【作品#0580】氷の微笑(1992) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

氷の微笑(原題:Basic Instinct)


【Podcast】


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【概要】

1992年のアメリカ/フランス合作映画
上映時間は127分

【あらすじ】

サンフランシスコのある日、元ロックスターのボズが自宅の寝室で死体となって発見された。刑事のニックとガスはボズと行動をしていたキャサリンを容疑者として捜査を始めるが…。

【スタッフ】

監督はポール・ヴァーホーヴェン
脚本はジョー・エスターハス
音楽はジェリー・ゴールドスミス
撮影はヤン・デ・ボン

【キャスト】

マイケル・ダグラス(ニック・カラン)
シャロン・ストーン(キャサリン・トラメル)
ジョージ・ズンザ(ガス・モラン)
ジーン・トリプルホーン(ベス・ガーナー)
ウェイン・ナイト(ジョン・コレリ)

【感想】

全世界で3億5千万ドルを超える大ヒットを記録し、特にシャロン・ストーンが取調室で足を組み替えるシーンは多くのパロディを生むほどの話題となった。アカデミー賞では作曲賞と編集賞の2部門でノミネートされるなど評価も得たが、賛否は分かれた作品となった。

取調室の脚を組み替える場面は彼女が下着を付けていないので「見えたか見なかったか」といったエロティックなところばかりが注目されているが、本作のサスペンスはあくまでポール・ヴァーホーヴェン監督がいつも描いている女性像を描くためだけの道具に過ぎない。ちなみにシャロン・ストーンが足を組み替えるシーンは脚本にはなく、ポール・ヴァーホーヴェン監督が大学時代に経験した記憶をもとに組み入れたシーンらしい。何なら本作は当時すでに捜査の手段の1つになっていたDNAによる捜査という観点は無視されている。

また、あらゆる要素がヒッチコック的であり、特に彼の代表作「めまい(1958)」を彷彿とさせる要素がある。ジェリー・ゴールドスミスの音楽はどこかバーナード・ハーマン的であり、ニックとキャサリンが海を前にした場面、冒頭の殺害現場の邸宅やニックの家に出てくるらせん階段、誰かに成りすますという設定などである。そのジェリー・ゴールドスミスの音楽も素晴らしいし、アカデミー賞で編集賞にノミネートされただけあり、編集のテンポが心地よい。

主人公のニックは、銃撃戦の最中、観光客に誤射して殺してしまうなど何度もトラブルを起こしている刑事である。そして結婚していたが妻は自殺したという設定である。また、当初は若者が想定されていたが、マイケル・ダグラスがキャスティングされたことで42歳という設定になったらしい(ちなみに当時マイケル・ダグラスは47歳)。キャサリンと同年代もしくは年下の男性が彼女に魅了される話よりかは、年上であり、自分の方が優れているとか勝っているとか、そういう風に感じている男の方が物語にも面白さが付随する。

麻薬の潜入捜査をしていた際に誤射事件を起こしていることからも、危険な状況に飛び込むことにスリルを感じているキャラクターであるとも言える。また、「刑事が危ない女性と恋に落ちて殺される」という新作の小説を書くために勝手にモデルとされたニックは、その危ない女性であるキャサリンとのゲームにも率先して付き合うことにする。

ただ、そんな性格が災いして、彼は妻を自殺で亡くし、内務調査課や上司から目を付けられ、主治医で精神科医のベスと定期的な面談を課されている。ただ、そのベスとはどうやらかつて関係があり、その関係を引きずっていることも分かる。また、ニックにしてもキャサリンにしても、当時エイズが世の中を震撼させていたにもかかわらず複数の相手とセックスしており、これもある種の危険中毒に見える。

