【作品#0826】ブラック・レイン(1989) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ブラック・レイン(原題:Black Rain)

【概要】

1989年のアメリカ/日本合作映画
上映時間は125分

【あらすじ】

ニューヨーク市警のニックとチャーリーは逮捕した佐藤を日本に護送するが、空港で警察に扮した佐藤の手下に佐藤を引き渡してしまう。何とか佐藤を捕まえたいニックらは松本警部補監視のもと行動することになる。

【スタッフ】

監督はリドリー・スコット
音楽はハンス・ジマー
撮影はヤン・デ・ボン

【キャスト】

マイケル・ダグラス(ニック・コンクリン)
高倉健(松本正博警部補)
松田優作(佐藤浩史)
アンディ・ガルシア(チャーリー・ビンセント)
ケイト・キャプショー(ジョイス)

【感想】

松田優作は撮影当時膀胱がんを患っており、日本公開から7週後に40歳の若さでこの世を去り、松田優作にとって本作は映画の遺作となった。また、本作の脚本は当初、リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットが監督した「ビバリーヒルズ・コップ2(1987)」用のものだった。

いくらアメリカで捕まえた日本人を日本まで護送してそこで逃がしたからと言ってアメリカの刑事が日本で捜査できるなんて無茶な話である。ニックとチャーリーは外国人であることは強調されるが、それでも強引に日本の捜査に加わっていく。映画を見進めていくとそこまで気にならなくなっていくが、ここがダメだった人には後に尾を引くことになったことだろう。

ニックは妻と離婚し二人の子供への養育費の支払いに苦労しているニューヨーク市警の刑事である。休みの日は危険なバイクレースで賭けをするなど仕事だけでなくプライベートでも危険がないと生きていけないような男である。さらには麻薬の横領疑惑をかけられており、監察官から厳しい追及を受ける場面もある。いかにもマイケル・ダグラスが演じそうなキャラクターである。ちなみに、後の「氷の微笑(1992)」でもマイケル・ダグラスは刑事役を演じている。

ニックとチャーリーは捕まえた佐藤の護送任務を与えられ、日本に到着すると出迎えた警官に佐藤を引き渡すが、偽の警官に引き渡したことで佐藤を逃がしてしまうことになる。ニックがニューヨーク市警からも大阪府警からも責められていたが、これはさすがにニックが可哀そう(こんな凶悪犯の護送を旅客機でしかも通訳なしで行うことはさすがにないだろう。当時はこれに近しいことがあったのか!?)。

そして、このニックが佐藤を捕まえるニューヨークの場面からニックと佐藤の戦いは始まっていた。「戦い」はリドリー・スコット監督が何度も描いてきたテーマである。それこそ彼の長編監督デビュー作「デュエリスト/決闘者(1977)」に始まり、「エイリアン(1979)」「ブレードランナー(1982)」「グラディエーター(2000)」「ワールド・オブ・ライズ(2008)」など多くの作品が該当するだろう。また、その舞台を異国や異世界(SF)などにすることもよくある。また、本作中に「佐藤が逃げた」ことや「アメリカの刑事が凶悪犯を逃がした」といったことがニュース映像や新聞記事で流れることはない。そういった第三者の視点は本作に必要ない。あくまでニックと佐藤の戦いなのだ。

これは遠からずという印象ではあるが、ニックと佐藤はともに外れ者である。ニックはチャーリーに慕われてこそいるが、警察内でも厄介な刑事だろう。また、佐藤も菅井に盾突き、周囲の組の意向に関係なく自分なりのやり方を通そうとしている。

ニックのキャラクター背景についてはアメリカパートをもう少し充実させても良かったように思う。別れた妻との間にまだ小さな子供が二人いる。休みの日は危険なバイクレースで金を稼いでいる。特にこの二つの設定は後に日本へやって来てからのニックの描写に深みを与えたようには思えない。危険なバイクレースをやっていたからラストで佐藤を捕まえることができたという描写に繋がるのは理解できるがそれだけかな。

また、汚職に手を染めており、ニューヨークという街自体がグレーの場所でだったら何をやっても構わないとニックは考えている。ただ、純粋に自分を慕うチャーリーにはその事実を話せないでいる。いくら若手とはいえ、チャーリーがニックの不正に気付いていなかったとは考えにくいが、ニックはチャーリーにはまだ気付かれていないと考えていそうな気はする。チャーリーもいずれ経験を積めばニックのような刑事になっていたかもしれない。

そして、対極に位置するキャラクターなのがニックと松本である。自由に動き回るグレー(実際には黒)ニックに対して、松本はあくまで大阪府警という組織の一員であり、汚職には手を染めない人間である。また、中間管理職という立場から部長とニックの間に挟まれジレンマを抱えることになる。

