【タイトル】
ワールド・オブ・ライズ(原題:Body of Lies)
【概要】
2008年のアメリカ映画
上映時間は128分
【あらすじ】
中東でCIAの工作員をしているフェリスは、アメリカ本部で指示を出すCIA幹部のホフマンと仕事をしていたが、ある日フェリスが接触した情報提供者の一件で対立し…。
【スタッフ】
監督はリドリー・スコット
音楽はマルク・ストライテンフェルト
撮影はアレクサンダー・ウィット
【キャスト】
レオナルド・ディカプリオ(フェリス)
ラッセル・クロウ(ホフマン)
マーク・ストロング(ハニ・サラム)
ゴルシフテ・ファラハニ(アイシャ)
オスカー・アイザック(バッサーム)
【感想】
デヴィッド・イグネイシャスの同名小説の映画化作品は、リドリー・スコット監督とラッセル・クロウにとって4度目のタッグ作品となった。
中東へやって来たアメリカ人がその過ちに気付くという物語は「ハートロッカー(2008)」や「グリーン・ゾーン(2010)」で描かれた。本作もアメリカそのものを体現したようなホフマンに若者が振り回され、最終的に死ぬかもしれない思いをしたのだ。このホフマンを演じたラッセル・クロウはキャスティングに際して体重を増やすように言われたようだ。太った男こそまさにアメリカ人を体現しているのだろう。
そして、このホフマンは現場に出向くこともあるにはあるが、基本的にはアメリカ国内から遠く離れた中東にいるフェリスに指示を出しているのだ。しかも、それは決してCIAのオフィスからだけではない。もちろん時差の関係もあるからだろうが、ホフマンは家や子供のサッカーの観戦中にも電話でフェリスに指示を出しているのだ。まるで片手間に見える。
そんな本作の始まりはホフマンの語りからである。ナレーションかと思いきや実は人相手に話していたことがわかる。そしてこのホフマンの語りこそアメリカ人の抱くイスラム世界そのものだろう。この語りで示されたものをぶち壊していくのが本作というところであるのは理解できるが、それでも「イスラム教徒が自分たちのイスラムの世界を作り上げようとしている」というところは合っていると思う。イスラム教徒すべてがそうではないにしても、移民した先でコミュニティを作り上げ、その国や地域の文化に合わせることなくトラブルになるなんていうニュースは世界中で取り上げられている。「郷に入っては郷に従え」は彼らには通用しないのだ。この点については本作に反対だが、基本構造は合っていると思う。
そして、レオナルド・ディカプリオ演じるフェリスは中東でそれなりに経験を積んだCIAの工作員ではある。少なくともホフマンよりも細かい事情に精通している。ここにレオナルド・ディカプリオを起用したのも興味深い。すでに名実ともにスターだったレオナルド・ディカプリオだが、割と童顔で何をやってもディカプリオという評もあったわけだ。本作の中でも現地人や金融屋に化ける場面があり、信じてもらえる場面もあればそうでもない場面もある。レオナルド・ディカプリオという俳優の抱える危うさみたいなものが役に込められていたようにも思う。また、最終的に正直になったからこそ、一時はハニを裏切るようなことをしたのに最後に助けてもらえたのだ。戦争でアメリカ人が窮地に陥るとみんなで助けに行くのが筋だった。本作で主人公を助けてくれるのはアメリカを体現するホフマンではなく、アメリカ人が野蛮だと考えるアラブ系の人々たちである。
また、ハニ役にイギリス人の俳優マーク・ストロングを起用している。ハニはヨルダン総合情報局の長官である。なので相対するならCIAの長官やMI6の長官が相当するはずである。このヨルダンの諜報部の長官を演じているのがイギリス人であるというのは何と言う皮肉だろうか。ヨルダンは第一次世界大戦後にイギリスがパレスチナ委任統治領を分割して誕生した首長国である。そんな国の俳優がカツラを被ってヨルダンの諜報部のトップを演じているのだ。ヨルダンも西欧文明のカツラを被った国だということだろうか。
なので、このラッセル・クロウ、レオナルド・ディカプリオ、マーク・ストロングというキャスティングは見事だったと思う。そして、アイシャを演じたゴルシフテ・ファラハニも見事な魅力を振りまいていた。
衛星によって人々が監視されるように、このアイシャも見張られている。ただ、ここ中東ではテロの手口がアナログであることが序盤から示されていたように、アイシャは衛星ではなく人たちの目によって直接見張られているところも面白い。
結局一人の女性に惚れたことで主人公は窮地に陥る。この展開にしたことで物語がやや安っぽくなった印象はあるが、このゴルシフテ・ファラハニ演じるアイシャには惚れても仕方ない魅力があったのは確かだ。特に診療所でナース服を着ていた彼女が喫茶店で私服姿になった時のギャップと診療所では見せなかった笑顔は何とも素敵だった。
最終的にフェリスはホフマンからの内勤職の誘いを断り、アメリカを体現するホフマンのいる店から出ていく。そして、フェリスは遠くから診療所にいるアイシャの無事を確認すると、どうやら彼女の家へ持参するお菓子を市場で選んでいる。すると、衛星から彼の行動を監視していたCIAはホフマンの指示の元、フェリスの監視を外すことにして映画は終わる。
ある意味アメリカを裏切ったようなフェリスをCIAが野放しにするだろうか。これは後にしっぺ返しを喰らいそうな気もするが、ホフマンからすればどうでもいいことなのだろうか。
スパイ映画にしては割と地味目の印象だが、要所にリドリー・スコット監督らしい映像美もあり(特に砂漠を車が駆ける様子は「テルマ&ルイーズ(1991)」を思い出さないわけがない)、時折映るアメリカの映像のおかげでより中東らしい雰囲気を味わうこともできる。中東という遠く離れた世界を知るきっかけにはなるんじゃないだろうか。
【音声解説】
参加者
├リドリー・スコット(監督)
├ウィリアム・モナハン(脚本)
├デイヴィッド・イグネイシアス(原作者)
上記3名による音声解説だが、3名の音源は別撮りである。ただ、それぞれが映画本編を見ながら話しているので違和感を抱くことはない。原作者、脚本家、監督という三者が、それぞれの立場で別に語るというのも面白い。それぞれの立場から見た役割の違いや、考え方の違いを答え合わせするかのようにそれぞれの音源が繋がっていく。
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
言語
├オリジナル(英語/アラビア語)
<Amazon Prime Video>
言語
├日本語吹き替え
【ソフト関連】
<BD>
言語
├オリジナル(英語/アラビア語)
├日本語吹き替え
音声特典
├リドリー・スコット(監督)、ウィリアム・モナハン(脚本)、デヴィッド・イグネイシャス(原作)による音声解説
映像特典
├メイキング集
├情報聴取:インタビュー・ギャラリー
├未公開シーン集