ニックは基本的には主導権を握りたいと考えている男である。ただ、殺害現場から被害者と一緒にいたキャサリンの邸宅に向かおうと階段を降りている途中で、上司から主治医との面談を課されている(上司が階段の上からニックを見下ろす構図)。また、キャサリンの家に到着すると、出迎えたのはキャサリンの友人ロキシーであり、彼女も2階におり、その階段の中腹まで降りてきてニックを見下ろす構図になっている。しかも、せっかくキャサリンの家まで来たのに、キャサリンはおらず彼女の別荘までわざわざ行かなければならないというのも主導権を握りたい彼にとってはストレスだろう。

そして、キャサリンの別荘に到着すると、家の中にはおらず、海を一望できるテラスの椅子にキャサリンが座っており、ようやくお目当てのキャサリンに辿り着くことができたのである。そこでは、立っているニックが座っているキャサリンを見下ろす構図になっているのに、主導権は完全にキャサリンであり、逮捕権限がないなら帰ってくれと言われそれに従わざるを得なくなる。それが終わると、上司からの指示通り、主治医で精神科医のベスとの定期面談になる。自分に主導権がない状況にイライラし、ここでもベスの部屋の中というある意味囚われの身であるところも象徴的である。

ちなみに、キャサリンの家も別荘も外壁は白で統一されており、容疑者として名前の挙がる彼女を示す象徴的なカットであえて「白」を使っているのも面白い。また、後に彼女が警察署で事情聴取を受けるために着替える服装も「白」である。ただ、彼女の別荘にニックらが到着した時に家に駐車してあるのは白い車と黒い車であり、彼女がどちらとも取れる存在であることを匂わせている。ちなみに、後に警察署での事情聴取に来てもらうようにニックらがキャサリンの別荘に来る場面では黒い車しか駐車されていない。

また、キャサリンとニックがどういう立ち位置であるかも興味深い。警察署に事情聴取に来てもらうように要請するためにキャサリンの別荘を訪れると、家の中に入る時も家から出る時もキャサリンがニックらを先導する形になっている。そして、車の中ではガスが運転し、ニックは助手席に座り、キャサリンは後部座席に座っている。ニックはキャサリンに背を向けており、キャサリンがニックの肩に手を置くとニックはドキッとする。ここでもキャサリンがニックの後方に居ながら主導権を握っていることがよく分かる。

その後、刑事らが集まり捜査状況の報告をすることになると、キャサリンは両親を亡くしてから遺産を相続して大金持ちであり、大学で文学と心理学を学んだエリートでもあることが分かる。さらに作家であり、その小説の中で元ロック歌手の男を愛人がアイスピックで殺害すると言う話を書いていたことが分かる。

大きな話題を呼んだ尋問シーン。室内はありえないほど暗くなっている。まるでキャサリンが舞台でショーをやっており、それ以外の箇所は消灯して観客席になっているようだ。主導権を握りたい男たちをよそ目にキャサリンは余裕の表情で男たちの質問をうまくかわしていく。この場面もカメラの位置、動かし方にバリエーションがあり、編集のテンポも冴えわたっている。

キャサリンを家に送った後、酒場で同僚と合流すると、精神科医との面談で成果を出すために、ニックは酒もたばこも止めていたのだろうが、極度のストレスと欲求不満から解禁してしまう。ニックは内務調査課のニールセンから挑発されて一触即発の雰囲気になると、同じ酒場にいたベスが仲裁に入り、ニックの誘いでベスを部屋に連れて帰る。

ここではデートレイプとも言われたが、ニックがベスを犯すように激しく求める。観光客への誤射事件が原因で精神科に通院させられ、内務調査課のニールセンからは目の敵にされている。さらに、酒もたばこも辞めて明らかに欲求不満になっているニックは、キャサリンという女性から新しい本の題材という名目でいろいろと調べられており、しかもキャサリンにはやられたい放題でどう考えても容疑者なのに無罪放免となってしまった。そんな彼の欲求不満がベスにぶつけられ、そして男こそ優位に立ちたいというニックがキャサリンという女性に面目を潰され、それをベスというどうやらかつては関係のあった女性にぶつけている。