ニックは松本という清廉潔白な人物に出会ったからこそ正直になれたわけだし、松本もニックという破天荒な人物に出会ったからこそ停職処分中にもかかわらずニックの応援に駆け付けたわけだ。この二人の交流についてが本作のメインで描きたかったところだと思うが、ドラマとしてはやや弱い。

というのも松田優作演じる佐藤が強烈過ぎたからだろう。同じ日本人という贔屓目なしに松田優作の存在感は抜群だった。彼が出演してきたこれまでの邦画でもここまでの強烈な存在感を表現した作品はなかったように思う。佐藤というキャラクターがここまでたっているからこそ、ニックは燃えたんじゃないだろうか。自分と同じような組織のはみ出し者だが、刑事と犯人という立場である。殺すのではなく絶対に捕まえてやるという気持ちがより強いものになったんじゃないだろうか。絶対に捕まえるというスタンスは後の「氷の微笑(1992)」の主人公にも通じる。

ラストの戦いでは停職処分を受けた松本がニックの応援に駆け付ける。高倉健演じるキャラクターがラストの戦いで応援に駆け付けると言えば、彼がかつて出演していた任侠映画を思い出す(特に「緋牡丹博徒(1968)」など)。ただ、刀を振り回すイメージの強い高倉健がマシンガンをぶっ放すというのも新鮮味があるし、日本の刑事ゆえか扱いにそこまで慣れていなさそうな感じも悪くない。

ちなみに、ケイト・キャプショー演じるジョイスは完全に浮いていた。ニックの気持ちを吐き出し、それを観客に聞かせるための聞き手として用意されたようなキャラクターである。別にこの役はなくても映画は進められたはずである。ヒロインを用意しなければならないという固定観念のもと用意された気がして仕方がない。仮に用意するならまだ偶然居合わせたアメリカ人ではなく、日本人にすべきだったと思うわ。

映像作家とも言われるリドリー・スコット監督らしい絵になる映像もいくつもある。冒頭のマイケル・ダグラス演じるニックが橋をバイクで疾走する様子から、日本にやってきた際の太陽を映すショット、そしてラストのバイクチェイスを空撮で捕らえたショットなど。また、最初の銃撃戦で市場に逃げ込む前にスモークの焚かれた道路を映す場面もリドリー・スコット監督らしいし、80年代らしい。

やはり当時すでに名監督の位置にいたリドリー・スコットが監督した作品でこれほどの日本人キャストを見られることも同じ日本人として素直にうれしく思う。しかも、本作の2年前に「ウォール街(1987)」でアカデミー賞を受賞したマイケル・ダグラスに、こちらも本作の2年前に出演した「アンタッチャブル(1987)」でその名を知らしめたアンディ・ガルシアが共演しているのだ。さらにスタッフもまだ当時30代前半のハンス・ジマーが音楽を担当し、本作の前年に「ダイ・ハード(1988)」で撮影監督を務めたヤン・デ・ボンが本作の撮影を担当している。ドラマとしてはやや弱い部分もあるが、娯楽映画としても日本を舞台にしたハリウッド映画としても十分に楽しめた。

【音声解説】


参加者
├リドリー・スコット(監督)

監督のリドリー・スコットによる単独の音声解説。13年から15年前という言葉が出て来るので、2000年過ぎに収録されたものであろう。

東京での撮影を考えていたがどこも許可取りが大変で協力的な大阪府知事のもと、大阪周辺での撮影になった話、喫煙する度に高倉健から冷たい目で見られた話、バイクの後方に旗を立てるようにしたのは黒澤明監督からの影響である話、チャーリーが殺される駐車場はアメリカで撮影したが美術スタッフのおかげで日本に見えたと反響があった話、松田優作、ガッツ石松や若山富三郎などの演技や印象、換気扇越しに光が差し込む演出などなど、日本人であればこそ分かる話も多数登場するので本作が好きならソフトを購入してでも聞いてみてほしい。



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/日本語)


<Amazon Prime Video>

言語
├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

<BD>

言語
├オリジナル(英語/日本語)
├日本語吹き替え
音声特典
├リドリー・スコット(監督)による音声解説
映像特典
├「ブラック・レイン」脚本とキャスト
├「ブラック・レイン」メイキング パート1、パート2
├「ブラック・レイン」ポスト・プロダクション
├劇場用予告編
├出演者インタビュー(内田裕也、小野みゆき、ガッツ石松、國村 隼、神山 繁、島木譲二)
├「ブラック・レイン」ファン インタビュー(上田晋也、太田 光、加藤雅也、リリー・フランキー)
├松田優作オーディション映像
├フォト・ギャラリー(撮影当時の台本、秘蔵写真等)