【タイトル】
めまい(原題:Vertigo)
【Podcast】
Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。
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【概要】
1958年のアメリカ映画
上映時間は128分
【あらすじ】
ビルの屋上で犯人を追っていたスコティは落ちそうになった自分を助けようとした同僚を転落死で亡くしてしまい、警察も辞職してしまう。そんな彼のところへ友人のエルスターが自分の妻を尾行してほしいと依頼してくる。
【スタッフ】
音楽はバーナード・ハーマン
撮影はロバート・バークス
【キャスト】
ジェームズ・スチュワート(スコティ)
キム・ノヴァク(マデリン/ジュディ)
バーバラ・ベル・ゲデス(ミッジ)
【感想】
女性蔑視など様々な批判も受けることもあるが、ヒッチコック映画の中でも名高い評価を得ている本作。ヒッチコックとジェームズ・スチュワートによる4度目にして最後のタッグ作品。
フィルムの状態が悪く90年代には多額の費用を投じて大幅な修復が行われ、そしてその後Blu-ray化を経たその映像美は見事である。Blu-rayで見る本作はDVDのそれとは別の作品ではないかと思わせる程であり、ぜひBlu-rayかそれ相当の画質での視聴をお勧めしたい。特に赤、緑辺りの色彩はうっとりするほどであり、赤い内装のレストランで緑のドレスを着たマデリンを際立たせる演出は流石としか言いようがない。
また、バーナード・ハーマンの音楽は後の「サイコ(1960)」も素晴らしいが、本作の出来も見事である。本作のポスターイメージにもなっている「落ちる」というイメージがオープニングの最初の旋律から感じ取れ、これから起こる悲哀を予感させる見事な音楽で、映画内に観客を引き込む要素としては非常に大きな役目を果たしている。1940年代から1950年代のオーケストラメインの映画音楽においては間違いなく代表作と言える。
そして本作は女性蔑視という観点から批判を受けた作品でもある。特に中盤以降のスコティがジュディを捕まえて理想のマデリンに仕立て上げていくところだろう。また、中年の男が若いブロンド美女に恋をする点、そのブロンド美女が友人の妻と分かりながら不倫関係に突き進む中年男を好きになる点もその1つと言えよう。そして、この年の差のある男女が結ばれる点は個人的に理解しかねるが、これぞヒッチコック監督と彼がヒロインに望んできたブロンド美女との関係を思わせるのだろう。
それから重要なキャラクターと言えるのがスコティの友人ミッジである。ちなみにこのミッジの見た目はヒッチコックの夫人アルマを思わせる部分がある。かつて彼らは婚約していたが、ミッジからそれを解消して、現在は友人関係という不思議な関係である。婚約解消の話題になった際のミッジの表情から、スコティに何かしらの問題(おそらく性的なもの)があってそれをミッジが受け入れられなかったのだろうと推察することはできる(あくまで推察だが)。あっけらかんとしているスコティを見るに、スコティはその問題に気付いてすらいないのだろうと思う。
そのスコティが気付いていないと言うところで考えると本作は男性の弱さも描かれている映画と言える。確かに中盤以降のスコティは女性をコントロールしようとして強引な行動に出ているが、彼は終盤に真相を知るまでは、エルスターの偽装殺人に図らずも手を貸す形となり、捕まえたジュディがマデリンと同一人物であると見抜けなかった男である。化粧や髪型、服装を変えただけでスコティを別人だと思わせる女性の変幻自在さも感じられる。彼の中にあるマデリンは、あの時のあのマデリンであり、あの時のマデリンのまま彼の中では時間が止まっているのだ。まさにマデリンが美術館で見る絵画がある一瞬を捉えたものであるかのようである。
その時間が止まっているというのは、本作の中で度々モチーフとして出てくる渦や螺旋のイメージが象徴しているのだろう。渦や螺旋のようにぐるぐる回るということはその場所で止まっているということも示しており、冒頭の目の中で渦巻く幾何学的なイメージや、鐘楼へ登る螺旋階段、スコティとジュディがキスしているとその周囲をカメラが1周回ることなどがそれに該当するだろう。
また、その渦や螺旋のぐるぐる回るイメージは繰り返しも意味することになるだろう。本作ではスコティは同じ女性を2度愛することになるし、高所恐怖症への克服は同じ衝撃が必要であり、同じ鐘楼への階段を2度登ることになる。そして、当初は何のことかよく分からなかったオチも、女性が鐘楼から落ちることが2度繰り返されたと考えるとこのイメージに合っていると言える。
鐘楼からジュディが落ちてそれを見下ろすスコティのカットで本作は終わるのだが、当初はその後に1分弱の映像があったという(海外版DVDなどに収録されている)。エルスターの偽装殺人を警察が追うラジオニュースを聞いているミッジの家に画面は切り替わり、そこへスコティが帰って来ていつも通り酒を出し、2人で無言のまま飲むシーンで終わるというものだ。要するに、スコティはブロンド美女への異常なまでの執着を見せたヒッチコックを象徴させ、そんなスコティを想っているミッジのところへスコティを帰すことでヒッチコックは最後には妻のアルマのところへ帰って来ることを象徴させたかったのだろうと思う。
【音声解説】
参加者
├ウィリアム・フリードキン(映画監督)
「フレンチ・コネクション(1971)」「エクソシスト(1973)」などで知られる映画監督のウィリアム・フリードキンによる音声解説。ウィリアム・フリードキンはヒッチコック劇場(ヒッチコックがプロデュースしていたテレビ番組)の演出をしていた縁がある。ヒッチコックが演出した意図、観客への誘導ライン、作品への考察など映画監督らしい知的な言葉で語ってくれる。第3者による音声解説では評論家によるものが多いが、生前関係のあった別の映画監督が本編を解説してくれる例は少ないためなかなか貴重。
【関連作品】
「12モンキーズ(1995)」…テリー・ギリアム監督、ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウらが出演したSFサスペンス。主人公の2人が映画館で本作を鑑賞している場面がある。
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
言語
├オリジナル(英語)
【ソフト関連】
<DVD>
言語
├オリジナル(英語)
映像特典
├メイキング・ドキュメンタリー
├劇場予告編
<BD>
言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ウィリアム・フリードキン(映画監督)による音声解説
映像特典
├メイキング・ドキュメンタリー
├犯罪成立:優秀なパートナーたち
├トリュフォーによるヒッチコックへのインタビュー
├外国検閲版エンディング
├「めまい」アーカイブ
├オリジナル劇場予告編
├修復版予告編
├ユニバーサルの100年:ルー・ワッサーマンの時代
<4K Ultra HD+BD>