【作品#0827】地下鉄に乗って(2006) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

地下鉄に乗って(地下鉄は「メトロ」と読む)

【概要】

2006年の日本映画
上映時間は121分

【あらすじ】

小沼グループの御曹司で現在はしがないサラリーマンをしている真次は弟から入院している父親を見舞うように何度もお願いされていたが、家を飛び出した故に断り続けていた。そんなある日、いつも通り地下鉄で帰宅しようとすると、駅から地上に上がるとそこはまだ少年時代だった1964年の東京だった。

【スタッフ】

監督は篠原哲雄
音楽は小林武史
撮影は上野彰吾

【キャスト】

堤真一(長谷部真次)
岡本綾(軽部みち子)
大沢たかお(小沼佐吉)
常盤貴子(お時)
田中泯(先生)

【感想】

浅田次郎が1994年に発表した同名小説の映画化。

主人公は父親を自分の力で知ろうとしていない。たまたま生じるタイムスリップで知っただけである。ただ巻き込まれるだけで主体性は感じない。この辺の感じは後の「おくりびと(2008)」とそっくりである。

基本的に主人公は自ら行動を起こしていない。ある意味主人公たちにとって都合のいいタイムスリップである。父親を許せずにいる息子のために用意された若き日の父親を知るタイムスリップ。この都合の良さは何なんだろうか。最初は若き日の父親に興味を示さなかった真次が徐々に若き日の父親の姿に惹かれていき、いつの間にかタイムスリップして父親に会うのが楽しみになるが、何度かに一回は会いたくても会えない。会えない時は会うための努力をするとかそういう苦労が描かれないと作り手の自分勝手さを感じてしまう。

「親の心子知らず」なんて言葉がある。これは子が育って親になって初めて親の心のうちを理解できるのかもしれない。あるいは年を重ねれば理解できるようになるのかもしれない。はたまた一生理解できないのかもしれない。それは分からない。ただ、本作のように若き日の父親が自分を含む子供たちのことをどのように思っていたかをそのまま吐露するシーンがあるのは違うかな。あくまで主人公が主体的に知っていく必要がある。別に主人公が直接聞いたわけでもないし。このようにすべてセリフで説明してしまうと主人公にもそれから観客にも気持ちを理解しようという主体性が生まれない。やはり受け身の作品だ。

また、仮に自分の知らない父親の若き日を見たとして疎遠になった父親を許すことになるかな。しかも、父親は病に倒れておりコミュニケーションをとることもできない。もし父親が健在だったとしても同じ選択をしただろうか。父親が病に倒れているという設定も主人公に対して甘やかしているようにしか思えない。

それから、一番理解しがたいのがみち子とお時が階段を転げ落ちて二人とも死んでしまうという終盤の一幕である。オムライスのケチャップの話というあまりにも分かりやすすぎる伏線のせいで途中で気付いてしまうのだが、映画の現代で交際している真次とみち子は兄弟だったことが分かる。その後、みち子は母親であるお時を道連れにして心中するようなことになるのだが、これは本当に理解しがたい。さっきまで自分が生まれてくることを喜ぶ両親の姿を見て感動していたじゃないか。仮にこれが原作通りでそれをよしとして映画化したのだとしたら製作側も共犯。これを改変できなければ映画化できなかったのであれば映画化しなければ良いだけ。もし映画の現代で交際する二人が近親相姦になっていることへの苦労からきたものだとしても生まれて来なければ良いなんていう結末は理解できない。まぁよくこんな結末の物語を映画化しようとしたものだ。

結局、この一件の後にタイムスリップは終わる。映画的には主人公に若き日の父親の姿を見せて、「お前も父親にもこんな頃があったんだよ」みたいな説明をしてくれたわけだ。でも、重要なのはそこから真次が父親を嫌うようになってしまうまでの幼少期の話じゃないか。なぜ父親はこれほど子供たちのことを想っていたのにあんな姿になってしまったのか。元がそうだったと言えばそれまでなんだが、ここまで説明じみた展開にしておいて後は想像にお任せってずいぶん適当だな。

主人公らは東京オリンピック時点で中学生である。本作は2006年の作品なのでそこからすでに42年は経過しており、すでに50代半ばのはずだ。なのに主人公の年齢設定はせいぜい40代前半だ。これはおそらく原作が発表された1994年当時だからこそ通じた設定なのだろう。だとしたら映画の現代を1994年にするとか、仮に主人公が50代半ばでもおかしくない設定や配役にすべきだった。

本作は観客に対して忘れた気持ちを取り戻したり、何かが原因で疎遠になった家族が理解し合ったりする契機にはなるかもしれない。ただ、それにしては物語展開も物語の着地も到底理解できないものであった。




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【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(日本語)


【ソフト関連】

<DVD(2枚組/プレミアム・エディション)>

言語
├オリジナル(日本語)
音声特典
├篠原哲雄(監督)、金田克美(美術)、金澤誠(聞き手)による音声解説
映像特典(Disc1)
├特報/劇場予告篇/TVスポット
├キャスト&スタッフ・プロフィール
映像特典(Disc2)
├メイキング作品「地下鉄<メトロ>に乗っての舞台裏」
├キャスト・インタビュー(堤真一/岡本綾/常盤貴子/大沢たかお)
├スタッフ・インタビュー(浅田次郎/篠原哲雄/キム・ソンミン/小林武史)
├製作発表記者会見
├完成披露試写舞台挨拶
├劇場公開初日舞台挨拶


【書籍関連】

<地下鉄に乗って>

形式
├紙
├電子
出版社
├講談社文庫
著者
├浅田次郎
長さ
├282ページ