女を監視しろと言われた次のカットでキャサリンが黒い車に乗るショットになる。そのキャサリンの乗る車を追いかけるカーチェイスになる。空撮から始まるカーチェイスは素晴らしい。追いかけても捕まらない。何台もの車の間に入っては追い越してを繰り返す。これぞセックスのメタファー。ちなみにこのカーチェイスシーンでマイケル・ダグラスは実際に運転している。キャサリンの別荘に到着すると、2階でキャサリンが服を脱ぐ様子をニックはただ眺めてしまう。この長方形のガラス越しにキャサリンが脱いでいるところを目撃するのも、どこかスクリーンのようでやはりニックは観客という立場から抜け出せない。

精神科医のベスにしか話していない情報がキャサリンの耳に入っていたことで、ニックはベスを激しく問い詰め、内務調査課のニールセンにカルテを見せたことを白状する。そのニールセンへ怒鳴り込みをかけた晩、ニールセンは銃で撃たれて殺されているところを発見される。怒鳴り込んでその晩に殺すはずがないはずだが、キャサリンに言ったことと同じことを繰り返す羽目になる。取調室では、キャサリンを取り調べる際に観客席側にいたニックは図らずもステージに上がる形になる。そして、禁煙なのにタバコを吸い、怒鳴り込んだ後に殺すわけがないという筋書きこそ、キャサリンが小説で書いた通りに殺すわけがないという筋書きと重なり、ニックが完全にキャサリンの影響下にあり、この真似をするという行為こそ、後に判明する大学時代にベスがキャサリンの真似をしていたところとも重なる。

上司から「キャサリンに近寄るな」と警告されて帰宅すると、キャサリンが待ち伏せしている。キャサリンは基本的に相手に追いかけさせているが、ここでは自らやって来る。ニックが休職処分になったことなどはすべて友人から聞いており、アメとムチを使い分けているのだろう。

ゲームを仕掛けられたと判断したニックはキャサリンが言ったクラブへ行く。休職中ということもあるが、カットソー1枚という姿になる。刑事という職業のためスーツ姿だったニックがカジュアルな私服になり、刑事ではなく本当の自分としてキャサリンに立ち向かっているように見える。

ついにニックはキャサリンと体の関係を結ぶことになる。ちなみに、アメリカでは性描写がヨーロッパほど緩くないため検閲をパスさせるために、ストーリーボードを作って映画会社の幹部に見せていたらしい。翌朝、キャサリンはベッドに姿がなく別荘に言っていることが分かり、ニックはまたキャサリンを追いかけることになる。そこでキャサリンは白い服、ニックは黒いジャケットを羽織っている。ニックはキャサリンに昨晩のセックスが最高だったことを伝え、気分も高まっているが、キャサリンはまあまあだったわとはぐらかす。今までキャサリンを追いかけていたニックは浜辺でキャサリンと並んで歩く。そこで彼はゲームに付き合い続け、「最終的には捕まえるからな」と言って立ち去る。キャサリンにとっては想定内でも彼の中ではあくまで刑事としてキャサリンを捕まえると言うことで優位に立とうとしているのが見て取れる。

そこからはキャサリンが小説を書き上げていき、周囲のキャラクターが次々に死んでいく。ロキシーはニック都のカーチェイスの末に事故死し、捜査のために訪れた建物のエレベーター内でガスは刺し殺され、その現場にやって来たベスはニックが射殺してしまった。ここでベスがポケットから手を出さないのはあまり納得のいくものがないのは残念である(下記の音声解説でも苦労した話を監督がしている)。すべてはキャサリンの思惑通りに事が運び、ニックは憔悴状態になってしまう。小説を書き終えたキャサリンから冷たくされたニックは落ち込んだが、再びキャサリンが現れたことで最後にまた体の関係を持つことになる。ニックはベッドでキャサリンに背を向けており、完全に無防備な状態となっている。まるでニックはもう殺されたって構わないと思っているかのようだ。ニックは完全にキャサリンに振り回され、影響を受け、どう考えても犯人なのに捕まえることすらできなかった。自分の方が年上であり、優位に立とうと思っているが、思った通りにならずに彼は誤射事件を起こしてからそんなに時が経たぬ間にベスという女性を射殺してしまった。

