。体が弱っていればいるほど低体温になりやすいであろうことは想像に難くないですし、実際に低体温合併群で敗血症の死亡率は上昇します。
低体温の人を見たら、とにかく復温をしなくてはと考えたいところなのですが、循環血液量が保たれないことには熱の運搬がされませんし、感染源をコントロールしないことには原因を除去できません。低体温を見た段階で血液培養を採取しておくことを検討し※、復温の努力に対して反応が乏しければ、感染症として介入しなくてはならないと気持ちを切り替える必要があります。
※僕は低体温症例で全例血液培養2セット出します。原因と結果は評価が難しいところですが、低体温そのものも免疫反応の抑制から菌血症のリスクにもなるのではないかと思います。データはないですけど……。
内分泌も大事
忘れがちなもう一つのポイントが内分泌です。特に、甲状腺機能低下の人がよくいらっしゃいます。当院では「復温への反応が悪ければ感染症と内分泌!」と口をすっぱくして言い続けた結果、ほとんどの症例で入院時に甲状腺ホルモンとコルチゾールの測定がなされます。これらの検査は外注しているという病院がほとんどだと思います。早々に疑わなければ診断も遅れますので、常に頭に置いておきたいところです。「とにかく補充」の功罪は、十分な知識を持ち合わせていないので推奨するのは控えておきますが、本日共有したいのは、レボチロキシン中止例での低体温が意外と問題ではないかということです。
高齢で寝たきりになり、経口摂取も不安定になってきたら、侵襲的な治療は控えましょうとか、シビアな管理を控えましょうという方向になることがあると思います。自分ならそうしてほしいなと思いますし、理解できる対応なのですが、そこでレボチロキシンを終了した結果、低体温になって救命救急センターへ搬送というなんともいえない出来事がありました。無理して服薬させる方が弊害は強いと考えて医師が中止する場合もあるでしょうが、患者家族の判断で中断させてしまうという場合もあります。良かれと思ってやっていることなので余計に難しいのですが、投薬を中止したために甲状腺機能が破綻して低体温になり、家族は慌てふためいて救急要請するのです。意識が低下して低体温で、しかも徐脈だったりしたら、自動的に救命救急センターに搬送され、全力で介入が行われてしまいますから、当初の目的がよく分からなくなります。
意図的に中断するパターンのほか、今後は認知症で薬剤の管理ができず、人知れず甲状腺ホルモンが補充されなくなって低体温を来すパターンなどが増えるのではなかろうかとか危惧しています。はやく春が来てほしい……。