【作品#0607】グリーン・ゾーン(2010) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

グリーン・ゾーン(原題:Green Zone)

【概要】

2010年のアメリカ/イギリス/フランス/スペイン合作映画
上映時間は115分

【あらすじ】

2003年イラク。MET隊を率いるクリス・ミラーは、大量破壊兵器のあると言われた場所を調べるも何も見付からないという事態が3回続いており、上官に情報の誤りを主張するも相手にされなかった。

【スタッフ】

監督はポール・グリーングラス
脚本はポール・グリーングラス/ブライアン・ヘルゲンランド
音楽はジョン・パウエル
撮影はバリー・アクロイド

【キャスト】

マット・デイモン(クリス・ミラー)
グレッグ・キニア(パウンドストーン)
ブレンダン・グリーソン(ブラウン)
エイミー・ライアン(ローリー)
ハリド・アブダラ(フレディ)

【感想】

ボーン・スプレマシー(2004)」「ボーン・アルティメイタム(2007)」でタッグを組んだポール・グリーングラス監督とマット・デイモンが3度目のタッグを組んだ本作は、再撮影により予算が1億ドルに膨れ上がり、全世界で約9,500万ドルの売上に留まった。また、マット・デイモンとグレッグ・キニアは「ふたりにクギづけ(2003)」以来の共演となり、フレディを演じたハリド・アブダラはポール・グリーングラス監督の「ユナイテッド93(2006)」に続いての出演となった。

映画の題材こそイラク戦争だが、ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンが組んだ「ボーン・シリーズ」の延長線上にあるような作品である。国家の陰謀を暴くために主人公が孤軍奮闘する様子や、主人公の周囲のキャラクターの配置や設定、手持ちカメラやステディカムを多用した撮影や細かい編集などには近しいものを感じる。

下記の音声解説でポール・グリーングラス監督は、虚構の世界を描いた「ボーン・シリーズ」のスリラーファンを対象にしたと述べているが、「ボーン・シリーズ」のファンを現実世界に引き戻したかったと語っている。また、同時に「これはフィクションだ」とも語っており、その姿勢にはやや矛盾を感じなくはない。

そんな本作のラストにおいて、ミラーはイラク軍側のアル・ラウィ将軍を連行すべく追い詰めるのだが、ミラーの通訳として付いてきたフレディがアル・ラウィ将軍を射殺するという結末になる。イラク軍を解体したいパウンドストーン、イラク軍を使って国を立て直したいミラーやブラウンという二項対立で話は進んでいき、大量破壊兵器の情報をでっち上げるパウンドストーンが映画的な悪役として描かれる。ただ、本作におけるイラク人の代表とも言えるフレディは、アル・ラウィ将軍を腐った軍人だと思っており、そこは正義の側として描かれるミラーとも対立する存在であった。フレディを決して悪役として描かずにラストまで来てついにフレディはアル・ラウィ将軍の射殺という行動に出る。

そして、フレディは激怒するミラーに対して「あなたたちにこの国のことを決めさせない」と言っている。アメリカ映画においてアメリカ人の主人公が浴びせられる痛烈な言葉。ミラーは自分が正義を果たしていると本気で考えているだろうが、イラク人のことを思う視点は表面的である。「これがイラク人のためだ」というミラーの発言もあったが、その発言には多少の迷いもあり、決して力強くはない。しかもフレディから言われた終盤の台詞を言われた時にミラーは返す言葉もなかった。ミラーには自分の行動が正義そのものだと本気で信じていたとは思うが、イラク市民からの本音に対してそれ相応の言葉や情熱はミラーの中にはなかったはずだ。

この後、ミラーはパウンドストーンを問い詰め、記者のローリーらマスコミ各社に今回の一件をまとめたレポートを送ると映画は終わる。映画的にはパウンドストーンが悪の全てを担っているように描かれているが、「計画」の存続がパウンドストーンという1人の役人の一存で決まったとは到底思えない。アメリカ政府の差金であることは間違いないだろうが、彼も誰かの下の人間であろう。実際にブラウンが手帳を奪われる場面ではパウンドストーンが上層部に働きかけて工作している。何かが少し前進して映画が終わるように見えるが、所詮はミラーのような軍人が1人動いたくらいでは何も変えられないという結論に見える。最後のイラク人同士の会議では対立したままだったし、パウンドストーン1人を問い詰めたからといって何かが解決したわけではない。

また、本作におけるイラクを代表するキャラクターはフレディである。彼はかつて国のために戦い片足を失い、国の将来を本気で考える男である。彼は英語が堪能なこともあり、アメリカ軍に情報を提供し、その後はミラーの通訳を担うことになる。約2時間という映画の中にあれもこれも入れられないにしてはイラクという舞台にしてはこのキャラクターにあらゆるものを詰め込み過ぎな印象はなくはない。

映画的にはミラーというキャラクターはハリウッドを代表する主人公タイプである。正義や信念のためなら上司の指示を無視してでも行動する。その点においてハリウッドの系譜を継ぐキャラクターだが、そのキャラクターでさえも「実はちゃんと分かっていない」、もしくは「薄々感じているが、決定的な解決をすることが出来ない」というのが本作から感じられるところだ。この点を製作者側がどこまで意図したかは分かりかねるが、かつての映画ならもっとはっきりとした形で正義と悪を決着させていたことだろう。その点において本作のラストはどこかモヤモヤしたところが残るのだが、それも込みというところなのだろうか。また、本作製作時にはまだアメリカ軍がイラク国内に駐在していたことも影響しているのだろう。

 

複雑な事情を割と単純化したために見やすい映画だとは思うが、それ故に主人公が感じる葛藤も単純化されてしまっているように感じる。イギリス人のポール・グリーングラスが「ユナイテッド93(2006)」に続いて物議を醸すテーマにチャレンジしたが、映画としての面白さもテーマもぼちぼちといったところ。

【音声解説】


参加者
├ポール・グリーングラス(監督/脚本)
├マット・デイモン(クリス・ミラー役)

上記2名による対話形式の音声解説。監督が構想を練り始めた時からの話、観客に感じてもらいたかったこと、ミラーの部下を演じたのがイラク戦争の経験者ばかりだった話、アドリブで演じた場面の話、編集や音楽の役割、起用/共演したキャストの印象などを語ってくれる。

 

 

 

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【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

 

言語
├オリジナル(英語/アラビア語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語
├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語
├オリジナル(英語/アラビア語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ポール・グリーングラス(監督/脚本)、マット・デイモン(クリス・ミラー役)による音声解説
映像特典
├未公開シーン(ポール・グリーングラス監督、マット・デイモンによる解説ビデオクリップ付き)
├マット・デイモン:隊長の風格
├撮影の裏側

 

<BD>

 

言語
├オリジナル(英語/アラビア語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ポール・グリーングラス(監督/脚本)、マット・デイモン(クリス・ミラー役)による音声解説
映像特典
├未公開シーン(ポール・グリーングラス監督、マット・デイモンによる解説ビデオクリップ付き)
├マット・デイモン:隊長の風格
├撮影の裏側
├本物の”ロイ・ミラー"
├バグダッドの再現
├マイ・シーンズ

 

【音楽関連】

 

<サウンドトラック>

 

収録内容

├14曲/53分