やはりサスペンスとしてだけ見れば、穴はたくさんあるし、あらゆる殺人が目撃すらされずに完遂しているのも違和感がある。ただ、優位に立とうとする男と、気ままに自由に生きる女の物語として見れば面白い。映画のタイトルが「Basic Instinct(基本的な本能)」とあり、やはり男は追いかけて優位に立ちたいものなのだろうがそうはいかない。また、あらゆる女性キャラクターが同じ女性と関係を持っている、あるいは関係を匂わせる演出がなされているが、彼女たちが自ら自身のセクシャリティについて語ることもなければ、周囲のキャラクターがそれを茶化すこともない。このナチュラルさこそ後のLGBTQを取り扱った、名ばかりのLGBTQ映画にはないものである。

【音声解説1】

参加者

├ポール・ヴァーホーヴェン(監督)

├ヤン・デ・ボン(撮影)


上記2名による対話形式の音声解説。撮影に用いた機材や照明テクニック、なかなか役に入り込めなかったシャロン・ストーンが突然覚醒した場面に関する話、アメリカで検閲を受けた場面の話、セックスシーンの撮影に関する話など饒舌に語ってくれる。

【音声解説2】

参加者

├カミーラ・パーリア(社会学者)


社会学者のカミーラ・パーリアによる単独の音声解説。おそらくDVDが発売される2000年頃に収録したものと思われる。劇場公開時から10年近く経過した時代とは微妙に異なる価値観や映画内での描写の違い、キャラクターの設定や物語の展開について、社会学者らしく知的な表現で本作を解説してくれる。

【関連作品】


「氷の微笑(1992)」…シリーズ1作目
「氷の微笑2(2006)」…シリーズ2作目

「ラスト・アクション・ヒーロー(1993)」…シャロン・ストーンが本作のキャサリン・トラメル役でカメオ出演。
デッドプール2(2018)」…足を組み替えるシーンがパロディにされる場面がある。

 

 


取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

ソフトは消費者にとってあまり好ましい状況ではない。廉価版のDVD/BDは日本語吹替も音声/映像特典もないと思っておいた方が良い。2枚組DVDであれば音声/映像特典は2023年3月現在発売されているソフトの中で一番充実している。

 

また、値段の高い方のBDであれば、上述の2枚組DVDに含まれていない映像特典が収録されており、日本語吹替もソフト版だけでなくフジテレビで放映された際の吹替も収録されている。本作のすべての特典を網羅したいのなら、2枚組DVDと値段の高い方のBDを両方購入しなければならない。

 

そして、サントラも2種類ある。廉価版と、全世界で2,000枚限定で発売された2枚組CDの完全版の2つである。全世界で2,000枚の生産なので高価かと思いきやAmazonでも4,000円ほどで販売されている。詳細は下記を参照ください。

 

<DVD(スペシャル・エディション/DVD2枚組)>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ポール・ヴァーホーヴェン(監督)、ヤン・デ・ボン(撮影)による音声解説

├カミーラ・バーリア(学者)による音声解説

映像特典

├メイキング・オブ・「氷の微笑」

├劇場版とTV放映用との比較

├ストーリーボードと実際の映像との比較

├フォト・ギャラリー

├キャスト&スタッフ

├プロダクション・ノート

├隠しボタン(イースターエッグ)

├ピクチャー

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

音声特典/映像特典

├なし

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

  ├VHS版

  ├フジテレビ版

音声特典

├なし

映像特典

├メイキング

├絵コンテ

├オリジナル予告編

封入特典

├ブックレット(12P)

 

【音楽関連】

 

<CD(サウンドトラック)>

 

収録内容

├10曲/44分

 

<サウンドトラック(CD2枚組/全世界2,000枚限定完全版)>

 

収録内容

├36曲/126分

封入特典

├ブックレット(20P)