【作品#0794】バッドボーイズ(1995) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

バッドボーイズ(原題:Bad Boys)

【概要】

1995年のアメリカ映画
上映時間は119分

【あらすじ】

マイアミ署に押収されたヘロインが何者かによって盗み出される事件が発生した。FBIに捜査権が移行する前にと警部はマーカスとマイクに捜査を依頼する。

【スタッフ】

監督はマイケル・ベイ
製作はドン・シンプソン/ジェリー・ブライマー
音楽はマーク・マンシーナ
撮影はハワード・アサートン

【キャスト】

マーティン・ローレンス(マーカス)
ウィル・スミス(マイク)
ティア・レオーニ(ジュリー)
チェッキー・カリョ(フーシェ)
ジョー・パントリアーノ(ハワード警部)

【感想】

マイケル・ベイの監督デビュー作は、2,300万ドルという低予算ながら1億4千万ドルのヒットを記録した。

90年代のど真ん中の1995年に製作された本作は、まさに90年代らしいアクション映画である。バディものの流行はすっかり浸透し、主演に抜擢されたのは若手の黒人俳優二人である。当時の黒人のステレオタイプとも言えるまくし立てるような早口の喋りの応酬で、冒頭からテンポよく進んでいく。夜の青っぽい照明に焚かれたスモーク、80年代の延長線上にある音響(特に銃撃音)、マーク・マンシーナのいかにもな音楽…。どれをとっても90年代らしい。

ウィル・スミスの知名度を考えると、まるでウィル・スミス主演でマーティン・ローレンスは準主演くらいの位置づけにさえ思えてしまうが、本作のファーストクレジットはマーティン・ローレンスであり、彼の物語である。

マーティン・ローレンス演じるマーカスにはまるで価値がないと言わんばかりの無能描写の連続である。仕事で帰りが遅いと奥さんから不満を言われ、警部の一声で相棒マイクに成りすまさなければならず、それが原因で家には帰ることができずに相棒のマイクが自分の奥さんの相手役を買って出る。そのマイクは自分の奥さんや子供とよろしくやっており(もちろん恋愛関係はない)、ついには勘違いしてマーカスは自分の家に乗り込もうとする。そして侵入者だと勘違いされて相棒同士で殴り合いになり、マイクからは呆れられる。そして、自分の奥さんには出張だと言っていた嘘がバレてマイクの家に奥さんが乗り込んでくると、敵の急襲を受け証人のジュリーも自分の奥さんも命の危険に晒してしまった(奥さんや家族へ出張だと嘘をつく必要はあったかな)。最終的に敵をやっつけることには成功するが、マーカス視点で映画を観れば踏んだり蹴ったりである。挙句、マイクの家に来て命の危険に晒された自分の奥さんは以降登場することはない。

本来この手の映画なら冴えない主人公が最後に報われるものだが、結局、マーカスがマイクとジュリーを手錠で繋いで映画は終わる。マーカスにとってジュリーは自分にとって不相応であると認め、相応であるマイクと結びつけたのだ(もちろんマーカスにはテレサという妻がいる)。マーカスはマイクみたいになりたいと潜在的に思っているはずだ。それでも結婚して妻子がいる手前、女遊びをするつもりはないし、愛する妻テレサと触れ合っていたいがそのテレサからは体の関係を拒否されている。そんなところへ白人のスタイルの良い美女のジュリーをマイクのふりをして保護する仕事をすることになった。それでもマーカスはこのジュリーを口説こうとしたり覗き見しようとしたりする場面は全くない。マーカスもぶれてはいないのだ。

ただ、マーカスはダメな刑事という描かれ方ではない。マイクに勝るものはなくとも、銃撃戦などにおいてマーカスに戦闘能力がないといった描写はまるでない。刑事としての能力は水準以上のものを持っているが、男としても人間としてもマーカスはマイクに及ばない、というのが本作の位置づけだ。

一方のマイクは完璧なキャラクターとして本作では君臨している。洒落た部屋に住み、高級車に乗り、女性からモテるし、刑事としての能力にも長けているという設定だ。同性からの憧れの対象のような、まさに映画みたいなキャラクターである。ファーストクレジットがマーティン・ローレンスだったことから分かるように、マーティン・ローレンス演じるマーカスの物語であり、ウィル・スミス演じるマイクのものではない。

それから、彼らの間に立つジュリーのキャラクター造形も興味深い。親友を目の前で殺されてギャングからはそれを見られたことがバレている。マイクなら信用できると言ってマイクを頼るが、警察には行きたくないと言い出してマイク(マーカスがマイクのふりをした状態)の家で保護することになる。か弱い女性でもなければ、「良き」被害者でもない。観客からすればわがままな女にしか見えず、マーカスやマイクといった主人公側、もしくは警察側から保護されるべき証人には見えないし、そう描かれていない。

かつての映画における事件の証人像からの脱却を目指したのではないだろうか。わがままかもしれないが、自己主張はしっかりする。警察嫌いだからといって白人女性が黒人男性の家に泊まることになる(異人種間の偏見が全くない、あるいは「偏見なんてありませんよ」といった白々しい描写がない点は特筆すべき点である)。口うるさい警部もマーカスにマイクのふりをしろと言った手前か、マーカスがマイクの家に事件の超重要な証人を泊めることについては一切口出しをしない(もう少し管理職らしい仕事をしてほしいものだが)。また一方のマーカスもわがままな証人だから保護をしないというわけではなく、おそらく他の証人と同等の扱いをしているはずだ。

上述のようにジュリーが頼りにしていたマイクは警部の鶴の一声でマーカスが成りすますことになる。ジュリーはマイクと面識こそないが、彼女の思い描くマイク像と異なることに違和感を抱き続けることになる。そして、終盤になってマーカスの奥さんがマイクの家にやって来たことでマーカスがマイクのふりをしていたことがジュリーにバレてしまう。そこでジュリーは騙されていたことに憤慨しつつも、マーカスとマイクが逆だったことに「やっぱり」といった反応を示している。彼女の持っていた感覚は正しかった。

それから、マーカスの妻テレサの描写。マーカスのことを愛しているがマーカスの帰りが遅いことを不満に思っている。そんな中、「部長のせいで」マーカスはマイクの家に寝泊まりせざるを得なくなり、妻のテレサには出張と嘘をつき、代わりにマイクがマーカスの夫代わりとなる。自分の夫は帰りが遅くなるどころか出張でしばらく家に帰って来ないことになる。そして、夫のマーカスがテレビに映ったことで出張が嘘だと気付いたテレサはマイクの家に突撃訪問する。そこには証人のジュリー、夫代わりをしていたマイク、そして夫のマーカスがいる。ここにマイクがいるのは脚本家の優しさか。マイクの家にマーカスが白人の女性と二人でいたらまた話は変わってくる。ややご都合主義的に感じなくもない。また、そんなテレサも武器を持った男たちを前にすれば弱者でしかない。

ラストは飛行機の格納庫でのアクションシーンになる。ジュリーを人質に取られたどこにいるか分からないのにマーカスらはトレーラーで格納庫に思いっきり突っ込んでいる。これは「コマンドー(1985)」で主人公敵の拠点のある島に乗り込むと、誘拐された娘がどこにいるかも分からないのに手当たり次第に建物を爆破していく様を思い出す。

黒幕フーシェを追いつめたマーカスとマイク。フーシェに銃を向けるマイクに対してマーカスは「こんな奴は殺す価値もない」と言って収めようとしている。マイクが銃をしまって、マイクとマーカスがフーシェから目を離した隙にフーシェは腰に携えていたもう1丁の拳銃を取り出し、それに気付いたマイクがフーシェに何発もの銃弾を浴びせて殺すことになる。すぐに取り押さえて手錠をかけていれば殺さなくて済んだはずである。なのに本作ではマイクという黒人がフーシェという白人を銃殺する結末を用意している。これはかつてのブラックスプロイテーション映画を連想するところではあるが、映画として物語として、逮捕ではなく銃殺を選んだ明確な理由を明示すべきだったと思う。好意的に解釈すると西部劇の世界と同じで相手が引き金に手を掛けたから正当防衛として射殺したとも言える。ただ、この終わらせ方だと銃殺を選んだようにしか見えない。ちなみに、刑事のバディもので犯人に何発もの銃弾を浴びせて殺すのは同年の「セブン(1995)」と同様である。

他の監督や作品からの影響を感じる要素はある。例えば、特に夜の道路でのカーチェイスを見ていると、「ターミネーター2(1991)」終盤のカーチェイスを思い出す。本作では男二人と女一人。「ターミネーター2(1991)」では男二人(T-800を男としてカウントすれば)と女一人であった。

また、マイケル・ベイはジョン・ウーからの影響だと思われたくないとコメントしている。ただ、それには無理があるよと言わざるを得ないくらいに類似箇所は見つけられる。スローモーション、二丁拳銃、鳩(マーカスがさらわれたジュリーを走って追いかける場面で飛び立つ1羽の鳩を確認できる。)が登場するのだから。

魅力的な役者陣、90年代っぽさを感じる演出の数々、まくしたてる会話のテンポに合わせたようなアクションシーンのスピード感。欠点がないわけではないが、確実に成功した作品と言える。

【音声解説】

参加者
├マイケル・ベイ(監督)

監督のマイケル・ベイによる音声解説。解説中に「4年前」という言葉が出てくるのでDVDが発売される1999年頃に収録されたものと思われる。映像を見ながら話しているものの、微妙に音質が異なる箇所が合ったり、若干の空白もあるので一度に収録されたものではない可能性がある。

この音声解説では後に「ザ・ロック(1996)」「アルマゲドン(1998)」で大きな成功を収めたマイケル・ベイが初監督で上述の作品よりかは低予算の本作を作り上げる上でした苦労話を中心に聞くことができる。

また、上述のようにジョン・ウーのパクリではないと言っており、彼の映画より前だから盗作じゃないと言っている。ちなみにジョン・ウー監督の「男たちの挽歌(1986)」はアメリカで1987年に、「男たちの挽歌Ⅱ(1987)」はアメリカで1988年に、「狼/男たちの挽歌・最終章(1989)」はアメリカで1990年に公開されている。さすがに「彼の映画より前だから」は無理がある。素直に認めた方が良いと思うのだが…。

【関連作品】


「バッドボーイズ(1995)」…シリーズ1作目
バッドボーイズ2バッド(2003)」…シリーズ2作目
バッドボーイズ フォー・ライフ(2020)」…シリーズ3作目



取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)


<Amazon Prime Video>


言語
├日本語吹き替え


【ソフト関連】

<DVD(コレクターズ・エディション)>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├マイケル・ベイ(監督)による音声解説
映像特典
├銃器、爆発物の衝撃分析
├メイキング・ドキュメンタリー:「特殊効果とその裏側」
├オリジナル劇場予告編集
├タレント・ファイル
├ミュージック・スコア
├フォト・ギャラリー
├ミュージック・ビデオ(3種)


<BD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え
音声特典
├マイケル・ベイ(監督)による音声解説
映像特典
├メイキング・ドキュメンタリー:「特殊効果とその裏側」
├オリジナル劇場予告編集
├ミュージック・ビデオ(3種)


<4K Ultra HD+BD>

言語
├オリジナル(英語)
├日本語吹き替え


【音楽関連】

<CD(サウンドトラック)>

収録内容
├15曲/60分